Re:ゼロから始める結界術   作:レトルトラメエ

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第35話 今度はいい奴に生まれ変われよ

 プリシラ邸を後にした俺たちは、王都の道を2人並んでひた歩く。街の露店では、そこかしこで呼び込みの声が響き、いつも通りの賑わいを見せていた。

 

「ということは、エミリアは屋敷に戻ったんだな」

 

 道中、俺が倒れてからの流れをざっくりと説明して貰った。その中でも気になるのは、やはりエミリアのことだ。

 

「はい。その…… トキモリくんが倒れた時に、大変取り乱されまして。エミリア様の希望としては王都にてトキモリくんの帰りを待ちたかったようですが、ロズワール様が」

 

 レムは少し居心地が悪そうに身をよじる。それは、エミリアが俺を待たずに屋敷へと戻ったことや、それがロズワールの指示だということで、なにかわだかまりができるのではないかと心配しての事だろう。

 

「ロズワールの判断は正しい。王選が始まった以上、ライバルたちに弱みは見せるべきじゃないからな」

 

「そうですね。トキモリくんの事を抜きにしてもかなり疲れが溜まっていたご様子でしたから」

 

 エミリアは、彼女自身ではどうすることも出来ない理不尽な理由で、王選に限らずこれからも人一倍苦労するであろう。そんな彼女に自分のことで余計な心労をかけてしまったことは素直に申し訳なく思う。

 

「エミリアには心配かけちゃったな。なんか埋め合わせができればいいんだけど……」

 

 あまり私欲の無さそうなエミリアが喜びそうなことは何か。なんでも喜んでくれそうが故に、あらためてとなると難しいものがあるな。

 

 髪留めなんてのはどうだろう。人目を気にするのならば雑貨屋で自分に合ったアクセサリーを探すのも一苦労だろうしな。あの年頃の…… エミリアが幾つになるのかは知らないけれど、とにかく若い女が自由にファッションの探求も出来ないことは心苦しい。

 

 そんなことを一人で考えていると、着なれない執事服の肘のところがーーちょんちょんと控えめに、けれども確かな意志を持って引っ張られた。

 

「トキモリくん、トキモリくん。レムもすごく心配しました。夜なんて不安で眠れませんでしたし、一人で王都に残るのもすごく寂しかったです。なのに待ってたトキモリくんはプリシラ様の執事服で現れるし…… あ、でも似合っていますよ。とっても素敵です。でも、でも、もうレムたちのところに帰ってきてくれないんじゃないかとかも考えたりしてーー」

 

 それからも「んっと、んっと……」と考えては言葉を切らさぬよう紡いでいく。

 

 俺に対する不満が山のようにある…… というよりは、まるで頑張ったことを一生懸命報告して褒めて貰おうとする子どものようだ。

 

「それから、それからですね……」

 

「ごめんな、レムにも心配かけたな。遅くなったけど、迎えに来てくれてありがとう。待っていてくれて嬉しかった」

 

「え、あぅ…… ふへへ、はいっ。レムも頑張りました」

 

 レムの頭の上へ手を置いて、いい子いい子とその髪をすいていく。完治した左手で撫でることで身体も万全だという事が伝われば、幾分か安心はしてもらえるだろう。

 

「レムにもお礼はしないとだよな。なんか欲しいものとかあるか??」

 

「欲しいものですか……」

 

 レムは立ち止まるとあごに手を添えて真剣に考え込んでしまう。

 

 希望を聞いといてなんだが、俺はこの世界に来てからというもの、転々と居候生活を繰り返しているだけなので持ち金があったりはしない。その日暮らしのトキモッリィである。

 

 だから、ものによっては…… というか、そもそも今後の生活を考えれば金策を考えないといけないわけだけれど。

 

 俺はそういった創作物には疎いのだが、ありきたりな事を言えば異世界の知識を活かして稼いだりするのだろうか。しかし、残念ながら俺に商才などあるはずもなく。

 

 アナスタシアさんに聞けば腕っ節でできる仕事の一つや二つ紹介してくれるだろうが、エミリアの手前他の候補者に頼るというのも気が引けそうだ。

 

 執事服とメイド服の少女が往来で立ち止まって考え込む姿はさぞ奇妙だったのか、街行く人々の視線が刺さる。そんな状況で先に答えを出したのはレムの方だった。

 

「あの、ですね。欲しいものではなく、して欲しいことでもいいでしょうか??」

 

「して欲しいこと??」

 

「はい。実はクルシュ様とフェリス様がそういった約束をしているのを聞きまして」

 

「なるほどなぁ。あそこもたいがい仲良しだからな。俺的にはレムがいいならそれで構わないけど」

 

「ホントですかっ!?」

 

「えっ、あぁ。そんなに食い気味で来られても俺に出来ることなんて限られてはいるけどな。出来る範囲であるならーー」

 

「今、『なんでも』って言いました!?」

 

「いや、言ってないけど…… 」

 

「ダメ、ですか??」

 

「まぁ、たしかにレムならそんなに変なことは頼ま…… ない??」

 

 いや、頼みそうだ。最近のレムは距離感が近いどころか密接だし、彼女は意外と突飛なことを言い出したりするので、想像の枠を超えた頼みがきてもおかしくない。

 

「レムも頑張りましたよ??」

 

「ふぅ、わかった。なんでも聞くよ」

 

「今言いましたからね、絶対ですからね。お願いはまたその時が来たら言いますから」

 

 若干の不安があるのはたしかだったが、心の底から嬉しそうににんまり微笑むレムを見たら、まぁ多少の無茶ならば頑張ろうと思えた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「それでこの後の予定はどうなさいますか??レムはロズワール様よりトキモリくんに付き添う事をお許しいただいていますので、制限などはありませんが……」

 

 あれから一度宿へと戻り、昼食を済ませた俺とレムは再び王都の街を歩いていた。

 

 レムの質問は、暗にいつロズワール邸に戻るのかを聞きたいのだろう。いや、現状の俺の所属を考えれば、そもそもロズワール邸に戻るのか自体も不安を抱いているのかもしれない。

 

「エミリアにも謝っておきたいし早く戻りたいんだけどな。王都を出るにしろ挨拶はしとかないといけない人がいる」

 

「そうですか。ほっ…… 今のトキモリくんは色々な陣営から注目されていますから。正直、戻ってきてくれると言質が取れただけでも安心です」

 

 執事服の事もあるし、やはりその辺りが気がかりだったのか、レムはそっと胸を撫で下ろした。

 

「それに今屋敷の仕事はラムひとりでやってるんだろ?? 早く済ませてレムを連れ帰らないと、そっちのが心配だ」

 

「ね、姉様だって家事が苦手というわけじゃないんですよ」

 

「知ってるよ。でも、『体調』のことがあるだろ??」

 

「……知っていたんですか??」

 

「知っていた、というよりは経験則かな。体調については直接聞いたわけではないけれど、なんとなくそうかなって」

 

 鬼族にとって忌み子として扱われるらしい双子。風習と言ってしまえばそれまでだが、そう呼ばれるに至った理由はあるわけで。それだけでも鬼族にとって『角』という存在がいかに重要な器官なのかは想像に容易い。

 

 もちろん、それを失った代償も。

 

 少し重い空気になってしまったので、そう推察した経緯を茶化して伝える。

 

「どこかのかわいい鬼に何度か襲われた経験があるからな。その時に角の役割が力の放出よりも力の回収、源としての働きが大きいんじゃないかと思ったんだよ」

 

「そ、それは…… うむぅ、トキモリくんはいじわるです」

 

 ぷくぅ、とレムの頬が餅のように膨らんでいく。柔らかいそれは、つつくとしぼみ、離すとまん丸に戻る。道中の街並みはもう特に目新しいものもなかったので、しばらくレムのほっぺたで遊びながら歩いていると、目的地まではあっという間だった。

 

「ここは…… クルシュ様のお屋敷ですね」

 

「王都を出る前に、治療の礼は再度しておくべきだろ?? 今回の決闘に関しては特に見返りもなかったわけだしさ」

 

「そうですね。それはレムからもお礼を申し上げたいと思っていました」

 

 まぁ、約束を取り付けていたわけでもないし、会えない可能性だって十分にあるわけだが。その場合は今回は誰かに伝言だけ頼んで、ロズワール邸に帰った後に礼状の一つでも送るのが無難であろう。

 

 いや、むしろその方がいい。この場所にレムを立ち入らせるのは、あまり良くない気がするからだ。

 

「その…… 大丈夫か??」

 

「はい、大丈夫です。覚悟してから出会うのであれば心構えができますから」

 

「ーーそうか」

 

 

 ナツキスバル

 

 

 俺も、出来ればアレと接触する機会は極力避けたい。ただ、それ以上にレムの心労が心配だ。だから、あの時点ではこうしてレムと合流できるかわからなかったけれど、その可能性がある限り、先に礼を済ませておこうとプリシラ邸を出るのに早朝を選んだのだ。

 

「宿で待っていてもよかったし、今だってその辺で時間潰しててくれたらいいんだぞ??」

 

「いえ、トキモリくんのお側にいることが今のレムの仕事ですから。それにレム自身もトキモリくんから離れたくありません。もうあんな無茶を知らないところでして欲しくないんです」

 

「レム……」

 

 レムの俺をみる瞳は慈愛に満ちていた。あぁ、なんと献身的な子なんだろうか。自分の姉が慕い、そしてレム自身の主人ーーロズワールからは、俺がよく思われていない存在だということを知っていながら、その板挟みに合うことをわかっていながら、それでもこうして気遣ってくれるなんて。

 

「なんて素敵な娘なんだろうか。どれ、礼の一つにすごいセクハラをしてやろう」

 

「やんっ、トキモリくん。こんな場所で……」

 

「良いではないか、良いではないか。ふははははっ! 気にするでないわ」

 

「ーーいや、気にしにゃさいよ!?」

 

 もっともすぎる指摘は屋敷の敷地内からかけられた。特徴的な声色と話し方は目を向けるまでもなく目的の騎士のものだった。

 

 でも、そんなことは今どうでもいいのだ。

 

「止めるなフェリス!! これは俺とレムの問題だ。たしかに、傍から見れば年端もいかない少女に不埒なことをしようとする暴漢に見えるかもしれない。それを見過ごせないと、お前の中の騎士としての血が騒ぐのもわかる。だが、しかし!! 今からすることは全て両者合意の上で行われるものである。よって、どのような了見があろうとも、貴様に止められる筋合いはないということだクソ猫ッ!!」

 

「普通に人様の家の前でやるにゃって話にゃんだけど!? どんだけ長々(にゃがにゃが)捲し立ててるの」

 

 なんとも端的な正論である。

 

「チッ…… で、なんの用だよフェリス」

 

「いや、勝手に来といて門前で怪しい事しだしたのそっちだからネ」

 

「おっと、そうだった。お前にお礼をしに来たんだったぜ。忘れてた、忘れてた。ありがとなフェリス」

 

「こんにゃに自分の治癒魔法の腕が恨めしく思うこともそうにゃいかも…… まぁ、いいや。フェリちゃん的には面白くにゃいけど、クルシュ様も気にしていたから上がって、どうぞ」

 

 文字通り、こちらの意とせず門が開かれる。クルシュ様が気にかけてくれてると言われてしまったら、流石に帰るわけにも行くまい。

 

 何もありませんようにと願いながら、何も無いわけがない屋敷へと足を踏み入れた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「無事そうでなによりだ。フェリスが治療したから問題はないと思うが、身体に異常はないか??」

 

「はい、お陰様で五体満足で生活できています。これも全ては治療してくれたフェリスと、それをお許しくださったクルシュ様の寛大なご配慮によるものです。心からのお礼申し上げます」

 

 前回訪れた際と同じ部屋に通されて5分ほどしてから、クルシュはいつもの軍服に身を包み現れた。すぐに突然の訪問を謝罪すると、クルシュは「気にするな」と一言で済ませてコチラの体調を気遣ってくれた。

 

 やだ。クルシュ様ったらマジイケメン。

 

「それに関しても礼には及ばない。決闘が始まる時点で了承した事だ。卿は当然の権利を履行したに過ぎないのだからな」

 

「もう、マジイケメン……」

 

「ちょっと、ちょっと!? クルシュ様をいやらしい目で見にゃいでっ!!」

 

 俺の中の乙女心をくすぐるイケメンムーブに思わずトキメキを覚えてしまつ。気がつけば、女子力上昇の影響か内股気味に座ってるレベル。

 

 やだッ、メスにされちゃう!?

 もしかしたらフェリスが女装趣味の変態猫耳男子となったのも、クルシュ様がイケメンすぎる故かもしれない。

 

「ところでエミリアの方は無事か?? 卿が倒れてからは随分と取り乱していた様子だったが」

 

「えぇ、大丈夫だったみたいですよ。先にロズワール辺境伯の屋敷へと戻って王選の準備を進めているようですし。俺のこと待っててくれてもいいと思いませんか??」

 

「ト、トキモリくん。それは……」

 

 俺のエミリアを蔑むような発言に、レムは困惑の表情を隠せないでいる。俺だってこんな事は言いたくないけれど、今は仕方あるまい。

 

「卿は…… 優しいな」

 

「なんのことですか?? ケガしたんだから、少しは俺のことも優先してくれって普通に思ってますよ」

 

「そうか。まぁ、他の候補者に安易に弱みは見せるべきではないしな。ましてや、親しき者が負傷したとはいえ、王選を疎かにするような者に王が務まるわけもあるまい」

 

「かいかぶりすぎですよ。俺はそんなこと思って発言してません」

 

「ふふ、そうだな。すまない」

 

 嘘を見破る加護があるのだからこんなやりとりは茶番以外の何物でもない事は、重々承知している。しかし、時には茶番も必要なのだ。建前という茶番が。

 

「もう、クルシュ様ってば本当にトキモリきゅんの事贔屓しすぎですよぉ。フェリちゃん妬けちゃってつまーんなーい」

 

「ん?? フェリス、どこに妬くことがあった。私が一番信頼しているのはもちろんお前だ」

 

「「ひゃだ。クルシュ様マジイケメン……」」

 

 思わずフェリスと手を取り合ってしまう。きっと、今の俺たちの表情は、まるで恋焦がれた王子様を目の前にしたように、さぞ熱に浮かされていることだろう。

 

 逆に冷め切った表情のレムとは対照的にである。そんな目で見なくてもいいじゃないか。

 

 そんなレムが目についたのか、彼女に話題を振ったのは我らが王子クルシュ様だった。あれ…… 王選やってる時に「我らが王子」とか流石にエミリアに悪すぎるだろうか。

 

「エミリアについては行かなかったのだな」

 

「はい、ロズワール様からはトキモリくんの回復を『責任を持って』確認する様に仰せ使っておりますから」

 

「そうか。まぁ、有用な人材が『実はどの派閥にも属していない』事が周知されてしまったのだ。そちらの気苦労も理解している」

 

「……クルシュ様までそうなんですか??」

 

 レムには珍しく、目上の人間であるクルシュに対して冷ややかな視線を送る。しかし、それを受けたクルシュはどこ吹く風と特に気にする素振りすら見せない。

 

「『まで』というのが誰のことを指しているのかはわからないが。勘違いは正しておこう。私は彼の争奪戦に手を出す気はないさ」

 

「そ、そうですか。大変失礼いたしました」

 

 深々と頭を下げるレム。

 

 その頃、俺はというとクルシュ様から『手を出す気はない』と面と向かってタイプではない宣言されてしまったので、ちょっぴり泣いていた。

 

「きゃはは〜!! トキモリきゅんってば振られてや〜んーーぐふッ」

 

「わざわざ俺が言った事を二度も言うな!! 腹立たしい」

 

「いや、トキモリきゅん何も言ってにゃいじゃん…… って、あぁ!? ごめん、ごめん!!お願いだからマジ泣きしにゃいで」

 

 クソぅ。本当に治療は完璧だったのか。だったらなんでこんなにも胸が痛いんだ。別に脈なしでもいいんだけど、目の前で言われるのでは受けるダメージが違いすぎる。

 

 クソォ。クソォ。

 

「どうしてこんな思いをせにゃならんのだ。あれもこれも、全てはここに訪ねる原因…… 発端の怪我を負わせたラインハルトのせいだ!!」

 

「うわぁ…… すっごい八つ当たりだネ」

 

「いつか目にもの食らわせてやる」

 

「どうでもいいけどさ。お願いだから、もうあんにゃ面倒な治療はさせないでちょうだいネ」

 

「卿らは本当に仲がいいな」

 

 クルシュの発言に俺とフェリスはお互いに顔を合わせて「うへぇ……」とげんなりした。

 

 そこから陽が傾き過ぎない程度に雑談をした。しかし、あまり長居するのも厄災を招きかねないので、この辺りが潮時だろう。俺とレムにとって、この場所は虎穴以外の何ものでもないのだ。

 

「さて、それでは俺たちはそろそろお暇しますかな」

 

「なんだ、もう行くのか。もう少しすれば使いに出ている『ナツキスバル』も帰ってくるだろうに」

 

 今度は俺とレムが顔を見合わせる。まぁ、お互いの心境はそうするまでもなく一致していただろう。

 

 めちゃくちゃ遠慮します。

 

 しかし、そのまま伝えるわけにもいかないので、「どうする?」「いや、でも時間が」などわざとらしい会話を2人の間でしてから、クルシュには丁重にお断りをすることにした。

 

「申し訳ありませんが、やっぱりエミリアのことが心配ですからね。えぇ、それはそれはもう心配で居ても立っても居られないほどに。エミリアと俺は、秘密裏に夜な夜などうきんする中ですから。その俺がいないのでは彼女が寝不足になってしまいかねません。そうだよなレム??」

 

「トキモリくんどういうことですか。それ本当ですか。詳しく教えてくれますか。いつからですか。レムはどうしたらいいですか。我慢しないとダメですか。我慢しないとだめですか」

 

「何を我慢するんだよ…… いや、いいや。知りたくない。とりあえず我慢してくれ」

 

 これにてすんなりお別れと行くところだったのに、意図せぬものが釣れてしまった。最近、俺の付近では極地的ヤンデレム警報が発令されているのだ。

 

 俺らのやりとりを唖然と見ていたクルシュは「何をやっているのだと」、心底不思議そうに首を傾げている。

 

「彼と会いたくない理由を話したくないなら無理には聞かぬ。しかし、どうせバレるのだから下手な虚言はやめておけ。嘘の風が流れているぞ」

 

「なんだ、驚いて損しましたよ。レムも演技だったのか」

 

「いや、流れているのは卿だけだ」

 

「そうですか……」

 

 レムが何に我慢しているかはともかく「トキモリくん」これ以上ストレスをかける事は「トキモリくん」俺の身が危険に晒されそうなので「トキモリくん」本当に奴が来てしまう前に退散しよう「トキモリくん」

 

 句読点の度に名前を呼ばないでっ!! 怖いだろっ!!

 

 俺は、光なきまなこで見つめてくるレムの手を取ると、その場でもう一度だけ頭を下げる。

 

「クルシュ様、そしてフェリスも本当に世話になりました。この御恩は…… 俺個人として必ず返させていただきます」

 

「返さなくて良いと言っても、律儀な卿の事だ。納まらないのであろうな。あぁ、また会える日を楽しみにしている」

 

「ま、フェリちゃんも程々に楽しみにしてるネ。トキモリきゅんっ」

 

「おぅ!! それじゃあ、またな」

 

 そう言って俺は、某国民的主人公が妻子を残して敵キャラの生まれ変わりと共に旅立つぐらい爽やかに手をあげて挨拶とした。

 

 なんて綺麗な別れのシーンであろう。完璧だ、完璧すぎる。

 

 

 

 

 

 そして、そういった完璧を壊すのはいつだって空気の読めない奴なのだ。

 

「おっとぉ〜 ちょっち待ってくれよ兄弟。別れの言葉はなしか?? いや、言わなくてもいいぜ。俺だって、そんなもんは欲してねぇ。その代わりと言っちゃあなんなんだけどよぉ……」

 

 まるで見計らったように最悪のタイミングで扉を開けた『そいつ』は、コチラの感情など気にも留めずに続けた。

 

「その『個人的な借り』って奴ぁ今返してくれると助かるぜ」

 

 ーーなぁ、兄弟。

 

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