Re:ゼロから始める結界術   作:レトルトラメエ

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第2話

「おいっ!なんだこりゃ!兄ちゃんがやったのか!?」

 

 結界の中、金髪美少女が外に出ようと暴れ回る。

 

「うむ、そうだ。やっぱり人のものを盗るなんて理由はどうあれ良くない事だ。兄ちゃんが一緒に謝ってやるから、ごめんなさいしよう」

 

「ふっざけんな!出せっ!ガキ扱いしてんじゃねぇよ!」

 

 こちらを睨みつけると、空中に浮かぶ結界に座り込みながらガンッ、ガンッ、と蹴り破らんと抵抗する。

 何度か蹴り込んだところで自分の力ではどうしようもない事に気がついたのか、その力は徐々に勢いを無くしていった。

 

 よく見るとその目には涙が溜まりだしていたのが見えた。

 とってもイケナイ事をしている気になる。

 

「えっと…… その、ありがとう。あなたすっごく変な格好だけれど、あの子のお兄さんなの?」

 

「すっごく失礼な事を言われた気がするけど。そうだ、俺はあの子の兄だ」

 

「ざっけんな!誰がアタシの兄だ!いいからだせ!この、へんてこりん!」

 

 美少女たちからの板挟みを堪能していると、初代3人組が嫉妬の声をあげる。

 

「てめぇら、なに無視してんだ。舐めやがってこのやろぉ!」

 

 チンピラ(中)は短刀を取り出すと、躊躇なく切りかかってきた。

 その躊躇いのなさは、よし。

 しかし、いかんせん技術がらない。

 

 一回、二回、と危なげなく躱す。

 そのまま男たちを軽く飛超え、銀髪美少女の横に並んだ。

 

「ふざけやがって。男だろうが女だろうがぶっ殺してやる。3対2で勝てると思ってるのか、あぁ!?」

 

「えっと、あなた達は仲間じゃないのね…… なら、そうね3対2は不公平かも」

 

 手を貸して貰う気はなかったけれど、銀髪美少女の瞳は妖しく揺れていた。

 彼女は、存外好戦的な性格らしい。

 

「じゃあ、3対3なら対等な条件かな?」

 

 銀髪美少女が左手のひらを軽く上げる。

 すると、淡い光に包まれながらその上に愛らしい生き物が現れた。

 

 チンピラの一人が声を荒げる。

 

「てめぇ、精霊術師か!」

 

「ご名答。今すぐ引き下がるなら追わないわ。私は、あの子に盗られたモノを返して欲しいだけなの。すぐ決めて」

 

 刃物を振りかざす男たちを相手に、一歩も怯むことなく言葉を返す少女。

 対して、彼らは苛立ちを浮かべながらも、戦おうとはしなかった。

 

「くそアマども!次に会った時はタダじゃおかないからな」

 

「聞き捨てならないな。もしこの銀髪美少女になんかしたら、俺が末代までたたってやるぞ」

 

「まぁ、その場合はボクが彼らを末代にしてあげるけどね」

 

 精霊の脅しが決め手となったのかチンピラ大、中、小はそそくさと逃げ出した。

 

「さて、とりあえずはボク達はお礼を言った方が良いのかな?」

 

「気にするな、当たり前のことをしたまでだ」

 

「『気にするな』か。そう言われても、キミの目的がわからないからボクは気を緩められないんだけど」

 

「私も、パックと同じ。だから、すごく失礼かもしれないけれど…… 動かないで」

 

 主従の警戒が俺に突き刺さる。

 こちらの意図を少しでも読み取る為か、彼女が俺を見つめる。

 その視線は真剣そのものだ。

 

 大きく見開かれたアメジスト色の瞳。

 場違いにも魅入ってしまった。

 

 彼女は、とても美しい。

 

 ーー数秒の沈黙。

 

 俺は、たまらず声をあげた。

 

「好きだ!!」

 

「へぇっ!?な、なに!いきなりどうしたの。わ、わかった…… そうやって私の気を逸らす作戦ね」

 

「それこそ失礼な。俺の、この眼差しにやましさがあるものか」

 

「た、確かにウソじゃ無さそうだけど。うぅ……」

 

「ボクは、逆にやましさしか感じないけどね〜」

 

 テンパる主人と冷静な従者。

 短いやり取りでもこの主従の仲の良さが伺える。

 

 しばらくあたふたしてみせた銀髪少女は、いったん場を取り繕うように慌てて言葉を発する。

 

「そ、それより徽章返して貰わないと。あの子を捕まえている術ってあなたの術…… よね??」

 

「それよりって酷いな。この想いは真剣なのに」

 

「う、うぅ。それはごめんなさい。私、そうゆうの慣れてなくって」

 

「リアをおちょくるのが楽しいのはわかるけど…… ボクも、まずはその術については聞かせて貰いたいな」

 

 緩みかけた空気が、変わる。

 熱いような、けれどどこまでも冷たい空気だ。

 

 その主は、何食わぬ顔で言葉を続けた。

 

「マナもオドも使った形跡がない。なのにあんな強固な結界を瞬時に作り出すなんて、ボクはすごくキミを警戒してしまうよ。だからさ、教えてよ。ボクに。その術と、キミが…… なんなのか」

 

 ーー殺気だ。

 愛らしい見た目にそぐわない明確な敵意。

 

 やはり結界術はこの世界でおいそれと見せるものではなかったらしい。

 

「この術に関しては、一族の秘術とでも理解して貰うしかない。だから、ちゃんと答えられるのは俺についてだけだな」

 

 最大級の警戒を続ける精霊と困惑する主人に向けて笑ってみせる。

 

「俺の名前は墨村時守。全ての女の子の味方だ。だから、少なくともその娘の敵ではない」

 

「……パック」

 

「……まぁ、邪悪な感じはしないし。うん、ひとまずは信じるよ。ごめんね」

 

「いや、謝る事はない。その娘のためなんだろ?」

 

「そっか、ありがとう。リアは抜けているところがあるからね、保護者としては大変なんだよ」

 

「ちょっと、パック!?」

 

「大丈夫だ。そのあたりは少し話しただけでも理解できた」

 

「ちょっと!!」

 

 抗議しようとした銀髪美少女だったが、それは別の美少女に遮られた。

 

「いつまで話してんだっ!!さっさとこっからだせっ!!」

 

 思い出したかのように抵抗を始めた金髪美少女。

 うん。正直、ちょっと彼女を忘れていた。

 

「そうよ。あの子から徽章を返して貰わないと」

 

「もし、あの子が素直に返したら許してやってくれないか?」

 

「それは…… わかったわ。捕まえたのはあなただもん。私はあれを返して貰えればそれでいいから」

 

「本当に全ての女の子の味方なんだね、キミは」

 

 とりあえず、被害者への説得は済んだ。

 次に、上空へ拘束した加害者へ向けて声をかける。

 

「そう言うわけだから、盗ったモノは返してあげてくれ」

 

「ふざけんな!これはもうアタシのもんだ。欲しけりゃ金を払って買うこったな!」

 

 助けると言った相手に捕らえられて、やけっぱちになる気持ちもわからんでもないが、流石にとんだ暴論である。

 

「いちおう聞いておくけど幾らだ」

 

「聖金貨20枚は出すって話だぜ」

 

 この世界の貨幣価値は分からないけれど、それが安くない事ぐらいは雰囲気でわかった。

 

 それより、だ。

 その『話』ってのは、気になる言い方だ。

 

「聖金貨20枚なんてぼり過ぎじゃないか?」

 

「知らねえよ。アタシだってこんな石ころにそんな価値があるとは思わないけど、依頼人が言うんだからそうなんだろ」

 

「依頼人、ね」

 

 言葉尻を捉えると、しまったと金髪美少女は表情を歪めた。

 彼女は誰かに依頼されてこの盗みを働いたということらしい。

 

「依頼ってどう言う事?私から徽章を盗むようにあなたに依頼した人がいるの?」

 

「……あぁ、そうだよ。その姉ちゃんがコレを聖金貨20枚で買い取るって言うんだ。その金があれば……」

 

 最後は上手く聞き取れなかった。

 

 というか、俺の意識は別のところに向いていた。

 

 ーーその、姉ちゃん??

 

 俺の思考回路がまた音を置き去りにした。

 

「よし、わかった。ならその依頼人ってのに会わせて貰おう。そこでその姉ちゃんってやつと交渉すれば良い」

 

「はぁ!?なんでそうなるんだよ?そんなんさせるわけねぇだろ」

 

「……私も。徽章はすぐに返して欲しいかも。それに聖金貨20枚なんて大金も持ち合わせていないもの」

 

 金髪美少女からだけではなく銀髪美少女からも抗議が飛んだ。

 だが、そんなのは想定内。

 俺は、俺の為に何としてもこの話を進めてみせる。

 

「まぁ、話を聞いてくれって」

 

 ひとまず2人をなだめて場を作る。

 

「まず、金髪美少女。お前に関してはこれしか手段はない。このまま捕まれば、どの道依頼は失敗する。だが、依頼人に会わせて欲しいっていう俺たちの要求を飲めば、金を受け取れる可能性が少し残る。それだけでも恩の字ってもんだろ?」

 

「……『助ける』なんて言ったてめぇが、アタシを解放すれば全て解決するんだけど、なっ!!」

 

 結界を怒声とともに蹴りつける金髪美少女。

 ヨシッ!コチラの説得は円満に済んだので、残るは銀髪美少女だ。

 

「銀髪美少女については依頼人ってやつを確認しておくべきだ。今ここで取り返しても大元を叩かなきゃ第二、第三の刺客が送られてくるかもだぞ?」

 

「も、もう盗られたりしないもん」

 

 彼女は両手を握りしめて異を唱える。しかし、俺は彼女を無視して横にいる精霊に「どうだ?」と視線を向けた。

 

「うーん。確かにその依頼主は叩いておいた方がボクも安心かな」

 

「パック……」

 

 これで銀髪陣営の説得も終わった。

 さて、ここで最後に最も重要な確認を済ませるとしよう。

 

「ところで金髪美少女」

 

「フェルトだ。いいかげんその呼び方やめろ」

 

「じゃあ、フェルト。これだけは聞いておきたい」

 

「な、なんだよ」

 

 自然と1トーン低くなった俺の声色に、フェルトの顔に緊張の色が浮かんだ。

 ついつい鋭くなる視線を真紅の瞳に合わせて俺は問いかける。

 

「その姉ちゃんってのはーー美人か?」

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