範馬勇次郎が行く、SCP財団の機密施設見学会 作:テキーラ11
SCP財団とは、SCPと呼ばれる、超常的な『現象』『物体』『存在』『場所』を『確保』『収容』『保護』を目的として、存在している秘密結社である。
そんなSCP財団は、政府よりSCPの管理を任されており、それらを収容しておく為のサイトやエリアと呼ばれる機密施設を多数持っている。
そんな機密施設の1つが、SCP財団発足以来の未曾有の危機に陥っていた。
複数のSCPによる大規模な収容違反が起きていたのである。
なんとか鎮圧しようと動いていた職員や部隊は全滅し、機密施設内は地獄と化していた。
所変わって、日本某県に存在する米軍基地内、応接室にて。
そこには2人の男がおり、片方は緊張した面持ちで立っており、1人はリラックスした様に革張りのソファーに腰掛けていた。
立っているのは、一目で歴戦の軍人だと分かる風貌の男、名をストライダムという。
座っているのは、武力というものを体現し、一目で地上最強だと分からせる風貌の男、その名は範馬勇次郎。
「おいおい、ストライダム....シケた面しやがって、まさか下らねぇ話の為に、この俺をこんな場所に連れてきたわけじゃねぇだろうな。」
からかうように、ストライダムにそう語りかける地上最強の生物こと勇次郎。
「.......オーガ....私は、君にこの話をするべきか....正直、迷っていたのだが....」
ストライダムはそう前置きし、真剣な顔をしながら切り出す。
「.......オーガよ....SCP、または、SCP財団というのは知っているかね....?」
「ああ?......戦場の傭兵共を誘ってる連中が、そんな名を言っていた様な気がするが、詳しくは知らねぇな。」
勇次郎は聞きなれない言葉に、記憶を巡らせそう答える。
「だろうな......SCP及びSCP財団というのは......そう、分かりやすく言えば、超常現象や超常の存在の通称、そして、それを管理している組織だと思ってくれればいい。」
勇次郎の答えに、どう説明すれば良いか迷いながらも語るストライダム。
「......なに?......ついに、頭がイカれちまったのか?ストライダムよ。」
ストライダムの突拍子も無い説明に、笑いながらそんな事を聞く勇次郎。
「......だから、話したく無かったのだ......いいか、オーガよ。この組織は実在するのだ。......それも政府公認の組織としてな。」
ヤレヤレといった様子で、しかし真剣な表情で話すストライダム。
「ほう......で?そのオカルト組織が、なんだってんだ?」
ストライダムとの付き合いが長い勇次郎は、嘘は言っていないと悟り、続きを促す。
「実は、そこで大規模な収容違反...........つまり、SCPの大量脱走が起きたのだ。そこで...........」
「ストライダム......まさか、この俺にそのオカルト組織の尻拭いをしろと?」
ストライダムが言い終わる前に、青筋を立てた勇次郎が静かな怒りを宿しながらストライダムに圧力をかける。
「ま、待ってくれ!もちろん、無理強いなどしないし、出来ん!......だが、私も詳しくは把握してないが......SCPはその殆どが凶悪極まりない戦闘力を誇っているそうだ......どうだろうか、君にとっては楽しい場所だと思うが......もしかしたら、戦場以上にね。」
慌てて勇次郎を宥めながら、説明を続けるストライダム。
「なるほど......どうせ、トラムプ辺りからの要請だろう?......伝えておけ、もし俺が満足出来なきゃ......アメリカ軍を喰らいに行くとな。」
ストライダムの言葉を聞き、見透かした様にそう話す勇次郎。
「わ、わかった。そうならない様に、私は祈るとしよう......さて、早速飛ぶかね?」
「ああ、SCPとやら、堪能させてもらうとしよう。」
勇次郎がそう締めくくり、2人は輸送機のC-17、通称グローブⅢに乗り込む。
しばらく空の旅を楽しめば、問題の財団施設上空に近付く。
「じゃあ、施設見学と洒落こんで来るぜ。」
「ああ、楽しんで来るといい。」
勇次郎とストライダムはそう言葉を組み交わせば、勇次郎は飛び立った。
「キャプテン......本当に良かったのですか?」
付き添いの隊員がストライダムにそう問いかける。
「もちろんだ。オーガは、如何なる軍の爆撃なんかよりよっぽど強力なのだよ。化け物どもは思い知る事になるだろう......地上最強とはどういう事かをな。」
高度3000mからのスカイダイビング中の勇次郎。
目標は森林地帯にある放射能汚染があるとされる地域。
無論、これは財団側のカヴァーストーリーであり、機密施設がある場所だ。
鬱蒼と生い茂るジャングルの上空を落下していく勇次郎の背中には、パラシュートが存在していない。
パラシュート無しの、3000mからの自由落下。
通常、この状態での地面への激突は死を免れない。
しかし、ほんの数例ではあるが、奇跡的に助かった者はいる。
例を1つあげるなら、ヴェスナ・ヴィロヴィッチ氏の生還劇だろう。
1972年、JATユーゴスラビア航空機が上空1万mにて爆破される事件が起きた。
その航空機に搭乗していた客室乗務員、当時22歳のヴェスナは1万m上空に投げ出され地面に激突。
しかし、落下場所が森林地帯であり湿地という事もあり、それらがクッションとなり奇跡的に生還した。
さて、ごく普通の女性が助かったのと似た条件に、高さはその3分の1以下。
そして、落下していくのは地上最強の生物である勇次郎。
この条件を元に範馬勇次郎という地上最強の生物は死ぬだろうか?怪我を負うだろうか?
答えは、否である。
勇次郎は、木々をクッションにしながら、地面に見事着地するのであった。
「ここが、財団の施設とやらか。」
勇次郎の10m先には、大規模な収容施設と思しき建物があった。
巨大なゲートは重々しく閉じられており、何人も寄せ付けないという頑強さがある。
「お邪魔。」
勇次郎はゲートの僅かな隙間に、まるでゼリーにでも指を突っ込むかのように隙間を捻じ開ける。
そして、十分に手が入った所で、その桁違いな腕力で持って無理矢理こじ開け中に入る。
幾重にも施されたロックをものともせず、中へ入って行く勇次郎。
「おいおい、こりゃぁ......!?」
さしもの勇次郎も、中の光景には驚くしか無かった。
中には職員や鎮圧部隊と思われる死体の数々があったが、そんなものに驚く勇次郎では無い。
では、勇次郎を驚かせたものとはなんだったのか?
それは、財団の実験によって引き起こされたワームホール現象にあった。
分かりやすく言ってしまえば、広大な施設が、幾つもバラバラに繋がっていたのだ。
「なるほど......SCPとやら、存外に楽しめそうだ。」
そんな状況でも、愉しそうに笑う勇次郎。
しばらく進むと、この血なまぐさい場所に似つかわしくない、推定3、4歳の幼女が立っていた。
幼女は怯えた様子で震えながら泣いていた。
場所こそ似つかわしくないが、反応そのものは幼女のそれであり、故に不自然さはそれ程無いようにも思える。
しかし、その幼女こそ勇次郎が初じめて目にするSCPであった。
アイテム番号:SCP-053、オブジェクトクラス: Euclid、通称幼女。
この幼女は見た目、性格、反応、どれを取っても一見すればただの幼女だが、その能力は凶悪極まりない。
この幼女と10分以上視線を合わせる、または物理的接触をすると
激しい被害妄想に取り憑かれ、周りの人間を敵と誤認し殺害しようとしてしまうのだ。
そして、最後にはこの幼女にも手をかけ、その後に心臓発作を起こし死んでしまう。
なお、幼女は攻撃されても瞬時に傷が塞がり、ほぼ不死と言える。
「おい、そこのガキ。迷子にでもなったか?」
勇次郎はそんな事を知る由もなく幼女に近付き、頭の上に手を置いてしまう。
すると、途端に勇次郎の胸中に激しい被害妄想が湧き上がってくる。
常人ならばこの時点で幼女に手をかけ、殺そうとしていただろう。
しかし、相手はあの範馬勇次郎なのである。
地上最強の生物である彼にとって、自分の命を脅かすという恐怖は微塵も存在していない。
にも関わらず、勇次郎の脳内では目の前の脅威である幼女を殺せと叫んでいるのだ。
((殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、幼女を殺せ、目の前の敵を殺せ、やつを生かしておけば殺される、だから、殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せぇぇぇぇ!!!))
勇次郎は自分の強さに、信仰心とも言える自負心を持っていた。
故に、脳内の叫びは自身のものでないとすぐ様看破した。
ならば、叫びの主は目の前の幼女に他ならない。
だが、幾万とも呼べる死闘の中で鍛え上げられた勇次郎の洞察力はその先を見据える。
すなわち、幼女の中に存在するもう1つの何者か。
勇次郎はその何者かを鬼そのものの形相で睨みつける。
そこに言葉は無く、そして言葉はいらなかった。
勇次郎は赤子の頃、産婆に対して言葉を介さず脅迫し、母に言葉を介さず命令したのだ。
赤子の頃に出来て、今は出来ないという道理、勇次郎には存在しない。
故に、言葉を介する事無くそれを伝えた。
((この俺に、命令するかッッッ!!!貴様ッッッ!!!!!!))
それは、どんな叫び声よりも大きく、どんな脅しよりも恐ろしかった。
勇次郎のそのオーラに、言葉より雄弁な命令に、その何かは従わざるを得なかった。
と、同時に、幼女は恐ろしさから泣き声をあげようとする。
「泣くな。」
勇次郎のたった一言の命令。
それは、幼女の本能が、拒否を許さなかった。
故に幼女は泣き声をあげることなく我慢した。
「ふん、泣かなかったのは褒めてやる。褒美をやろう、こっちに来い。」
幼女は勇次郎におずおずと近付くと、勇次郎は幼女の頭をくしゃくしゃと撫で、肩車をしてやる。
「わぁー、たかーい!ありがとー!」
幼女は、初めて体験する肩車に楽しそうに笑い、はしゃぎ、感謝を述べる。
「ふっ、誇れ、この範馬勇次郎に肩車をして貰ってるんだ。」
勇次郎は幼女の感謝に、満更でもなさそうな笑みを浮かべて進む。
「ここ、いえ!」
勇次郎に肩車をされながら進んでいた幼女は、自身の収容室を見つけ指差した。
「そうか、なら、ここでお別れだな。」
勇次郎は幼女を下ろしてやると、別れを告げる。
「うん......ばいばい......」
勇次郎と離れる事になり、しゅんと寂しそうな顔をして俯く幼女。
「......わたしがおっきくなったら、およめさんにしてくれる......?」
そして、勇次郎を見つめながら、そんな言葉を続けた。
「なっ......ふ、ははははは!!......お前が成長し喰うに値すると判断したら、その時は迎えに来てやる。」
突然の幼女の言葉に一瞬唖然とするも、高らかに笑いそんな約束をして幼女の収容室を後にする勇次郎。
そして、先に進むとそこには奇妙な生物を模したコンクリートの彫刻があった。