迷える狼/New Front line   作:筋肉バカ

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OVER LOAD※ナイトメア

「明日か。」

 

生徒会長再選挙、ここで中川菜々は敗北する。その時俺はどうあるべきか。慰める?励ます?裏切る?どれもありきたりだ。ならばいっそ大胆に三船栞子に啖呵を切り、宣戦布告でもするか?いや、それも目立つ。風紀委員として、1人の生徒に肩入れしすぎるのも問題だろう。

 

「ッ。三船栞子も面倒な奴だ。」

 

全く、酷い頭痛がしてきた。

 

あの人間擬きもいつ仕掛けてくるかわからない。警戒が必要だ。肉体、精神をより鍛え上げ、来るべき戦いに備える。例え世界が平和ボケしていようと、牙を研ぎ続ける。己自身の錬度をより向上させ、必ず勝つ。

 

「少し眠るか。」

 

シャワーを浴び、布団へと横になる。

 

願わくば、次に目覚めたとき元の世界に戻っているように。そんな淡い期待を込める。

 

別にこの世界が嫌いなわけじゃない。むしろ俺のいた世界よりもずっとマシかもしれない。なんというか、世界全体が安定している。特に酷い争いも無ければ、血が流れることもない。世界が緩くまわっている。気を張っているこっちがバカらしくなるくらいに。最高だ。何に怯えることもない。

 

ただ

 

「気にくわないのさ。」

 

この世界に俺がいるということが。

 

「ふぅ。」

 

溜め息をひとつ吐くと、俺はゆっくりと瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽の光が射し込み、俺はゆっくりと目を覚ます。

 

洗剤の香り、柔らかいベッド、見慣れないタンス。

 

「だろうな。」

 

やはり元の世界には戻れない。だが焦る必要は無い。鍵なら見つけてある。そうとも、その通り。いずれこの悪夢を終わらせられる。なんだかそんな気がする。あのクソ野郎を殺し、ツケを払わせてやる。そしたら演習を終わらせ、仲間達と1杯やろう。

 

そう考えながらハンガーにかかっている虹ヶ咲の制服に身を通す。相変わらず着心地の悪い制服だ。

 

「陸く~ん。朝ごはんもうすぐできるよ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…何だ?

 

 

今確かに声がした。

 

何処から?リビングからか。…奴か?

 

奴が来たのか。腕時計を確認すると、時は正確に刻まれている。

 

「妙だ。」

 

気配を殺しながらリビングを偵察しようとする、が

 

「陸君?も~、また昨日遅くまでスクールアイドルの勉強でもしてたのかな?」

 

 

スクールアイドル?勉強?何言ってる?

 

パタパタとスリッパ?を履いているような足音がする。

 

こっちに来ているのか?

 

俺は素早くタンスの近くに身を隠す。

 

ドアノブがゆっくりと動き、扉が開かれる。

 

そこにいたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう。しょうがないな♪」

 

 

 

…誰だ?

 

「あれ?いない。どこかな?」

 

ピンクっぽい髪色をした少女だった。

 

「ん~、トイレ?」

 

パタパタとまたその少女はリビングへと向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰だあいつ?」

 

いや、見たことはある。だが名前が出てこない。そう、確か奴はスクールアイドル同好会の人間だ。

 

何が起きてる?また何か変わったのか?別の世界に飛ばされたのか?

 

机の上のボールペンを握り、いつでも戦闘可能な態勢を整え、リビングへと向かう。

 

酷い頭痛がする。

 

ゆっくりとリビングに近づき、そいつを見る。

 

「あいつ、確か高咲侑とかいう娘の隣にいたやつだな。」

 

なんでそんなやつが家にいる?しかもやたらと親しげだった。

 

その少女は鼻歌を歌いながらキッチンで料理を作っている。

 

味噌汁の香り。それに何かを焼いている。あれは、卵焼きか?野郎、人の冷蔵庫の中身を勝手に。

 

大きく深呼吸をし、身体に力を込め、脱力する。

 

「化けの皮を剥いでやる、クソ野郎。」

 

そう呟き、素早くリビングに突入する。

 

「誰だ。」

 

そいつはビクッと身体を震わせると、こっちを恐る恐る振り替える。やがてこちらの姿を捉えると、何故かホッとしたような表情になり

 

「陸君!どこにいたの?」

 

と親しげに話しかけてくる。

 

「…誰だお前。」と言いかけようとしたその時、酷い頭痛が襲いかかる。

 

「イッッッ!!!んだこれッッ!!!」

 

「陸君!!?」

 

思わず膝をつく。

 

「大丈夫だよ、"歩夢ちゃん"。」

 

!!?何言ってるんだ俺は!?

 

「本当に?でも辛そうだよ?休んだ方が良いんじゃない?」

 

「本当に大丈夫だって。昨日もスクールアイドルについて調べたら夜更かししちゃって。」

 

ほんの少し苦笑いをしながらそう答える。

 

 

なんだ?なんの会話してるんだ?スクールアイドルの勉強?そんなものしてないぞ?会話の流れが頭に無理矢理入り込んでくる。

 

だが何だ?記憶が。頭が割れそうだ。無いものを無理矢理頭に叩き込まれているような、そんな気持ちの悪い感覚。

 

「そっか。もう!無理しちゃダメ。ちゃんと休まなきゃ駄目だよ!」

 

そう彼女に指をさされる。

 

「えへへ。ゴメンゴメン。」

 

奇妙が悪い。なんだこれ?吐き気がする。

 

「ちょっとベランダに行ってくるね。脳を活性化させないと!」

 

そう言い、ベランダへと向かう。

 

「ハァ、ハァ、ハァ。なんだ今の会話!?」

 

ベランダで再び膝をつく。頭痛が収まらない。むしろ酷くなっていく。まるで何かに支配されているような、そして

 

"俺が俺でなくなるような"そんな気持ちの悪い感覚。上書きされているような。

 

「あれ?俺?"僕"?何でベランダなんかに?」

 

クソクソクソクソ!何だ?何だこの感覚は!?

 

「…俺って、何だっけ?」

 

違う違う違う!落ち着け!深呼吸、身体に力を込める、脱力する。繰り返しだ。

 

思い出せ!思い出せ!思い出せ!俺を見失うな!俺は!

 

 

「陸上自衛隊!第1普通科連隊!陸山衛!そうだ!それが俺だ!」

 

制服が戦闘服へと戻り、小銃が肩から下げられる。

 

迷うことなく小銃を握り、リビングへと戻り、そいつ、上原歩夢へと銃口を向ける。

 

「…だ、誰?陸…君?」

 

怯えるような表情でこちらを見る。惑わされるな、こいつはあの人間擬きに違いない。奴が俺をこの世界に取り込もうとしているための幻影だ。なんとなくだがそう感じる。確証はない。勘だ。

 

「残念だなクソ野郎。言ったはずだ、俺はシブといってな。」

 

安全装置を解き、単発へと切り替え引き金を引く。身体の中心ではない、足を狙う。

 

バギンッ!という炸裂音が部屋に響き、奴は「ヒッ!」驚き飛び上がる。まるで自分が殺されるのではないか?という恐怖の表情を浮かべながら。そんな表情に違和感を抱くが、すぐに銃口を今度は確実に仕留めるべく身体の中心へと向ける。油断はしない。あの表情も、こちらをおちょくっているに決まっている。奴が単発の弾を受け止めたのは知っている、今のは牽制射撃だ。

 

次にセレクターを3へと持っていく。銃だけで仕留められるとは考えていない。ここから更に3連射で隙ができるか見計らう。仮に隙ができたなら次は連発を叩き込みあわよくばダメージを狙う。

 

「3点射だ。止めきれるか?」

 

バギギギンッッッ!!!という連続した炸裂音が部屋に響きわたる。火薬の匂い、そしてグジュッ!グシュッ!グジュッ!という肉を貫通した音。

 

…グジュ?

 

 

 

 

 

 

 

「ゲボッッ!!り、く…く、ん!?」

 

 

 

 

 

 

「………は?」

 

鉄の焼けたような不快な香りが部屋に立ち込める。

 

ドサリッ!と重たい塊が倒れる鈍い音がする。

 

「ゴボッ!」

 

ヒュー、ヒューッ。という苦しげな息づかい

 

「なん…だ?」

 

意味がわからない。倒れている少女もまるで信じられないと言いたげな表情で、目尻に涙を浮かべながらこちらを見てくる。

 

家の床が赤黒く染まっている。その染みは俺の足元までゆっくりと進んできていた。

 

頭がクラクラする。目の前の少女は、奴じゃない?じゃあ、あの娘は誰だ?

 

「あ、上原歩夢か。」

 

思い出した。そういえば高咲侑が「歩夢」と呼んでいた。苗字は奇妙な記憶の混同があったときに知った。

 

「何だ、これ。」

 

理解が追い付けない。

 

『君はもう、戻れない。』

 

「あ?」

 

振り替えると白髪のあの奇妙な存在が立っていた。

 

『君は人殺しだ。この世界の存在を君が殺した。君はもはや自衛官でも何でもない。ただの自分のエゴと思い込みで人を殺した犯罪者だ。そうだろ?』

 

 

確かに。その通りだ。

 

 

「で?」

 

『は?』

 

「だから何だって?安い挑発だな。」

 

素早く振り返り引き抜いた銃剣で切り込む。

 

スパンッという子気味の良い音がし、そいつは俺を興味深気に見つめてくる。

 

『ほお。』

 

「やはり、簡単にはいかないか。」

 

俺は銃剣を構え直し、そいつを睨み付ける。確信した。このクソみたいな現象は奴が原因だと。

 

『それはこちらの台詞だ。』

 

「さっさと俺を元の世界に返して貰おうか?もうこの世界は飽き飽きだ。」

 

『お前、本当に人間か?』

 

「ああ、シブとい人間だ。」

 

互いに沈黙。なにを考えているのか、奴にはわかっているのか?

 

『お前に興味が湧いた、陸山衛。殺すのは次にしてやろう。』

 

「そりゃ良い。ご慈悲に感謝だな。」

 

俺はそいつの服が僅かだが切れているのを見逃さなかった。あの銃剣を振るった瞬間、初めて手応えを感じたのだ。だが、今はまだ奴には勝てない。奴が引くなら、それにこしたことはないだろう。

 

『もう一度聞く、何故この世界に染まらない?それに、あの娘を殺しておいてその冷静さ、興味深い。』

 

「簡単だ、俺はこの世界の人間じゃない。それに、この世界には刺激も少ないしな。あのガキには悪いことをしたが、どうせお前の差し金か何かだろ?それとも、俺の動揺でも誘うつもりだったのか。…まあ、何が目的かは知らないが、この程度で俺は折れるつもりは無い。」

 

『理解できないな。君は。』

 

「する必要も、されるつもりもない。とにかく、俺の求めるものはこの世界には無い。なら、いる必要も無い。」

 

『優木せつ菜は、ずいぶん気に入ってるみたいだが?』

 

「ま、あれはこの世界のお気に入りだ。あんな熱血タイプ、俺の世界でもそうそう見ない。おっさんは熱い若者に弱いのさ。だが、あのガキがお前の手先として動いたなら…」

 

俺はほんの少し殺気を込める。

 

「殺す。」

 

『ふむ。…次は決着を。』

 

「ああ、そのつもりだ。」

 

ゆっくりと意識が遠のいていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目覚まし時計の音が部屋に鳴り響く。

 

「…夢?」

 

最悪な夢だ。

 

俺はボーっとする頭を切り替えるため、シャワーを浴び、顔を洗う。夢だというのにやけにリアルだった。あの焼けた肉と血の臭いがまだ鼻に残っている気がする。ほんの少し洗面所で嗚咽する。今日は朝飯が食べられそうにないな。

 

「さてと。」

 

今日は生徒会長再選挙の日だ。

 

「さっさとこのクソゲーを終わらせてやる。」

 

あのまま、俺とは違う俺を受け入れてしまったら、俺は敗れていただろう。

 

だが、俺は勝った。人を殺してでも。覚悟の差というやつか。それとも、俺の頭のネジが外れてしまったのか、どちらにせよイカれてなければできないことだろう。

 

奴に言われた『本当に人間か?』と。人間だとも、俺はイカれた人間だ。

 

だからこそここまでやってきた。必ずお前を殺し、元の世界に帰る。それだけのためにここまでやってきた。決着をつける。

 

ヒラリと手紙が落ちる。やはりあの夢は奴が見せたものなのだろう。

 

拝見ー

 

決着を。

 

 

 

 

 

俺はクシャリと手紙を握り潰しゴミ箱に捨てると、着心地の悪い制服に身を通した。

 

「上等。」

 

最後の戦いだ。何を犠牲にしたとしても、俺は必ず勝つ。俺は自衛官だ、だがそれ以前に1人のイカれた人間だ。もし仮に、この世界の人間と元の世界の人間、天秤にかけられたなら、俺は迷わず後者を選ぶ。理由は聞くまでも無いだろ?

 

 

俺は世界を救う勇者でも、世界平和をもたらす神の使いでも、正義のヒーローでもなんでもない。俺の世界の日本を護る存在。1人のエゴイストなのだから。

 

「俺は俺の正しいと思うことをやるだけだ。そして、元の世界に戻る。これがこの世界でやるべき正しいことだ。」

 

それ以外はオマケか邪魔なだけだ。俺の任務はただ一つ、帰還せよ。ただそれだけだ。スクールアイドルも、優木せつ菜も、そのための駒にすぎない。




人間擬き/???

衛をこの世界に送り込んだ存在。本人曰く神の使いらしい。衛が選ばれた理由については、宝くじで当たったようなもの、つまりただの偶然である。しかしこの世界に馴染まず、元の世界へ戻ろうと抗う強靭な精神力を持つ衛に対し興味深く思っている。

陸山衛を消し、山上陸としてこの世界の存在の1つにさせようと目論んでいる。
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