森の中に暮らし始めて数日が経ち、紗和は自分の毒の制御を抑えるための日々が続いたが、未だに上手くいかず、毎日手袋をつける日々が続くようになってしまった。自分の素手が見ることが出来なくなってしまった。下手に素手でモノに触れてしまうと無意識に毒で汚染させてしまい、汚し、傷つけてしまう。紗和はウルトラマンとしての光を失いかけていた。怪獣が現れた時は必ず戦う。しかし、自分の自信を失い始め、アルセーヌ達の声も聞かなくなった。紗和の瞳は、闇に染まり始めていた。
「………食材が少ない。仕方ない…買いに行こう」
小声でそう呟き、手袋が外れないようにしっかりと身につけて外へ出た。
外に出る時はあるが、紗和にとって外出は警戒心が増すように歩いた。
今日も外は寒さは変わらないが太陽の光が暖かく、風が無い心地よい天気だった。それでも紗和は顔色を変えず、ただ歩き続けた。
「……今日はいい天気…雲一つも無い…眩しい、太陽…」
紗和は小声で呟きだから歩み続けた。さっさと帰りたい、という気持ちが増しながらも歩み続けた。
「あーっ!!風船が!」
その言葉を耳にして紗和は足を止めてその方向を向いた。小さい男の子が風船を離してしまい、哀しんでいるのが見えた。
紗和は取りに行こうとしたが、自分の手で風船を汚して泣いてしまうところを見たくはないと思ったが、幸いにも手袋をしているため素手ではなくても触れることは可能だと気づき、壁を使いながら勢いよく飛び越えて風船の紐を掴んだ。
「はい、しっかり持っているんだよ」
「お姉さんありがとう!」
男の子は笑みを浮かべながらバイバイと手を振って去って行った。紗和は安心しながら再び歩み始めた。紗和の中には何か《嬉しさ》が込み上がっていた。無意識にも、紗和は笑みを浮かばせていた。
やることは終え、手荷物が毒で汚れないように注意しながら家に向かった。手袋をしているとはいえ、油断は出来なかった。トボトボを歩き、『早く帰りたい』そんな思いを消さずに家に向かった。
歩いて数十分、ようやく家に着き紗和は疲れた顔を浮かばせながらドサッとベッドの上に横になった。家が遠いせいか疲労が溜まってしまうからだ。本来の姿が常人とはいえ、人間の姿では疲労というのはすぐに溜まってしまう。今なら人間社会はストレスがキツいということを実感したようだ。紗和は静かな部屋で1人、天井を見つめ続けた。物静かである。聞こえてくるのは外の寒い風の音が窓に当たって窓がガタガタと少し揺れている音が響いた。虚しさが増していく、自分が本当に地球にいて良いのかが分からなくなるほど、紗和は徐々に自信と信頼を失いかけていた。人間不信になり始めていくのであった…
時間は刻々と過ぎていった。気がつけば紗和は昼食を食べずに眠りについてしまっていた。アルセーヌとバードンはバトルナイザーの中で心配していた。元々ではあるが、紗和は普通より身体が細すぎるのだ。それは食べなさ過ぎだからである。ろくに食事をしないのに怪獣と戦えるのが奇跡である。
「あ……寝てた。今日は…どうしよう?」
ゆっくりと起き上がり、外を見てみた。辺りは夕日の光に包まれていた。赤い光にだ。
「今日の夜も……快晴のような夜になるかも、ね…星がたくさん見れると良いなぁ…」
唯一の楽しみである満点の星空を見上げること、それが紗和の楽しみであった。1人で見る星は闇に堕ちそうになった心を光照らし、元気を与えてくれる。
今見ている星がもし、光の国であり、兄のゼロと父のセブンが見てくれてるのなら、どんな気分をして見ているのだろうと…そんな思いが強くなる。
「………ボク、は…本当に…」
その瞬間、地響きが鳴り始めた。周りは揺れ始め、謎の雄叫びが聞こえ、悲鳴も聞こえた。
「……楽しい時間を減らさないでほしいなぁ…」
窓を開け、外を見れば怪獣が夜の街で暴れていた。
超古代怪獣 ゴルザが現れたのだ。
「ゴシュイィイイッ!!」
大地を揺るがす進撃。超古代の闇が現れた瞬間であった。
「はぁー……」
ため息を吐きながらラピスへと変身した。
「ハァッ!」
変身した直後、空中から蹴りで大打撃を当てた。ラピス流の先手必勝法である。
「ゴシュイィイイッ!!?」
頭から廃屋に突っ込むゴルザ。
ゴキャッ!という音が良く似合う。
「先手必勝、これがボク流の戦い方なんだよね」
言い方がどことなくウルトラマンゼロに似ており、ラピスはお構いなく攻撃を続けた。
「ゴシュイィイイッ!!」
その太い剛腕を振るうゴルザ。
目の前に来た瞬間、腕を掴み上げ勢いよく投げ飛ばし地面に叩き落とした。あんな巨体を軽々と持ち上げて投げ飛ばしたのだ。ろくに食事をせず、身体が細さとは正反対である。
「ゴシュァッ!?」
頭から落っこちるゴルザ。
「どうしたの?もう終わりかい?」
ラピスはクスクスと嘲笑うようにそう言った。
ゴルザは無言で『超音波光線』を放つ。
「うわぁ…!ッ…」
油断したのかもろ喰らってしまい、その場に倒れ込んだ。
そこに太い尻尾を打ち込むゴルザ。
「ッ…!」
咄嗟に身につけていた手袋を外し、尻尾を掴んで水銀毒で濡らした。
しかし、ゴルザには
「ッ…効かないのか…(周りを汚したくないのに…ッ)」
ラピスは両足でゴルザを蹴り飛ばし、即座に立ち上がった。
ゴルザはまるでカンガルーのようにしっぽでからだを支え、そしてそのままぐいんと身体を戻して殴りつけた。
「ダァッ!?」
攻撃を喰らいながらも即座に立ち上がり、反撃を続けた。だが状況は変わらず、押されているのはよく分かっている。
ゴルザは蹴りを放つ。そしてさらに剛腕を振るうのだ。
「ッ……バードン!燃やして!」
バトルナイザーを取り出し、バードンを召喚した。
「ゴシュイィイイッ!?」
「ギィョイイイヤァアア!!」
バードンは言われた通りに口から炎を放った。
「ハァァッ!!」
炎で攻撃を喰らっている隙を見てラピスは拳一つでゴルザを吹き飛ばした。
「ゴシュァ」
ゴルザは簡単に吹っ飛んでいた。
「はい!おしまい!!」
そう叫んだ瞬間、一瞬で腕をL字にし、必殺技である『スターリウム光線』を放ちトドメを刺した。
「ゴシュイィイイッ!?」
どうすることもできず、ただ叫び声を上げてゴルザは爆発四散したのだった。
「うーん……疲れた…」
紗和は軽く伸びをしながら夜空を見上げた。雲一つ無い快晴のような夜空であった。紗和の汚れた心を綺麗に輝かせてくれる唯一の時間、そして故郷にいる父と兄との日々を思い出す。
紗和にとって故郷にいる2人がどんな思いで自分のことを思っているのかわからない。だが、見守っていてほしい…その気持ちだけは変わらなかった。
肌寒い風が全身を凍らすように冷えて寒い。そんな夜を見上げて星空を眺め続けた。だがその冷たさと寒さは、紗和の心をさらに冷たく凍らせ、閉ざすようにも感じた。誰が紗和の心を温め、開かせてくれるのだろうか…