Re:ゼロから始める結界術   作:レトルトラメエ

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第34話

 部屋に入り込んだ日差しに閉じられたまぶたが刺激される。高級な寝具の手助けもあり、上質な睡眠を貪る事のできたおかげか朝特有のまどろみの誘惑もなかった。

 

 エミリアとレムのことを考えたら、昨夜のうちには屋敷を出てしまおうかと脳裏をよぎったけれど、結局行動に移すことはなかった。

 

 口約束とはいえ、一日主従の『契約』を結んでしまっている以上、プリシラに断りもなく出て行くことは憚られたのだ。それに、例え他の王選候補者でライバル相手といえど、契約を反故にして会いに来たのではエミリアも喜びはしないだろう。

 

「さて、日もまたいだし行動するか」

 

 勢いをつけてベッドから起き上がる。そして、手早く着替えを済ませようとしたところで、自分の服がないことに気がついた。

 

「まぁ、あの闘いでボロ布も同然だったしな」

 

 今着ているのも、俺らの世界の高級ホテルなどで出されていそうな手触りの良いガウンだった。

 

 これも庶民では触れる機会すらない上物だろう。けれど、寝巻きで屋敷内を歩き回られるのは、プリシラ的に言わせれば『そんな客人がおるなど妾の品位が下がる』事案だろうから、代わりの衣服が用意されているはずだ。

 

 部屋の隅に設置されているクローゼットへと手をかけると、やはりそこには代えの服が存在していた。

 

「これは…… スーツ。いや、燕尾服というか執事服か??」

 

 他を探しても、その衣服以外は見つからなかったので、どうやらこれを着ろということらしい。

 

 普通の服が用意できなかったわけでもあるまいに、わざわざこんな服を置いておくなんて、

 

「独占欲みたいなもんかね」

 

 今のところプリシラの従者は、あのヘンテコな鉄兜しか見ていないため確実なことは言えないが、おそらく本来は彼女に仕える人間に用意されているであろう服のはずだ。

 

「ーーよっと。うむ、我ながら似合っていると言っていいな」

 

 この服かガウンの二択だったので、特に迷うことなくあてがわれた服へと袖を通す。普段、着流しのような和服を着ていることが多いけれど、意外と洋服というのも悪くない。

 

 そんなことを考えながら部屋を後にしたが、そこにはロズワール邸に勝るとも劣らない廊下が広がっていた。

 

「美少女双子メイドの出迎えがないぶん、あの屋敷の勝ちだけどな」

 

 願望はともかく、案内がないのではこの広さの屋敷ではどこへ向かっていいのやら。別に外へ出るだけならば、最悪窓からでも可能。しかし、先にも言った通り、屋敷を去るにしろプリシラへなんの挨拶もないってのは一宿の恩に恥じる行為だ。

 

「まぁ、歩いてればなんとかなるだろ」

 

 プリシラとのイベントはだいだいそれで上手くいく。それは、今までの経験が物語っていた。彼女の敵にでもならない限り、適当に行動してれば『彼女の都合の良い』道筋にたどり着けるのだから。

 

「なんとなくだけどこの部屋入ってみるか」

 

 立ち止まった一つの扉。たまたま目に入ったそれは他のドアと大きさは変わらないけれど、装飾の類が幾らが豪勢に見えたのだ。

 

「おじゃまぁす…… と、プリシラの部屋だったか」

 

 部屋の中にいたのは、女性の従者3人に囲まれて身支度の最中であるプリシラだった。しかも、ちょうどコルセットを巻いてもらっているところだったらしく、大事な所は隠れているとはいえ、ほぼ下着姿だ。

 

「淑女の部屋に断りもなく入るとは、何か申すことはあるか??」

 

「えっと…… ありがとなっ!!」

 

「礼ではなく謝罪を申さぬか、うつけものが」

 

 プリシラは意外にも声を荒げることはしなかった。てっきり、活火山の如く怒り荒れるものと思っていたのだが。

 

 プリシラとは対照的に、従者の女性たちは突然の訪問者にあたふたと目を泳がせて対応を模索している。

 

「よい、続けよ。本来このような姿を見られるなど不快そのものだが…… 虫に肌を見られて憤る者もおらぬじゃろう」

 

「は、はい…… かしこまりました」

 

 従者たちはプリシラの言葉に納得はしていないだろうが、承知はしたようで着替えを続けた。

 

「いや悪い、屋敷で迷っていたらたまたまな。よいしょっとーー」

 

 部屋の中にあった適当な椅子へ、背もたれを前にしてまたがるように座る。ちなみに、適当といってもこれも一目で高級なそれだとわかる品だ。

 

「なぜ堂々と腰を下ろせるのか、妾には不思議でならん」

 

「まぁまぁ、気にするな。見られて減るもんでもないだろう?」

 

「気は滅入りそうじゃがな」

 

 そういうプリシラの顔からは、特に恥じらいや怒りの感情は見られなかった。

 

 それ以上非難される事もなかったので、俺はお言葉に甘えてーーというのは少し違うが、何も言われないのをいい事に、それからしばらく彼女を眺めた。

 

 一つ、一つが煌びやかな宝石を散りばめた赤と黒のドレス。まさしく贅を極めたといって良い服装だろう。庶民としては、普通ならそこに妬みの感情の一つでも湧くのかもしれない。しかし、そこに下品さなどカケラも存在せず、ただただ庶民では手の届かぬ高貴さだけを持っていた。

 

「ーー綺麗だな」

 

「ふむ。『赤』には『黒』がよく映えよう?」

 

 プリシラは機嫌良く鼻を鳴らすと、勝ち誇ったように笑みを浮かべた。

 

「ドレスもだけどさ…… 正直、お前ほど高嶺の花という言葉が似合う女性もいないだろうよ」

 

「それも、当たり前のことよな」

 

 どんなに輝く宝石も、どんなに華やかなドレスさえ、結局は彼女の美を讃える装飾に過ぎない。きっと、それらを纏うから彼女は美しいのではなく、彼女が美しいからそれらはその手に集まるのだ。

 

「どうしたそんなに見惚れておって。妾の美にあてられて死にたくでもなったか?」

 

「いや、自分でいうのもなんだが。自分の造形に絶望するような容姿でもないだろ。俺は普通だよ、普通」

 

「………」

 

「え、普通だよな?」

 

 そこはかとなく不安になるから無言はやめてほしい。まだ、いつものように罵詈雑言で貶してくれた方が、冗談として捉えられるからマシまである。

 

 そんな俺のことなど存ぜぬと、プリシラは背筋が伸びた凛とした佇まいで、ただ真っ直ぐに前を見つめる。侍女たちに身支度を託す、その光景はまるで舞台前の女優の楽屋を覗いているような、妙な神秘性があった。

 

 そんな彼女が、不意に口を開いた。

 

「さて、妾に見惚れる凡俗よ。妾はーー『美しい』か?」

 

「………あぁ、綺麗だ」

 

 焼き回しのような答えしか出なかった。そんな言葉を発するのに少し詰まってしまったのは、彼女の容姿や所作。そして、『妾は美しいか?』なんておとぎ話に出てきそうなセリフも相まって、どこか現実味を忘れさせられてしまったからだ。

 

「ならば、そんな妾に仕えられるのは至高よな。貴様がこうして無礼を承知で支度中の妾を訪ねたのも、その(せい)を今後一生妾にかしずく為に使わせてくれと懇願しに来たと考えてよいな?」

 

 こちらに一瞥すら向けないその物言いは有無を言わせぬ圧政者のようだ。しかし、言葉とは裏腹の答えがわかっているように、その顔はどこか寂しげに見えた。

 

「悪い、ここに来たのは一宿の礼に来ただけだ。一晩世話になった、ありがとう」

 

 プリシラはそっと静かに「ーーそうか」と言葉をこぼすと、それからは何かを足すこともなく、ただ侍女たちにその身を預けた。

 

 特に昨日の主従契約に触れないということは、その無言こそが彼女なりの別れなのだろう。だから、俺はもう一度彼女へ「ありがとう」と言葉を残して背を向け扉へむかう。

 

 無言の室内には、やけに俺の靴音が響いた。

 

 あぁ、そうか。そういえば履き物も上に合わせて革靴だった。用意されていたから自然と履いていた。

 

 元の服はラインハルトに真っ二つに裁断されてしまったし、草履も血で塗れてもう履けはしなかっただろう。

 

 つまり、このまま帰るしかないわけなのだが、従者用のこの服一つとってもかなり良い品だ。プリシラの誘いを断っておいて服だけ貰って帰るのも、正直気がひける。

 

「なぁ、凡俗よ」

 

 今はもう話しかけられる事もない、そう思っていたプリシラから声がかかったのはそんな時だった。

 

「貴様は、自分の容姿が平凡であるかを気にしておったな」

 

「ん……? あぁ、さっきの話か」

 

 振られた会話が突飛すぎて、すぐには思い出すことはできなかったけれど、たしかにそんな話をさっきした。

 

「貴様のそれがどうかは妾にはカケラの興味もないことじゃがのーー」

 

 そこで言葉を区切ると、初めてプリシラがこちらへと視線を向ける。

 

「ーーっ」

 

 その目に射抜かれた俺は思わず息を呑んだ。呼吸という、生物にとって生きるために必要不可欠な行動を惜しんででも、今は彼女を見ていたい。きっと、無意識下でそんなことを思ってしまったのだろう。

 

「貴様の『その格好』は…… それほど悪くもないと思うぞ」

 

 プリシラは、それだけ言って元の姿勢へと戻った。

 

 別に、俺はこの服を着て帰る事に迷いはしたけれど、歩く速度を緩めたとか、そんな仕草は見せていない。

 

 だからこれは、プリシラが俺に気を遣った言葉というわけでもなく。でも、ただ似合っていると言いたかったわけでもなく。

 

 自分の従者の服を着るお前は様になっているぞ、と。

 

 誘いを断った俺に対して、ほんの後ろ髪を引こうとーーいや、服の袖を少し掴むような。そんな抵抗だったのだろう。

 

「お前、かわいすぎんだろ」

 

「ふん、当たり前のことじゃ」

 

 それ以上、言葉を交わすことはなく、今度こそ俺は部屋を後にした。

 

 この服はありがたく貰っていく事にして。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーうまくいかぬものじゃな」

 

「えっ…… いかがなさいましたかプリシラ様??」

 

「いや、気にするでない。支度を続けよ」

 

 しかし、不思議と悪い気でもない。おそらく不都合という初めての経験が自分を高揚させているのだろうと、紅き姫はそっと微笑んだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 屋敷を出て、庭園を進み、門に差しかかったところで『それ』に気がついた。それは、燦々と降り注ぐ太陽を一身に浴びた果実のように、水々しく光沢のあるほっぺたを持った少女だった。

 

 彼女や、その雇い主が、この屋敷の主に用があるとも思えないので、きっと彼女は使いに来たとかではなく、単に俺を待っていてくれたのだろう。

 

 俺が早朝にプリシラの元を去ろうとしたのは、ただの偶然だ。

 

 つまり、知り合いもいなかろう場所で、いつ出てくるかもわからない人間を、ああして日の下で甲斐甲斐しく待っていたわけだ。

 

 そんな彼女は、今だにコチラに気がつかないで、時おりシワひとつない服の汚れをチェックしたり、そよ風になびく柔らかい前髪を手櫛で治したりしている。……かわいい。

 

 それはまるで初デートの待ち合わせに早めに到着してしまった少女のようだ。……尊い。

 

 なんとも愛おしい。愛おしすぎて抱きしめたくなる。

 

 というわけで、俺は普通に門をくぐるのをやめ、連続で展開した結界を足場にその上を超えていく。そして、ちょうど少女の上空を過ぎたあたりで止まると、もう一度彼女の様子を俯瞰から観察した。

 

 少女はチラッ、チラッ、と庭を越えた屋敷の扉を確認したり、先ほどチェックしたばかりの服や前髪を何度も整えたりしていた。

 

 あぁ、もうダメだ。かわいい。

 

 そもそも彼女より先に俺がその存在に気がついてしまったこと自体が天啓といえよう。

 

 そう、セクハラしろという。

 

 俺はその場で結界を解除すると、羽が舞い降りるよりもそっと少女の背後へと降り立つ。そして、それこそその両腕を翼のように大きく広げると、彼女の身体を力いっぱい抱きしめた。

 

「レムぅぅぅぅぅうう〜!!」

 

「ーーひゃうッ!!」

 

 突然の抱擁に身をよじって抵抗をみせたレムだったが、高級寝具で万全の体調となった俺の拘束からは逃れることなどできないのだ。

 

「はははっ!! かわいいな、レムぅ。離さないぞ、逃がさないぞ。いっぱい触らせろ、いっぱい嗅がせろっ!!」

 

「ト、トキモリくんっ!? いきなりどこからーーきゃうッ!!

 

「すぅぅぅぅぅう、はぁぁ、すうぅぅぅぅう、はぁぁぁぁぁ」

 

「やぁぁ。嗅がないで、ください」

 

 レムのつむじへと鼻を押しつけるとめいいっぱい息を吸い込む。この世界にコンディショナーなんてあるわけもないのに、彼女からはフルーティな香りが広がっていた。そして、その奥底にほのかに汗の香り。この陽射しの中で待っていたのだから当然だろう。しかし、普通ならイヤに鼻を刺激するそれさえ、柑橘系の甘酸っぱさを彷彿とさせるほどにかぐわしい。

 

「あぁ、つむじかわいい。つむじかわいい」

 

「は、恥ずかしいですトキモリくん。お、お願いですから一旦落ち着いてくださいっ!!」

 

 くんか、くんか。くんず、ほぐれず。

 

 視・聴・嗅・触の四感を駆使してレムの存在を感じる。正直、その細くて白い首筋に甘く歯を立てて、味覚をも動員してやろうかという衝動に駆られたが、それはなんとか耐えた。

 

「ふぅ…… ふぅ…… はぁ……」

 

「お、落ち着きましたか??」

 

 レムがこちらを見ようと、俺の腕の中でメイド服を擦りながら身をよじる。陽射しだけではないだろう蒸気した頬に、驚きで潤みを増した瞳。そんな顔で見上げるものだから、その上目遣いの威力は生半可ではなかった。

 

「くっ、かわいい……」

 

「あ、ありがとうございます。でも、いきなりはビックリしてしまいます」

 

「すまん、後悔はないけどセクハラについては謝ろう」

 

 腕を開いてレムを解放してやると、彼女はくるりとその場で周りこちらへ向き直る。そして、小首をかしげた彼女は、普段からあどけのない顔立ちをさらに幼くしたような表情で問いかけてきた。

 

「セクハラ…… トキモリくんの国の言葉ですか?? 別に、レムも嫌というわけではないんです。ただ驚いてしまうだけで。ですからこれからは、いきなりじゃなくてちゃんとセクハラしてください」

 

「………」

 

 いきなりじゃなければ、していいのか…… セクハラ。

 

 おそらくレムは『セクハラ』というものを、俺らの世界でいう『ボディタッチ』や『スキンシップ』といったコミュニケーションと同列の言葉だと勘違いしているらしい。

 

「これからも…… レムにセクハラしていいのか?」

 

「はい…… 恥ずかしいですけど、トキモリくんの世界の挨拶だというのなら構いませんよ。これからもレムにセクハラしてください」

 

「ーークッ!!」

 

 なんというワードパワー。美少女本人からセクハラ容認の言質をとれてしまうなんて。異世界交流が生んだ言葉のマジック。アメージングである。

 

 しかし、レムが心配になってくる。今までこんな挨拶をした事がないのだから、それは違うと気がつきそうなものだけれど……

 

 ラムの事があるから基本的には疑ってかかるようにしていても、レムは一度心を許してしまうと、とことん疑わない性格なのかも知れない。

 

 もちろん純粋無垢は愛らしく素晴らしい事だけれど、そんなではいつかダメな男に騙されやしないか今から気がかりだ。

 

 これは、自分のことを棚上げしてでも、少し男という危険性を教えねばならないのかもしれない。いや、教えねばならない!!

 

「レム、実は俺の国には本当に親しい間柄でしか行われない、とってもスゴいセクハラがあるんだけれど…… どうだ?一回してみるか?」

 

「さっきよりスゴいセクハラ、ですか…… トキモリくんが、レムにそれだけ親しみを覚えてくださるのはとっても嬉しいです。どんなセクハラなんですか??」

 

「あぁ、それはもう親しみしか無いと言っても過言ではない。それで、そのセクハラというのがーーひぃッ!!」

 

 唐突に刺さる殺気に身が震える。視線が痛いというより焦げるように熱い。てか。もはや熱線。

 

 虫を拡大鏡で収縮させた光で焼き殺さんとするような気配を探ると、それは今出たばかりの屋敷の一角から伸びていた。

 

 朝の身支度は完璧に終えたのだろう。灼熱の姫として降臨する彼女の紅き双眸はいつも以上に鋭い。

 

 視線だけで俺の身を縫い付ける彼女の唇が、ゆっくりと、そしてどこか艶かしく開く。音の届かぬはずの声だが、やけに鮮明に聞き取れてしまう。

 

『や・き・こ・ろ・す』

 

「ひぇぇ…… すみませんすみません。レ、レム行くぞっ!!今日はやらないといけない事がたくさんあるんだ」

 

「えっ。あっ、はい。ま、待ってくださいトキモリくんっ!?」

 

 今はレムの手を取り引くことすら死に直結しそうだ。だから俺はいかにも雑魚よろしく、レムを残してその場を立ち去った。

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 すたこらと遠ざかる彼をすぐに追うことはせず、その場でくるりと回ると彼が出てきた屋敷へと向きなおる。

 

 立派なお屋敷の窓からは、この豪邸の主がさぞ不愉快だと言わんばかりに見下ろしていた。

 

「そんなに睨んだってダメなんですから」

 

 それに対して負けじとこちらも真っ直ぐ見つめる。ぶつかった視線からはまるで火花が散るような錯覚にも陥ったが、それでも構わない。

 

「トキモリくんにあんな服を着せて、自分のものだって言いたいんですか??」

 

 抱きとめられていた時には気がつかなかったが、あの服装は本来なら彼女の従者が身にまとうものだろう。

 

 そんな服装を着させるなんて、彼を慕う自分にしてみたら挑発としか思えないのだ。

 

「でも、あれだけ怒ってるということは…… トキモリくんにあんな事をしてもらった事ないんですよね」

 

 ふふん、とちょっと胸を張ってみせる。ロズワール様にお仕えする従者としては、些か品位に欠ける行動かもしれないが、今は一乙女としての勝負を優先させていただく。

 

「レムはあなたと違ってこれからもたくさん『セクハラ』して貰うんですから」

 

 彼は自分のことを何も知らない子どもだと思っているかもしれないけれど、それは違う。

 

 たぶん『セクハラ』がちょっといやらしい言葉だっていうのもなんとなくわかっていたし、彼が気がつくかなり前から彼女に見られたことも知っていた。

 

 それでもわざと抵抗しなかったのだ。昨日、彼のことを掻っ攫っていった彼女に、ほんの意趣返しとして自分と彼の関係を見せつけたかったから。

 

「女の子はいつだって男の子よりもずるい生き物なんです」

 

 いちおう従者らしく、別れの挨拶に屋敷の主人に向けて頭を深く下げる。

 

 でも、それが行動通りの意味ではないことなんて相手側もわかっている筈だ。だって、彼女も女の子なのだから。

 

 表向きは社交的。しかし、本質は好戦的に。

 

 それこそ試合開始の一礼だという気持ちで礼を済ませ、レムの特権である彼の隣へとパタパタとその背を追いかけた。

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