迷える狼/New Front line   作:筋肉バカ

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敗北の先に

生徒会再選挙の方も終わり、一波乱終えた陸は雨に降られながら拠点へと足を運んでいた。

 

『せつ菜ちゃんは、結局貴方にとって道具みたいなものだったの!!!』

 

 

 

「…道具、か。」

 

雨に濡れた自分の手をゆっくりと眺める。制服は何も変わらず、白いままだ。半袖であるためか、夏場だというのにほんの少し肌寒い。

 

「道具。」

 

道具という言葉を反芻する。その通り、優木せつ菜は道具だ。彼が元の世界に戻るために利用する道具の一つ。だが、その一つは今日壊れた。最も、生徒会長という一部だけだが。替えのパーツはもうある。新生徒会長の三船栞子だ。彼女は中川菜々よりも扱いにくそうだが、生徒会長というパーツとして重要だ。粘り強くやっていこう。どのみち、彼女の方針はいずれあの学園に綻びを生むだろう。適正を見抜き、その個人にあった活動を勧め、行わせる。思春期という不安定な感情を持った彼女達は、明確な答え、方針を与える三船栞子という存在をありがたく思うだろう。精神的に不安定な時こそ、人は答えを欲しがるものだ。

 

そして、いずれ自由が欲しくなる。遊び心もまたしかり。彼女の天下も最初だけだろう。最も彼女が変われば話は違うかもしれないが。

 

「まったく。スクールアイドル同好会、厄介な奴らだ。」

 

優木せつ菜は純粋だった。勿論、高咲侑も。だが、高咲侑の反感を買った以上、これから先のステージへと向かうには一苦労しそうだ。

 

「もう少し丁寧に帰すべきだったかな。」

 

舞台裏での会話を思い出す。今思えばもう少し自分にも言い方があっただろう。だが、これ以上下らない関係を増やすつもりがなかったのもまた事実だ。それに後悔しても時間は戻らない。次の一手を打たなければ。自分に残された時間もそう長くない。陸は直感的にそう感じていた。

 

「秘密を解き明かさなければ。」

 

自分の姿が戻る秘密を。

 

バシャバシャと後ろから何かが付けてくる音がする。誰だろうか?と後ろを振り返れば、傘もささずに中川菜々がこちらへと走りながら向かってきていた。まあ、傘が無いのはお互い様だが。

 

彼女は陸の前で足を止め、潤んだ瞳をこちらに向けてくる。泣いているのか、それとも雨のせいかはわからない。

 

「…陸、さん。」

 

「風邪ひきますよ。」

 

最初の一言はそれだった。何故ここに来たのか?とか、自分を追っていたのか?とか、そんな疑問も浮かぶが、わざわざそんなことを聞く必要も意味も無いだろう。

 

「…それは貴方もです。」

 

ザーザーと雨の音が静寂を包む。

 

「敗けました。」

 

「ええ。残念ながら。」

 

淡々と答える。

 

「…私は「時には。」…?」

 

何かを言おうと菜々が口を開こうとするが、陸の言葉によって阻まれる。

 

「時には、雨も悪くありませんね。」

 

「はぁ?」

 

そんな意味不明な言葉が彼から発せられる。

 

「夏の暑さがほんの少し和らぐ。まあ、風邪をひかないよう注意も必要ですが。」

 

「雨、好きなんですか?」

 

そう聞くと彼は首をふり「いえ、どちらかといえば嫌いです。」と答える。

 

「たまには悪くない。それだけです。基本は御免ですがね。色々と面倒なんですよ。雨が降ると。」

 

そう話す彼の顔は、時々見せる寂しげな表情へと変わっている。

 

「雨に良い思いでなんてほとんどありません。ただ、数える程度ですが、良い思い出もあります。」

 

また、何を言いたいのかよくわからないことを言い出す目の前の男に、菜々はなんだか不思議な気分になる。なんとなくだが、彼は励ましてくれてるのではないか?そんな気がする。長い付き合い、といっても数ヶ月だが、そんな彼女だからこそなんとなくそんな雰囲気だと察していた。

 

「人生、良い出来事の方が案外少ない。むしろ悪い、嫌な出来事の方が多いものです。まあ、だからこそ良い出来事が起きたとき、心から喜べるのでしょうが。」

 

「そう思いませんか?」なんて聞いてくる。菜々はただ頷くだけだった。

 

瞳から雨とは違う暖かいものが流れ、頬を伝う。

 

「泣いているんですか?」

 

「雨ですよ。」

 

ほんの少し声が涙ぐんでしまうが、強がってそう答える。それに対して彼は「結構強いですし、仕方ありませんね。」と答える。彼は恐らく気づいているだろうが、敢えてそれ以上言及はしなかった。そんな距離感が心地良い。

 

「戻らないんですか?」

 

戻る?

 

「ちゃんと帰りますよ、家に。」

 

そう答えると、彼から意外な言葉が返ってくる。

 

「スクールアイドル同好会の方には?」

 

守ると約束した、でも守れなかった。彼女は約束を破ったのだ。そんな場所に

 

「戻る価値はありませんか、貴女には。」

 

「!!?」

 

まるで自分の心を見透かしているかのように彼は淡々と言葉を続ける。

 

「まあ、それは貴女の自由ですし、好きにすれば良いでしょう。」

 

そう。彼ならそう答えると信じていた。ならば私は潔く同好会から身をひこう。そう考える。

 

「しかし。」

 

「へ?」

 

さらに言葉が続く。

 

「貴女がどう思うにせよ、それは貴女の個人的な意見です。戻る価値があるかどうか、それは貴女が決めることでは無い。価値があるか、それは自分個人だけで判断するものではありませんよ。」

 

「どういう、意味でしょう?」

 

「貴女に戻る価値があるかどうか、それは貴女の仲間が判断することです。とだけは言っておきますよ。」

 

 

「…皆さんは、私をきっと軽蔑しています。勝手に同好会を辞めて、守ると約束しておきながら守れなくて…そんな自分勝手な私を、誰が認めてくれるんでしょうか?」

 

 

「さあ。」

 

解りっこない。そんな風に彼は答える。

 

「それは、ご自身で確かめてみては。」

 

「しかし、「逃げることも重要ですが、時には勇猛に立ち向かうことも必要ですよ。」…立ち向かう?」

 

「ええ。貴女はそう簡単に逃げる人にはみえませんが、どうでしょう、優木せつ菜さん?」

 

そう言われ、なんとなくだが心の底から僅かに力が湧いてくる気がした。

 

「世界を大好きで溢れさせる。そんな大きな野望を持ったスクールアイドルが、こんなところで敗けるとは思えませんがね。」

 

 

最後の一押し。

 

菜々の瞳が力強く光ったように感じた。そして

 

「当然です!私はまだ敗けていませんよ!例え生徒会長でなくても、私はスクールアイドル、優木せつ菜の心は失っていません!」

 

ほんの僅かだが、彼女の制服が赤い衣装へと変わった気がした。DIVE!の時とは違う、まるで炎が巻き起こるような力強い衣装、その変化に少し目を擦る。すると彼女は強く拳を握って仁王立ちをして、こちらを見ており、制服のままであったことにほんの少し驚く。

 

「陸さん!ありがとうございます!」

 

何故か彼女から礼を言われ、困惑する。

 

「あ!さては何故自分がお礼を言われてるか解っていませんね!?」

 

と、ほんの少し悪戯っぽい笑みを浮かべながら「陸さんらしいです!」と言われ、ほんの少し煽られているような言葉にムッとするが、まあこんなことも悪くないかと思い直し、陸もこの世界で初めて、彼女の強さに少し優しく笑みを浮かべてしまった。まるで、成長した子供を見るかのように。勿論、優木せつ菜に気づかれないようにだが。

 

せつ菜は、ほんの一瞬だが山上陸から柔らかい雰囲気を感じた。彼の顔はいつもと変わらず無表情なままだったが。そんな不思議な感覚に少し戸惑いながらも、陸の方を真っ直ぐと見つめ直す。

 

「私は以前三船栞子から、生徒会へのスカウトを受けていたので、そちらの方を考えていますが、優木さんはどうなさるんですか?」

 

なんだかんだで、初めてせつ菜の方の名前で呼ばれた気がした。いつもは、中川会長、生徒会長としか呼ばれていなかった気がする。そう考えると何だかむず痒い感覚になる。

 

「そういえば、陸さんは最初生徒会に入りたがっていましたね。」

 

思い返せば懐かしい。そう、彼は最初風紀委員会ではなく生徒会に入ることを望んでいた。しかし、彼女が彼を不審に思い、苦し紛れに風紀委員会へと推薦したのだ。

 

「忘れていました。」

 

「でしょうね。少し入るのに時間がかかりました。」

 

「計画通りですか?」

 

せつ菜が少しわざとらしくそう問うと

 

「いえ、計画とは少し違いますが、まあ及第点といったところでしょう。」

 

そんな返答がくる。

 

「必要な仕事がいくつかありますからね。」

 

そう、三船栞子の行動には注意しなければならない。スクールアイドル同好会。元の世界へと戻るための鍵をここで失うわけにはいかないのだ。

 

意味深にそう呟く陸をせつ菜は不思議そうに見ながら、これから先の行動を考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

計画はどうあれ、彼女、優木せつ菜のやる気が戻って良かった。あのまま意気消沈し、本当に活動停止などされたらたまったものではない。せっかくここまで来たのだ、こんな"下らないこと"で潰れてもらっては困る。彼女には最後まで利用されて貰うのだ。彼女を使い、同好会との親交をほんの僅かに回復させるのもありかもしれない。まあ、できれば無駄な関り合いを避けたいため、このままライブだけ利用させて貰うのも良いかもしれないが。まあ、少なくとも同好会からの信頼は非常に薄いため、そちらの方が手っ取り早い。

 

君たちはただ、黙ってライブをして楽しんでいれば良いのだ。その活動に障害が出るならば、"今"は俺が取り除こう。

 

 

 

陸はせつ菜と別れた後拠点へと戻り、シャワーを浴びて体を暖め、ゆっくりと椅子に腰を据える。

 

「さてどう出る、三船栞子?」

 

邪魔はさせない。何者であろうと、何であろうと。

 

「もう終わりにしたい。」

 

そう願いながら瞼を閉じるのだった。

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