普通科、陸上自衛隊最大規模の人員を誇る戦闘の骨格部隊。恐れ知らずの普通科連隊。
「皮肉だな。」
学校にも普通科はある。どこに隠れても追いかけてくる思い出、記憶。
山上陸、否、陸山衛は風紀委員室内でゆっくりと椅子に腰を下ろし溜め息をつく。思えば最近あったスクールアイドルフェスティバルは大盛況だった。中川菜々、優木せつ菜との関係は少し考え直した方が良いだろう。何故なら
「俺は、山上陸でも虹ヶ咲学園の生徒でもない…」
その通りだ。元の世界にいずれ帰る。帰る場所があるのだ。俺はこの世界の異物だろう。この世界に武力は存在しない。そんな中に現れた物理的な"力"を持ったイレギュラー、それが陸山衛、山上陸という存在だ。
「俺が戻る時、この世界はどうなるんだ?」
ふとした疑問。山上陸という存在はどうなるのだろうか?この世界から無くなるのか、それとも山上陸は元々この世界に存在していて、その山上陸の人格が再びこの肉体を支配するのか。
止めよう、頭がおかしくなりそうだ。
「山上君、まだいたの?」
そんな事をボンヤリと考えていると、風紀委員長が部屋に入ってくる。
「ああ、少し考え事をしてまして。」
軽く頬を掻きながら答える。
「仕事を頑張るのは良いけど、無理は禁物よ?身体を壊したら元も子もないわ。」
確かに、と軽く笑いながら席を立つ。
「では、私はこれで。」
「ええ、気をつけてね。」
机に置いていたバックを取ると、肩にかけて部屋を出る。
月夜に照らされながら街を歩く。東京の風景はあまり変わらず、店やコンビニやらも見た目はそこまで変わらない。ただ名前がほんの少し違ったり、道を行き交う人々の髪や瞳の色がやたら奇抜な者がいたり。違いはそれくらいだ。
見慣れた見た目のコンビニに寄ってみる。
お菓子コーナーを回ると、見慣れぬキャラクターの食玩やらちょっとしたお菓子グッズが置かれている。当然だ。自分のいた世界と違うなら、番組も変わってくるだろう。思えばニュースを観ても首相やら有名人の名前も聞いたことのない見たこともない人物だった。まあこれも当たり前のことだ。
彼女達が俺を知らないように、俺もこの世界を知らない。
ただ面白いと思ったのは、軍や自衛隊の存在を感じられなくとも、アニメやらなんやらの登場人物達は武器を持っていたことだ。以前も登校途中にアニメショップ前を通った時、そのキャラクターは剣を持っていた。他にも銃を持っていたキャラを見た気がした。とても不思議だ。
武力を持つ巨大な組織が無くとも、考えることはどの世界も同じということか。カッコいいとか、力でしか解らぬ者には力で教えてやればいいとか、まあそこまで深く考えてはいないかもしれないが。
雑誌コーナーを見ても、やはり見慣れない雑誌ばかりだった。ふと一冊の雑誌に目が留まる。
「スクールアイドル特集…か。」
藤黄や東雲以外にもスクールアイドルがあるらしい。今や学生の間で絶大な人気を誇っているようだ。
コンビニを一周し、出口からでる。大体5分くらいか、それなりに長居をしてしまった。
再び外灯と月に照らされた道を歩いていく。
「ん?」
道端に落ちている物に目がいく。それは
「タバコ。」
そういえば最近吸っていない。当然といえば当然だ。自分はこの世界では学生なのだから。中身は40を過ぎたオッサンだというのに。
タバコの箱を拾い上げ、中身を確認すると、そこには数本だけ使われていないタバコが入っていた。
疲れていた。
そのタバコを箱から出し、制服の胸ポケットにしまう。
「火はどうするか。」
ライターを買うか?制服でライター、妙な噂はご免だ。
考えた結果、コンビニに戻りライターと蝋燭を買った。これならばライターを買う正当な理由になる。言い訳はこうだ、仏壇に供える。両親は死んでないが、この世界にはいないのでここではそういうことにしてもらおう。
再びコンビニから出て拠点へと向かう。その途中で
「おや、陸さん?」
と知っている声がする。忌々しい声だ。振り替えると彼女、中川菜々はそこにいた。
「おや、中川会長も今お帰りですか?」
タバコがバレなければ良い。
「下校中にコンビニとは、何を買ったんですか?買い食いは基本的に禁止ですよ?」
そういえば、そんな面倒な規則があったなと思いながら
「蝋燭とライターですよ。」
と答える。
それを聞いて菜々はキョトンとした顔になる。まずいな、明らかに妙だ。蝋燭とライターなんて、どんなセンスだろうか?絶対に買った理由を聞かれ、あの言い訳をすれば彼女のことだ、より心配してグイグイと近寄ってくる可能性がある。
陸は後悔した。
「何故、蝋燭とライターを?」
やはり。
「…なんとなくですよ。」
これ以上君と深く関わるつもりはない。君は良い人だ。俺と仲良くすべきじゃない。俺とは違う、真っ直ぐで純粋な瞳。
陸の答えに不服なのか、菜々はほんの少しムッとした表情を見せる。
「言ったじゃないですか、私はガンガン行きますよ!って!」
貴方が私を突き放そうとしても、そうはいきませんからね!そんな強い意志を感じる。
そうとも、君はそういう子だ。
「友でも、触れて欲しくないものはあります。貴方が優木せつ菜を隠しているようにね。」
そう諭すように伝えると、彼女は納得したように、しかし不満げに
「わかりました。でもいつか、いつか教えて下さいね。約束ですよ。」
と優しく言ってくる。その優しさがほんの少し疲れた心に染み入って来る。
俺は君が苦手だ。その優しさが嫌いで憎い。しかし心地良い。娘がいたら君と同じくらいの年齢になっているのだろうか?それとももう少し若いか。結婚などしていないから解らないが。
「陸さんが良ければ、いつか貴方のことを知りたいです。それがいつになるか分かりませんが。」
そんな事を彼女が呟く。
「そうですね、いつか話せたら良いですね。」
教えるつもりは毛頭無いが。それは彼女もどこかで理解しているかもしれない。俺は君に何も教えないつもりでいることを。
「明日また会いましょう、生徒会長。」
軽く会釈をして拠点へと戻る。
いずれ終わりが来る。俺はそう信じている。
拝見】ー
時は来る。
「時?」
手紙を見つめながら、不可解な文章を睨み付ける。終わるのか?どういう終わりにするつもりなのか。
ゆっくりとベランダへと向かう。窓を開け、ベランダに出ると、制服からタバコを取り出し火をつける。
久しぶりにタバコを吸う、大きく吸い込み、肺に煙が入るのを感じる。
「ゴホッ!ウッグ!」
大きくむせ、咳き込む。何度かゴホゴホと咳き込み、タバコを口から出し、新鮮な空気を吸い込みなおす。
「はあ、禁煙しろってことか。」
どうやらタバコが吸えなくなってしまったらしい。これもまた世界の影響か、学生で吸うなという警告か。大人しく吸いかけのタバコの火を足で踏み消し、水に濡らしてから手紙にくるんでゴミ箱に捨てる。
「最高だ。」
自嘲気味に呟くと、制服を着替えて食事を摂る。駐屯地と違い自分で作るのだからやはり面倒だ。そのお陰か、料理はある程度作れるようになったが。
これを期に禁煙と禁酒にしようか。なんて
野菜炒めと味噌汁、そして白米をかきこみ、風呂にゆっくりと浸かり布団に潜る。明日はどうなるだろうか?時は来たとは何か?何か嫌な予感がする。とても面倒だ。
そう考えながらゆっくりと目を瞑るのだった。
目が覚める。時刻は午前6時。制服に袖を通し、朝食の準備をする。昨日残った味噌汁を温め、白米を盛り、目玉焼きを作る。朝食が終わると身なりを整え、7時30分学園へと足を運ぶ。今日は生憎の曇り空のようだ。ツイてない。学園に着くと風紀委員会室の鍵を借り、開けてから荷物を置く。
「ふう。今日も始まるな。」
ポットの湯を沸かし、ティーカップに粉末コーヒーを入れて湯を注ぐ。朝の一杯というやつだ。正直、この時間が一番心が落ち着く。しばらくすると委員長、副委員長が室内に入ってくるので挨拶をする。
そろそろ授業が始まる。生まれて二回目の学校の授業。不思議な気分だ。
教室へと向かい、席につき授業を受ける。2度目の授業は案外退屈かと思っていたが、楽しいものだ。子供の頃解らなかった所などがほんの少し理解できているような気がする。意外と勉強とは楽しいものだと感じる。あの頃は何を言っているのか解らなかった、それが解るようになった。それだけでも充分面白いと言える。
授業が終われば部活、同好会に向かう者、委員会に行く者、帰る者と大きく分かれ、学園内がより賑やかになる。
俺もまた、風紀委員会へと向かうとしよう。腕章を付け、部屋へと向かう。そんな時だった。
「ん?」
生徒会室からショートカットの少女が溜め息をつきながら出ていくのが見えたのは。
「どうかなさいましたか?」
生徒はこちらを見ると、赤い瞳がキッとこちらを強く睨み付けてくる。
「いえ、特には。」
「おや、そうでしたか。生徒会長に要件が?」
「ええ、ですが不在でした。」
おそらく今日は同好会の方にでも行っているのだろう。
「そうですか。要件は伝えましたか?」
そう聞くと彼女は首をふる。
「では、伝えておきましょうか?」
そう提案するが結構ですとツッパネられる。困ったものだ。
「では、私はこれで。」
その少女はそう言い、そそくさと歩いていくのだった。
「無愛想なガキだ。まあ、俺の言えたことでもないが。」
リボンは一年の物だった、それに…
何だか面倒臭そうなことになりそうだ。そう陸の勘が告げるのだった。
拝見】ー
新たなステージへようこそ、狼よ。