国には憲法がある。憲法こそが人々の、国民の自由を保証する。基本的人権の尊重というやつだ。憲法の下に法律があり、その法律の元、国民は自由な生活と権利を持ち生活している。まあ、国によるだろうが。我々は国の自由と権利を守るために日々訓練し、あらゆる脅威に睨みを利かせているわけだ。
自由とは人々に与えられた平等な権利だ。「あれをしたい。」「これをしたい。」法律の上で、公衆道徳に沿った上で迷惑でなければ、問題無ければ咎めるものはいない。好きにすれば良い。
学校においても同じこと。決められた校則があり、その校則にさえ則っていれば、或いは他の生徒、学校に多大な悪影響がなければ自由が保証される。ここは会社でも軍隊でも無い。学校のために結果を出すことも重要ではあるが、生徒の考えを尊重する必要もある。即ち、生徒の自由こそ学校には必要なのだ。私…、俺はそう考える。何事にも多様さは必要だ。社会や兵器と同じだ。日々進化し、多様化していく。
何が言いたいのかと言えば、今俺は面倒な奴を相手にしているということだ。
彼の目の前には、いつぞや見た赤いつり目の少女が立っていた。事の発端は数分前、放課後となり風紀委員会室内に入り一息つこうとした時、彼女は入って来た。どうやら彼女は山上陸に要件があるらしい。
彼女をジっと見つめ、要件を聞く。
「それで、私に要件とは?」
私の目の前で、彼は少し面倒臭そに溜め息をつく。初めて彼と直接対面した。
虹ヶ咲学園初の男子生徒。そして風紀委員会への就任。私は彼が信用できない。あまりにも怪しい。他の生徒に危害を加えていないだろうか?という疑問が浮かぶ。この学園で悪い噂が多く。一時期は彼を追い出そうなんていう生徒達の行き過ぎた考えを起こしている者達もいた。だが、日を追うごとに、そしてスクールアイドルフェスティバルとかいうお遊びじみた催し物が終わってからというもの、ほとんどそんな悪い噂は聞かなくなった。なんでも、彼が手伝っていたとか。彼の制作したという不足事態への対処マニュアルに目を通したが、その出来は見事なものだった。
彼は風紀委員会で収まる器ではない。
「山上陸さん。貴方の制作したというマニュアルを拝見しました。」
「それで?」
何か?といわんばかりに、私の瞳を見る彼の瞳は、真っ黒で濁っているように見えた。まるで心ここにあらず。そんな印象が持てる。
「貴方は風紀委員会で満足なのですか?」
彼は「ほう。」と少し興味深そうに呟く。
「つまり何が言いたいのか、是非ハッキリと伺いたいものですね。三船栞子さん。」
ゆっくりと椅子から身体を起こし、こちらを面白い物を見るように伺ってくる。
「私は、今の生徒会長ではこの学園の生徒達はより良く成長できない、そう感じています。今の虹ヶ咲学園をより良くするため、私が生徒会長になった暁には、是非とも貴方を生徒会としてスカウトしたい、そう考えています。」
目の前で三船栞子はそうハッキリと伝えてきた。まさか、生徒会長になりたい、そしてなった暁には俺をスカウトしたい。そんな突拍子もない話だとは。まあ、答えは決まっているが。
「有難いお話です。まさかそんな素晴らしい計画を聞けるとは。」
「冗談ではありませんよ。」
彼女がそう答える。知っているとも。君の目は本物だ。本気で中川菜々から生徒会長の座を奪おうとしている。
「でしょうね。貴女が何をしようとも、それは貴女の自由ですよ。ですが、私を巻き込むのは勘弁して頂きたい。」
「貴方は今の学園に不満が無いのですか?」
陸はそんな質問に首を傾げる。何故なら、彼はこの世界そのものに不満があるのだから。それでも耐え抜いている。彼女は完璧を求めるだろう。だが、それには限界がある。真っ直ぐな瞳が羨ましい。中川菜々とはまた違う魅力が彼女にはある。2人とも、陸にとって羨ましい存在だ。自分に軸があり、理想を掲げている。まあ、彼女は少々合理主義な所がある、そこが少し面倒な所だろうが。
「特にはありませんね。生徒達も自由に伸び伸びと学園生活を楽しんでいますし。」
と言うと
「そこが問題です。」
と強い口調で栞子は陸に話しかける。
「学生生活とは、学生一人一人が成長し、生徒自身に特性の合った能力を高める場所だと思います。自分の得意分野でもないものを「好き」という理由だけでやるのでは、非効率的ではありませんか?」
正論だ。効率的ではない。
「確かに、貴女の言っていることは正しいですね。」
「貴方なら分かるはずです。」
そうとも。我々は効率的に動かなければならない。1分1秒のズレが人の命に、自分の命に関わってしまうかもしれないから。だが
「わかりますよ。ですが、貴女の言っていることはあまりにもツマらないものです。」
「へ?」
栞子はつい呆けた声を出してしまう。
悪い意味で俺は君と同じだ。
「貴女が生徒会長の座を奪うのは自由ですよ。ですが、私は少なくとも貴女の下に就くつもりも、隣に立つつもりもありません。話は以上です。」
「…何故ですか?」
「理解できない。」と言わんばかりに此方を睨み付けてくる。
「このマニュアルを作り、人を動かすだけの才能があるのならば、生徒会に入り、より生徒達の為に使うべきです。」
「私は私のやりたいようにやるだけです。私は貴女のスカウトを断った。これ以上の討論は、非効率的では?三船栞子さん。」
そう言うと、彼女はほんの少し悔しそうに唇を噛み、手を震わせながら
「失礼しました。」
と言い、ドアに手をかけようとすると
「あ、言い忘れてましたが。」
と陸が引き留める。
「何か?」
栞子は少し苛立たし気に陸を見る。
「先ほども言った通り、貴女が生徒会長になるのは自由です。ただし、あまり効率を重視し、生徒達の自由と権利、意見を蔑ろにするのであれば。」
季節は夏だというのに、背中にピリピリとした感覚とほんの少しの悪寒を覚える。陸の瞳を真っ直ぐ見ようとすると、何故か身体が硬直し、上手く手足が動かせない、まるで金縛りにあったような感覚を覚える。
「私が相手になりますので、お忘れなく。」
陸の瞳が栞子を貫く。ゾクリと栞子の身体が少し震え上がる。
まるでなんだろうか?強大な何か…"力"だ。力に圧迫されているような感覚。
栞子は見た。ほんの一瞬だが、何だか物々しい服装をした山上陸を。
ハッとすると、陸の服装は緑色の不可思議な模様をした服装から、普通の制服へと戻っており、栞子は全身の力がグッと抜けるのを感じ、倒れそうになるがなんとか堪える。
額の汗を軽く拭い、「失礼しました。」と伝え、今度こそ風紀委員会室を後にするのだった。
(今のは一体?)
バクバクと今だに心臓が鳴り止まない。初めて感じた恐怖だった。
栞子がいなくなり、1人になった陸は
「厄介なのと関わったな。」
と頭を掻くのだった。