病弱少女と吸血鬼 作:リリア
「あぁぁあぁああ――!!」
体面など――肉体の限界など気にしないでソアは叫んだ。そうでなければ狂いそうなほどの死の空間に、彼女は身を置いていた。
迫るのは幾重にも重なった『血』の凶器。そのありもしない隙間目掛けてソアは体を捩じ込む。
右足を右へ、左手を上へ、左足は後ろへ置き、咄嗟に右手を下げる。首を右へ、目を絶えず動かし、胴体を左へ捻る。
弾けるように動く。
右へ、左へ。跳び上がり弾ける。力は流転し加速を続ける。それを繰り返す。
魔力は十分。だが、足らない。時間が、速度が力が精密さが足らない。何もかもが足らなすぎた。
全てを出し切っていた。
蹴りつけた空を足場とする魔の技。力を一点に集めきり、逆流する力すら我が物とする人の技。常に世界を俯瞰する亜人の技。第六感とも言える、勘を極限まで研ぎ澄まさせる獣の技。
有りとあらゆる、人が作り出したそれ。修めた『奥義』と呼ばれる物を併用し、しかしその雨の中では致命傷を避けるのがやっとだった。
吹き荒れる業風に舞い散り血は空に軽やかに舞う。微かに触れた血の雨が弾け服は剥がれていく。吐き出されそうになる血を無理やり飲み込み、動き続ける。
だが、確実に限界は近づいていた。
「凄い。人としてそこまで出来る人間は初めて見た。でも――」
リアーナはそっと手を開く。そして、閉じた。
瞬間、血が弾けたように広がると、それは一瞬で収縮し縄のようになってソアを拘束した。
「――それが限界」
そして全てが落ち着いたそこにいたのは、血により拘束された一人の少女と一体の吸血鬼。少女は今だ消えぬ戦意を漲らせ、吸血鬼をキッと睨む。
「ゲホッ、ゲホッ……はぁ、はぁ……これは……予想外ですね。貴女は吸血鬼の中でも最上位の個体でしょう?眷属などいらない筈……何故、殺さないんです……」
「何故……?貴女はそれがわかっていたから必死に抵抗していた筈」
「ゴホッ……ああ……私、貴女達のそういうところが嫌いなんですよ――なんでも知ってるとばかりにどこまでも上から見下す、その視線が」
殺されてもよいの精神でソアは全力でリアーナを挑発する。むしろ眷属化の手順を拘束されながらじわじわとやってこられる方が屈辱だった。ソアの行動を言うなら、殺されにいっている、の方が正しいだろう。
そしてその企みはリアーナにバレていた。
「――楽しみ。貴女を堕とした時、一体どんな顔で私に媚びてくるのか」
その言葉を最後に、ギリギリで保っていた精神は砂上の楼閣のように崩れきり、ソアの意識は暗闇へと落ちた。