Re:ゼロから始める結界術   作:レトルトラメエ

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第41話 頑張るキミが好き

「それじゃ〜、おに〜さんまたねぇー」

「ほな、当日はウチの子達を頼むなぁ」

 

 アナスタシアはミミの食事が終わると、最後にそう言い残して去っていった。

 

 出来ればあのケモ耳少女を膝に乗せて、その頭を撫でくり回したいところだったのに実に残念だ。

 

 この世界に来てからというもの、俺の中でケモ耳といえば、これまた残念なことにフェリスの代名詞だったので、それがあの『ぷりちぃガール』へと更新されたのは僥倖といえよう。

 

 さて、しかしそんな幸せを噛み締めている余裕はない。代名詞といえば、最近の『ぷりちぃガール』ならぬ『ぷりぷりガール』ことレムの機嫌がすこぶる悪いのだ。

 

 もちろん『ぷりぷり』というのは怒りの表現であって、決してその胸に実る豊満な双丘を指しているわけではない。

 

「本当にすまない。俺から出かけようって誘ったのに」

 

「別に、いいんです。トキモリくんは人気者ですから…… 仕方ありません。レムのことは、ほんの隙間時間に少しだけ弄んでくれたらいいんです」

 

「『もてあそぶ』て……」

 

「隙間時間にレムの事を好きなだけ弄んだらいいんです」

 

「なぜ言い直した」

 

 どうやらレムの中の俺のイメージは、手当たり次第の女性にちょっかいをかける軟派者になってしまったらしい。ちなみに、おおよそあっている。

 

「でも、本当にいいことでもあると思います。居場所がある、求めてくれる人がいるというのは、喜ばしいことですから」

 

「レム、ありがとな」

 

「でも、やっぱり…… エミリア様や姉様。ベアトリス様や、それにレムも入っていたら嬉しいですけど。ちょっとぐらい贔屓にして欲しいなとは思ってしまいます」

 

「わかってるよ。だから、頑張るんだし。誰が相手だって、あの屋敷の人間に危害を加えようとする奴は許さない」

 

「ふふ、ありがとうございます。あっ、でもレムは鬼ですし、実はあのお屋敷に『人』ってロズワール様しかいらっしゃらないんですよね」

 

「じゃあ、違うな……」

 

 あれを人と定義して良いのかはわからないけれど、ともかく俺がロズワールの身を守るなんて事は今後ないように思う。エミリアやラムに頼まれたとして…… めちゃくちゃ渋々。というか、それこそアナスタシアではないが、膝枕とか、あ〜んとか、チュウとか、それなりの対価を貰わないと絶対嫌だ。

 

「それならやっぱりこういうべきだな」

 

「きっとレム的には少し残念な答えですけど、その方がトキモリくんらしくて良いと思いますよ」

 

「あぁ、俺は全て女の子を傷つける奴は許さない。だな」

 

「ふふっ…… ですね」

 

 2人で笑い合うとクルシュ邸への帰路についた。

 叶うことなら、2日後の決戦を終えても、こうして笑い合っていたいものだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 そこから仲直りのデートを兼ねてもう少し街を回って、それから屋敷に戻った頃には、すでに日が傾いていた。今日も割と距離を歩いたもんだからお腹はペコペコだ。なので、一足先に早めの夕食をとらせて貰った。そして、食事を済ませた今は屋敷の大浴場に浸かっているという状況だ。

 

「ふぅ…… 異世界にも風呂の文化があってよかった」

 

 考えてみたら、自分でこの世界を選んで来たわけではないので、旧石器時代のような世界に飛ばされてもおかしくなかったわけだ。

 

「そう考えると恐ろしいな。またいつ飛ばされるかもわからないわけだし」

 

 いったい術者はなんの目的があって俺をこの世界へと飛ばしたのだろう。いや、もしかしたら術者なんて者はいなくて、それどころか意図も何もない……

 

「神の悪戯だってこともあり得るのかもしれない、のか」

 

「それは無いと思うぜ兄弟」

 

 俺の独り言に割って入ったのは、腰にタオルを巻いて浴室へと入って来た男。自称同郷の民、ナツキスバルだった。

 

「客人が入っているところに入浴するなんて…… ってのは無しにしてくれよ??」

 

「あぁ、別に構わない」

 

「流石だぜ。それでこそ日本人ってものだよな」

 

 そういうとナツキは洗い場で手早く身体を流すと、俺から少し距離をとった浴槽へ腰を下ろした。「ふぃぃ……」なんてわざとらしく声を出しているのは、無防備さをアピールでもしているのだろうか。

 

「おいおい、風呂に入ってるってのにそんなに固くなってどうすんだよ。リラックスだぜ、リラックス。俺を信用しないのはかまわないけど、そんな気構えて討伐までに体調を崩さないでくれよ??」

 

「だったら、その胡散臭さを少しはどうにかしてくれるとありがたいんだけどな」

 

「それは残念だけど受け入れて貰うしかねぇな。話せない事があるってのは抜きにしても、この『何かあるかも』って思わせるのが、非力な俺にできる処世術ってもんだからな」

 

「都合がいいんだな」

 

「俺は、いつだって対等な条件じゃあ勝ち目がないことが多かったからな。力がない奴が自分の望みを叶えようとすれば、自分の都合の良い舞台を整えるしかないのさ」

 

 だから、そういうところが胡散臭いんだよ。とは、あえて言葉にしなかった。はっきり言ってナツキに舌戦で勝てる気はしないからだ。その感覚はアナスタシアと対峙した時以上に強く感じる。

 

 それを武器に生きてきたアナスタシアとは違い、ナツキのそれはそれしかないからそれを磨いてきたような。そんな狂気を感じるのだ。

 

 それを悪いとは思わない。自身の非力さを受け止め、それでも自分の持てる武器を極限に高めようとする姿勢は尊敬すら覚える。

 

 であるから余計に、その切っ先を自分に向けて欲しいとは思わないけれど。

 

「ナツキ、さっきの話だけど『無いと思う』ってことは…… つまりお前は自分を転移させた術者に心当たりがーー」

 

「それについては答えられない」

 

「また、それか」

 

「いや、実際のところ俺もなんでこの世界に来ちまったのかはわかって無い。俺なんて特にだぜ。正真正銘普通の人間だったわけだしな」

 

「のわりには、『無い』と言い切るんだな」

 

 クルシュではないが、ナツキの言葉には嘘はないように思えた。でも、だからこそ『無い』と断言できる根拠がわからないのだが。

 

「『神の悪戯』って、つまりは何の意図もなく転移させられたって事だろ?? やっぱりそれは無いと思うぜ」

 

「何故??」

 

「だって、俺たちはこうして集められているからだよ。トキモリはアルデバランには会ってるんだよな??」

 

「あぁ…… その口ぶりだとお前も知っているようだな」

 

「偶々なのか、計算してなのか、会った時に言われたよ。『同郷の民に出会えて嬉しいぜ、兄弟』ってな。ったく、あん時はクルシュ様に異世界人だって事を話してないからヒヤヒヤさせられたもんだぜ」

 

 話を聞く限り、時系列的にはアルデバランの方が先にこの世界へ渡って来たということだろうか。

 

「これは俺の憶測でしかないし、トキモリは俺の言葉なんて信じられないだろうけど。俺は、アイツは俺らがこの世界に集められた意味を知っている気がする」

 

「あの変態仮面が黒幕ってことか??」

 

「そこまではわからん。でも、俺たちよりも正解に近いところにいるのは間違いないと思うぜ」

 

 そう語るナツキの目は至って真剣で、あながち適当なホラを吹いているというわけでもなさそうだ。もし、ナツキの言う通り、あの鉄兜が何か手がかりを知っているのなら、プリシラはどうなのだろうか。そこにどんな答えがあるのか、今は検討のつけようもないけれど、できれば彼女と敵対するような事は避けたい。そう思えるほどには、俺はプリシラのことを好意的に思っていた。

 

 というか……

 

「てか、お前『ヒヤヒヤさせられた』って……」

 

「あぁ、そうだぜ。アイツにやられて嫌だったから、あえてトキモリに会った時に同じ言い回しをしてやったんだ。どうだ、最悪だっただろ??」

 

「テメェ……」

 

 最悪どこか、最悪死んでいたまである。

 それが原因で、レムからの熱烈なベッドINならぬ、ベッドONをされてしまったのだから。

 

「まぁまぁ、そんなに怒るなって。よく言うだろ?? 『人にされて嫌なことは、他人に分け与えてやりなさい』ってな」

 

「テメェの知ってる日本と俺の日本は違うらしいなッ!!」

 

 俺の答えにナツキはケタケタと笑ってみせる。その様子を見て本当に一瞬だけ殺意が湧いてしまった俺を、いったい誰が責められようというのか。

 

 まったく、その言葉の正しくはこうである。

 

「それを言うなら『人にされて嫌なことは、相手にとっても弱点である』だろうが」

 

「トキモリ…… 言っとくけどお前も大概だからな」

 

 ナツキは落胆したように肩を落とした。

 

 何か間違っていたのだろうか。

 元の世界に帰れたら、この言葉を教えてくれた姉にもう一度確認してみようと思った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「スミムラトキモリ。少し付き合わなーー」

 

「はい喜んでッ!!」

 

 まったく気の休まらない入浴を終え、自室に戻ろうと屋敷の階段を登っている時にその声はかかった。それに対して俺は、多少の無礼は承知の上で、相手の言葉を遮るように返事をしてしまう。

 

 でも、仕方ない。

 だって、クルシュ様がエッチなのだから。

 

「すみませんクルシュ様。なんとも麗しゅうお姿でお誘い頂いたものですから、食い気味に返事をしてしまいました。思わず、このトキモリ前屈みです」

 

「ん?? そうか、執務を離れた格好を卿に見せたのは初めてだったな」

 

「はい、只今しかとこの網膜に焼き付けております」

 

「卿は大袈裟だな。そんなにこの格好はおかしいか??」

 

 おかしいか、おかしくないかだって??

 その答えはもちろん『おかしくなってしまいそう』である。

 

 な、なんてエッチな格好なのだろうか。普段は肌の露出がほとんど無い、厳格な格好をしているからこそ余計に目立つその胸元。クルシュ様…… 着痩せするタイプなんですね。それに、その肩からかけてるケープなんて、隠すどころかワザと胸元を強調するようなデザインでなんともナイスですネっ。

 

 それをあざとさとは無縁のクルシュが無自覚でやっているのだから、そのエッチはとどまることを知らない。

 

「いえ、素敵です。素敵すぎて素敵です。どのぐらい素敵かと言うと素敵すぎてもはや好きです」

 

「そうか。少し気恥ずかしくもあるが…… まぁ褒められて悪い気はしない」

 

 あぁ、やっぱナツキスバルをボコっちゃおうかなぁ。アイツ今までずっとこの姿堪能していたとか許せなくない。否、許せるはずはない。

 

「今日は夜風が涼やかでいい。夜空を見ながら酒を嗜むのに絶好の日和だ」

 

「そうですね。男女が『2人で』酒を嗜むのに絶好の日和です」

 

「ん、まぁ確かに2人ではあるが。2人と他では何か違うのか??」

 

「全然違いますよ。それはもう『月とすっぽんぽん』ぐらい違います」

 

「それは違いすぎないか……?? でも、そうか。卿はそんな違いもわかるぐらい酒に覚えがあるのだな。では、私もそれなりの酒を出させてもらわねばな」

 

 「準備してくるから少し待っててくれ」と言い残してクルシュは踊り場から去っていった。一人、窓から覗いた月は確かに神秘的なまでに綺麗だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 屋敷の庭を一望できるバルコニー。そこに設置された小さなテーブルで、二つのグラスが触れ合う心地良い音が鳴った。

 

 グラスに注がれた液体は、月の光を浴びてその色を万華鏡のように輝かせた。それをお互いにひと口含み、グラスを下ろす。

 

「美味しい…… こんな良い品をありがとうございます」

 

「喜んでもらえて何よりだ」

 

「まぁ、クルシュ様とグラスを傾けられている事実こそ、何よりもの幸せですが」

 

「ふっ、こんな事で良いのなら私はいつだって付き合うぞ」

 

 お互いに軽い冗談と笑みを浮かべて、ゆっくりと酒を流す。

 

 とってもいい雰囲気だ。なんだか今日イケそうな気がする。ナニがとは聞かないでくれたまえ。今は、そんな無粋なキッズにはわからない大人の時間というものなのだから。

 

「どうだ王都での生活は??」

 

「ええ、クルシュ様のお陰で不自由なく。それどころか、こんないい暮らししてて良いのかって思うぐらいですよ」

 

「そうか、それならよかった。身体に関しても問題はなかろう。フェリスは優秀な治癒術師だからな」

 

「はい、何の不安もなく二日後を迎えられそうです」

 

 クルシュは「うむ、なによりだ」と頷くと、少し多めに酒を煽った。そして、彼女は深く息を吐く。その様子からは、少し疲れが見える気がした。今朝も早くから出かけていたようだし、討伐に向けた調整は大詰めを迎えているのだろう。

 

「クルシュ様は忙しそうですね」

 

「あぁ、やはり闘いには万全を持って憂なく望みたいからな。おまけに王選の話が広まって以降、縁談の話が連日来ている」

 

「まぁ、クルシュ様の美貌なら王選関係なしに否応なく来るでしょうしね」

 

「他の候補者も似たようなものだろう」

 

「それは…… まぁ、みんな独身ですからね」

 

 しかし、クルシュやアナスタシアならともかく、プリシラやフェルト、エミリアに縁談を申し込む人間が果たしてどれだけいるのだろうか。

 

 いや、プリシラはあれでバツ7とか8なんだっけ。離婚理由は詳しくは知らないけれど、ならば縁談の申し込みも普通にあるのか。

 

 問題はフェルトとエミリアだな。

 

 フェルトは縁談が来ても「気持ち悪りぃな」とか言って足蹴にしそうだし、エミリアはそもそもそういった事に関しての知識がすっぽり抜けている気がする。

 

「気になるか??」

 

 おそらく俺が考え込んでいたのを別の意味に捉えたのか、酒のせいかクルシュは彼女にしては珍しく、コチラを揶揄(からか)うような視線を向けてくる。それを見た俺は…… ちょっとSっぽいクルシュ様もありだな、と思いました、まる。

 

「えぇ、それはもう。目の前にいる美女が誰かのものになってしまわれるかもなんて、考えるだけで胸が張り裂けそうです」

 

「驚いたな、まるで嘘の風が流れていない」

 

「もちろん本心ですから」

 

「その言葉が私だけに向けられたものならば口説き文句ぐらいは聞いてやるが」

 

「それはまたお互いを知った後ということで」

 

「ふむ、軽薄だな」

 

 非難するような言葉でありながらクルシュの表情は柔らかい。実に穏やかな空気だ。花の香りを程よく運ぶ夜風は、酒の進みを自ずと加速させた。

 

「少し、酔いが回りすぎたな」

 

 クルシュは自身の赤みを帯びた頬を触ると伏し目がちに呟く。彼女の熱に浮かされたような表情は、男ならばその胸の内にも知らず熱を灯す事だろう。もちろん、それは俺も例に漏れない。

 

「クルシュたん…… 尊い……」

 

「ん…… あぁ、すまない。ちょっと呆けていた」

 

「『ちょっと』ってかわいい」

 

 普段の彼女ならば『少し』と表現していたことだろう。その言葉遣いのギャップは、今の彼女の魅力を何倍にも引き立てていた。

 

「ダメだ、今朝が早くてな。すまないがちょっと…… 眠たく、なってきた。今夜はこの辺りで……」

 

「部屋までお送りさせてくだーー」

 

「チェストぉぉぉぉお!!」

 

「ーーぐふぁッ!?」

 

 上辺でもなく、下心でもなく。純度100%の真心からでた提案は、猫パンチの横槍によって遮られてしまう。

 

「クソ猫ッ、なにしやがるっ!?」

 

「『にゃに??』じゃにゃいでしょうがぁ!?クルシュ様にいやらしい事しようとしてたくせに!!」

 

「いやらしいとは失礼な。寝室まで運ぼうとしていただけだ」

 

「そんにゃスケベな顔して白々しいにも程がある」

 

「スケベ顔は産まれつきだ」

 

「じゃあ、変にゃ事は考えてもなかったってクルシュ様の前で誓えるの??」

 

「ははは、誓えないな。そもそも俺は産まれてから今までスケベな事を考えていない時などないのだから!! フェリス、俺はな…… スケベ顔で産まれたのではなく、産まれてこの方スケベなんだよ」

 

「堂々と言うにぁぁぁぁあ!?」

 

 フシャャャャャ!! と、本当の猫のように俺へ威嚇を始めたフェリスは、主人の肩を持って立たせるとそそくさとこの場を去ろうとする。

 

「ん、フェリスか。すまない、少し呑みすぎてしまったようだ」

 

「クルシュ様、あんにゃケダモノとお酒を呑んではいけません」

 

「別に、彼と変な事にはなったりしないさ」

 

「しないのか……」

 

「トキモリきゅんは黙ってて!! いいですかクルシュ様、男はみんな狼にゃんです」

 

 お前も男だろう、と誰か言ってやって欲しい。

 

「とにかく、もうそんな無防備な格好で男と晩酌したりしたらダメですからネ」

 

「ん、わかった。フェリスがそこまで言うのなら、その方が良いのだろうな。いつも世間知らずな私の為にありがとう、フェリス」

 

「ぐわぁっ!! クルシュ様が可愛すぎてフェリちゃんどうかなっちゃいそう!!」

 

「フェリス、お前も大概だかんな」

 

 そんなどこかで聞いたことがある言葉でもって、今宵の席はお開きとなった。叶うことならば二日後の決戦の後も、こうして二人で晩酌をできたら…… って、これこそどこかで聞いた台詞だ。

 

「まぁ、いいや。それじゃあ俺も戻りますか」

 

 アルコールの回った頭では、考えたところでその答えは出ないだろう。

 だから、俺はせっかくのその気持ちがいい酔いが醒めてしまわない内に寝てしまおうと、誰も居なくなった席を後に……

 

 

 

 

 

 しようとした時だった。

 

 

 

 

「トキモリくん……」

 

「…………はい」

 

 俺は瞳を深く閉じた。

 

 そうだ、思い出した。あの台詞は今日、レムとのデートの帰りに心の内で呟いた言葉だった。

 

 今こうして目を閉じているのは、決して受け入れ難い現実を見たくないからではない。それはこの後の展開は見るまでもないからだ。ここに来てからこのパターンは何度も経験してきている。

 

 きっと、この後レムはこう言う筈だ。「トキモリくん、みーつけた」と。

 

 そして、俺は涙ながらに振り返って「みつかっちゃ…… た……」と言うのだ。俺は、精霊術師ではないが約束の大切さを知っている。だから、こんな『お約束』もしっかりやってみせるさ。例えそれが最後の言葉になろうとも。

 

 さぁ、しっかり成仏してみせるから来いッ!レム!

 

 しかし…… レムは俺が振り返るよりも先に、俺の首に腕を回すと、その身体を俺の背に預けた。密着させた身体の間では、レムの柔らかい部分が逃げ場を無くして形を変えていた。接触している箇所がじんわりと熱を帯びていく。

 

 そして、レムは俺の耳元で囁いた。

 まるでその吐息で俺の何かを溶かそうとするように。

 

『スケベなことをずっと考えてしまうのなら、同じ部屋で寝ているレムにエッチなことするのも我慢してくれているんですか??』

 

「ーーッ!!」

 

『ふふ、今日構ってくれなかった仕返しです。レムは先に寝ますから…… 今夜も()()()()()()()()ね』

 

ーーおやすみなさい

 

 最後の言葉が風に掻き消されるよりも早く、肩に寄りかかった重みと背中に張り付いた熱は、幻のように引いていった。

 

「おいおい、揶揄うにしても加減を考えてくれよ」

 

 囁かれた左耳は、マシュマロが焼け溶けたような甘い痺れを残している。

 

 その夜、俺は酒とは別の熱が冷めるまで、しばらくそのバルコニーを離れる事はできなかった。

 

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