迷える狼/New Front line   作:筋肉バカ

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ガラス/水晶

明日は虹ヶ咲学園とY.G.国際学園との合同ライブがあるらしく、やけに校内が騒がしい。誰もがキャッキャキャッキャと誰を推すだの誰を応援するだのと楽しげに話し合い、笑いあい、そして…

 

 

「賑やかだな。」

 

俺はまったくそんな気はしないが。

 

「お互いそうだろ?」

 

目の前に立つ彼を見ながら。

 

二人の間に流れる空気は冷たく重たい。まるでこの楽しげな世界から切り離されたように。

 

「何の用です?」

 

「そうピリつくな、お互い数少ない男子生徒だ、道案内でもしてくれよ。」

 

「あんたに教えることなんてないよ。」

 

彼は苛立たしげに後頭部を掻きながら後ろを向き、歩きだそうとする。

 

「中川菜々。」

 

俺がその名を言うと、彼は身体をピクリと震わせながらこちらを向く。

 

「菜々ちゃんがどうしたの?」

 

不服そうな声で再び彼はこちらを振り向く。

 

「別に。ただ、昨日少し話したんだ。君が俺に学園を案内したか?…と。そう聞かれた。」

 

「…なんて、答えを?」

 

彼はどこか不安そうに聞いてくる。

 

「忙しそうだから断った。」

 

「正直に話さなかったんですか?」

 

周りのざわめきが少し収まってくる。今は放課後だ。そろそろ皆部活やら同好会やらに集まり始めるだろう。ここに男子2人は少し目立つか。

 

「気になるか?」

 

少し挑発気味に

 

「何がです?」

 

「俺の話さ。」

 

そろそろ周りが俺達に目を向けてくるかもしれない。ここらが潮時か? 上手く釣れるか?

 

 

今朝の妙な寒気、彼の力、こちらとしてもヤツからしても黙って見過ごせる状況が終わりつつある。このまま野放しは、やはり得策ではない。少し同情するが、彼にはここらで退場を願うか、それとも彼の善意を信じ再び説得をするか…どちらにしてもここから離脱はすべきだろうが。

 

 

彼は難しそうに顔をしかめる。やがて軽く頷くと

 

「山上君、昨日は忙しくて申し訳ないね。 案内してあげるよ、この学園を。」

 

話しの解るやつは嫌いじゃない。

 

「ええ。是非とも。昨日は道に迷って困りました。助かりますよ。」

 

 

お互いの思惑を秘めながら、2人は目を見合わせる。周りに解りやすく、しかしその心は明かさず。

 

 

2人はゆっくりと学園内を周りはじめた。人目の少ないところへ足を向けて。

 

「で、なんで菜々ちゃんと?」

 

「警備の案が欲しいとかなんとか。俺にする話ではないが、何故かな。」

 

「信用されてるんじゃ?」

 

不満そうに彼は聞く。

 

「前も言ったが、それがこの世界の特性だろう。この世界に迷い込んだ者達を、甘く、魅力的な罠にかける。」

 

「ラブライブはそんな世界じゃないですよ。」

 

「らぶらいぶ?がなんだか知らないが、とにかくこの世界から出るぞ。」

 

「前にも言いましたよね。嫌ですって。」

 

彼の目は強い意思を持っている。テコでも動かないつもりだろうか?

 

「今朝の喧嘩を見た。」

 

そう言うと、彼は驚いたように目を見開く。

 

「…見てたんですか?」

 

「ああ。君の"ギフト"とやらが気になってな。凄い力だ。並の格闘家やスポーツ選手ができるような動きや反応ではない。それに、君の人間離れした肉体の頑強さも。」

 

「貴方にもありますよね?」

 

「俺か?」

 

まるでずっと気になっていたかのように、知りたいというよえな目だ。情報が欲しいのだろう、この俺の力の。 ここで教えるべきか、それとも まあ教えようが教えまいが、いずれ彼は俺に襲いかかる可能性が高い。ならば、早めにケリをつけるのも悪くない…か。

 

「俺は無い…らしい。」

 

「へ?」

 

目を丸くする彼に、少し笑いそうになる。

 

「俺には"ギフト"ってやつはない。近いものはあるらしいが、君みたいに人間離れした力は持っていない。」

 

「じゃ、じゃあ貴方は僕みたいに貰って無いってこと?」

 

「あったらしいが、俺の魂が拒絶したとかなんとか。まあ、紛い物の力があったところで何も意味は無い。」

 

そう言うと、彼はほんの少し下を向いてしまう。

 

そうとも、その力は偽物だ。それは夢尾駆の力ではない。それを振り回し、さも自分の力きのように自慢気にすることに、なんの意味もない。生きている限り、結局最後には自分の力で、自分の心で乗り越えていかなければならないことが山ほどある。 才能なんてその辺に落ちている石ころとなんら変わらない。そこら中に落ちている。その石ころの中で水晶を見つけるのは、どれだけ時間を費やしても見つかるものではない。希に見つけられる者がいる。それは選ばれた人間だ。

君もそうだろう。君はこの世界に選ばれた才能ある人間だ。だが、それはこちらも同じこと。違いは、君は紛い物の力を我が物顔で振るっているケツの青いガキだということ。俺は、力を振るうことしか能のない獣。力は力同士、打ち消しあって消えようぜ。その方が、この世界では都合が良い。そうだろ、神擬き?ガラスじゃ水晶にはなれない。

 

 

「僕は、確かにこの力は貰ったものだよ。でも、ようやく僕はこの力で誰かの役に立てたんだ。」

 

「そんなものなくても、ここの連中は受け入れるはずだ。甘いからな。」

 

そうとも、何も力を貰う必要はない。なんだったら才能すらもいらないかもしれない。無理矢理力を入れて世界が狂うならば、それを失くせば良いのではないか? そうだ。その可能性もある。ヤツは「まだ」と言っていた。いや…無理か。彼の力は今や彼そのもの。そんな都合の良いことはできないか。ヤツも「深く介入はできない。」とかなんとか言っていたし、やはりどこかで彼を連れて行かなければならないだろう。

 

 

「ただの男子じゃダメなんだ!」

 

そんなことを考えていると、彼のそんな悲しげな声が聞こえた。

 

「何故だ?」

 

「それじゃ普通じゃないか。」

 

普通…か。

 

「そうだな…味気ない人生かもな。この世界でも。」

 

「僕は、この力で、この世界に必要とされているんだ。」

 

なんだか雲行きが怪しい。彼の何かがおかしい。

 

妙だ、以前と何か違う。なんだこのイヤな感じは?何か少し不味い。

 

「それは違うはずだ。少なくとも、彼女達は夢尾駆を仲間だと思ってるんじゃないのか?」

 

ここは彼を落ち着かせるのが先決だ。今暴れられれば、俺だけではない、この学園に被害が出かねない。

 

俺達はこの世界の存在ではない。ならば、この世界への被害も最低限度にするのもまた勤めだろう。迷惑はかけない。ここは彼女達の世界なのだから。自分達の世界ではないからと、なんでもかんでもしていい訳はない。関わることは必要最小限に、被害は最低限に。

 

「君の愛する者は、君を愛する者は、君の力だけを見ているのか?」

 

俺がそう問いかけると、彼からほんの少しイヤな空気が抜けていくような感じがする。

 

「歩夢ちゃん…わからない。」

 

歩夢?上原歩夢か?

 

「…上原歩夢…それが君の恋人なのか?」

 

彼は少し嬉しそうに、恥ずかしそうにコクりと小さく頷く。

 

 

なんてことを。 そんな都合の良いことが…。なんて。

だからあの時、一緒に登校していたのか。てっきり、同好会に関わっているからだけかと…。

 

「確かに、歩夢ちゃんはそんな風にはみてないかも。陸山さん、なんだか変な人だね?」

 

「そう…か?」

 

彼は先ほどとはうってかわり、どこか嬉しそうな感じで俺に話かける。

 

「うん。だって「連れ帰る!」って言ってたわりには、全然無理矢理とかしてこないし。なんだったらちょっと勇気づけてくれるし、変だよ?」

 

 

彼の置かれている状況に頭を整理しつつ彼の質問に答える。なんてマルチタスクなんだ。クソ、ふざけた状況にしやがって。おそらく彼は、戻りたいなんて言えないだろう。

この世界でも強力な存在に、スクールアイドルに愛を受けているのだ。そう簡単に引き剥がせるものではないだろう。

尚更、力ずくでいかなければならない。 俺はこの世界が嫌いだ。このふざけた甘さが。この甘さがこのクソみたいな状況を生んだと言って過言ではない。

 

 

「俺は…なんだろうな。 とにかく、お前を連れて帰ることは変わらない。それは確定事項だ。覚悟は決めておけ。」

 

「…やっぱり、貴方はわかんないよ。なんで…そんな哀しそうに、でも目は冷たい。無理矢理感情を殺してるみたいに。」

 

「…同情するなら、一緒に来て貰えると助かるんだがな。俺にも、待ってる奴らがいる。」

 

「そう。僕に関係ないよ。でも、それは貴方も同じのはずだよね。僕がどうなろうと、この学園が、虹学の皆がどうなろうと知ったことじゃない、そんな冷たい目だ。」

 

先ほどの暖かい雰囲気から一転し、再び空気が重く、冷たくなる。

 

「そろそろ案内も終わりで良いかな、山上君?僕はそろそろ、Y.G.学園との合同ライブの手伝いと準備で忙しいんだ。」

 

「…それは結構。成功を祈ってますよ。まあ、絶対に失敗などないんでしょうが。」

 

 

「どういう意味かな?」

 

「ここは、そういう場所…ですからね。言ったはずです。ここは、よく知ってるんですよ。」

 

静寂が2人の男を包み込む。

 

「僕は出ていかないよ。」

 

彼は後ろを向き、廊下を進んでいく。

 

「あ!駆先輩!どこ行ってたんですか? 璃奈さんやかすみさんが探してましたよ!」

 

茶色いポニーテールの女子生徒が彼に近づいてそう叫びながら腕を引いていく。

 

「桜坂しずく…か。」

 

彼女は俺に目を一瞬合わせると、少し会釈する。

 

「すいません、もしかして学園案内の途中とか…でしたか?」

 

ばつが悪そうにそう聞いてくるので

 

「いえ、ちょうど終わったところです。明日のライブ、頑張って下さいね。」

 

と声をかけておく。

 

「あ、私は別に明日はでなくて。あ!でも今まではソロだったんですが、今回は4人でユニットを組んでライブを行うので、また新しい楽しさがあると思いますよ! 良ければ明日、見に来ませんか?」

 

まさか、あれだけ警戒していた彼女からお誘いが来るとは。

 

「申し訳ありません。少し諸事情があるので、また今度の機会に是非。」

 

「そうですか~。 わかりました!さ!行きますよ、駆先輩!」

 

 

「わ!ちょ!しずくちゃん!そんなに引っ張ったら腕取れちゃうよ~!!!」

 

「先輩が悪いんですよ! まったく、ライブの準備のこと忘れて新しい男子生徒さんに道案内なんて!」

 

「いやゴメンって!忘れてなかったんだってば~!!!」

 

 

 

明日、Y.G.国際学園とやらに行くのか。国際交流は確かに興味深いが、スクールアイドルはどうでもいい。

 

引きずられていく夢尾駆を眺めながら、陸山衛は大きくため息をつき、今後の方針に頭を巡らせる。

 

 

「前途多難…すぎだな。これは、ウィスキー1本では足りないぞ、クソ野郎。」

 

俺は誰もいない空に向かい中指を立て、彼の引きずられた後を歩き拠点へと戻ることにした。

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