2020年になったのでドラゴン狩りじゃぁぁぁ!!!   作:蒲焼丼

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これで2章は終わり。
次回から3章掲載開始です。



後日談-2

 

 

 

 鋭い動きを繰り返す体に空気が振り回され、ブンッ、と音が生まれた。

 手足の全てが空を切る感触。率直に、物足りないと思う。

 それはそうだ。受け止める相手がいないのだから。

 

 

「……」

 

 

 いつも通りの訓練のメニューはこなした。時間を確認して屋内に引っ込む。

 時刻は現在午後八時。体の感覚は普段と同じ。夕食はほとんど消化され、あと一、二時間すれば空腹になるはずだ。

 避難民が利用する居住区とは別の、ムラクモ専用のシャワー室に入る。汗に濡れた肌着と下着をカゴに放り込み、端のスペースに入った。

 鉄製のコックを思い切りひねる。

 

 

「……っ、冷たっ!」

 

 

 頭に冷水が降りかかり、自分の声が響く。そこでシキはようやく我に返った。

 いつから自分は意識を失っていたのか。いや意識はあったが、ほとんど無心だった。

 何も考えず、ただ体に刻まれた感覚のままに訓練をこなし、この部屋に入ってコックに触った。この間、頭は空っぽだった。

 ただ意味もなくぼうっとするなんて時間の無駄だ。何かすることはないか。

 ……そうだ、現状を確認しよう。

 

 徐々に温まるシャワーが治りかけの傷にしみる。気が抜けるのを防ぐにはちょうどいい。ヒリヒリと肌を這う痛みを頼りに、シキは自我を頭の中央にたぐり寄せた。

 状況整理も兼ねて、今までの成果を振り返る。

 

 

(帝竜を二体倒した。ムラクモと自衛隊の結束も前よりはマシ。あいつも……なんだかんだいってついてきてる。治癒も前より効果が出るようになってた)

 

 

 ドラゴンたちとの戦いはギリギリだ。だが崖っぷちに追い込まれるからこそ、こちらも目に見える成長がある。反対に、今まで受けた被害も無視できないが。

 

 

(一番痛いのは、ガトウとナガレがいないこと。事実上、機動10班はもう戦力が……)

 

 

 そこまで考えて、頭を洗っていた手が止まった。

 

 ガトウ。そしてナガレ。

 

 ドラゴンが来るよりもずっと前、幼かった自分の訓練が始まる前にムラクモと関係を結んでいた一人と、その数年後に入ってきた一人。

 今よりもずっと背が低かった頃を思い出す。体格も技術も未熟すぎた自分は彼らに勝てないのが悔しくて、時間があれば勝負を挑んでいた。ガトウは今と変わらず豪快に笑い、ナガレは少し困ったような柔和な笑みで相手をしていた。

 

 ……いや、してくれていたのか。

 

 戦うときの体捌きを教えてくれた彼はウォークライ戦で倒れ、自分の技を何度も受け止めてくれた彼は電磁砲を防いで散った。

 そうだ、二人はもういない。訓練中、なにか物足りないと思ったのは、

 

 

「……?」

 

 

 裸の胸に手を当てる。あばらの内側、心臓とは違うどこかで何かが軋んだような気がした。 

 

 

「ああもうっ」

 

 

 不明瞭なもやに浸ろうとする思考を押し止める。

 対ドラゴンから脱線しかけているじゃないか。これ以上、形のない霞みを抱いて何になる。

 髪を振り乱して頭を左右に振った。湯が飛び散り弾けて大きな音が連鎖する。

 体を洗い、包帯とガーゼを交換して寝巻きに着替える。早くストレッチをして、消化の良い物を少し食べて、しばらくしてから眠ろうと計画を立てつつ部屋に向かおうとして。

 

 

「あ、あの」

 

 

 少し先の床をにらみつけながら歩きはじめたところを、誰かに呼び止められた。

 

 

「何よ──アオイ?」

「はい、アオイです!」

 

 

「こんばんは!」と会釈しながら、10班唯一の戦闘員がぱたぱたと駆けてくる。

 なぜだかわからないが、この年上の後輩を見ると少しだけ気分が凪ぐ。裏表のない礼儀正しさに感化されるのだろうか。

 眉間からしわを消す自分に、アオイは少し緊張した様子で背筋を伸ばした。

 

 

「お疲れさまです! あの、帝竜討伐、本当にありがとうございました!」

「それもう聞いたけど」

「あ、そうでしたね。でも、改めて言いたかったんです。……それで、あの」

 

 

 いつものはつらつさとは違い、口ごもるアオイに首を傾げる。

 悪いがこっちは暇じゃないのだ。できれば早めに予定を済ませて睡眠時間を確保したい。

 促すようにあくびをすると、アオイは慌てて口を開いた。

 

 

「ああ、すみません! ……あのう、センパイたち、いつも自主トレしてますよね?」

「してるけど、それが?」

「それ、明日から私も参加させてもらえませんか!?」

 

 

 なんだ、そんなことかと瞬きをする。

 

 

「私、今回の作戦で色々至らないところがあるなって……今さらなんですけど、思ったんです。ほんの少しでも強くならなきゃって。だからお願いします。センパイたちの訓練、私も混ぜていただけないでしょうか!」

 

 

 断る理由はない。むしろアオイはミナトより動ける前衛タイプの異能力者だし、歯応えのある組み手ができそうだ。

 

 

「別にいいけど。やるからには毎日続けなきゃ意味ないわよ」

「はい、もちろんです!」

「……じゃあ明日からね。最低でも午前・午後・夕方で基礎トレとスキルの習熟を確認する。ムラクモ本部フロアにマサキって奴がいるから、一度そいつ訪ねて」

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 

 ありがとうございますーと手を振って去っていくアオイに背を向け、13班の部屋に戻る。ミナトがマサキからもらったサイキックの資料を広げたまま、ベッドの上で爆睡していた。

 部屋の電気は点けっぱなし。勉強中に寝落ちしたのか。ため息を吐いて彼女に掛け布団を重ねる。

 

 泣くわ吐くわで騒がしいが、彼女は死にも諦めもせずここまで戦い抜いてきた。

 無茶振りしないわ、なんてナツメが言ったはずが、ムラクモに入ったその日から帝竜討伐に付き合わされたこともあって彼女の成長は著しい。次々と新しい術を覚えている。

 

 

(『デコイミラー』、だっけ)

 

 

 先日の帝竜戦で発揮し、首都高でSKYの二人と戦ったときにも見せた技。

 帝竜もダイゴもネコも見抜けない術者を守る虚像の盾。囮の鏡。というか自分もわからなかった。さすが特異能力者と言うべきなのか、摩訶不思議なスキルだと思う。

 池袋からの帰り、自衛隊とともに乗り込んだ車の中で、ミナトは帝竜戦前に真っ先にこのスキルを覚えたと言っていた。

 カウンターにつながるゼロ℃ボディといい、臆病な彼女らしい守りの選択。相変わらずビビリだが、有用性はとても高い。

 

 この調子をキープできれば、自分もアオイもさらに成長できれば、次の帝竜も倒せるはず。

 

 そうだ。立ち止まってる暇はない。

 

 のんびりするのもぼーっとするのも、全てが終わってからだ。ドラゴンに負けてしまえば、なにもかも無になってしまうのだから。それ以外は余計な思考、贅肉だ。さっさとそぎ落として次に向かおう。

 部屋を片付けて明日の着替えを用意する。

 シャワー中に胸を蝕んでいた虚無感を忘れ、シキはいつも通りストレッチを始めた。

 

 

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