Re:ゼロから始める結界術   作:レトルトラメエ

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第20話

「まったくもう、寄り道したらダメだっていったのに」

 

 一度、宿に戻りレムとともに時盛の帰りを待っていたエミリアだったが、本当に彼を一人で残してきて大丈夫だったのかと不安があった。

 

(でも、あの場に残るにはレムがーー)

 

 クルシュの屋敷を訪れた時からレムの様子がおかしい事にエミリアは気がついていた。

 訪れた時というよりは…… もっと正確に言えば、あの会談に設けられた部屋に入ってからか。

 

(なんとなくトキモリは自分のせいだと思ってたみたいだけど……)

 

 なんだか焦っていた時守があの時の事をしっかり把握できていたかはエミリアにとっては疑問で、彼女の目から見れば彼の出自の話が出る以前からどこかおかしかったように感じていた。

 

 レムが時守を庇おうとした時の態度が普通に見えたので、エミリアも始めは勘違いかとも思った。しかし、宿に帰る道中、そして着いてからも俯いたままの彼女を見たら、やはり間違っていなかったのだと彼女は確信した。

 レムの何かに堪えるその姿は痛々しくて、エミリアは見ていられなかった。声をかけようにもいったい何が彼女を傷つけているのかわからなかったエミリアには、かける言葉も見つからなかった。

 

 時守の治療にどのぐらいかかるのかわからないが、いよいよ日が傾き出してしまったのでエミリアはひとり彼を迎えに行くことにした。王選候補者を一人では行かせられない、とレムも同行を申し出てくれたけど、エミリアはそれはやんわり断った。今のレムを連れ出すのはあまりに可哀想だったからだ。

 

 そう思って飛び出しておいて、まさか今度は自分が傷つくなんてエミリアは思いもしなかった。

 

「トキモリ…… さっきの女の子とはどこで?どうして?」

 

 

 

 

 玉を失うことも、逆に胸を得ることも出来ず、相変わらず俺はお姫様と裏路地を歩く。

 玉を取り合った仲だ。俺と姫さまの関係は少し近づいた気がする。

 急がば回れ。今回は無理でも信頼を積み重ねていつか絶対にその胸を揉みしだいてやる。

 

「まったく裏路地に入れば目新しいものでも見つかるかと思っておったが、存外退屈なものよの」

 

「俺と会えたじゃん」

 

「バカを言うでない。妾の胸を触ろうとする下郎と会うなど不幸以外の何物でもないわ」

 

「不幸を体験できるなんて目新しいんだろ?」

 

「あぁ言えばこう言うでない。まったく…… 飽きてしまったわ。靴に汚れがつくのも嫌じゃーーこんな裏路地さっさと出るに限るわ」

 

「むむ、お靴に汚れが!?それはいけない。では、失敬!!」

 

 お姫様が言い終わるより早く、俺はお姫様の目の前へ屈むとその背に彼女を背負ってしまう。

 

「バ、バカモノが!!妾に触れるでないと言っておるじゃろ!!」

 

「お靴が汚れては大変です。このまましっかり胸を背に付けておぶわれていてくだされ」

 

「今まさに妾の貞操が汚されておるわ!!」

 

「裏路地の間だけだから、ね!ホントちょっとだけだから!!」

 

 頭をボコスカ殴られながらも俺はお姫様を降ろすことなくずんずん進む。

 

 急がば回れ。

 

 しかし、据え膳食わぬは男の恥。

 要するにおっぱいには勝てなかった。背でおっぱいの感触をフルに堪能する。

 

 うひゃ〜〜トンデモねぇ乳だ!!

 オラ、ユサユサすっぞ!!

 

「コレ!無視するでない!はよ降ろさぬと代わりに貴様の命を落とす事になろうぞ!」

 

 路面が悪いため仕方なく、本当に仕方なくユッサユサ縦に揺れながら歩いていると、曲がり角から一際大きな影が顔を覗かせる。

 

「んんん?久々に見かけたと思えば、お前さん何をやっとるんじゃ?」

 

「おぉっ、ロム爺ぃ!」

 

「こんな薄暗い所で逢引きとはお前さんも物好きじゃのぉ」

 

「身分違いの禁断の恋なんだ。絶賛駆け落ち中だぜ」

 

「適当を言うでない!!身のほどをわきまえよ!!」

 

 まさかロム爺とこんな所で会うとは。

 裏路地という意味では彼がいるのも自然かもしれないが、わざわざ王都に出てきてるところを見ると、

 

「フェルトを探しているのか?」

 

「そうじゃ、どうにかして連れ戻してやりたいのじゃが」

 

「降ろせ!降ろせと言うておる!妾を無視するでない!!」

 

「相手は世界最強…… のロリコンだかんな。難しいのはわかるぜ」

 

「よりによってアストレア家じゃからな」

 

「妾を無視するな…… するなぁ……」

 

「なぁ、ロム爺。俺も今じゃエミリアの所で世話になってるからアレだが…… フェルトにあの石が反応したってのはーー」

 

「むぅ…… まぁ、なんじゃ。いろいろあるんじゃよ」

 

「そっか。まぁ、俺の方でも探しては見るよ。あのロリコン相手だと骨は折れそうだけど」

 

「あぁ、頼んだぞ」

 

 それだけ言葉を交わすとロム爺はノソノソと路地裏の奥へと消えていく。

 フェルトの事に関して気にならないわけではないが、王選絡みで連れ去られたのならきっと近いうちに会えるだろう。

 

「妾を放っての会話は済んだか?それが遺言になるが良いな」

 

「おっと、すまない。2人とも語尾が『じゃ』だから勘違いしちまったぜ」

 

「なっ!!妾とあの薄汚い大男を同列に語るか!!」

 

「ーーやっと見つけた!!」

 

 お姫様さまの逆鱗を浴びていると、ロム爺と去った方向と逆の道から聞き慣れた声が響く。

 

「おっ、エミリ…… 待て待て待て!!なんだその男は!!俺のいない間にナンパとは太え野郎だなコラ!!」

 

「待つのは貴様じゃ!また妾が話してる最中に。妾の話を優先させよ!!」

 

「嬢ちゃんのツレかなりネジ飛んでんなぁ。自分が女の子背負ってんのを棚に上げて人を泥棒猫呼ばわりとか、男心複雑すぎて見ていてワクワクすんよぉ」

 

「普通の格好ならなんも言わねぇ。俺の大切なエミリアたんの隣を、かなりなイカレパンク野郎が歩いてんのが問題なんだろ」

 

「おいおい、それこそ自分の服装見てからもの言えってんだ兄ちゃん。この世界で和服とかイカレ野郎以外の何者でもねぇだろが。オジサンの気を損ねないウチに謝っとけよ、若造」

 

「あぁぁん!?」

 

 男の言葉に思わず眼光が鋭くなる。

 鉄兜を被っといて、裸にノースリーブジャケットの変態に俺の服装をとやかく言われる筋合いはない。

 

 俺の…… 服装、を。

 

 ダメだ。今はこの事は気にするな。

 

「や、やめてトキモリ。この人の格好に驚いたのは私もだけれど、迷子を探すって同じ目的だから歩いてたのよ」

 

「迷子だぁ?どう見たって連れ去る側の変態だぜコイツは?」

 

 まだ名前も知らぬ少女を無理やり背負うっている自分のことは棚上げにした。

 

 エミリアのお人好しにも困ったものである。王選参加者が護衛も連れずに出歩いてるのも問題なのに、その上変態との同行までしているとは。

 

「ふむ、それにしても妾の行先で待つとはなかなか気が回る。殊勝な心がけじゃな、アル?」

 

「パンク野郎が探してる迷子ってお姫様かよ!?」

 

「姫さんも随分愉快な姿してんな」

 

「あっ…… やめい!見るでないアル! バカ者が、だから早く妾を降ろせと申したであろう!!」

 

 己の従者に見られたのが相当に恥ずかしかったのか、お姫様の抵抗が烈火の如く激しくなったので素直に降ろす。

 

「謝りはしないぞお姫様。なんてたって『妾に不都合は起こらん』だろ?」

 

「貴様!! 絶対に許さぬ。夜な夜な呪いながら眠りについてやるわ」

 

「夜な夜な俺の顔を思い出すとは、こりゃ惚れられちまったかな」

 

「この蟲ケラめが。にしても…… ほぅ、まぁたしかに存外悪い出会いでも無かったかも知れぬの」

 

「んん?」

 

 お姫様が突然デレだしたのかと思って視線を向ければ、その紅蓮の瞳はエミリアを見つめて離さなかった。対して、エミリアはそれを受けるとササっと俺の後ろに隠れて袖を掴む。

 

 なにこれカワイイ。エミリアたんマジ天使。

 

 エミリアは知り合いなのか?

 けど、怯えてるように見えるので早く切り上げるが吉か。

 

「ほいじゃ、お互いに迎え人が来た所でお開きにしますかね。名乗りが遅くなったが俺は墨村時守。よろしくな」

 

「おいおい。自分の彼女と護衛の前で堂々と姫さんをナンパとは兄ちゃんのトビっぷりには、俺も思わずこの兜脱帽だぜ」

 

「貴様に名乗るほど妾は安くない。しかし、そうさな…… そう焦らすとも良い。いずれ近いうちにまた会おうぞ」

 

「……やっぱり俺のこと好きなのか?」

 

「……それまでに死んでおいてくれることを切に願っておるぞ」

 

 ではな。と言い残すと、アルと呼ばれた従者を連れてお姫様は去って言った。

 

 さて、迎えにくるほどエミリアには心配させてしまったみたいだし、こちらもそろそろ帰るとしよう。「いこっか」と、声をかけて歩き出すと、エミリアは何も言わずに俯いたまま少し後ろをついて来た。

 

 もしかしなくても怒らせてしまったようだ。

 

 気まずい……

 

 心情としては残業と言っておいてキャバクラに通ったのがバレたような感じだろうか。

 

 レムが待つ宿に向けて日が傾いた道を2人で歩く。せっかくのエミリアとのデート。本来、この道中でどうやって彼女の機嫌を取り戻すのかを考えるべきだろうに、俺の心には別の大きなモヤがかかっていた。

 

 『和服』……ね。

 

 たしかにあの鉄兜はそう言った。

 ナツキスバルにあったその日にまた別の同郷候補に出くわすなんて偶然か?それとも……

 

 

 

 

 

「ねぇ…… トキモリ、さっきの女の子とはどこで?どうして?」

 

 無言の帰路を半ば過ぎた所で私は彼に尋ねた。

 尋ねずにはいられなかった。

 

 彼女は私と同じ王選候補者の一人、プリシラ・バーリエルに間違いない。

 

 王選候補者についてはあらかたロズワールから説明されていた。実際に彼女を見るのは初めてだったけれど、聞いていた特徴とまったく同じだったし、何より彼女と視線を合わせた時に確信した。

 

 もしかしたら、あのアルって人も私を王選候補者の一人と知って近づいたのかも知れない。

 

 人を疑うのは趣味では無いのだが、今はなんだか何も信じる気になれない。

 

「えっ、なに。もしかして嫉妬とかしてくれた……」

 

「ふざけないで!!真剣に答えて!!」

 

 彼に怒鳴り散らした自分に驚いた。

 何をそんなに怒っているのだ自分は。

 彼とレムの仲を取り持とうとした自分がこれでは、笑い話にもならない。

 

「その…… あの、ご、ごめんなさい。忘れて!!私、どうして」

 

「いいよ。約束破ったのは俺だしな」

 

 あぁ、失敗しちゃった。

 

 目を閉じて現実から目を背ける。

 

 明日、王城には王選候補者が集められる。私にだけ騎士がいない不安とか、自分への自信のなさへの苛立ちとか。おまけに、すぐ帰って来るって約束破られた不満もあるけど。

 

 つまりは八つ当たり。

 

 積もり積もる負の感情、そんな時に私とは対極の存在に感じていたプリシラに彼を横取りされたように感じたのだ。彼は私の騎士になってくれるかも知れない。そんな人を何でも持ってる貴方が奪うの?彼への期待も、ただの私の身勝手なのに。

 

「ーーよいっしょお」

 

「ふぇっ!!!」

 

 急に視界が高くなる。

 少しパニックに陥った私だったが、胸で感じる人肌の暖かみでようやく彼におぶわれているのだとわかった。

 

「な、何してるの!?」

 

「何って、おんぶだけど」

 

「なんでそんな事してるのって聞いてるの!」

 

「なんでって、俺が知らない女の子をおんぶしてたからまだ怒ってるんだろ?」

 

「違う!約束守ってくれなかったから怒ってるの!」

 

「そっちはすまん。本当に迷子になってたんだ」

 

「それはわかってるけど、わかってるけど違うの!!」

 

「だったら、やっぱりおんぶだろ?大丈夫、あの子をおんぶした事に特別な意味はないよ。俺は美少女なら誰だっておんぶしちまう人間なんだ」

 

「そっちのほうが問題じゃない!」

 

「だからそんなに嫉妬しなくても大丈夫」

 

「嫉妬なんて言うのやめて」

 

「どう考えても嫉妬だろ?」

 

「やめてって言ってるの!!」

 

 私は、また感情的に喚き散らす。もういい加減呆れられてしまうかもと少し恐怖が頭をよぎるけれど、その反射とも呼べる拒絶の衝動は抑えられなかった。

 

 あなたの口から私を嫉妬なんて言わないで。

 お願いだから、あなただけは私をそんなふうに呼ばないで。

 

「エミリアは生きてるだろ?」

 

「へぇ?う、うん」

 

 突然の素っ頓狂な質問に思わず気の抜けた返事を返してしまう。

 い、生きてるよね?私……

 

「なら笑ったり、泣いたりするのと一緒で嫉妬ぐらいするさ」

 

「でも……」

 

「エミリアは魔女じゃないんだから嫉妬したって、それはただのエミリアの嫉妬だろ?」

 

「っ!!」

 

「エミリアは俺のことが大好きなんだな。うんうん」

 

「………」

 

「え、フルシカト!?」

 

 結局最初の質問の答えをはぐらかされた気がするし、それなのになんだかドキッとする事は言い出すので、私は仕返しに無視をしてやるのだ。

 そのまま宿に着くまで、私はただ黙って彼の背中にゆられた。

 あぁ、本当に彼が騎士になってくれたらいいのに。

 

 

 

 

 

「……アル」

 

「あぁ、間違いねぇよ姫さん」

 

「しかし、貴様と同じ人種にしては面妖な術を使いよったぞ?」

 

「面妖な術?」

 

「箱型の障壁のようなモノを出しておったな。マナの細波すらたっておらん。こちらの世界の術ではなかろう…… アル?」

 

「おいおい、残念だが俺は…… ってか俺らの世界の普通の人間にはそんな芸当できないからな」

 

「ふむ、まぁ期待してはおらんかった」

 

「なんかいわれのないディスられ方してんなぁ」

 

「という事は、奴は()()()と同じ人種でありながら違う理の人間だと」

 

「だろうな。モノ好きならわかんねぇがあの格好にあの名前だ。日本人には違いないだろうよ。……なんだ?姫さん。えらく気に入ったか?」

 

「たわけ。半魔の娘とも繋がっておるようじゃし、戯れ程度には遊んでやろうという気まぐれじゃ」

 

「そうかい。まあ、せいぜい噛まれないようにしてくれよな」

 

「その時は貴様が噛まれればよいだけの話よ」

 

「噛まれるだけで済んだらいいけどな…… 真面目な話、もうこの世界は俺の預かり知るところの外になっちまってる。その最たる者があの男だ」

 

「それこそ余計な節介じゃな。そもそも妾はお前の力など関係無しに妾の力によって妾の道を行く。それはこれからも変わらぬ故、お前が知る、知らぬなど関係がないわ」

 

「はぁ、頼もしいこって。姫さんに仕えられて俺は幸せもんだぜ」

 

「何を今更の事を」

 

 こりゃあ相当に気に入られてるかもな。

 ご愁傷様だ、兄弟。

 

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