変態科学者はゲームオーバーを公爵令嬢に捧ぐ 作:KAMATAMA
互いに譲れぬものを賭けて、二人の青年が対峙する。
「主人公くん、君には悪いですがここでゲームオーバーです」
一方は、決して少なくない血を流しつつも、育ちの良い微笑を絶やさない貴公子。
悪いと言いながらも、欠片も罪悪感があるようには見えない。
割れた眼鏡越しに、優しそうにさえ見えるが温度の無い視線を向ける。
彼は生まれも育ちも全てを与えられて生きてきた。
過剰な程に高水準の素質に、それを存分に活かす環境。
望めばおおよそのものは、与えられる事も自ら掴むことも出来た。
それでも、それら全てを捨ててでも己の望みを求めた。
「俺たちは帝国の支配を壊す。
俺たちは
お前なんかに、みんなの幸せを壊されてたまるかっ!!」
もう一方は、全身から熱意を可視化させるが如き情熱を溢れさせる泥臭い英雄。
彼は生まれも育ちも決して恵まれてはいなかった。
それでも誰もが恵まれる世界の結末を信じて、ここまで積み上げてきた。
既存の支配者が独占する権益を、全ての恵まれない人に平等に分配する為に。
眼鏡の青年は微笑みを浮かべているが、その内面は完全に冷え切っている。
みんなの幸せ。
貴公子はその言葉を実にくだらないと、表情を変えるどころか、思考の端にすら乗せず切り捨てる。
狂える科学者にとって、そんなものに全く価値はない。
その中に彼女がいなければ、それ以外の幸せになど何の意味もない。
ただ彼女さえ幸せなら、他の有象無象の幸せなどどうでもいい。
世界の幸せの総和が決まっているのなら、目の前にいる男が恵まれない人々に与えようとする全ての幸せを、
だから──────
「ここで強制終了です。
では、
色付く前の世界の法則に形を与えた、世界というキャンバスに描かれる一切の色を否定するかの様に、ただただ透き通る大鎌を
「何度繰り返したとしても、何度でも支配は打ち砕かれ、何度でも自由と平和を全ての人が分かち合う世界を迎えるべきだ。
あらゆる命を肯定するように多様な光により虹色に輝く正義の剣を、噛ませ犬でしかない踏み台に向けて主人公は構えた。
残像すら置き去りにして互いに駆け出し、寸分違わず同時に振られた刃が衝突する。
一合の衝突で互いの刃は領域の果てへ消し飛んだ。
だが、再び彼方より此方へと呼び込んだ刃を鏡写しのように重ね合う。
「君が存在するから
「「これで終わりだっっっっ!!!!」」
これは、存在しないはずの時間軸。
これは、メモリーにないストーリー。
これは、ありえてはならぬバグ。
これは──────
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人は誰もが幸せになるべきだと思いますか?
はい →いいえ
いいえ が選ばれました。
英雄の剣戟をもって切り裂かれた学者風の男がその生を終えた。
人は誰もが幸せになるべきだと思いますか?
はい →いいえ
いいえ が選ばれました
麗しき少女から放たれた風の鋭糸により学者風の男がその生を終えた。
人は誰もが幸せになるべきだと思いますか?
はい →いいえ
いいえ が選ばれました。
希獣の爪が臓腑を穿ち学者風の男がその生を終えた。
────────────
──────
───
何周目か、それとも何百周目かの世界。
選択肢は何者かに歪められた。
→いいえ いいえ
はい が選ばれました。
──────世界は白く流転した…。
これはただ、
『変態科学者はゲームオーバーを悪役令嬢に捧ぐ』
整った顔付きの学者風の男がその生を終える。
剣の一振り、槍の一突き、矢の一射、獣の爪、炎・風刃などの魔法の発動。
おおよそ起こり得るあらゆる事象をもって男は──────殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺された──────
まるで映画のように、実体験を他人事の様に見せられる。
勿論映画とは違い、痛みも苦しみもそこには存在した。
それでも男は笑う。
そのようなことは、その程度の事は些事だと狂笑する。嘲笑する────
「はっ、はははは。はははははははは。
結構、実に結構。
私としたことが、───実に素晴らしく救えない」
──────他でもない自身の力不足を。
膝を付き、知性を宿した端正な顔を歪めるほど強く左手で抑えながら、それまでの周回における己を追憶し、誰もいない研究室で凶笑する男、グラスリート・オフステイン。
彼はゲーム『ハッピークエスト』で中ボスを務めるキャラクターだ。
彼は
実家の書庫に眠った一冊の本から始まった外法の研究により、一度当主である父親に糾弾され、名門ブドー公爵家を廃嫡されながらも、知性と実力により敵組織の幹部である帝国四天王の一角に上り詰めた傑物。しかし変態。
生まれ持っての天才にして、努力を否定しない秀才にして、どうしようもない変態。
ゲーム通りに魔導実験に
その結果、この世界が『ハッピークエスト』と呼ばれる
常人ならば記憶野がパンクして廃人になっていただろう。
しかし、性格は悪い意味で破綻しているものの、優れ過ぎたという意味で破綻している頭脳はそれを可能にしたのだ。
「これが私の求めた
私の目的、使命、倫理、人生、存在理由の全て。
実に、実に──────どうでもいい」
笑みから一変した真顔で、彼はそう吐き捨てた。
結局彼が知ったのは、どの周においても志半ばで彼は殺されること。
己の命が絶え、己の探求が朽ちる。
そんなのは、
何百回も己の人生を繰り返せば、人生は十分に堪能出来たと言えるし、そこまでやってどの己も真理へと辿り着けなかったなら諦めも付く。
それでも諦めきれるかといえば未練はある。
世界を解き明かすのは、至高の絶頂を再体験する経緯を準備するに等しい行為であった。
しかし、少なくとも己が必ず殺されることは、気にすべき要素では無かった。
元より研究の為に悪魔に魂を売った身。
己の死など大して気にする由もない。
彼が認められないことは──唯一。
ゲームがクリアされるまでには、同じ四天王の
幼馴染であり同じ四天王の『神速の黄金華』メルセデス・フォーミュラは、このゲームではどうやっても死が確定していた。
「大事な…大事なスポンサー様ですからねぇ。
死なれると嫌なんですよ。とても」
自分さえも騙す様にそう嘯く。
まるで彼女はスポンサー以外の何でもないと、そう諦観するように。
己の始まりの誓約に蓋をしたまま、それでも目的だけは誓いを始めた自分に還してみせる。
真理の探求が潰えた事は認めるとしよう。
己の死が避けられぬ事も認めるとしよう。
だが、彼女が必ず死ぬ運命であるなどと、到底認められるはずがない。
ゲームがどのようなプレイをされて、どのようなルートで、どのようなエンディングを迎えても、必ず彼女は死ぬ。
そんなこと、認めていいはずがない。
諦めていいはずがない。
きっと見落としがあるだけだ。
彼女を生き残らせるエンディングを作れるはずだ。
代入出来る数式が、見落した変数が、検証されていない事象が、凡人には思い付かない解答が世界に潜んでいるだけだ。
どうやっても助ける事が出来ないなんてのは、困難な計算を諦めた無能の言い訳だ。
誰よりも優れた他ならぬ天才の頭脳なら、彼女だけでも助かる未来を導き出せるはずだ。
世界を解き明かせ、在らぬ虚像に形を迎え、あり得ぬ答に到達せよ。
されば
「ははは、はははははは、はははははははははっっ!!!!
そう、私は──────大帝国四天王最賢の男、界曝のグラスリート。
私に明かせない
正気をかなぐり捨て、狂気に泥を塗り、