2020年になったのでドラゴン狩りじゃぁぁぁ!!!   作:蒲焼丼

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ウォークライを倒したその後。
キリノとナツメの漫才(?)シーンはおもしろかった。



後日談

 

 

 ウォークライを倒してから数日経った。

 ミナトは帝竜討伐の翌々日に目が覚めた。

 体を包むふわふわとした心地よさに、ああここは天国かと思った。が、自身の鼓動に体を揺らされ、ベッドの中で覚醒した。どうやら死なずに済んだらしい。

 

 人間の文明も追いつけない、何もかもを簡単に蹂躙してしまう化け物、ドラゴン。

 勝ち目なんてないのと同じ。けれど戦わなければ一方的に殺されてしまう。

 

 背水の陣で飛び込んだ死地から五体満足で生還という事実を確認できたとき、涙と情けない叫びが堰を切ってあふれた。

 

 

「ああ~!! よかった、私生きてるうぅぅぅ」

「なに泣いてんのよ。これでやっとスタート地点なんだからね」

 

 

 相変わらず厳しい年下のチームメイト、シキが隣のベッドで煩わしそうに手の包帯をいじる。人より回復の早い彼女は、手指のストレッチを終えるとベッドから抜け出した。

 毎度のことながらうーんとうなってしまう。少女の辞書に疲労という文字はないのだろうか。

 

 

「どこいくの?」

「食事」

「あ、じゃあ私も……」

 

 

 ついていこうと体を起こす。

 ずりずりとベッドの端に移動し、足を下ろそうとした瞬間、

 

 ビギイッ!! と体に亀裂が走る感覚がした。

 

 

「いぐう!?」

 

 

 全身が硬直し、受け身もとれずに転がり落ちる。

 顔面から着地し、「んぐぃっ!」と変な声が漏れた。

 

 

「ちょっとあんた、何してんの?」

「か、から、体が痛い……動かない……」

「はあっ?」

 

 

 全身が痛い。少しでも身じろぐたびに、剣山に刺されるような痛みが体を貫いていく。

 体の状態をできるだけ具体的に述べると、シキは非常事態と察知したようで、「医者!」と声を張って走っていった。

 何だこの痛みは。もしや、死闘による後遺症だろうか。マンガでよく見る「大怪我して体のどこかが動かせなくなる」というおまけ付きの……。

 嫌な予感が脳裏をよぎる。

 

 

(ま、まさか、このまま一生動けなくなるとか……)

 

 

 生涯介護生活、という文字が浮かんで頭を抱えたくなる。そのための腕もひどい痛みにひきつって動かないのだけど。

 

 

「うわあああ!?」

「お、下ろしてくれぇ!」

 

 

 悲鳴を上げる医者とキリノを担いでシキが戻ってくる。彼らはベッドから落ちた体勢のまま固まっているミナトを見てまた悲鳴を上げ、その体をベッドに横たえ、冷や汗を流して診察を始めた。

 数分後、二人は手を止め、なんてことだと息を漏らす。

 

 

「これは……なんてひどい……」

「ひどいって何、どうなってんのよ!」

 

 

 シキが詳細を話すよう詰め寄る。

 医者は頭を横に振り、キリノは深刻そうに頷き、なんてひどいとくりかえした。

 

 

「なんてひどい……、筋肉痛なんだ……っ!!」

 

 

「は?」

「へ?」

 

 

 筋肉痛?

 

 

「ぜ、全身筋肉痛……?」

「シバくん。先日の都庁奪還作戦、君はいつもより体が動くと言っていたね」

「あ、はい。……キリノさんに二回注射された栄養剤のおかげ、ですよね」

「そう。あれは異能力者専用の栄養剤、まあ今の君の場合はほぼドーピングなんだけど……」

「ど、ド……!? じゃあ、その副作用ってことですか!?」

 

 

 ドーピングと聞いて良いイメージはない。スポーツでは不正行為とされているからだ。しかしキリノは慌てて否定した。

 

 

「少し特殊だけど、違法な成分は入ってないよ! もちろん副作用もない! 即効性の点滴みたいなものなんだ」

 

 

 それにドラゴンたちとの戦いはスポーツではないし、脅威と渡り合うための有効な手段だと加えて話が戻される。

 

 

「シキはずっと昔から訓練を重ねてたからどうってことはないけど、シバさんはあんなに過酷な戦闘は初めてだっただろう? 異能力者といえど、体に負荷がかかりすぎたんだ」

 

 

 それゆえの反動だと結論付けられる。医者とキリノは筋肉痛の仕組みを説明し、これで体の筋肉が新しいものに変わっていくはずだと言った。

 

 

「……えーっと、つまり」

「体が動かなくなる心配はない。安心していいよ」

「ああ、よかった……」

 

 

 ほーっ、と息を吐く。

 ふと視線を感じて顔を上げると、黙って話を聞いていたセーラー服の少女が、世界一くだらない漫才を見せられたような顔になっていた。

 

 

「……筋肉痛? ただの?」

「あ、あは、おさわがせしましたー……」

「食事行ってくる」

「ま、待って! 私の分も持ってきてください!」

「うるさいバカ!」

 

 

 バーカバーカバーカと繰り返しながらチームメイトは行ってしまう。

 空腹で腹を鳴らして涙目になるミナトにキリノが苦笑いを浮かべた。

 

 

「は、はは、シバさんの分の食事は僕が持ってくるよ……」

「うう、またシキちゃん怒らせちゃった……」

 

 

 昔からそうだ。要領が良いと言えない自分は、もたついて誰かを怒らせて呆れさせてしまうことがたびたびあった。

 帝竜を倒した喜びも一転、うなだれる自分にキリノがまあまあと声をかける。

 

 

「そんなに落ち込まなくていいよ。シキは普段からあんな感じだから」

 

 

 医者を帰し、キリノは丸椅子を持ってきて腰掛ける。

「改めて、帝竜討伐、おめでとう」という柔らかい賛辞に、ミナトは素直に応えた。

 

 

「ありがとうございます。でもこれで終わりじゃないんですよね? ドラゴンは世界中にいるみたいですし……」

「そうだね。君たち13班には、引き続きドラゴンの討伐に力を貸してもらうことになる」

 

 

 大丈夫かな、とキリノの気遣わしげな視線が向けられる。

 任せてくださいなんて言うことはできない。その代わりにゆっくりうなずく。

 できるかどうかはわからない。けれど、もう走り出してしまったから。

 一度死線を越えたことは確かだ。化け物相手に勝つことができた。ほとんどダメージを与えたのはシキだけれど。

 

 

「がんばります。でも、シキちゃんに付いていけるか不安です。私、ほんのちょっと戦っただけで力尽きちゃって、あの子に戦わせっぱなしでした」

「それはもう仕方のないことだ。シキは経験者、君は初心者なんだから。これから努力していけばいいよ。それに……」

「?」

 

 

 キリノは部屋の扉を振り返った。 誰もいないことを確認し、彼は少し声を小さくして話を続ける。

 

 

「君がまだ眠っていたとき、先に目覚めたシキが『また助けられた』って言ってたんだ」

「え?」

「『借りができた』って、なぜか怒ってたよ」

 

 

 キリノが思い出し笑いで頬をかく。

「助けられた」とは、ウォークライに吹き飛ばされ、都庁から落下しそうになった彼女をフォローしたことだろうか。

 そういえば、地下シェルターでもシキは「あんたに助けられたからフォローする」というようなことを言っていた。実際戦闘ではブツクサ言いながらも面倒を見てくれている。

 

 

「あの子、シキちゃんは……義理堅いんでしょうか? ……あと私は嫌われてるんでしょうか」

「い、いや……シキはプライドが高いんだ。ナツメさんやガトウさんたち大人に混ざって鍛えられてきたからね、警戒心とか負けん気がすごく強くてさ」

 

 

 なるほど、英才教育というやつだろうか。ムラクモのトップたちに揉まれてきたのなら、非常時のポーカーフェイスや度肝を抜く戦闘能力もうなずける。

 キリノはシキのことを「自分にも他人にも厳しすぎて、1の失敗で10鍛え直すような子なんだ」と言い表した。

 

 

「チームワークの大切さを知ってほしくてムラクモ試験にシキを参加させたのは正解だったかな。あの子は自分一人で任務ができないことに苛立ってるみたいだけど、シバさんのフォローが助けになっているのは確かだし、これからも力を貸してあげてほしい」

「はい。頑張ります」

「うん。それじゃあ、君の分の料理を持って……」

 

 

 くるよ、とキリノが立ち上がるのと同時にドアが動く。ふくれっ面のシキが部屋に戻ってきた。

 湯気を漂わせる盆を片手に、シキはミナトのベッドにボスリと腰掛ける。

 

 

「あんた、いつになったら治るわけ?」

「え? さあ……明日、明後日ぐらいには」

「筋肉痛で動けないとか、体貧弱すぎるでしょ」

 

 

 ズバッと言い放ちながらスープをすくったスプーンが、顔の目の前まで持ち上げられる。 

 意図を察せず瞬きを繰り返すと、少女はますます不機嫌な表情になった。

 

 

「私は早く訓練したいの。時間潰さないようにさっさと食べて。口は動かせるんでしょ」

「……」

 

 

 要は「口を開けろ」ということ。……食べさせてくれるらしい。

 脇に立っていたキリノと視線が絡む。しばらく見つめ合った後、ぷっ、と同時に息を吹き出した。

 

 

「ふ、あは、食べさせてくれるの?」

「あんなに怒ってたのに、どうしたんだい?」

「……熱々のスープ流し込んでやろうか」

「それはやめて! いただきます!」

 

 

 シキが怒り出す前に、ありがたく目の前のスプーンを口にくわえる。

 これからドラゴン相手に勝っていけるかは別として、案外、このチームメイトとはうまくやっていけそうだ。

 

 

「おいしい! シキちゃん、自分の分は?」

「もう食べたし」

 

 

 なら今度は一緒に食事ができるぐらい仲良くなろう。

 密かに心に決め、ミナトは二口目を飲み込んだ。

 

 

 

 -後日談・CHAPTER 1 End-

 

 

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