未来の王たる人間が通る道。そんなこの国の行く末に続くであろう道を少女にリードを握られながら四つん這いで歩む変態がいた。
どうも俺です。
振り返ったエミリアは信じられないないものを見たといった表情だ。
「ト、トキモリどうして??」
「へへ、水臭いぜエミリア。逆に聞くけど、友達の晴れ舞台を見たいと思うのは変か??」
「どーぉう考えてもエミリア様が聞いているのは、来た理由じゃなくてその格好だーぁよ」
俺の気さくな笑顔に、道化は引き攣った笑み……というか嘲笑いながら横槍を入れてくる。
「なんだぁ?? 偉そうに。ロズワール、お前にだけは格好の事で言われたくないな」
「私が偉いのではなく、君が人としての尊厳を捨てたのだーぁよ」
くそっ!! 自分の従者のレムが手綱を握っているからって、俺より上に立ったとでも言いたいのか。
「トキモリ、それにレムまで…… どうして……」
「エミリア、コレには深いわけ……ふげぇ!!」
俺の言葉は後頭部に強い衝撃を受けたことで遮られてしまう。床へと張り付いた顔は重力以外の何かで押さえつけられて上げられない。どうやら俺の頭は絶賛踏みつけられ中らしい。
「妾の脚置きをじっと見て、何かあったか半端者??」
「くそっ、俺は犬ではなく移動式足置きだったのか!?」
「いや兄弟。犬扱いされた時点で怒るべきだとオレは思うぜ」
「ふはは、何とも愉快じゃ。これほどまでに心晴れやかなのはいつぶりじゃろうか」
プリシラは視線でエミリアを
頭を押さえつける足がなくなり顔をあげてプリシラを視線で追う。そこには彼女とクルシュ、そして特徴的な帽子を被る女性がもう一人並んでいた。
あれが、エミリアのライバルってわけか。
そんな事を考えているとロズワールは自分の従者に目を向けて口を開く。
「まさか、レムまで付いてくるとはーぁね」
「独断で申し訳ありませんロズワール様」
「いや、いいんだーぁよ。ただ…… 前よりも仲良さそーぉに見えたのが気になってね」
その視線と声色に若干の棘があるのは思い違いではないだろう。ロズワールとしてはレムと俺が親密になるのは面白くないはずだ。
「監視している事は悟られてしまったので、こうして管理へと切り替えました。ほら、トキモリくん……おすわり」
「えっ……」
「忘れたのですか?? ここに入れてもらう為にプリシラ様が提示された条件は『今日、一日トキモリくんは愛玩動物として生きる』事です。そして、その世話係として任命されたのがレムですから。 ほら……おすわりできますか??」
「……わ、わん」
「くうぅぅぅ…… はぁ、はぁ。レ、レムの中の何かが暴れ出してしまいそうです」
「そ、それは大胆な路線変更だーぁね…… エミリア様、私は先にあちらへ移動させてもらうよ」
「えぇ、わかったわ」
あの奇人ロズワールをしてドン引きさせるとは、恐るべしレム。
そんな俺らをよそに会場には野太い声が響き渡る。
「これより賢人会の皆様が入場されます」
声の主は先程まで大扉の見張り役を務めていた男だった。
「けんじんかい…… なんだ俺の仲間か??」
「兄弟、漢字が違うぜ。犬の人の会じゃなくて、賢い人の会だ」
「何だそれ??」
「今、この国の王様は不在だかんな。その代わりに国の運営を任させている…… ま、言ったらお偉いさんだよ」
「あぁ、そりゃわかりやすい」
要するに政治家みたいなもんか。
見るからに偉そうにしている奴が多くて気に食わないが、敵に回さないに越した事はない。
「こんな通路でたむろってたら悪目立ちしちまう。俺らもさっさと並ぼう」
「兄弟…… メイドに繋がれて四つん這いで移動して悪目立ちもクソもねぇだろうがよ」
「それもそうだな。二足歩行するぐらいならプリシラも許してくれるか」
「歩くだけで許可を気にするなんてオレはこうはなりたくねぇなぁ、おい」
鉄兜に裸マントなんて『頭隠して尻隠さず』を体現したような冗談ファッションのくせにうるさい奴だ。
もしかしたらプリシラも自分の従者の変態性を隠す為に、俺という人工的変態を生み出したのかもしれん。だとしたら俺はなんという圧倒的被害者であろうか。
「エミリアもそろそろ並ばないとマズイだろ??」
「うん…… その、ごめんね」
「なに謝ってるんだよ。俺はプリシラのペットとして勝手に来ただけだから気にすんな」
「そう、なんだ…… うん、じゃあ、私行くね」
この数日間避け続け、今日という日に何も言わずに出て行った事にバツが悪かったのか、エミリアはどこか逃げるように候補者達の列へと向かった。
「プリシラ様ではなく、レムのペットですけどね」
「あの…… 首輪は外したらーー」
「ダメです。それはレムが許可しません」
「あ、はい。もう、なんか大丈夫です」
「板についてんなぁ」
「ほっとけ。んで、鉄兜。俺たちはどこに行けばいい??」
「アルお兄さんって呼べ変態犬。オレらが並ぶのはアッチだぜ」
鉄兜こと、アルが指さす方には白を基調とした服を身に纏う一団がいた。腰に剣を下げ、一糸乱れぬ整列を成している。
その列の通路側、彼女達を眺めるにはちょうど特等席にあたる位置が空いていた為その後ろへと並ぶ。すると前に並んでいた赤髪の青年がこちらへと振り返り声をかけてきた。
「エミリア様が出席されると聞いて君も来るとは思っていたが…… まさかそんな格好で再会するとは思いもしなかったよトキモリ」
「よう、ラインハルト。お前の後ろやけに空いてたけど意外と人望ねえのな」
「人権すら怪しい君に言われたくはないけどね」
チッ、騎士だけあって返す刀で上手い事言いやがる。流石に首輪に繋がれた状況では分が悪いか。
議会中どこかで後ろから尻を蹴ってやろうかと密かに企みをしていると、別の方向から気の抜けた声で呼ばれる。
「やっほ〜 トキモリきゅん!!」
「おい、こんな厳粛な場に首輪も付けられてないペットが紛れてるぞ」
「本当に付けてるトキモリきゅんに言われると差別に感じにゃい!?」
「なんだトキモリ。君は彼とも知り合いだったのかい??」
「いや、一方的に噛まれただけだ」
俺はフェリスに視線すら向けずに会話を続ける。忘れていたが、このネコミミ男も騎士だったな。
そんな俺の冷たくあしらう態度に腹を立てたのか、フェリスはあざとく後ろ手を組んで弾むように一歩俺へと近寄ると顔を覗き込んでくる。
「や〜ん、酷いにゃあトキモリきゅん。ベッドではあんにゃにも激しかったのに」
「おまッ!!」
「トキモリくんどういう事ですか??」
「ヒィッ……」
首輪に繋がっている紐がピンと張り詰める。それはまるで俺の緊張を具現化したようだ。
「待て、思い出すんだレム。コイツは男だ」
「トキモリきゅんは首筋をにゃぞるとすごい声が出るんだよねん」
「このクソ猫ぶっ飛ば……ぐぇッ!!」
「トキモリくん静かに。首筋どころか首を締めてあげますから」
「あらら〜 トキモリきゅんたらフェリちゃんの事イジメてたくせに、イジメられる方もいけるんだね」
ーーギチチッ
レムは「ふんっ、ふんっ」と鼻息を荒げて、まるで大物でも釣り上げるように手綱を右へ左へと引き続ける。首輪は首との境目が無くなるほど肌に食い込んでいた。
「にゃはは〜 そろそろスカッとしたしフェリちゃんも〜どろ。ふんふふぅ♪」
(『結』ッ!!)
「ーーニャゴッ!!」
鼻歌混じりに帰ろうとするフェリスに足元に結界を展開してやると、見事なほど綺麗に転び、顔面から床へと着地した。
「ざまぁみろクソ猫!!」
「痛ったいにゃあ……」
「はぁ、君たちはいったい何をやっているんだい」
「ゴホンッ…… よろしいですかな??」
ラインハルトのため息と入れ替わるように、マーコスと名乗った男が咳払いをして話を進める。
「それでは僭越ながら近衛騎士団団長の私、マーコスが議事の進行を務めさせていただきます」
今さらだけれど…… ナツキスバルはいないんだな。
フェリスに聞いてもよかったけれど、これだけ人のいる状況でしたい話でもないので言葉を呑んだ。
「ことの起こりは約半年前。先王を始めとする王族の方々が次々とお隠れになった事に起因しーー」
「あんな団長さんがビシィっと話を進めたいんはわかるんやけど、ウチも忙しいんや」
マーコスがせっかく話を始めたというのに、候補者の中で唯一名前の知らない女が遮った。緩やかにウェーブのかかる柔らかそうな紫色の髪とは違い言葉遣いはキツい。
かわいそうなマーコス。
きっと彼には不憫の加護でもあるのだろう。
「カララギでは時間とお金は価値は一緒やゆってなぁーー」
「おいおい、関西弁は世界を越えるのか……」
「西のカララギって国ではあの訛りが当たり前らしいぜぇ」
この世界にも訛りとか方言があるのか。
もしかしたら髪色が紫なのも大阪のおばちゃんと何かシンパシーがあるのかもしれない。
こちらが関西弁の話で盛り上がっていると、壇上では関西女子に同意するようにクルシュが腕を組んで口を開く。
「道理だな」
「クルシュ様。カルステン家の当主がそのような事を……」
かわいそうなマーコスくん。
彼はお仕事しているだけなのに。
「格式を重んじるのは大事な事だが、時間が有限であるのも事実だ。我々が集められた理由に早々に触れるべきだ。もっとも、おおよその想像は付いているが」
「すでにこの招集の意味がわかっておいでですか??」
クルシュの言葉に反応したのは、見るからに重鎮といった髭を蓄えたご老人だ。そんな相手にもクルシュは少しも
「あぁ、マイクロトフ卿。酒宴だろう??我々はいずれ競い合う身だが、同じ卓を囲み、盃を交わせば、おのずと人柄もしれようと」
「いえ、違いますが……」
ひゃぁ…… お辞めくださいクルシュ様。そういう共感性羞恥系のやつダメなんです。どんぐらいダメかというと、こんな人前で首輪で繋がれる事より恥ずかしい。
「フェリス、聞いた話と違うが」
「やーだなぁ、もう。フェリちゃんはただ酒宴でも開くのかもですねって……痛ッ!!」
そこまで聞いて黒幕を察した俺はフェリスの頭目掛けて結界を展開させる。
「トキモリきゅんにゃんのつもり!?」
「クルシュ様の代わりに罰を与えておきました」
「トキモリきゅんに関係にゃいでしょう!!」
「馬鹿を言うな。お前の戯言でクルシュ様はおろか、この場にいる全員の時間を浪費させたのだ。それが罪でなくしてなんだと言う」
「ぐっ、にゃんて正論」
俺に論破されたフェリスは何も言えなくなってただ頭を抑えて痛みを紛らわしている。
「貴公らは本当に仲が良いな。すまない、マイクロトフ卿。私の早とちりだったようだ。さっきまでの発言は取り消させてくれ。」
部下の失態を庇ってくれるクルシュ様まじ紳士!!
これで丸く収まるかとも思ったけれど、そんな彼女に抗議の声をあげたのは隣で聞いていた関西女子だ。
「こらこら、クルシュさんが引いてもウチの意見は変わらんよ?? 今から王選の上辺の事なんか話さんでもみんな知っている事や。せやろ??」
横目で他の候補者へと話を振ると、少しあたふたした様子でエミリアが答える。
「わ、私はちゃんとお話は聞くべきーー」
「悪いけど、ウチはアンタ様の意見は聞いてないんよ」
アウェイだとは理解していてもこんな大っぴらに差別的態度を見せられるとキツいものがある。まぁ、だからって声をあげたりはしないけれど。それはかえってエミリアを困らせる事になるのはわかりきっている。
そんなやりとりにげんなりしていると、背後から場違いにハツラツとした声があがる。
「はいはーい!! 王選がどうとか知らないから先が聞きたかったり、すっかなぁ」
それを受けて賢人会と呼ばれる方々の座る一席、先程の白髭のご老人がプリシラへと目を向ける。
「プリシラ様、彼は貴方の騎士と伺いましたが。王選の説明は??」
「妾がせずとも、長話好きの貴様らが勝手にするじゃろう??」
「そうですな。それではもう一つ…… 貴方の連れてきた使用人の少女ーーは、良いとして、首輪の男性は些かおふざけが過ぎるのではありませんか??」
アルのバカッ!! もう知らない!!
奴のせいで俺にまで追及の手が伸びてしまったではないか。
ここで変な心象を与えてしまえば、今後エミリアと行動をともにした時に彼女へ迷惑がかかりかねない。
「あぁ、あの見窄らしい獣はーー」
「私はプリシラ様の『お楽しみ』でございます」
エミリアへ迷惑をかけない為にも、俺はプリシラの言葉を遮ってでも自分の主張を続けた。
「こ、これっ。勝手な事を言うでーー」
「私も、こんなはしたない格好で、このような厳粛な場に立つのは大変な御無礼にあたる事は百も、百も承知しているんですよ。でもね、プリシラ様を、プリシラ様を、お喜びさせる…… 道化になる事でしかァ! 私は…… うぅぅ、生きられないわけですよ! ですからァ! 私は、追い出される訳にはァ! ハァ、ハァ、グスッ、いかないのであります! 貴方達には、わからないですよね! 本当に、ホントォにィ! 申し訳ありませんでしたぁ、うぇぇぇえん、あはぁぁぁ!」
俺は屈辱に耐えるように歯を食いしばり、目元を拭って大袈裟に泣いて見せる。
「バ、バカ者!!まるで貴様のそれが妾の趣味であるみたいに言うでないわ」
「うぅぅ、ぐすっ。すびばぜん〜プリシラさまぁぁぁあ」
「そうか…… 民の生活とはここまで追い込まれておったのだな。わかった、詳しくは触れずにおこう」
「これッ、なんじゃその妾が強要しているような同情は!? や、やめよ。貴様らもそんな目で妾を見るでない!!」
ふぅ、なんとか助かったぜ。
やっぱり迷惑をかけても心が1ミリも痛まない存在って頼りになるな。
いくらなんでも酷いんじゃないかって??
俺から言わせればそんな心配こそプリシラに失礼ってものだ。
何故ならそれはプリシラ様のご発言を疑う事になるのだから。
『この世界は妾の都合がいいようにできている』
だよなっ、プリシラ!!
ーー次回予告
混沌とする議会、暴走する変態。
さまざまな思惑と感情が渦巻くこの議会はいったいどうなってしまうのか!?
次回、RE:ゼロから進まぬ議会進行
『#27 がんばれマーコスさん!!』