迷える狼/New Front line   作:筋肉バカ

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The game is over※ 狼は迷わない

「あ"あ"あ"ーーーッ!!!」

 

気合いと根性、全てを懸けて走り出す。一撃だ、一撃でも叩き込めればそれで良い!

 

『珍しいな、感情のまま殴りかかるなど、君らしくもない。』

 

「ッせえッ!」

 

バカな真似をしていることはわかる。だが、今の俺は誰にも止められない。長い道のりだった。この世界に迷い混んだあの日から、俺の人生は絶望しかなかった。高咲侑にほんの僅かな時だが「優しいんですね。」と信頼されていた時も、あの眠りこけていた少女に「歓迎するよ。」と穏やかな口調で言われていた時も、全てが絶望だった。この世界は灰色だ。朝香果林、桜坂しずく、中須かすみと睨み合った日々も、綾小路姫乃、三船栞子とやりあった日も、全てが灰色。いや、どす黒い汚泥に浸かっていた気分だった。一部の者がライブを行う時、服装が一瞬戻る。その瞬間だけが唯一の生き甲斐だった。それだけで、可能性を感じたから。お前のせいだ、お前のせいで俺はこんなクソみたいな目に遭っている。お前のふざけた興味本位で、俺の人生は最悪だ。これまで順調、とまではいかないが良い日常だった。当たり前の日常。たった一瞬でそれが崩壊した。お前のせいだ。この怒りの全てをお前にぶつけてやる。そうでなければこちらの気が済まない!

 

 

思い切り拳を振りかぶり、殴りかかるがそれは予想通りあっさりと避けられる。

 

「グァッッ!!!」

 

腹部に鈍痛が走る。奴の拳がこちらのボディを捉えたらしい。相変わらず素早い奴だ。

 

よろめき、膝をつきそうになるがグッ!と堪える。そのまま間髪入れずに右の膝蹴りを繰り出そうとするが、それもまた避けられる。

 

奴の蹴りが来る。俺は素早く両手で体をガードする。ゴッ!!という鈍い音と痛みが両腕に伝わる。ビリビリと腕の痺れる感覚がほんの少し焦りを覚えさせる。

 

「クソが…。」

 

軽く肩で息をしながら様子を探る。

 

 

『良い動きだ。でも、わかるだろ?…いや、わかっているんじゃないか?君では僕には勝てないと。』

 

「ハッ。勝負は最後まで気を抜かないことだな。」

 

そう余裕をみせるが、内心余裕などない。強がりだ。奴もそれをわかっている、きっと。

 

勝てる保証のない戦い。だが、この1戦に全てが懸かっている。敗けるわけにはいかない。いや、俺は敗けたくない。そうだ、敗けたくないのだ。こんな奴に。ただ暇を潰すかのように俺をこの世界に送り込み、訳のわからんことに巻き込み、誰だか知らないような奴らと絡ませほくそ笑んでいる、そんな奴に俺は敗けたくない。こいつは俺の手で倒す、否殺す。それだけだ。

 

「死ねっ!クソッタレ!」

 

小銃の照準を定め、3点射を繰り出す。これはあの上原歩夢の幻影を見せてきた時に使った。

 

バギギンッ!という炸裂音と火花が虹ヶ咲学園の屋上に散り、響き渡る。本来であれば聞くことも、見ることも無い、存在などあり得ない実銃の音、光り。それが聞こえる、見えるだけで、この屋上だけがこの世界とは違う、別の世界が広がっている、俺の世界に一瞬だが戻ったと錯覚してしまう。だが違う。ここはまだ、優木せつ菜達のいる世界なのだ。まだここは敵の陣地、戦場の真っ只中なのだ。

 

 

銃弾はあっさりとかわされ、奴はこちらに突っ込んで来る。

 

俺はそのままレバーを『レ』へと切り替え、連発を奴の正面から浴びせるように射撃をする。

 

バギギギ!!!!!

 

という連続した射撃だが、まるで奴は弾道を読んでいるかの如く、スイスイと避けていく。だが、ここまでも想定内だ。奴が銃弾なんかで大人しく殺られてくれるとは思っていない。

 

さあ、来いよ!俺に向かって来い!

 

奴は俺との間合いに入り、俺の小銃を掴む。

 

メギッ!という音を小銃がたてた。そいつの掴んでいた所を見ると、小銃の銃口がグニャリと曲がっていた。

 

「なっ!!?あり得ねぇだろ!!?ウゲッッ!!!」

 

そう言うと同時に奴の裏拳が俺の顔面を捉えていたらしい。ゴンッ!という音と鈍く重たい感覚がする。頭がグラグラと揺れ、俺はそのまま後ろに吹き飛ばされた。鼻の中が熱い。恐らく鼻血が出ている。口の中にも鉄の味が広がる。だからなんだ。腕が痺れている、関係無い。足に力が入らない?なら顔1つで奴の喉笛に噛みついてやればいい。さあ、立て!立つんだ陸山衛!

 

「グッ、ウっ…。」

 

ズルズルと情けなく身体を引きずらせ、なんとか立ち上がる。奴からすれば酷く滑稽な姿だろう。だが、関係無い。痛いのは慣れている。例えこの両腕が無くなろうと、脚が無くなろうと、顔だけになろうと、この身体が砕け散ろうと、奴を倒す。魂だけとなったとしても屈するつもりはない。

 

ギッ!と奴を睨み付ける。そいつはやはり余裕満々で、まるで『なぜ立つ?』と言わんばかりにこちらを不思議そうにみてくる。ああそうとも、お前にはわからないだろう?俺はお前とも、お前がこれまで見てきた奴らとも違う。

 

「不思議、そうだな?」

 

『理解できない。陸山衛、何故立つ?何故戦う?何故抗う?』

 

何故?わかりきったこと。

 

「俺が…自衛官だからだ。」

 

堂々とそう宣言する。この世界に自衛隊は無い。なら、俺が居る意味も、必要も無い。

 

『意味がわからない。それは解答になっていない気がするが?』

 

「お前が…理解する必要は無い。されるつもりも無い。」

 

頭がガンガンと痛む。気を抜けば意識を持っていかれそうだ。

 

『君は本当に理解に苦しむ。何度も言うが、君みたいな奴はみたことが無い。その諦めの悪さはどこから来る?』

 

「諦めが悪い?人聞きが悪いな。まあ、だが…そうかもな。自衛官は諦めが悪いんだ。それに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は迷わない。俺は迷える子羊ちゃんじゃない。迷ったとしても、その困難でさえ食い殺す迷える狼、そしてその狼は迷ったとしても決して屈しない。必ず帰り道を見つけ、そこに帰る。だから、そうだな、優木せつ菜が好きな小説に例えると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            俺は…狼は迷わない!!!」

 

 

 

 

 

『ふむ、狼は迷わない…か。成る程。面白い。』

 

 

「そりゃどうも。」

 

身体が痛い。全身が軋む、そんな感じがする。

 

「ふぅ。」と呼吸を整えるように軽く深呼吸をする。

 

「なあ。」

 

『なんだ?』

 

どうせ、これで終わりならば。

 

「一本…一本やらせてくれよ。」

 

俺は戦闘服の胸ポケットから一本だけタバコを取り出し、ライターを点けた。

 

『…良いだろう。最期のタバコ、よく味わって吸えば良い。』

 

「御慈悲に感謝するよ。」

 

俺は久しぶりにタバコを咥え、火を点ける。今なら吸える。なんだかそんな気がする。

 

「っ、ふ~、。」

 

煙が肺にゆっくりと送り込まれていく感覚がする。不快感は無い。この世界は灰色だ。俺にとってはだが。彼女達からすれば、この世界はとても光り輝いて見えるのだろう。当然か、自分達の世界だ。輝いて見えないわけがない。こんな世界なら尚更。美しい世界だ。矛盾しているが、そう思える。確かに、俺にとっては灰色だらけの世界だった。どこの誰とも知らない少女達と話して、時に協力して、まあ、あまり良い関係とは言い難いような絡みだったが。この世界の多くが、きっと俺に対し怒っていただろう。

 

 

優木せつ菜/中川菜々、君は少し例外だったようだが。君と話している時、たまにだが世界がほんの少し色付いて見えた気がする。なんとなくだが。気のせいだ、そう考えるようにしていたが、俺はどうやら少し君に大切なモノを貰っているらしい。そんな気がする。

 

「あ~、クソだな。この世界はやはり。」

 

ほんの少し、こんな平和でゆっくりとした時間が続く方が良いのかもしれない。そう思ってしまった、そう感じてしまった瞬間があったかもしれないから。

 

 

だからクソだ。

 

 

 

「ふぅ~。」

 

タバコを吸い終え、地面に捨てて残り火を足で揉み消す。

 

「走り出した思いは、強くする…らしい。」

 

『は?』

 

思わず彼女の曲のフレーズを口ずさんだ。

 

「なんでもない。ちょっとした独り言だ。」

 

俺は腰から銃剣を引き抜く。

 

『最終ラウンドだ。』

 

「奇遇だな、俺も同じことを思っていた。」

 

奴が拳を振りかざし前に突っ込んで来る。どうやらこれでケリをつけるつもりらしい。俺も負けじと走り出す。奴に遅れを取らぬように、奴を倒すために。そして

 

(忘れ物、見つかったよ。)そう堂々と彼女に伝えるように。

 

 

俺とそいつはぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボタボタと嫌な音が地面に伝わる。この世界には似合わない赤黒い液体が、地面をゆっくりと染めていく。

 

「ゲボッ!!!」

 

胃の中から生暖かいものが込み上げてくる。俺は思わずそれを吐き出した。それもまた真っ赤な嫌な色をしていた。生臭い鉄の匂いが綺麗な校舎の屋上に広がる。

 

『見事だ。』

 

奴の拳は俺の腹を貫き、内臓を握り潰していた。

 

 

俺の銃剣は奴の首下数センチのところで止まっている。力が入らない。

 

カランッ。という乾いた金属音が地面に響く。

 

『相討ち覚悟とは、恐れ入った。そんなにこの世界から出たいか?』

 

「ゴボッ。…グァ…。」

 

言葉が出てこない。ヒューッ。ヒューッと、喉の鳴る音がする。

 

『君の敗けだ。』

 

「グ…だ…まだ、敗けてない…。」

 

そいつは少し驚いた顔をする。まるで『まだ、喋れるのか?』と言わんばかりの顔だ。

 

まだ敗けてない。俺はまだ、死んでない。

 

「出たい…。この世界から、俺は…出たい!」

 

血を吐きながら俺はそう言い張る。

 

「俺は、帰る…帰らなければならない!」

 

そう叫びながら、ギリギリと奴の腕を掴み、気合いで押さえつける。

 

 

『なっ!!?』

 

そいつは初めて驚いた表情に変わる。恐いか?この俺が。俺は恐い、元の世界に戻れないことが、陸山衛として、ここで死ぬことが。

 

「俺はッ!恐いぞォォォッ!!!!!」

 

俺はそのまま思い切り拳を振りかぶり、奴の顔面を殴り抜いた。

 

 

『グァッ!!!?』

 

重い手応えを感じ、そいつは仰向けに倒れる。そして、奴はゆっくりと顔を持ち上げると、殴られた場所を手で抑えながらこちらを見てくる。とても驚いているような、どこか呆けたような顔をしながら。

 

 

俺はそいつの顔を睨み付けると、俺はゆっくりと後ろに下がり、間合いを取ろうとするが、いつの間にか俺の視点は奴ではなく白み始めた空を見上げており、そのまま意識が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ暗だ。何も見えない。俺は、敗けたのか?奴をぶん殴ったとこまでは覚えている。そこから俺は倒れた。つまり、やはり敗けたのか?悔しいが、そういうことなのか?だが、そうなれば俺は魂ごと消える、確か奴がそんなことを言っていた気がした。だが、不思議なことに意識がある。痛みが無いのが恐ろしいが。

 

 

『起きなさい。』

 

不意にあの憎たらしい声が聞こえた。だが、何だろうか?どことなくいつもと口調というか、雰囲気が優しい感じがする。そう、ほんの少し慈愛を感じるような、そんな声。

 

目を開けると、奴が俺をまじまじと見つめていた。

 

「何か用か?」

 

そう聞くと

 

『まさか、一発貰うとはな。』

 

と、俺が殴ったであろう場所を擦る。

 

「…殺さないのか?」

 

俺がそう聞くと、そいつは不思議そうな顔をして

 

『殺す?君を?」

 

と聞いてくる。

 

何だ?何が起きてる?

 

「俺が敗ければ、俺はもう無くなるはずじゃないのか?」

 

そう言うと、そいつはほんの少し考え、やがて口を開いた。

 

『ああ、そうだとも。だが、君は見事僕に一撃を加えた。』

 

「だから?」

 

『こんなこと、これまでで初めてだ。わかるかい?君は絶対に抗えないであろう相手に唯一抵抗できたんだよ。』

 

奴は少し興奮気味にそうしゃべりかけてくる。

 

『惜しい。君という存在を無くすのは、あまりにも惜しい。』

 

「それで?一緒に仕事でもってか?残念ながらお断りだ。誰が好き好んでお前と仕事なんてするか。」

 

『それは無理だ。我々と君とでは住む世界が違う。』

 

なら、

 

「どうするんだ?俺はこの世界には『わかっているよ。』…。」

 

 

『君の一撃、君の思い、諦めの悪さ、良いとも、認めよう。君は強い。』

 

思ってもみない言葉だ。奴が俺を認めた。それどころじゃない。奴は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おめでとう、陸山衛。僕が認めよう。君はこの世界に必要無い。君ほどの力と、精神を持ち合わせている存在が、この世界に存在してはいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸山衛、お前は、この世界に存在してはならない!』

 

 

 

 

 

「!!?」

 

 

『君を元の世界へ戻そう。』

 

思ってもいない、予想外な言葉だった。

 

「い、良いのか!?」

 

俺は思わずそう聞くと、そいつは静かに頷き『ああ。』と答えた。

 

「そう…か。」

 

長かった。本当に、気が狂うほどに。ただ、奴があまりにもあっさりと肯定するので、ほんの少し呆けてしまう。また今更だが、奴に貫かれた腹も綺麗さっぱりと治っていることに気づき、その安堵も加わったのか、とても気の抜けた声が出てしまった。

 

『どうした?もう少し居たいか?この世界に。』

 

そいつはわざとらしく俺にそう問いかける。

 

俺は首を横に振り「いや。」と答えた。

 

それにしても、意外とあっけない最後だった。そう考えていると、そいつはある提案をしてきた。

 

『君の強さに敬意を表そう。1つ、何か1つ君の願いを聞こう。無論、元の世界には必ず返す。約束は破らない。それ意外で何か1つ、君の願いを聞こう。何でも構わない。』

 

 

何でも、か。

 

 

 

「本当に、何でも良いのか?」

 

『まあ、あまりにも理不尽なものでなければね。』

 

なら。

 

「1つ、ある。」

 

そう、考えてみればまだこの世界で、いくつかやり残したことがあった。そのうち、これだけはする必要があるだろう。最も重要な、1つが。

 

『なんだい?』

 

 

「俺は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

景色が暗転し、少し焦る。だが、やがて大きな歓声が聞こえ、その焦りは必要ないと心を落ち着かせる。

 

目を開くと、そこには色とりどりのカラフルな衣装を着た少女達がいた。

 

 

奴が横に現れる。

 

『意外だな、君がこんなことを願うなんて。』

 

違うな。『彼女達の、最高のライブを1つ見せて欲しい。』それを願ったのは

 

「俺ではない。私、いや僕だ。」

 

そう自分の、山上陸の胸に手を当てる。

 

奴は『ほう。』と面白そうな声を出し、『では、楽しんでくれ。』と言う。

 

しかし妙だ。この場所は確かに虹ヶ咲学園だが、何かが、そう何かだ。何かが違う。それを察したのか

 

『ここは、可能性の世界だ。君の居た世界とは、また少し違うだろう、あり得たであろう世界の未来だ。』

 

「成る程。あの世界とも、俺の世界とも違うということか。」

 

と納得する。つまりパラレルワールドというやつだ。世界は無数に存在する。なら、あそこにいるスクールアイドルの面々も、俺と出会った者と少し違うということか。優木せつ菜も、きっと。

 

『さて、また後で向かえに来るとしよう。』

 

そう言うと、そいつはフワリと蜃気楼のようにいなくなる。

 

 

後ろからピアノの伴奏が聞こえる。

 

曲が始まり、彼女達のライブが始まる。

 

虹色に輝くそのステージはとても綺麗で。

 

「これが、君たちの言うトキメキ…というやつか。」

 

戦闘服が虹ヶ咲の制服へと変わっていくのがわかる。紺色のズボンに、白いYシャツ、紺のネクタイ。右には風紀委員会の腕章、左には虹ヶ咲テスト生と書かれた腕章がついている。柔らかく、暖かい光が陸を、衛を包み込む。

 

ゆっくりと深呼吸をしながら目を閉じる。身体から力がいや、別の何かが抜けていくような、別れていくような奇妙な感覚を覚え、再び目を開ける。俺の目の前には彼がいた。

 

「衛、さん?」

 

「ああ。」

 

俺は軽く頷く。

 

「これ、彼女達のライブ、ですか?」

 

「そうだ。」と肯定する。

 

「凄い!!?」

 

まるで子供の様に目を輝かせている彼、山上陸を見て、俺もほんの少し微笑む。

 

「TOKIMEKI Runners…という曲らしい。」

 

奴がそんなことを言っていたような、いや、わからないが何故か曲名だけ知っている。

 

「へぇ。でも、なんで、ここに?」

 

「君に見せようかと思ってね。好きなんだろ?スクールアイドル。」

 

彼は少し恥ずかしそうにコクりと頷いた。

 

「借りは返す主義なんだ。今まで、山上陸として戦っていたのだから。」

 

「いや、ほとんど衛さんじゃないですか?」

 

彼はクスクスと可笑しそうに笑う。

 

「だが、この身体は君だ。」

 

彼女達のライブを見ながら、そんな会話をする。

 

「これは、夢…ですかね?こんな凄い綺麗なステージ、初めてだから。」

 

 

そんな彼の問いに

 

「ああ。きっと夢だ。とても長い夢さ。」

 

と答えた。

 

「俺の夢はもう醒める。君はどうする?」

 

山上陸にそう問いかける。そもそも、彼の存在自体あるのか定かではないが。もし仮に、これが彼の最期だとしたら?陸山衛がこの世界から消える瞬間、山上陸はどうなるのだろうか?

 

そんな心配が顔に出ていたのか

 

「大丈夫ですよ!僕、こんなにワクワクするライブが観れて凄い良かったです!だから衛さん、心配しないで下さい!いえ、むしろ ありがとうございます!」

 

そう笑顔で応えるのであった。俺はその笑顔を見て、少し安心する。

 

「そうか。…それにしても、長かったな。」

 

彼女達のライブを再び見ながら、そう口にする。本当に、ここまでよく来れたものだ。まさか、最後にあのクソを一発ぶん殴っただけで帰れるとは。いや、あいつに一発入れられるかだけでも怪しかった。俺はツイていた、それだけだ。運も実力の内ということか。

 

「ええ、長い間…お疲れ様でした。」

 

彼はそう優しく微笑みかけてくる。

 

「ああ。本当に。」

 

彼の労いの言葉を受けとると、彼はいつの間にか居なくなっていた。やはり、彼自信も、この世界に存在しなかったようだ。

 

彼 山上陸が先ほどまでいた場所には何も無く、そこには静かな余韻だけが残っていた。ただそこをボンヤリと眺めていると、再び奴が煙のように現れる。

 

 

『どうだった?』

 

決まってる。

 

「当然、最低だ。」

 

『相変わらず素直ではない。』と奴に苦笑いをされる。素直ではない?それは少し違う。彼女達の凄さも、可能性も認めている。俺はただ、この世界が気に食わないだけだ。だからこそ、この世界の全てが最低なのさ。

 

『では、約束通り…帰そう、君の居るべき場所へ。』

 

「ああ。」

 

これ程待ち望んだ瞬間は無い。

俺はそのまま、黙って奴についていく。最後にフとステージを振り返ると、彼女達が観客に向かって一礼をしていた。

 

 

「「「「「「「「「ありがとうございました!!!」」」」」」」」」

 

 

そんな最後のお礼の挨拶が聞こえてきた。

 

 

俺は再び振り返り奴についていく。その途中で

 

「     」

 

なんとなくそう口にした。声に出ていたかはわからないが、初めてこの世界でそう言った。伝わってはいないだろうが、これがせめてもの、最後の礼儀だろう。さらば、クソッタレた世界。さらば、虹ヶ咲学園。さらば、スクールアイドル。さらば、優木せつ菜/中川菜々。これから先、この世界の未来に、俺は必要ない。山上陸、陸山衛の物語はここで終わりだ。君たちの未来を、君たちだけで繋いでいくと良い。

 

これは、君たちの、君たちだけの物語。未来も、トキメキとやらも、全て君たちのモノだ。大切にすると良い。

 

俺の意識は、そのまま深い闇へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ?」

 

 

 

ステージの終わり際、ふと知っているような誰かの声が聞こえ、優木せつ菜は顔を上げてファン達の方を再び見た。何も変わらない、自分達のことを一生懸命応援し、支えてくれるファン達。だが、何故かはわからないが、ファンとは違う、何か別の、そう別の誰かの声が聞こえた気がした。だが、その声をどこか知っているような気がして。それは男性の声だった。彼女が喋ったことのある男性など父親くらいしかいない。しかし、その声はなぜか安心感と懐かしさを生み出した。そして、その声と言葉はとても、それはとても嬉しい気持ちにさせてくれるものだった。同好会の仲間はどうやら気づいていないようだ。いや、むしろ自分にしか聞こえていないのではないかと思った。何処からかはわからない、ずっと、このステージよりも、いや、それよりもずっと遠い場所からその声が発せられていた気がする。だからこそ彼女は、再びめいっぱいの笑顔をファン達に向けるのだった。ファンにも、何処からか、誰なのかもわからない声の主にも届くように。

 

そう、それはきっと気のせいなんかではない。彼女には確かに聞こえたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たった一言、「ありがとう。」と。

 




衛の最後の願いは、これまで、自分の身体として共に戦ってくれた山上陸への報酬です。

昨日の演出、めちゃ良かったんで、急遽内容にプラスで加えようかなと。
さて、山上陸 陸山衛の戦いはこれで終わりです。ここまで応援して下さった皆様、本当にありがとうございます。最後の終わりかたは、衛が無事元の世界に戻れる。という結末にしていたのですが、正直二期始まってしまってから、この最後までたどり着けるかわかりませんでしたw 栞子ちゃんとかめっちゃ良い子だしw



エピローグもあるので、あと少し楽しんで頂ければ幸いです。
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