世界に物語があるとしたら、その物語とは例えるなら精密な機械だ。パーツが1つでも無くなれば、物語は止まる。狂えば世界も狂う。パーツが増えれば、それは世界を、物語をより円滑に進めるか、或いは…。
「侑ちゃん、昨日あの転校生と何を話してたの!?」
高咲侑は、今少し困った状況にあった。幼馴染である上原歩夢に詰め寄られていたのだ。まあ、原因は分かっている。先日、思わず山上陸なる転校生と喋ったのだ。喋ったといってもほんの数分、なんでもない、当たり障りのない会話だ。しかし、彼女はそれを異常なまでに心配してくる。昔から歩夢は何かと心配性なところがある。まあ、そこがK・A・W・A・I・Iのだが。
「そんなに心配しなくても大丈夫だって、別にそんな大した内容も話してないし。ただ、しずくちゃんの演劇凄かったですね〜って話しただけだよ。」
「心配するよ〜っ!だって、何かあったらどうするの!?」
どうやら歩夢は彼のことをよく思ってないようだ。彼女だけではない、この学園の大半は彼に良い印象を持っていないようだ。彼はなんだか"不気味"だと。
確かに少し変な感じはしたが、私としてはそこまで悪い印象は持っていない。礼儀正しく、真面目そうな生徒だった。
スクールアイドル同好会の部屋でそんなやりとりをしているうちに、他のメンバーもやって来たようだ。
「ヤッホ〜!お、愛さん一番乗りと思ったら、もう先客が!」
奇抜な印象のある宮下愛を先頭に、続々とメンバー達が顔を揃える。これで、8人。あと2人で全員が揃う。
「あれ?せっつーと果林は?」
「せつ菜先輩と果林先輩ですか?さあ。」
愛の問いかけにかすみが答える。
「せつ菜先輩は、少し生徒会の仕事があるって…言ってた。」
璃奈の返答に、全員が『忙しいね。』と答えるのだった。
「ライブ…ですか?」
「ええ。東雲学院、藤黄学園とDIVER FESにと、思いまして。通して頂けますか?風紀委員さん。」
軽く目の前の少女2人、近江遥、綾小路姫乃を見る。
陸は、生徒会室へと要件があって向かうところ、虹ケ咲と違う制服の少女2人を見かけ、呼び止めたのだ。
「すみません。生徒会長にお会いになるのでしたら、私が案内しますが。」
陸は、遥よりも姫乃という生徒の方を注視していた。正直言って、彼の性格、性質上あまり好きではない態度だ。何か隠しているような、試して来ているような雰囲気。あまり好印象ではない。
「いえ、私共は生徒会ではなく、スクールアイドル同好会の皆様に要件がありますので。」
「では、お手数ですが、生徒会長から許可の申請等正式な手続きを行ってから同好会の方へと向かって下さい。」
どんな理由があるにせよ、申請と許可はとる必要がある。それが組織としてのルールである。
「わかりました。では、案内をお願いします。山上陸さん。」
陸はほんの少し警戒しながら2人を生徒会室に連れていくのだった。
「どうですか?虹ケ咲学園の雰囲気は?」
姫乃がそう話しかける。
「良い雰囲気ですよ。設備も整っていますし。学食もまあまあ美味しい。」
そんな陸にとってどうでもいい会話をしてくる。
「では…スクールアイドル同好会については、どうですか?」
不意にそんな質問がやってきた。元の世界に戻るために自分が接触を試みようとしていた場所だ。少しバカバカしいが、あまりにもこの世界は『スクールアイドル』という単語が多く、強く存在していた。たかだか子供のやるアイドル。この世界に留まり過ぎて、頭がおかしくなってしまったのかもしれない。だが、あらゆる可能性を探るべきだ。
正直陸にとって、藁にも縋る思いだった。それほどまでに彼は追い詰められていた。孤独な戦い。共に戦ってくれる仲間もいない。まさに孤軍奮闘の状態である。彼は独りぼっちだ。
「さあ。私もこの学園に入ったばかりなので、よくわかりませんが。よく噂になっていますよ。」
「興味が無い…と?」
「いえ、少しありますよ。」
鍵としてならば。
「綾小路さんは、何をお考えで?」
虹ケ咲学園のスクールアイドル同好会を大規模なフェスにご招待。少なくとも悪い話ではない。むしろプラス。単純に考えればの話だが。恐らく彼女は違う考えだろう。
「特に深い理由はありません。」
にこやかにそう答える姫乃に対し、更に嫌な印象が強まる。腹の底に何かを隠しているのか。それとも好意か。
「何にせよ、我々虹ケ咲学園を試すのであれば……
もう少し言葉と、態度に出して頂ければ幸いです。」
彼の瞳が姫乃を見据えた時、姫乃はほんの少しゾッとした。
「まあ、私も人のことをあまり言えた立場ではまりませんがね。」
彼は少し笑いながらそう付け加えた。
彼の隠していた何かをうっかり覗いてしまったような、そんな不気味な感覚を覚えたのだった。
隣にいた遥は気がついていたのだろうか?彼の制服が、いつの間にか違う服装に変わっていた、そんな気がした。まるで、映画でしか見たことのないような、高圧的な印象を持つ服装へと…ほんの一瞬だが。夢だろうか?疲れているのだろうか?
確かに今から、自分の憧れである朝香果林に会えるということで、大きく舞い上がってしまっている自分がいるかもしれない。昨日は少し興奮と緊張で、よく寝付けなかったものだ。寝不足だろう。そう自分に言い聞かせ、山上陸という奇妙な存在の後ろをついていくのだった。
同好会には、仕事を終えたせつ菜と果林が部屋に加わり10人となっていた。
「山上君ってさ〜。」
宮下愛が口を開く。
「何ていうか…変、だよね?」
明るく、積極的で、人の良い所しか見ていなさそうな彼女から出る珍しい感想。
「いや〜、愛さんも男子生徒ってことで最初話しかけようかな〜って思ったんだけどさ〜。なんか話しかけにくいっていうか〜…。ねぇ?」
「う〜ん。悪い人には見えないんだけど。」
彼女に同調するように、エマ・ヴェルデが困り顔でそう答える。
「やっぱり、なんか違和感があるんだよ。何だろう…
何ていうか言葉にしにくいんだけど、私達とは何か違うっていうか
特別っていうか、別って感じ。」
そんな侑の言葉にせつ菜を除く全員が頷くのだった。
「せつ菜は彼とたまに話してるみたいだけど、どうなの?」
果林の問いかけに、せつ菜は少し考えながら、
「そうですね。何でしよう。皆さんの言ってる通り少し不気味な印象があったのですが、最近は何となく陸さんの不気味さの正体のようなものを掴んだ気がします。」
彼から感じる得体の知れない何か。
「陸さんって、なんだか全部の物事に関して関心が無い…と言いますか。そう、心を感じないんですよ。」
心が無いとはまた違う。まるで心だけ何処か別の場所に置いてきてしまったののではないかと感じる、少し寂しそうな雰囲気。無機質な笑顔がせつ菜の頭に浮かぶ。
綾小路姫乃と近江遥、この2人がやってきたのはちょうどそんな話を終え、これから先のスクールアイドル同好会について話し合い始めた時だった。
「スクールアイドル同好会の皆さんに、お客さんのようです。」
話題に上がっていた人物と共に。
果たして彼はこの学園をどう変えていくのか、どう入り込んでくるのか
彼はこの世界に歓迎されているのか、それとも…招かれざる客なのか。それは彼女達も、彼自身すらも解らないことだ。
彼女達は彼を良く思っていない。当然だろう。何故なら彼自身もまた、この世界を良く思っていないのだから。
願わくば、そろそろ決着をつけ終わりにしたい。そう思いながらも、彼は10人の少女達を瞳に映すのだった。
拝啓】ー狼よ。孤独な狼。君はたった1人のイレギュラー。
君がいくら精強なる戦士でも、独りの傷は埋められない