冬の寒さが減り、春の訪れのような暖かさが増す地球。だが紗和はそんなことも気にせず1人で読書をしていた。趣味なだけあって沢山の本を買ってはすぐに読んでいた。元々本好きなので光の国でも任務前などでよく読んでいた。そして紗和は誰とも話さない天涯孤独の少女だからか、暇潰しや気分転換として唯一の時間は読書だった。所謂、読書家である。
そんなある日、紗和は新たに買った小説を物静かな部屋で1人読んでいた。タイトルは《アルセーヌルパン》と書かれていた。バトルナイザーに眠っているアルセーヌと同じ名であり、怪獣と人間だが同一人物でもある。
最近では推理小説にハマり、読み終えたらまた新しい本を買いに行く。それが紗和にとって何よりの楽しさであった。いつの間にか家は本の山で溜まっていた。本が好きだ、これが紗和にとって唯一の長所でもあった。
翌日、紗和は新たな本を購入するために外へ出た。この日は、冬の寒さが減り、春の暖かさを少し感じる日だった。それでも紗和は手袋を取り外すことはなかった。いまだに制御が出来ず、さらには大切な本を汚したくないと思い、外すことはなかった。唯一外すとしたら自分自身が風呂に入っている時だけだ。風呂の湯を汚さないために苦労はしている。
外を歩く紗和はいつもの書店に向かって歩いていた。
ふと、いつもの書店に入った入り口の前で足を止めて新刊の文庫本に目が入った。新着の本には必ずしも目を通すのがクセになるくらい確認していた。今では常連のようによく来るようになった書店で紗和は今日も自分好みの本を探し求めた。だが紗和の中には不思議と《何か》が満たされていた。それは自分でさえ気づいていなかった。
「ただいま〜」
書店からようやく帰ってきた紗和だが、家の中は自分の声しか響かなかった。虚しさが増す、紗和の心は少しずつ寂しさと虚しさが増し続け、さらには地球での活動にも嫌気が刺してきた。それでもなお、この地球に現れる怪獣が人間を傷つけないためにはやるしかなかった。
真面目な紗和にとっては断ろうにも断れない気持ちになるので、どんな気持ちであろうとも戦いからは逃れないというのは分かっていた。今までこの地球を守っていた歴代のウルトラマン達のことを故郷である光の国で師範の1人に学んだ時、紗和は分かった。どんな理由であろうとも人間を守るためなら戦い、守る。それだけが紗和の中に取り留める唯一の目的でもあった。とはいえ、今は心が闇に堕ち続けているせいでその目的も失いそうになっていた。
そんな紗和を闇に堕とさないために出会ったのが読書であった。
だが紗和が好む本は殆どが推理やスパイ小説だった。それを読むほど紗和の中に何かが覚醒するような、謎の気持ちに満ちていた。だがそれがなんなのか紗和自身もよく分からなかった。
気がつけば本を読んでる途中で眠ってしまったのか、ベットの上で眠っていた。
紗和はゆっくりと身体を起こして窓の外を見た。辺りは木々で囲まれてよくわからないが、夕日に包まれていて、眩しかった。
「うぅん……寝過ぎた…」
ベットから降りて水を飲もうとキッチンへ向かった。
冷蔵庫を開き、お茶をコップに注いで口にする。
ふと、冷蔵庫の中を見てみた。大量の食料が並べてあり、どれもまだ一度も開封されてない食料ばかりだ。紗和はここのところロクに食べていなかった。こうやって今生きているのも奇跡であるくらいに栄養をとってない。何故食事をしないのかは本人しか分からない。だが流石にマズいと思ったのか、久々に食料を手にした。
「…今晩は………ハンバーグにしよう」
手にした食料は牛肉のひき肉だった。玉ねぎなどの材料を取り出して作り始めた。材料を揉み込む間、紗和の脳内に故郷での家族と仲間との食事を思い出した。
光の国には自分のことを見守ってくれている家族と仲間がいる。振り返ると家にいると笑顔が絶やさず、毎日が楽しかった。いつも誰かが側にいてくれたせいか、いつの間にか紗和には孤独というモノが再び浮かんでしまったのだろう。紗和の心は少しずつ闇に染まり始めていたが、完全に染まってしまったわけではない。心の奥には懐かしい思い出が残っていた。それが闇を浄化してくれていた。
そんなことを思いながら形が整ったハンバーグを焼き始めた。じゅ〜…と油の音と共にハンバーグが茶色く焼けていった。
ふと、料理する手が止まる。ろくに食べてないせいか料理するのも久々だったので料理本を取り出して作り方を読み直した。
今時ならネットで検索して作るかもしれないが、紗和は本を読むことが習慣になっているのでカンマ2秒でページを開いて作り始めた。何度も読んだ本はページ数を覚えて即開くことが出来るようになった。
読みながらハンバーグの調理を続ける紗和の手は止まらなかった。
数分後、綺麗に焼けたハンバーグを皿に乗せてソースをかけた。一緒に白米と色々と用意した。
手を合わせ、『いただきます』と言い、口の中に入れた。味は美味しかった。文句のない美味しさだった。
だが食べてる紗和の顔はどこか暗かった。無言で食べ続けるが顔は浮かない顔だった。
寂しいのだ…1人で食べる料理には未だに慣れず、食べる料理は美味しさを感じなかったり。静かで食事する音が部屋だけに響き、その日の夜は怪獣が出ることなく孤独で静かな平和な夜だった…
「……ごちそうさまでした」
そして寂しさや孤独の恐怖に心を殺されそうになっていた紗和の声も、部屋中に響いたのだった。
なんの変哲もない朝がやってきた。日差しに顔を照らされて目を覚ました紗和。
ベットから出るのを嫌がるように体制を変えて日差しを避けた。目に写ったのは読みかけの本だった。読んでる最中に眠ってしまったのか、紗和は本を手にして続きを読もうとした。その本は宝石に関する本で、写真でも分かるくらい神々しく輝いていた。紗和は星や本が好きであり、宝石も好きなのだ。
眠気を覚まそうと、今も起動出来るテレビを付けた。テレビには朝のニュースばかりやっていて朝から退屈を感じたが、我慢して観ることにした。ニュースには都内の中心に設立されている美術館で宝石展が開催されているという内容だった。
その瞬間、紗和の鼓動が突然勢いよく速くなった。それはまるでテレビに映っている美術館に展示されている宝石に導かれているような、それとも…自分の欲望という何かが込み上がったのだろうか…
スマホのバトルナイザーを強く握りしめた。その瞬間、紗和に眠る《叛逆の意志》が覚醒した。慌てて本棚から全ての推理小説などを読み始めた。そしてその顔は…ニヤニヤとした、獲物を求めるような…
────悪党の笑みだった
最近ネタが尽きてようやく投稿することが出来ました