誰もが寝静まる深夜、青年は汗だくになり走っていた。
やたらと大きな黒いバックを両手で抱えて、息を切らしながら走っていた。
逃げるように、走っていた。
青年はかなり疲弊した様子だったが、少しも休もうとはしなかった。
長い階段を下る途中、足を滑らせてしまい、転げ落ち、頭を強く地面に打ち付けた。
翌朝病院に搬送されるまで、青年はその場に倒れ込んだままだった。
「えー!海原君のお兄さんって飛電インテリジェンスの社員なの?!2人とも?!」
「えぇ、まぁ、はい。」
喫茶店でのバイト中、お客さんがいなかったので、先輩と喋っていた。
「凄いねぇ、海原君も大学出たら飛電に就職するの?」
「いやいや、僕なんかの実力じゃあ、とても。それに...」
右手の中指で、少しズレた眼鏡の位置を直しながら言った。
「その、なんていうか、苦手なんですよね。ヒューマギア。なんとなく。」
いつから苦手なのか、その理由は何故か。そこまで明確には分からないし、覚えていない。
そう。僕、
医者にそう診断された。
脳に強い衝撃が加わったせいで、一部の記憶が飛んでしまったらしい。
しかし幸いにも、生活には一切の支障がなかった。
自分のことも、周りの人のことも、ほとんど覚えたままだった。
失われた記憶は、あの夜のこと。
何故僕は、あんなになるまで走っていたのだろう。
それに何より、病院で預かってもらっていた、あの黒のバック。
その中には、飛電インテリジェンスの社長にしか使えないと言われている、「ゼロワンドライバー」...に、酷似したものと、恐らく「プログライズキー」と思われる物体が、いくつも入っていた。
これらプログライズキーは全て表面に『
問題は、こんなものを何故僕が持っているのかだ。
あの夜、僕はこれを持って走っていた。一体何のためか。そこがどうしても思い出せない。
このことは誰にも言っていない。これがなんなのかすら分かっていない以上、誰にも相談は出来ない。教えるわけにはいかないのだ。
医者によれば、記憶は放っておいてもそのうち段々と戻っていくらしい。
ならば、それを待てばいい。この件は全て思い出してから片付ければいい。焦る必要など無い。そう考えながら、僕は自宅への道を歩いていた。
「キャー!!」
女性の悲鳴、銃声、爆発音、
非日常的な音が一度に聞こえた。
僕の進行方向側から聞こえた。
遠くない距離から、聞こえてきた。
驚いて声も出なかった。
ヒューマギア達がマギア化し、武装して街を破壊していた。
有り得ないことだった。人工知能「アーク」は2年前、「仮面ライダーゼロワン」が倒した。それからヒューマギアのセキュリティシステムはさらに強化され、今日日ヒューマギアをハッキングしうる脅威など存在しないはずだった。
マギアの顔の側面、耳にあたる位置のヒューマギアモジュールが、通常青色なのを緑に発光させていた。
やはりハッキングされていると見て間違いない。
さぁ、何の偶然か。
僕は今日、リュックの中に例のドライバーをなんとなくで入れていた。
ジャケットの中にも例のプログライズキーを、こちらもなんとなくで1つだけ、しまってある。
実際にこのドライバーを使用したことはまだ無い。
そもそも起動するのかも、それが成功しても戦えるのかも分からない。
さぁ、どうしたものか。やるか。それとも、逃げようか。
頭の中で結論を出す前に僕は、ドライバーを腰に巻いていた。
『チープドライバー』
ジャケットの中にあったのは「バイティングシャークプログライズキー」の模造品。仮に「ブートレグバイティングシャークプログライズキー」と名付けよう。
『ファング!』
『ミミックライズ』
キーをドライバーに認証させた。
目の前に巨大なサメのライダモデルが現れる。
ゆっくりと深呼吸。そしてキーを展開し、ドライバーに差し込む。
「変身」
『チープライズ』
『キリキリバイ!キリキリバイ!バイティングシャーク!』
『"Fangs that can chomp through concrete."』
銃を構えたマギアの群れに、僕は走って突っ込んだ。
両腕の刃で斬りつける。駆け抜ける。
正面に立つマギアをジャンプで飛び越え、背後から斬る。
他のマギア達も妨害に気付き始め、僕を囲み、発砲する。
強化スーツとはいえど、やはり痛みは感じるものだ。
少しぐらい当たる覚悟で突っ込む。ラリアット気味に刃を振るう。
次々とマギアを行動不能にさせて、かなり数も減ってきた。
時間が経つにつれ、段々とこの力に身体が追いつき始め、
感覚が研ぎ澄まされていく。
後方から放たれた銃弾を、切り落とした。
このマギアで最後だろう。
胸部を斬りつけ、倒す。
辺りには、何体ものマギアが倒れている。
深呼吸をした。
前方から、歩いてくる影に気付く。
僕と同じドライバーを巻いた、仮面ライダーだった。
何者かと僕が問う前に、そいつは言った。
「お前さぁ、もしかして扇豆?」
一瞬、思考が止まる。
何故、僕を知っているのかと。
その時、逆方向からも影が近づく。
今度は2つ。
「さぁて...どっちが首謀者だ?」
「仮面ライダーバルカン」、そして、「仮面ライダーゼロワン」が、
そこにはいた。
「...あーあ、今頃来んのかよ。お前のせいで台無しだぜ、扇豆。」
「...お前が、ヒューマギア達をハッキングしたのか?」
「ハハハッ、そうカッカすんなよ、ゼロワン。
今日はもう引き上げるよ、またな。」
「待てっ!お前は何者だ!!」
「...仮面ライダーフェイク。今はそれだけ言っといてやる。じゃ。」
ゼロワンの問いに答えると、背中を向け、歩き出した。
その身体は段々と透明になり、景色に溶けていく。
「っ?!、待てっ!!」
そう言い終える頃には、もうその場にそいつはいなかった。
「逃したか...」
「それで...」
2人が変身を解く。
それを見て僕も、同様に変身を解いた。
やはり、「飛電或人」と「不破諌」、本人だ。
「俺は、飛電インテリジェンス代表取締役社長、飛電或人。...仮面ライダーゼロワンだ。」
「不破諌、仮面ライダーバルカンだ。」
「君は?」
「海原扇豆...あー、えっと」
「仮面ライダーブート...です。」
「ブートレグ」からとって「ブート」、
えらく安直な名前を付けてしまった。