迷える狼/New Front line   作:筋肉バカ

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マリオネット

夕暮れが来る。風紀委員会室での作業は酷く退屈なものだ。委員長、副委員長、他のメンバーを横目で見ながらパソコンに向き合う。あまりデスクワークは好きじゃないが、仕方ない。問題ある生徒はブラックリストに、優秀な生徒にはある程度の自由を。大切なことはルールを守ることだ。自由とはルールの中にある。逆を言えば、ルールを守り、秩序、規律を乱さなければ、迷惑さえかけなければそれなりの自由が保証される。民主主義万歳だ。即ち、その自由を奪うことは何人たりとも許されず…そんな権利も無いわけだ。

 

「会長、鍵は私が閉めておくので、先に上がられては?」

 

ショートカットに切れ目、少し鋭い雰囲気を醸し出す委員長。彼女はチラリとこちらを見ると、ため息をつき、軽く背伸びをしながら

 

「山上君こそ先に帰ったら?なんだか凄い疲れてるようにみえるけど?」

 

と返してくる。

 

実際最近また眠れない日が続いている。顔にも出ているということは、そろそろしっかり睡眠をとりなおす必要があるだろう。正直言って、寝る時間さえ惜しいのだが、回復せずに未知の何かに挑むというのもまた無謀であり、非効率的だ。だからある程度きたら休む。3日程度ならば、3時間の睡眠でそれなりにまかなえる。だが、キツいものはキツいようだ。

 

「では、本日は全員で早上がり…でどうでしょう?」

 

「賛成ですね。」

 

委員長の一声により、今日の委員会は解散となった。

 

委員会もまあ、最初よりも馴染めているようだ。初めは誰もが疑いの目を向けてきたが、大人しくしているお陰で目につかなくなってきたようだ。とはいえ、まだ自分に疑念を持たない人間は多い。信用を勝ち取り続けなければ、こちらも自由に動けない。忍耐が必要だ。

 

この世界に来てどれ程経っただろうか?疲労と焦りだけが募っている。だが、手紙を見る限り少しずつではあるが何かが進んでいることは確かだろう。

 

 

俺をこんなクソに巻き込んだ奴は後で後悔することになるだろう。その為にも牙は研ぎ続けている。

 

 

初めてこの学校のスクールアイドルを見た。何人か見たことのある人物がいたが、全員が俺を奇妙な目をして見ていた。いや、1人は顔を隠していたな。男子生徒ということで、好奇心があるのか、それとも疑念か。まあどうでもいいことだ。

 

 

 

誰も居なくなった委員会室の鍵をかけ、少し廊下を歩く。日が落ち、辺りは薄暗く、空には月と星が浮かんでいた。

 

「空は何処も一緒…か。」

 

 

空は変わらなかった。俺のいたあの世界と何ら変わりない。普遍的な空。

 

 

父親が言っていた。「面倒には関わるな。」と。だが、こうも言っていた。仮にその面倒が、自分にとって大きな価値を持つとしたら

 

 

 

「関われ、そして巻き込まれろ。嫌と言う程に…」

 

 

頭の痛い話だ。

 

 

少し眠い。空いていた休憩スペースに腰を据えると、連日の疲労が残っているのか、意識が遠のいていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何時間経っただろうか。生徒の声も何も聞こえなくなり、虫の音が僅かに聞こえる。

 

「寝すぎたか。」

 

焦りはしない。別に今は寝過そうが上司に酷く怒られることは無いのだから。

 

ゆっくりと腰を起こし、拠点へと戻るとしよう。椅子に座って眠っていたせいか、身体が痛い。

 

「あ~、久しぶりに寝心地の悪い最低な目覚めだ。」

 

そういえば、この世界に来て季節も変わった。俺の世界は夏だったが、この世界は春だった。始まりの季節。やはり、何かに動かされている。そんな奇妙な実感がある。つまり俺はこの世界における人形。神の創り上げた、便利で使い勝手の良い操り人形なのだろうか?だとしたら笑い話にもならない。腹立つ野郎だ。

 

荷物を持ち、ゆっくりと廊下を歩く。すると音楽室から何やら曲が流れていることに気がついた。

 

「…何だ?」

 

学校の怪談にでも巻き込まれたか?幽霊やら怪奇やらをぶちのめして終わりなら、それで終わりにしてやろう。だが、そんな単純な話ではないだろう。

 

「この世界は。」

 

悪ガキを探すとしよう。

 

廊下を先程より早足で歩き、音楽室を覗く。見れば、演劇祭の時に話しかけてきた少女 高咲侑がピアノを使っていた。

 

注意をしようと部屋の扉に手を掛け、開けようとする…が、目の前から別の生徒が走ってこちらに向って来るのが見えた。

 

「全く…」

 

面倒な。

 

まず、目の前に来た生徒を

 

「何をしてらっしゃるんですか?」

 

止めた。長い黒髪、黒い瞳…この顔に見覚えがある。この世界にきて、学校に通い始めたばかりの頃だ。名前は

 

 

「確か…せつ菜。そう、優木せつ菜さん…ですよね?」

 

目の前の少女はピクりと身体を震わせ、俺に目を合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか、侑さんを探していたら彼に会うとは思いませんでした。

 

せつ菜は内心少し焦りながら、目の前の男 山上陸を見る。

 

真っ直ぐ私を見る彼の瞳は何処か濁っている。辺りの暗さ、奇妙な雰囲気と相まって今の彼はとても不気味で…そして何だか哀しい空気を纏っていた。

 

 

「風紀委員の…山上さん。ですよね?」

 

あくまでも初対面であると振る舞う。

 

「ええ。何をしているんですか?学校はとうに閉まってますが。…まあ、私も人のことは言えないので、ここはお互い見なかった、とでもしましょうか?」

 

そんな提案をしてきた。

 

「あ~。私達は生徒会長から、正式な許可を取っているので、その…」

 

と答える。まあ、生徒会長とは自分自身のことなのだから、どうもでも言える。

 

すると彼は「おや。それは失礼しました。」と答え、少しバツが悪そうに頭を掻く。

 

「彼女、探してたんですか?」

 

音楽室にいる侑を指さす。

 

「ええ。」

 

「音楽室の使用許可も、まさか取っている…とは思えませんね。」

 

反撃とばかりに少し意地悪そうに彼がそう問いかける。さすがに侑が音楽室を勝手に使うとは思っていなかった。

 

「…はい。申し訳ありません。」

 

頭を下げ、彼に謝る。

 

「別に、お互い貸し1つで、チャラにでもしましょう。今日のことは、会長にも黙っておきますよ。」

 

「良いんですか?」

 

彼の思わぬ反応に驚きながら返してしまう。

 

彼も仮眠をしていたらこんな時間になり、下校時刻を過ぎてしまったため、見なかったことにして欲しいそうだ。

 

 

「ギブアンドテイク…とは言い難いですがね。」

 

ほんの少しの苦笑い。

 

「では、また明日。次はお互い、上手くやりましょう。」

 

彼は荷物を持ち直し、廊下を歩き去ろうとする。

 

「あの!」

 

思わず呼び止める。

 

彼は少し面倒臭そうに振り返る。

 

「あ…えっと…な、何かあれば言って下さい!」

 

「…?」

 

彼は「何を言ってるんだ?」と言わんばかりに困惑した表情になる。

 

「あ…そ、その!やっぱり忘れて下さい。すいません、変なこと言って。」

 

すると彼は

 

「何もありませんよ。何も。」

 

と軽く答える。「気持ちだけ頂きます。」という台詞とともに。

 

そういえば

 

「あ、良ければ食べますか?」

 

合宿の時にこっそりと作ったが、結局出すタイミングを失ってしまったクッキーを出す。

 

彼はそれを見て、また複雑そうな表情を浮かべながら、「どうも。」と答えてクッキーの入った袋を手に取る。

 

「えっと…また、また明日会いましょう!」

 

咄嗟にそう彼に伝えると。

 

「ええ。お互い見なかったことにしましょう、優木せつ菜さん。」

 

と答えるのだった。「色々とお互い苦労がありますね。」そんなちょっとした労いのような言葉も添えて去っていった。

 

彼の背中は相変わらず、少し小さくみえるのだった。

 

「さて、侑さんを呼び戻しますか。」

 

私は音楽室の扉に手をかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘が下手だな、あの会長。」

 

なんて酷い偽装だろうか。よく今の今まで生徒に正体がバレなかったな。中川菜々が優木せつ菜…か。

 

「まさか、生徒会長直々にスクールアイドルとは。」

 

そう考えると、やはりスクールアイドルという奇妙な存在が鍵となるのだろうか?

 

「それにしても…」

 

チラリとポケットに入れたクッキーの袋を見る。

 

紫色と黒の気色の悪い色をしたクッキーが何枚か入っている。

 

「これもまた、異世界…?」

 

こんな異世界感は味わいたくないものだ。どうみても毒か激物だ。

 

「捨てるか。…」

 

ジっとクッキーを見る。好奇心か、それとも

 

袋を開け、1枚口に入れる。

 

「マッズ…。」

 

不味い。酷い味だ。

 

「クソ。食えたもんじゃないな、やはり。」

 

そう良いながら、2枚目を口に入れる。

 

「不味ぃ。…不味い。…クソ不味い。」

 

3枚目

 

「あの娘、どんな舌してるんだ?味覚音痴か?味覚障害か?」

 

4枚目

 

「腹壊すわ。…クソ不味い。焦げてるし。」

 

5枚目

 

「なんでだクソ。不味過ぎて泣けてくるわ。」

 

6枚目。頬に温かいものが伝う。

 

誰かから何かを貰うのは数カ月振りだ。だが、精神的にはもう何年も経った気がするほどに疲れきっていた。ずっと独りだ。仲間も家族も、誰もいない。彼を知っている者はこの世界に"誰一人"いないのだ。この世界には、山上陸という存在があるだけだ。

 

酷い味だった。恐らく明日は腹を壊すかもしれない。だが何故かすべて食べきっていた。不味かった。だが何だろうか、そのクッキーは味の割には温かいのだった。

 

頬を伝っていたものを拭うと、彼は再び正面を見据え、たった1人の戦いへと挑もうとするのだった。

 

 

 

拝啓】ー 君はどう戦い抜く?

 

 

 

 

 

拠点の椅子に座り、手紙を見る。

 

「…戦い…?」

 

何か起きるのだろうか?学校の秩序でも脅かすような悪ガキでもヤンキーでもやって来るのか?となれば久しぶりに血が滾る。この世界は呑気で気楽すぎて退屈していたところだ。

 

喧嘩なんてガキの頃以来だ。職業の関係上、暴力関係は起こしてはならない。まあ当然のことだが、俺達はより一層厳しい目で見られることになる。

 

「しかし、この世界にねじ伏せるような圧倒的な力を使用したりされたりすることがあるのか?」

 

こんな平和ボケをそのまま形にしたような世界に。

 

力ではない、何か別の戦い方、それも視野に入れるべきだろう。

 

外で花火の音がする。懐かしい火薬の音、火花。

 

「夏…か。」

 

向こうはもう秋か冬に入っている頃だろう。

 

年末までには終わりにしたい。

 

「必ず帰るよ。」

 

携帯に唯一残る自分のいた世界での写真だ。仲間、家族の写真。それを見つめ、寝室へと向かうのだった。明日からまた忙しい毎日が始まる。

 

布団に入り、目を瞑る。身体の感覚が無くなり、ゆっくりとどこかへと落ちていく。いや、堕ちていく?

 

もう終わりにしたいものだ。時々思う。あの時と同じように、目覚めたら元の世界に戻っているのではないか?と。淡い期待を込めて眠るが変わらない。

 

山上陸とは誰だ。答えは1つ。この世界で動く駒だ。元の世界に戻るための手段。必要な人形。必要な名前。必要な身分。

 

「俺は山上陸。虹ケ咲学園1年、普通科…風紀委員。他の誰でもない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『○起きなさい。』

 

よせ、違う。今の俺は○ではない。

私は陸だ。

 

『○起きろ!』

 

『○!』『○?』『○。』『○!?』『○、』

 

 

 

 

 

 

「やめろおぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

夜明けはまだ遠そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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