迷える狼/New Front line   作:筋肉バカ

14 / 35
戦士の覚悟

「生徒会長再選挙?」

 

校舎に張られていた張り紙に目を向け、やれやれと首をふる。昨日の今日でまた面倒ごと。

 

それにしてもあの人間擬きにはしてやられたものだ。この借りはきっちりと返してもらうことにしよう。やつは俺の考えが読めていた。そして人間を越えた反射神経も、どうやって奴を叩くか。それが今後の課題だ。人間を越えた力には、人間を越えた力が必要だ。

 

「…力か。」

 

自分の制服を見つめる。スクールアイドルがライブを行う時、俺の服装は戻った。そして奴を倒すと強く考えた時も。あれは人間の理解を越えた力?現象だ。奴は「まだ"戻れる"のか。」と言っていた。つまり、この現象は奴にとっても予想外だったと考えられる。なら、この謎を解けば奴に勝てるかもしれない。

 

 

「はあ。」

 

張り紙を取り、しばらく眺める。堅苦しい文字だ。

 

三船栞子…だったか。ここで確実に生徒会長中川菜々を潰す気だろう。一手遅れたな、中川菜々。

 

「陸さん?」

 

そんなことを考えていると、後ろから不意に声をかけられる。聞きなれた声だ。

 

「中川会長。どうやら、一波乱起きそうですね。」

 

振り返り、彼女にそう声をかけると、いつになく彼女の顔は不安の色が濃くみえた。そうだろう。彼女も予想外だったようだ。つまるところ不意打ちに近い形。まあ、予想はできていただろうが、こんなにも早く仕掛けてくるとは思わなかっただろう。

 

「ええ。」

 

ポツリとそう呟く。

 

「あの、少しお話しませんか?」

 

そんな誘いを受ける。

 

「何故?」

 

「あ、いえ。特に意味は…。ただ、なんとなく。あ、嫌なら別に構いませんよ?」

 

奇妙な空気が流れる。何だか不思議な空気だ。言葉では言い表せない。なんとなく懐かしいような、久しぶりに感じるような、初めてなような。

 

「かまいませんよ。打倒三船栞子の作戦でも練りますか?」

 

「へ?」

 

彼女はポカンとした表情をこちらに向ける。

 

「どうかしました?」

 

「い、いえ。もしかして…私を応援してくれるんですか?」

 

「まあ、何だかんだ長い付き合いですからね。」

 

それに、三船栞子は確かスクールアイドルをよく見ていなかった。この学園のスクールアイドルに面倒な規制などをすれば、俺が困る。俺の元の世界へ戻る可能性を失う、または規制されるわけにはいかない。俺の計画のためにも、中川菜々には勝って貰わなければ困る。或いは三船栞子に直接学生のある程度の自由は保証されるよう、敢えて奴の誘いに乗って生徒会の役員になるか。

 

「えへへ。なんだか嬉しいです。」

 

彼女は嬉しそうに、そして少し恥ずかしそうに笑う。

 

「まあそれに、私にも、私の考えがありますから。」

 

そんな会話をしていると、彼女の後ろから緑のアッシュが入った少女が「せ…中川さん!」と呼ぶ声が聞こえる。

 

「侑さん!あ、すいません。では放課後、仕事が終わったらですが、よければ生徒会室に来てください。では。」

 

と言い、侑と呼ばれた少女の方へと走っていった。

 

「あの娘、たしか演劇祭の時の。」

 

そういえば少し前に話した気がする。まあ、どうでもいいことだが。

 

この世界に来てから随分時間が経った。向こうはどうなっているだろうか?部隊はどうなっているのか。俺はどんな扱いになっているか。下手すれば行方不明のまま捜索が続いているか。やあ、俺はここにいる。遠くまで来てしまったよ。ずっと遠く、遥か彼方に。

 

「山上君…だっけ?」

 

目の前からいかにも年上、といった感じの少女が喋りかけてくる。誰だったか。見たことはある。名前が確か

 

「初めまして…ではないわよね。」

 

「ええ。」

 

疑いの眼が面倒だと思いながら、彼女の名前を思い出す。

 

「朝香果林さん。」

 

そう、そんな名前だ。

 

「随分生徒会長と仲が良いのね。」

 

何を考えている?そう言いたげな声と雰囲気。

 

「まあ、それなりですがね。」

 

「彼女とはどんなお話をしてたのかしら?」

 

「他人のプライベートが気になるなら、お互いもう少し打ち解けてからにしませんか?」

 

面倒な奴だ。

 

「言ってくれるわね。」

 

「貴女が私を疑い、怪しむのは勝手ですが、それ相応の対応はさせて頂きますよ。」

 

「なら警告しておくわ。もし彼女を裏切ったり悲しませまり、妙な真似をしようとしたら、覚悟をすることね。」

 

面白い。血が昂る。いけないとはわかっているが抑えきれない闘いの衝動。挑発するそっちが悪いんだぜ。

 

「ええ。上等。」

 

ピリピリと肌がざわめく感覚がする。視界がよりクリアに見え、相手の顔を見据える。

 

「ッ!…そう。」

 

果林は思わず一歩下がり、ゆっくりと後ろを向き、歩いて行った。

 

「まあまあだな。」

 

一歩下がった時点で、彼女の負けは決まった。これ以上畳み掛ける必要は無いだろう。鍵として彼女は重要だが、学園生活ではほんの少し邪魔な存在だと感じた。

 

「教室に向かうか。」

 

陸はそのまま教室へと向かって行くことにした。そういえば今日は委員会室でコーヒーを飲めなかったな。と思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

授業も終わり放課後。風紀委員会室での作業も終わる。辺りはすっかり日が暮れ、空には月が浮かんでいた。

 

「さて、帰りましょうか?」

 

委員長の声がかかり、バックを掴んで部屋から出る。

 

「私は少し用件があるので、部屋の鍵は私が閉めてときますから、先に帰っていて下さい。」

 

「わかったわ。でも、あまり遅くまで残ったら駄目よ。」

 

そんな会話を交わし、委員会のメンバーが帰っていく。

 

1人学園に残る。ただ1人だ。やはり校舎が大きいというだけあって、より孤独を感じる。

 

「まあ、どちらにせよ独りであることに変わりは無いが。」

 

そうとも、俺はこの世界でただ独りだ。たった1人の自衛官。全国24万人が今や1人だ。

 

そんなことを考えながら生徒会室へと向かう。ノックをして部屋に入ると、そこには中川菜々が1人椅子に座っていた。

 

「同じですね、初めて会ったときと。」

 

目の前に生徒会長が1人、面接の時の話だ。

 

お互い向き合う。

 

「いいえ、時間が違いますね。あの時は夕方でした。」

 

そんなことを言うと、中川菜々は少し不満げに「そこは、「そうですね。」とかそんな風に答えて下さいよ!」と抗議する。

 

「せっかく少し漫画っぽいシチュエーションにしたのに。」

 

とブツブツと文句を言っている。

 

「漫画?」

 

「へ?あ、何でもありませんよ!何でも!」

 

どうやら彼女は漫画が好きらしい。

 

「私も昔読んでましたよ、漫画。」

 

「え?な、なんて作品ですか!?」

 

そんなことを言うと、彼女は食い気味に聞いてきた。かなり漫画が好きなのか、それとも俺が読んでいたということに驚いたのか。

 

「忘れました。」

 

「え~。内容とかも覚えてないんですか?」

 

いつもとはまた違ってテンションの上がった彼女に驚く。

 

「残念ながら。しかし、お好きなんですか、漫画?」

 

そう聞くと彼女は少し恥ずかしそうに、コクりと頷く。聞けば、アニメやラノベ?とかゆう物も好きだとか。しかし、両親は厳しく、アニメや漫画も禁止されているため隠れながらこっそり追っているらしい。当然スクールアイドルも。

 

「いつか理解してくれると良いですね。貴女のこと。」

 

「はい!」

 

そう元気よく答える少女の笑顔は眩しくて。

 

「お勧めは?」

 

「私が今はまっている内容は、異世界ものです!」

 

「…異世界もの?」

 

なんだか身近な単語に思わず聞き返す。

 

「はい!え~っとですね、説明すると。ある世界の軍人が仕事中にうっかり眠ってしまいます。そして目を覚ますとそこは自分の知っている世界とは違う世界!異世界に飛ばされてしまうんです!その軍人はその世界の学校に通うことになってしまうことになります!そして、その世界からどうやって元の世界に戻るのか!?その世界でその軍人に与えられた使命は何なのか!?その世界に飛ばされた運命と神に孤独に抗う主人公の姿は感動です!!!」

 

その後も彼女のマシンガントークは暫く止まらなかった。どうやら興味のある内容はとことん熱くなってしまうらしい。それは誰も変わらない。しかし、どこかで聞いたことあるような身近な話で笑いそうになる。

 

「それで!は!す、すいません!!!つい。」

 

途中で素に戻ったのか、彼女が謝る。

 

「いえ、とても楽しそうですね?」

 

「はい!漫画やアニメの主人公達の姿を見ていると、凄く勇気が湧いてくるんです!」

 

彼女の楽しそうな姿に思わずこちらも楽しい気分になってしまう。これも奴に乗せられているのか。いや、きっとこれは。

 

 

「さっき説明したラノベ?でしたっけ。なんて題名なんですか?」

 

「おや!興味を持ってくれたんですか!?このラノベのタイトルはですね『狼は迷わない』です!よければ全巻お貸ししますよ!」

 

「狼は迷わない…ですか。」

 

「はい!」

 

「ところで陸さん、今気づいたんですが、大丈夫ですか?」

 

「なにがです?」

 

「いえ、口元が少し傷ついているので。」

 

思わず自分の口元を触ると、ほんの少し鈍い痛みがあった。どうやら昨日切れていたらしい。全く気づかなかった。

 

「ああ、昨日少し転んでしまって、その時傷ついたみたいですね。」

 

そんな他愛の無い話をする。

 

「来てくれてありがとうございます。陸さんとお話できて、少しホっとしました。」

 

そんな言葉を洩らす。

 

「不安ですか?」

 

「ええ。三船さんは、私よりもずっと優秀ですし、生徒のことをきちんと考えています。」

 

確かに彼女は生徒自身の能力を見極め、その能力が最大限活かせる場を用意させることができるだろう。彼女は優秀だ。人を見る目がある。見極めることができる。彼女は強い。

 

「確かに。しかし、彼女には遊び心が無い。」

 

「え?」

 

そう、彼女は固すぎる。固すぎる物は脆い。いつか壊れてしまう。ある程度は柔軟性が必要だ。

 

風紀委員会室にいる時、彼女を応援するプレゼンやアピールを見た。そして、

 

 

 

中川菜々は敗けるだろう。俺の予想が正しければ。俺の計画が狂ってしまう可能性があるが、勝敗が目に見えてしまった今、別の計画を立てる必要がある。まあ、どちらにせよ三船栞子の生徒会長生活も長く続くとは思えないが。

 

 

「貴女の作った学風、結構気に入ってるんで、頑張って下さいね。」

 

そう労う。

 

 

彼女は少し呆けるが、そのご力一杯の笑顔で

 

「はい!やるからには敗けるわけにはいきません!絶対に勝ちます!」

 

と答えた。

 

「私も探し物が見つかりそうなので、お互い頑張りましょう。」

 

「本当ですか!?良かったですね!」

 

「ええ。まだ見つけ出すには、ほんの少し苦戦しそうですが、必ず見つけ、取り戻してみせますよ。」

 

お互いに顔を見据え、力強く頷いた。

 

部屋から出る時こんなことを言われた

 

「陸さん!もし私が勝ったら、陸さんの探し物私も一緒に探させて下さいね!」

 

「…ええ。良いですよ。」

 

君は敗けるから。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。