2020年になったのでドラゴン狩りじゃぁぁぁ!!!   作:蒲焼丼

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3章掲載開始。四ッ谷も四ッ谷怪談もよく知らない。



CHAPTER 3 終わらない月夜  The Lore-A-Lua
16.ミッドナイトパープル


 

 

 

「おい、13班……起きろ。召集だ」

 

 

 ミロクの呼びかけに、いつもなら返ってくるはずのあいさつはなかった。

 

 池袋攻略作戦の疲れが尾を引いて深く眠りこけているのか。いや、あれからしばらく経った。医者監督のもと怪我の治療も休息も十分にできたはず。

 くりかえし呼んでみるものの返事はない。というか、寝言どころか何の物音もしない。

 

 

「おい、おい……13班! おい、ねぼすけ!」

 

 

 返事はない。ずっと前に、声をかけても起きない人間に向かって誰かが使っていた「ただの屍のようだ」というフレーズが脳裏をよぎる。

 一応、プライベートを過ごす部屋なので、都庁の個室にカメラはない。入り口付近に設置してあるターミナルだけでは室内の確認ができず、13班の姿が視認できないことが不安を増加させた。

 

 ウソだろ、と司令室を飛び出そうとして、あることに気付く。

 

 

「あ。そうだ、もしかして……」

 

 

 ターミナルではなく、少女と女性の通信機それぞれに通信をつなげる。

 案の定、部屋ではなく都庁前広場から反応が二つ確認された。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 鋭く空気を切る音が響く。

 シキが白くしなやかな四肢を振るうたび、汗の珠が宙にちりばめられて朝日に輝く。脇にはアオイがいて、シキの真似をするようにナイフの素振りをしていた。

 仮想の相手と組手をするように力強く舞う少女と後輩を遠目に眺めながら、ミナトは自分の指先に意識と精神力を集中させていた。

 

 

「うー……ん」

 

『スキルというとネ、何か特別なことのように感じるだろう? しかし実際は、単に「君の体が元から備えている力」だ。日本語が喋れますとか、自転車に乗れますと大差はないんだヨ』

『つまり何が言いたいかって、もっとあたりまえにスキルを使えってことサ。じゃないとこの先、厳しいヨ?』

 

「ふん!」

 

 

 マサキの説明を思い返しながら、意を決してマナを放出させる。

 爪の先が発熱して空気が蜃気楼のように揺らいだ途端、思い出すまいとしていた瞬間が集中をこじ開けてよみがえってくる。

 酸っぱいものが胃からこみ上げ、耐えきれずに後ろに転がった。

 

 

「ぶはっ! ……ああ、ダメだ……」

「……さっきから何してんの?」

 

 

 地面に大の字になったところにシキが歩み寄ってくる。投げられたタオルを顔でキャッチして、火属性が使えないか試してみたがうまくいかないと正直に答えた。

 

 ドラゴンが地球に飛来してからそれなりに時間が経った。倒した帝竜はウォークライとジゴワットの二体。

 シキに感化され、毎日自主訓練をするようになってからは異能力も着実に成長している。ただ、まだまだ地上にドラゴンはあふれているので、新しい術の習得と既に習得している術の訓練に取り組む日々だ。

 

 ムラクモ試験のあの日からどれだけ成長したのか。今できることを属性・用途別に、スマートフォンのメモ機能に打ち込んでみる。

 主な武器になっているのは氷属性。エネルギーの放出だけでなく、対象に冷気をまとわせ、敵と接触した際に発動するカウンターとなるゼロ℃ボディも使えるようになった。

 あとは首都高の戦いで使った雷属性と、飛行している敵に有効だというプラズマジェイル。前も疑問に思ったけれど空属性ってなんだろう。

 特に属性がないものについては防御と回復の術だ。デコイミラーにキュアにリカヴァ。自身の保護と貴重な回復ソースになるものなので積極的に鍛えていきたい。

 

 

「うーん……」

 

(……技名って誰が考えてるんだろう)

 

 

 という疑問はさておき。

 

 一通りの基礎はこなせるようになってきた、と思う。ここに何が足りないのかはわかっている。

 火だ。火属性のスキルが一切ない。

 だからこうして訓練しているのだけれど、改善できる気がしない。火が出る予兆を感じるだけで、ウォークライの火炎が頭の中を埋め尽くす。恐怖が吐き気になり、すべてを体の外側に押しやるように流れ出てしまう。

 ガスコンロもライターも、どんな状況、物であれ火がまったくダメになってしまった。おかげで電化製品でしか自炊ができない。死活問題である。

 キリノやナツメ、医務室にいるナースや医者たちがカウンセリングをしてくれるが、前進できているかというと怪しい。何かいい方法はないものか。

 

 大きくため息をつく。するとポケットにしまってある通信機からミロクの声が流れた。

 

 

『おい、13班!』

「あ、ミロク」

「おはよう、ミロク」

「おはようございまーす!」

『ああ、おはよう……って、そうじゃない。アオイまでいるのか? 外行くなら前もって言ってくれ』

 

 

 専属ナビゲーターが朝に呼びかけてくるということは、自分たちに出動が要請される案件が来たということだ。

 モーニングコールに感謝を込めてミロクに礼を言うと、彼は微妙に声をうわずらせて別にと返す。少年がそっぽを向く様を想像していると、その声がふと真剣なものに変わった。

 

 

『四ツ谷で新たな帝竜が発見された。至急、会議室に集合してくれ』

 

「帝竜……!」

「これで三匹目ね」

 

 

 熱くなって戦車の上に脱いでおいた上着を片付ける。動き続けていたのに疲れを見せないシキは、肌着の上にセーラーを着て、丈の短いスカートから伸びる脚にサイハイソックスを履いていく。

 布地に包まれていく柔肌と少女を眺めながら、ミナトはふと先日の夜中にキリノから聞いた話を思い出した。

 ミロクとミイナは、ナツメが生み出した命。二人の呼び名は愛称で、正式な姓名があるわけではない。

 

 ではシキは?

 

 彼女は、自分に親はいないと言っていた。ガトウとのやりとりや戦闘慣れした様子を思い出す限り、おそらくミロクたちのように昔からムラクモにいたと推測できる。

 彼女も、生まれたのではなく、生み出されたのだろうか。

 

 

(いや、でも姓名があるし……)

「何ぼーっとしてんの。行くわよ」

「あ、うん」

 

 

 思考が途中で中断された。

 尋ねてみたいが個人の深いところに突っ込んでしまう話だし、たぶん答えてくれないだろう。

 

 

(……私、この子のこと何も知らないなあ)

 

 

 ムラクモ試験で出会ったときよりは意思疎通ができているが、やっぱりまだ距離がある。

 シキ本人にそのつもりはないかもしれないが、彼女は自分に喝を入れてここまで引っ張ってきてくれた。こちらが親しみを感じるには充分なやりとりを重ねてきている。

 もう行きずりだけの縁ではないと思う。だが、仲良くなりたいという願望は彼女にとっては余計なものなのだろうか。

 

 頭の中で複雑に絡み合う念を払って屋内に入る。会議室には一足先に訓練を終えていたアオイを加え、いつもの面子が集まっていた。

 

 

「全員そろったようね。ではキリノ、概要を」

「はい、今回の議題は……新たな帝竜が発見された四ツ谷についてです。四ツ谷の異常については、観測班からの報告でご存知の方もいるでしょう」

 

 

 会議室のモニターに東京の地図が映る。新宿区の中の一部分、四ツ谷が赤く染まり、望遠で撮影されたと思われる画像が表示された。

 紫がかった黒い空。銀砂のようにちりばめられた星と輝く満月が、異界と化した街を妖しく照らし出している。一見綺麗な夜景ではあるが。

 

 

「現在もなお、四ツ谷上空では、終わらない夜……夜空と月が、常時確認されています。夜のエリアでは、ウォークライが逆サ都庁において重力干渉していたときと同じ反応があるため──我々は、この夜の現象も帝竜による現実干渉と判断しました」

「夜が明けない……?」

 

 

 天体とかどうなってるんだと突っ込みたいが、ドラゴンに法則だとか常識を求めるだけ無駄だというのは十分理解している。

 フロワロの開花だけでは収まらない、現実にはありえない空間の変化。今まで相対した帝竜はまだ二体だが、その濃密すぎる経験によって研がれた本能が、討つべき竜がここにいると告げている。

 

 

「現在四ツ谷は、レーダーを遮断してしまう力が働いていて、内部の情報がまったく把握できていません」

「そこで、四ツ谷に部隊を送り込み、実地で調査を行いたいと考えています。実働は13班に、バックアップは自衛隊にお願いしたいのだけれど……」

 

 

 キリノの言葉をつないでナツメが振り返るが、負傷した堂島とマキタの代理として来ているカマチは「すまない」と頭を横に振った。

 

 

「協力したいのは山々だが……隊員のほとんどが、まだ動ける状態じゃない」

「……でしょうね。これ以上無理はさせられません。かといって、13班単独任務というのもリスクが高いわ。……さて、どうしたものかしら」

 

 

 ナツメの危惧に「私たちだけでもいける」とシキが立ち上がる予感がしたが、彼女は口を閉じたまま静かに会議を聞いていた。

 いや、聞いているというよりは顔だけ前に向けていて、心ここにあらず、といった雰囲気。目はモニターを映しているだけで、何か別の、ここにはないものを見つめている。

 

 彼女の頭の中と四ツ谷調査の問題がどちらも気になり、視線が少女とナツメの間を右往左往する。

 数秒の後、意外な人物が挙手したことで会議室の視線は一点に集まった。

 

 

「僕に、行かせてください」

 

 

 緊張した面持ちでキリノが手を挙げていた。ナツメが一瞬意外そうな顔をして、続きを促す。

 

 

「今回は、四ツ谷に探査機を持ち込んで、実地で調査をすることになります。となれば、技術者のバックアップは必須かと」

「──承認します。現場経験ゼロのあなたに頼むのはやや不安がありますが……。今はそんなことを言っていられる場合でもない……キリノを信用します」

「あ、ありがとうございます」

 

 

 出会ったばかりのときは総長の従者というイメージが強かったが、池袋の一件以来、より積極性を見せるキリノの姿勢は認められたようだ。

 うなずいたナツメに眼鏡の奥の瞳がぱっと輝くのを見て、いつぞやの夜更けに彼が見せた表情を思い出す。やっぱりナツメのことを慕っているのだろう。いろんな意味で。

 心なしかはつらつとするキリノには、ただし、とナツメが釘を刺した。

 

 

「無防備で向かわせるわけにはいかないわ。一人だけ護衛を付けさせて。……アオイ、やってもらえるかしら」

「えっ」

 

 

 次に視線を向けられたのはアオイだ。池袋の件以降ほとんど出番のなかった彼女は、指名に一瞬キョトンとして自身を指差す。

 

 

「私、ですか? いいんですか?」

「もちろん。あなたは機動10班のメンバー、ガトウとナガレの後輩だもの。改めて、お願いできる?」

「は、はい……はい! 任せてください!」

 

 

 信を宿したまっすぐな総長の視線に、赤髪の後輩は何度もうなずく。明るい表情もサイドテールの跳ね具合も元通りだ。ナツメの微笑みも雨天から晴れ間に移ったような柔らかさがあって、言葉なくとも通じ合えた二人の姿に思わず頬がゆるんだ。

 

 

「では、作戦は以上とします。それぞれ、準備を進めてちょうだい」

「13班、四ツ谷までは僕がバンを出すよ。準備ができたら、外に出てくれ」

 

 

 準備といっても、メディスやマナ水などの道具は常日頃から補充する習慣をつけているし、装備もファクトリーで新調された武具のサイズ調整を済ませてある。数回の訓練を重ねて、使い心地も調整も完璧だ。

 最後に医務室で出発前の健康診断を済ませ、アオイとキリノを加えた四人で都庁前広場に出て、黒バンの後部座席に乗り込んだ。

 シートベルトを絞める中、窓の外から控えめな声が耳に届く。

 

 

「シバさん」

「はい? あ、ナツメさん……?」

「こんな少人数での作戦は初めてね。経験を積んだあなたたちなら、大丈夫だと信じているけれど……。そうでなくても、四ツ谷は状況が知れないわ。今まで以上に注意してちょうだい。あとは、これ」

 

 

 珍しく見送りに降りてきたナツメが、差し入れだと言って人数分の食料を手渡してくる。

 ムラクモ総長は少し恥ずかしそうに、そして心配そうに、自分だけに聞こえるよう声を小さくして告げる。

 

 

「池袋の任務では、迷惑をかけてごめんなさいね。これからもよろしくお願いするわ。体に気を付けてがんばってちょうだい」

「……もう大丈夫ですよ。体調のほうも、そっちのほうも、全部問題ないです!」

「そう? それじゃあキリノ、お願いね」

「はい!」

 

 

 バンから離れて手を振るナツメに、キリノは力んだ笑顔で応える。続いて彼はハンドルを握り、肩を上げ下げしてふんす、と鼻を鳴らした。

 

 

「運転なんて久しぶりだなぁ! 少しワクワクするよ……!」

 

「……」

「……」

「……」

 

「……えーと、君たち、なんで座席にしがみついてるんだい?」

「暴走しそうな気がして」

「爆走しそうな気がしまして」

「事故っちゃいそうでちょっと怖いです!」

「ちゃ、ちゃんと安全運転だよ!」

 

 

 女衆のそろった声に失敬なとキリノはハンドルを回し、バンは静かに都庁を出発した。

 

 都庁から四ツ谷まではそう遠くない。同じ新宿区の中にあるため徒歩でも一時間程度だし、機材を運ぶのも兼ねて車での移動となった今回は二十分程度で到着できる。

 夜が明けないとはどういうことか、四谷の空に確認できる星は幻なのか現実のものが同じ場所に固定されているのか、なんて気になることを話していれば現着まではあっという間だった。

 

 

「三人とも、もう到着だよ、準備を頼む」

「はーい!」

「……まだ全然明るいですけど、四ツ谷の夜っていうのはどう──」

 

 

 キリノに声をかけられて前を向いた瞬間、ふっと車内が暗くなる。

 すわ車体の異常かと強張ったが異音も異臭もしてこない。慌てて車内のライトを点灯させると、あんぐりと口を開けたキリノがフロントガラスに反射して見えた。

 

 

「え、あれ……?」

「わー!? 窓の外、すっごく星が見えます! いつの間に夜になっちゃったんですか!?」

 

 

 今はまだ午前のはずだ。腕時計の短針は間違いなく9と10の間を差している。

 しかし自分たちを迎え入れたのは、太陽の代わりに月が昇り、青空の代わりに夜空が広がり、白い雲の代わりに星が浮かぶ、文字通りのよる。

 車を止めて降りてみれば、朽ちた様子の建物の間に湾曲した橋……背骨の形をした渡しがかけられていた。

 

 

「な、な、なんだ? ここは……まるでホラー映画の世界じゃないか」

「あれ? キリノさんってば、もしかして震えてます?」

「こ、こら! バカなことを言うんじゃない」!

 

 

 そういえば、今まで都庁の内側で働いてきたキリノが、帝竜の領域に踏み入るのは初めてだった。目の前に広がる異界におののく彼を、すっかり(というか初めからだったが)慣れた様子のアオイがからかう。キリノは冷や汗を浮かべながら気を鎮めるように眼鏡を上下させた。

 

 

「僕はこれでも科学者だ。科学で解明できないことは、この世にないと思ってるクチだからね。ただ、ちょっと……その……寒気が……しないか……?」

「え~、そうですかね? あ! キリノさん、お腹空いてるんじゃないですか? 食べかけでよければチョコバーどうぞ!」

「いらーん! というか、任務中はおやつ禁止だ!」

 

『おい、13班』

 

 

 おどろおどろしい景色に似合わぬコントのようなやりとりを繰り広げる二人をよそに、通信をつないだミロクが現状の説明を始める。

 

 

『こっちからスキャンを試してみてるけど……やっぱりエラーコードが返ってくる。そっちは完全に情報が遮断されてるみたいだ。帝竜の居場所はおろか、周辺の地形すら、把握できない……マップ表示も不可能だ』

「ま、マップも? 通話以外は何もできないってこと?」

『そうなる。……なあ、キリノ。本当に、こんな何のデータもない状況で作戦を実行するのか? オレは……反対だ』

「……とはいっても、待っているだけじゃデータは集まってくれないからね。こちらで探査機を展開すれば、四ツ谷の状況だって明らかにできるはずだ。……というわけで、まずはダンジョン解析のために13班には探査機の設置をお願いしたい」

 

 

 ターミナルを設置し終えたキリノが、両手で持てる大きさの機械をこちらに二つずつ手渡す。しげしげと見下ろす自分たちの顔が丸いレンズが反射された。

 帝竜の異界化もすごいが、それをこの機械四台で解析できるなら人間の技術もあなどれない。圧倒的な規模の異世界と小さな技術の結晶。ドラゴンと人間の対比みたいだ。

 

 

「ダンジョン全域をカバーできるように一定の間隔を空けて四台の探査機を設置してほしいんだ。そして、その探査機から送られてくる情報をこのベースで集積し……僕がチューニングした上で、ナビに送る。このチューニングって作業がポイントでね。職人的なカンと数学的な分析能力が双方要求される……非常に難度の高い──」

 

「はーい、そこまで!」

 

 

 延々と続けられそうな説明にアオイが割り込む。このままではいつまでたってもダンジョン攻略が始められないとキリノを遮り、彼女は13班に笑顔を向けた。

 

 

「ではセンパイ、気を付けて行ってくださいね! 探査機さえ設置すれば、キリノさんが速やか~にマップを復旧してくれるらしいですから」

「せっかくの僕のターンなのに……しかしとにかく、僕はチューニングに集中したい。とても繊細な作業なんだよ。ナビはミロクに任せたぞ」

『……了解』

 

「で、でも、二人は大丈夫なんですか? もしここにもドラゴンとかマモノが出てきたら……」

「ここはダンジョンの入り口なので、奥に行かなければ大丈夫ですよ! キリノさんのことは私がしーっかり見てるんで、心配無用です。センパイこそ、こんな不気味な場所を単独チームで探索なんて……あ、そうだ! せめてこれを持っていってください!」

「え、チョコバー? いいの?」

「ダンジョンの中じゃ、ゆっくりお弁当を食べるわけにもいかないでしょう?」

 

 

 アオイが腰に巻き付けたポーチからチョコバーを取り出し、移動しながら食べられて、意外と腹にもたまるのだと利点を述べる。彼女はCMモデルばりの笑顔で自分の好物をかじってみせた。

 

 

「こんなこともあろうかと、今日はたくさん持ってきてるんです。ファイトですよ!」

「うん……ありがとう」

「それじゃあ二人とも、くれぐれも気を付けて」

 

 

 設置したターミナルとにらみ合う上司と天真爛漫な後輩に見送られ、背骨を模したような大橋を渡り、夜の街に踏み込む。

 

 

『おい、13班。さっそく探査機の設置にかかるぞ。最初は、そこから100mくらい先だ。マップにマーカーを付けて──って、使えないのか』

 

 

 ミロクのため息に、彼と同じくムラクモ本部に常駐しているスズキという職員を思い出す。自分たちの視界を共有するモニターと、各種反応を映し出すモニター、そして膨大な数値データ。ナビはそれらを同時に処理していて、並の人間にできる技ではないと彼は言っていた。

 あまり強調したくないが、ナツメに生み出された天才児というだけあって、彼らの情報技能は揺るぎない安定感がある。けれど今回は探査機を設置するまでその超絶技術にも頼れないのだ。暗闇も相まって一層不安が増す。

 

 作業量が減って手持ち無沙汰なのか、通信機からギイギイと椅子の背もたれを揺らす音が聞こえてきた。

 

 

『まったく……こんなに機能が制限されてるのに、どうしろっていうんだよ……』

「ミロク、大丈夫?」

『ああ。とにかく、そのまま道なりに進んでくれ。それっぽい場所で声をかけてくれれば、オレが判断するからさ』

「うん。わかった……怖くない、怖くない……」

 

 

 今にも「出そう」な雰囲気を醸し出す暗闇の中に、自身に暗示をかけて一歩ずつ入り込んでいく。

 本来はどんな街だったのか知らないが、今の四ツ谷はビル街だ。自分たちは建物の屋上に立っていて、ビルからビルへ、入り口と同じ骨の形をした橋が架かっている。見る限り、地上に降りることはなさそうだ。

 

 ミロクに言われた通り道なりに進み、時折鉄製の階段を上がって高いところまでのぼり、周りの景色を確認する。

 進んできた道を確認するためでもあるが、何かが後ろにいるのではという恐怖も手伝ってしょっちゅう振り返ってしまう。持参したメモ帳に道順を書き込みながら、後ろにいるシキを見た。

 

 

「な、なんかやけに静かだよね。気のせいか肌寒いし……」

「……」

「シキちゃーん……?」

 

 

 少女は返事をしない。無視しているわけではなく、聞こえていないのだ。

 首都高でタケハヤに会ったときからだ。シキは考え事をしているように地面を見つめ、ほとんど口を開かない。今も、後ろからついてくるだけ。

 ナビの補助もなく、いつもダンジョンを突っ走っていたチームメイトも動かない。途方に暮れそうになる気を引き締め、マモノやドラゴンの影がない広い場所を探した。

 

 

「ミロク、ここはどう?」

『……うん、距離も地形も問題ないな。そこに一台目を設置してくれ』

「了解」

 

 

 鞄に入れていた探査機を足もとに下ろす。

 折り畳まれていた脚を開いて設置された探査機は起動音をたて、忙しなくアンテナとレンズを動かし始めた。数秒して、キリノから通信が入る。

 

 

『……13班、聞こえるか? 一台目の探査機の設置を確認した……早速チューニングを始めるよ。その一台だけでも、基本的なマップ機能ならすぐに復旧できると思う』

「本当ですか? お願いします。もうマップがないと不安で不安で……」

『不便だと思うが、もうちょっと我慢して──……う……う……ぶえーっくしょい!!』

「わっ!?」

 

 

 鼓膜を揺らす大音量に小さく飛び上がる。

 おとなしそうな風貌にそぐわず豪快なくしゃみをしたキリノに、アオイも小さく悲鳴を上げた。

 

 

『ちょっと、キリノさん!? 大丈夫ですかー?』

『ずびっ……が、がぜでもびいたかな……』

 

 

 鼻を啜るキリノに苦笑していると、探査機がガチリと変な音をたてる。

 故障したのかと慌ててしゃがみ込む。電源ランプは正常な緑色で、全体を観察しても異常が見られる箇所はない。

 

 ただひとつ、カメラが斜め前方を向いたまま固まっていた。

 そしてシキも、同じ方向をじっと見つめている。

 

 

「……?」

 

 

 つられて視線を移動させる。

 

 空中に青い火の玉と数人の人影が浮かんでいた。

 

 180度反対方向に回した首がグキッ!! と嫌な音をたてた。

 

 

『ひ、ひえっ! センパイ、今のなんですか!?』

「な、なななななんあなな何か見えた?」

『何かって、見えたじゃないですか、人影と……人魂みたいなの!』

「みみみ見てないよ! 私何も見てない!」

『えっ、何が? 何の話だい?』

『みんなしてボケないでくださいよぉ! もー……キリノさんって、肝心なときに頼りないなぁ……』

『い、いや、そんなこと言われても……そうだ、ミロクはどうだい? 何か見え──』

『み、見えてないことにする!!』

 

 

 恐る恐る振り向けば人影と人魂は跡形もなく消えていて、誰かが小さく悲鳴を漏らした。

 もしかしなくても見えてはいけないものを見た一同は、シキとキリノを除いて小パニックになる。まさかあれはいやそんなでもと飛び交う言葉をミロクの早口が一掃した。

 

 

『だってオカシイだろ、あんなの! 変な場所だし、何かと見間違えたんだ。に、人間の肉眼なんて……信用できないからな。たしかなデータがない限り、オレは見たものを認めないぞ!』

『えぇ~……? 自分の目で見てるのに……?』

『ナビに必要なのはたしかなデータだけだ! それより、探査機の二台目を置きにいくぞ。シキ、シバ、もっと奥に進んでくれ。……いろいろ不安定なんだから、寄り道はやめてくれよ』

 

「了解。……いつまでしゃがんでんの?」

「いや、あの、く、首、首が……」

 

 

 一騒動でようやく我に返ったシキに引きずられて全身が再開された。墓地と卒塔婆が壁のように並ぶ屋上を回り込んでいくが、行く先々で立ち並ぶ石塔は墓石ではあるまいな。その周りを漂う青い炎はどう見たって人工の明かりではないし、異界化の影響はだいぶ大きいらしい。

 

 これはあくまで帝竜の趣味であって、現実ではないのだと胸中で自身に言い聞かせて進む。そうして何本目かの橋を渡っている最中、進行方向の暗闇の中に人影が浮かび上がった。

 二メートルに収まる二足歩行の影。見間違いでなければ人間だ。歩く速さを落としてそっと橋を渡り切る。

 

 

「君たちは……13班じゃないか……!」

 

 

 ほとんど足音を殺していたにも関わらずくるりと振り向いたのは、足も影もある自衛隊の誰かだった。

 

 

「あ、あれ? 自衛隊さん?」

「よくここまで来たね……仲間たちも待ってたんだ。さあ、一緒に会いにいこう……なぁに、すぐそこだ」

 

 

 現在地よりさらに奥に銃を向け、自衛隊員は奥へ進んでいく。

 どういうことだろう。カマチが言うには今回は出動できないとのことだったが。無事な隊員を集めて応援に来てくれたのだろうか。

 

 

『なんだ、自衛隊が先行してたのか』

「ドラゴンとマモノがうようよしてるのによくここまで来れたわね」

「暗いから身を隠しやすかったとか?」

『まったく……そんな作戦データ、もらってないぞ。総長から注意してもらわなきゃな』

 

 

 今にも夜に溶けてしまいそうな背中を追いかけた先、ぽつりぽつりと自衛隊員たちが立っている。みんながみんな好意的な笑顔を浮かべて出迎えてくれるのはありがたいのだが、なんだろう、何かいつもと雰囲気が違う。

 違和感をうまく言葉にできなくて、目の前の彼らと記憶の中の彼らを照らし合わせているうち、最初に顔を合わせた自衛隊員が待つ一画に入った。同じタイミングでキリノから連絡が入る。

 

 

『13班、聞こえるかい? ひとまずのチューニングは完了した……。これで、マップ機能は復活すると思う。ナビ、データリンクを頼む』

『了解。データ受け取り準備中……』

 

 

 マップ復旧を待つ間にも、自衛隊の彼はこっちだと背を向けて、屋上の隅へ案内される。

 おもむろに振り返った彼はゆるりと笑みを浮かべ、落下防止の柵が外れて崩れかけている箇所を示した。

 

 

「さあ、着いた……みんなはこの下にいる、ここから飛び降りるんだ」

「へ?」

「どうした……? 何をためらってるんだ、最も勇敢なはずのムラクモ13班が……」

「なーに、簡単だ。目をつぶって飛び降りればいい。さあ、早く……早く……」

 

 

 飛び出せと言われた空間に目を凝らす。

 どう見たって空中だ。足場もなければつかむ物もない。

 高い場所にいるからだろうが、地面は闇に塗り潰されて見えなかった。ここから飛び降りれば、シキはともかく自分のフィジカルじゃ着地できそうにない。

 自衛隊はそんなのお構いなしというように、それぞれ足を踏み出して間隔を縮めてきた。まったく覇気がないのに、空気ごと体を押してくるような圧に、無意識に後退する。

 やっぱり、いつもの彼らと様子が違う。

 一歩、また一歩と下がった踵が屋上の端からはみ出て、危うくバランスを崩しそうになった。

 

 

『データリンク完了。マップ機能と反応検知、復旧――……あ、あれ?』

「ミロク? どうしたの?」

 

『そのあたり、13班以外の生体反応が見当たらないぞ……!』

 

 

 えっ、と声を漏らすのと同時に気付く。今まで共に戦場に立ってきた自衛隊とすぐそこにいる彼らの立ち回りが噛み合わないことに。

 こんな世界だ、いつどこからドラゴンやマモノが飛び出してきてもおかしくない。なのに銃を持つだけで、周囲を警戒する様子の隊員が一人もいない。

 背中を預けるなんて程遠い、まるでこっちがマモノにでもなったみたいに、銃口が自分たちに集中している。

 

 

『どういうことだ……? モニターに映ってる自衛隊員は、一体……』

 

「さあ……さあ……! 早く飛ぶんだ、ムラクモ13班……」

「飛べ……飛べ……飛べええええッーー!!」

 

「敵確定」

「わぁ!?」

 

 

 シキが自分を脇に抱え、宙ではなく屋上の中央に跳んだ。

 崖っぷちから安全な位置まで移動して、飛び越した自衛隊員を振り返る。彼らは変わらずそこにいたが、

 

 

「ひっ……!」

 

 

 べろりと剥がれていた。何がって文字通りの化けの皮が。

 青白く腐りかけた肌が幕のように垂れ、露出した暖色の肉からは蛆が湧き、深く落ち窪んだ眼窩からは血走った眼球がこぼれ落ちそうになっている──テレビの中で見るゾンビみたいに。

 肉が削げてほぼ骨だけになった足がアンバランスに揺れる。そのたびにすきっ歯の口からがふりがふりとひどい悪臭が放たれ、瞳孔は開ききった眼は黒目がまぶたの向こうに裏返った。

 異常に腫れ上がった涙袋からは血涙が滲み出し、腐臭を放つ肉片とともにベチャリと足もとに落ちていく。

 

 

(うわ、やだ──)

 

 

 落ち着け。これはきっと幻だ。そりゃ、人間の死体なんてあちこちに転がっているだろうが、マモノだってあふれているダンジョンでわざわざそれを選ぶなんて手間をドラゴンがかけるはずがない。

 けれど、濁った声を発しながら己の体を引きずって近付いてくる姿は、作り物というにはリアルすぎだ。体の揺れ、嫌な足音、立ち込める腐臭。その一つ一つを緊張で冴え渡った五感が如実にキャッチして、頭の中で何かの糸が引き千切れんばかりに張り詰める。

 

 

「ヴ、ぁ、あ゛」

 

 

 骨の芯まで腐った腕で銃を向けられた瞬間、ふっと視界が白く染まる。

 

 どこか遠くで、キャア、キャアと鳥のような笑い声が響いた気がした。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 誰かの声が聞こえる。自分を呼んでいる。

 

 血が通っている温もりのある肌が、頬を軽く叩いていた。

 

 

『大丈夫かい、13班! 急に戦闘に入ったから、驚いたよ……シバくんは?』

「ちょっと待って。……あんた起きなさいよ。起きろってば」

『センパーイ! しっかりしてください、朝ですよー! 夜ですけどー!』

「どっちよ」

 

「ん、う」

 

 

 頬をつねられて目を開け、瞳のピントを調整する。

 時間をかけて鮮明になった視界は、夜空とともに自分を見下ろすシキの顔を映した。

 

 

「……シキちゃん?」

「あ、起きた」

「あれ……? 何がどうなって……?」

 

 

 気を失ったことしか把握できていない自分に、シキが呆れ顔で何があったのかを語る。

 曰く、卒倒したとのこと。恐らくゾンビを認識してパニックになったのだろう、ひゅっと息を吸ったかと思えば電池が切れたように後ろに倒れ込んだらしい。

 

 

「まさか戦いもせずぶっ倒れるとは思わなかったわ。おかげで庇いながら戦うの苦労した」

「そ、そうなんだ……う、ううう怖かったぁー……!」

「ちょっと引っ付かないで。少しは反省しろ」

 

 

 セーラー服に引っ付くと鬱陶しそうに体を引き離された。スーパードライ。

 周囲にはピンク色の濡れた何かや骨の欠片や異臭を放つ何か、とにかく具体的に言い表したくないゾンビたちの一部が散乱している。少女の冷たいあしらいも結構こたえた。不覚にもまた泣きそうになってしまう。

 

 

「火がダメ、高いところもダメ、ゾンビもダメ。あんた弱点多すぎない?」

「あと虫が苦手です」

「……」

「そんな顔しないでよぉ……しょうがないじゃん!」

 

『あれは一見すると自衛隊だったが、ナビ、ドラゴンの反応は?』

『……ない』

『……となると、見た通りに言えば死者が蘇ったということか。にわかには信じられないが……帝竜なら、それくらいできたとしても……』

 

『……そんなことあるかよ!』

 

 

 バンッ、とデスクを叩く音が通信機から響く。焦りや困惑を孕んだ声が、つまづくようにどもっては否定をくりかえした。

 

 

『死者が蘇るなんて……だから生体反応がないっていうのか? そんなデータ見たことないぞ……!』

「そ、そうですよキリノさん。マモノを操るとかならともかく、故人を手駒にするなんて……きっと幻の類ですよ! うん、そうじゃないと困ります!」

『ま、まぁまぁ……データにはないかもしれないが、自衛隊のゾンビとは、実際に戦っているわけだし──』

 

『あ・り・え・な・いっ!!』

 

 

 一音一音がぎん、ぎん、ぎん、ぎん、ぎんと脳に衝突する。ナビとは対照的にまったく動揺を見せないシキが「ちょっとうるさい」と言って通信機を耳から離した。

 

 

『みんな現場の雰囲気に呑まれてるだけだ! 変なことばっか言ってさ……おい、シキ! シバ! 一度、入り口に戻って、マップを見ながら攻略しなおすぞ! 今度はデータを取りながらいくからな!』

「はあ? 別にこのまま進んだって」

「も、ももも戻ろう! ぜひ戻ろう! ここで戻らなきゃ死んじゃう!」

「だから引っ付くな! あんたたちちょっと落ち着きなさいよ!」

 

 

 こっちでも向こうでも騒がしい仲間を一喝し、仕方ないとシキは進んできた道を戻り始める。

 入り口に戻るまで、ゾンビはいなかったもののゴーストのようなマモノと何度か遭遇し、情けない悲鳴を上げ、シキに飛びついては引き剥がされるのをくりかえすことしばらく。

 行きの倍近く時間をかけて戻ってきた四ツ谷入り口で、こちらに気付いたアオイたちが手を振る。

 

 

「おかえり、13班」

「お疲れ様です、センパイ!」

「あ、あ、あ……」

 

 

 キリノたちの姿が見えた途端、突っ走ってアオイに飛びついた。

 ああ、彼女がいるだけで世界が明るい。気分は巨大なデパートではぐれた親と再会できた迷子だ。頭をアオイのニットに埋めてすりつける。

 

 

「うわあああー怖かったよー!!」

「わ! センパイ、大丈夫ですか?」

「む、無理……ゾンビ、リアルすぎて本当に怖かった……」

 

 

 ミナトの頭をなでながらの、少し気を落ち着かせようというアオイの提案で小休止に入る。

 すっかり食いそびれていたチョコバーを口に詰め込み、リスのように膨らんだ頬を動かしながらはーっと息を吐いた。

 

 

「ダンジョンの中、すごい……腐ったような臭いがひどくてさ。お弁当どころかチョコバーも食べられなかったよ」

「今思うと、ゾンビの匂いだったのね。死臭ってやつ。……ごちそうさま」

「あ、ゴミお預かりします。じゃあ余計に疲れたでしょうね。まだお腹減ってませんか? よかったら、チョコバーどうぞ!」

「アオイくん……それ、何本持ってきてるんだ……」

「まだまだありますよ!」

「もらう」

「いただきます」

「二人とも食べるんだね……」

 

 

 もうおやつ禁止と言わなくなったキリノを除いて、アオイと13班は包装ビニールを破った。しばらくの間チョコバーをかじる音が三人分重なり合う。

 自分たちがいる入り口を含め、四ツ谷の街は相変わらず夜のまま。薄いベールをかけられたように景色には淡い紫がかかって、遠くにそびえ立つ骨の天守閣を眺めながらアオイが首を傾げる。

 

 

「それにしても、なんで四ツ谷に骨なんでしょうね? 帝竜が四ツ谷怪談好きとか? それはそれで、親近感ありすぎですね……」

「あ、やけにおどろおどろしいのはそういうこと? ドラゴンが人間の文化に興味なんて持つのかな……言葉だって通じないのに」

「世界中めちゃくちゃに踏み荒らされてるし、知的好奇心で近付いてきたってことはないんじゃない」

 

『おい、13班。もう十分休めただろ? 気を取り直して再出発しよう。今度は慎重に……雰囲気に呑まれないようにな』

 

 

 再出発と聞いて一気に気分が重くなる。そうだ、まだ四ツ谷攻略ははじめもはじめ、帝竜のもとへ行くどころか地形を把握するための作業の1/4しか終わっていないのだった。

 

 

「僕はチューニングに戻るよ。マップは復帰したけど……まだ、中心部が暴けていなくてね。帝竜も見つけないとならない。13班にも、引き続き残り三つの探査機を設置してもらいたい」

 

「だそうだけど」

「……」

「目を逸らすな」

 

 

 駄々をこねている場合じゃないのはわかっている。ただでさえ人員も情報も少ないのだから、いつもより駆け足でタスクをこなさなきゃいけないことくらい理解できている。

 が、行きたいか行きたくないか問われれば「帰りたい」と叫ぶ心もごまかせない。

 ほんの少しでも時間稼ぎができないかと、ゴミを丁寧に畳んで袋に入れる。

 

 

「次の設置場所は、さっき自衛隊のゾンビに会った辺りだ。よろしく頼んだよ」

「がんばってくださいね、センパイ!」

「うう……キリノさん、異能力者にエクソシストとか、陰陽師みたいな人はいないんですか?」

「あんたどんだけ苦手なのよ」

 

 

 シキに襟首をつかまれる。

 嫌だあああああと叫びながらパートナーに引きずられていくミナトに、キリノとアオイはそっと両手を合わせた。

 

 

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