提督さんの趣味   作:サケノミ

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ポーラと枝豆のペペロンチーノ風

 毎日、書類仕事と被害報告。傷付いた艦娘達を見送り、一方の自分は無傷なのが歯がゆくて、そんなストレスを発散するのに、酒が絡まない事はなかった。それが元来の趣味と繋がれば、当然勢いは増して行く。

 

 厨房に真っ白な制服で立つわけにも行かず、上着だけは脱ぎ、インナーの上からエプロンを来て厨房に立つ。そんな自分を、両手で頬杖をついて眺めるのは、すっかり酒飲みの友ともなったポーラであった。はるばる海外からやって来た彼女は、なんというか、酒豪というか、アル中というか、とにかく酒を飲む。ウェーブがかったアッシュブロンドの長髪に、スタイル見事な体。これで脱ぎ癖が無ければよかったが、当初は眼福だったそれも、今となっては厄介ごとの火種に感じてしょうがない。

 

「提督ぅ、今日は何を作るんです~?」

 

 いつも通り気の抜けた様な、酒に酔った様な蕩かす声に振り向けば、既に頬を薄らと紅に染める彼女と目が合った。料理も普段からする訳でもなく、一か月に数回くらいの割合。そして作るのは肴なので、それを楽しみにしてくれる彼女に何時しか心躍る様になったのも、不思議だ。

 

「そうだな。珍しく、ビールに合う物はどうだ?」

 

 ポーラに返事をしながら、ザルに挙げた新潟産の茶豆を見せつける。当初、彼女は枝豆をツマミに食う事に疑問を感じていたが、今ではそれを目の当たりにした瞬間、まるで、数年ぶりに兵役から帰って来た主に出会った犬の尻尾の如く、嬉しさを表現した顔に変わるのだ。

 

「わぁ、わぁ、わぁ! エダマメ! 提督さん、大好き~!」

 

「どっちに対して言ってるのやら」

 

 とはいえ悪い気はしない。それはさておいて、だ。

 

 ザルに入れたソレを置き、フライパンにオリーブオイル、刻んだニンニク、鷹の爪、そしてちょっとした隠し味を入れ、中火で火にかける。まるでパスタやアヒージョのレシピだが、煮込む必要はないので火は強めで問題ない。

 

 やがて火が回り始め、ニンニクが踊り始めたら鍋の中央に移動するようにフライパンをゆすりながら、菜箸でかき混ぜる。ニンニクに色が入り始めたら、白ワインを大さじ一杯程度を目分量で入れ、アルコールを飛ばす様に再びフライパンをゆする。

 

 香りに僅かな酸味を感じ始めたら枝豆を投入し、後は火を止めてフライパンを返しながら和えれば完成だ。盛り付けるだけで食欲と酒欲が湧く。加えて今は夜の2300、犯罪的ともいえるだろう。

 

「お待たせ。茶豆のペペロンチーノ風。こいつにはこれだな」

 

「モレッティ! わざわざ買ったんですかぁ?」

 

「まぁ、一応は国に合わせてみた。ほれ」

 

 キンキンに冷えたグラスを二つ置き、瓶の蓋を外してポーラのグラスに注ぎ入れる。この瞬間は、まるで砂漠を歩き回り、オアシスを見つけたかのような官能的な瞬間にすら思える。

 

「それじゃあ私も~」

 

「おっとっと……それじゃあ、乾杯……じゃなくて、Prosit!」

 

「Prosit! ……んぐっ、んぐっ……ぷはぁ…………なんでドイツ語なんですか? 此処は普通イタリア語にしてチン……」

 

「それ以上いけない」

 

 俺の配慮を考えて欲しい。いやまぁ、もう一つ別な言い回しもあるが、イタリアでの乾杯はちょっと女性に言わせるには、日本だとセクハラになるかもしれないので。まぁ服脱いでるポーラは逆セクハラみたいな物なので気にしない方がいいかもしれないが。でもまぁ、言葉とは不思議に、妙に色気を感じるのだ。

 

「まぁそれはいいから、取りあえず食ってみろ」

 

 手拭きと殻入れの皿は既に準備してある。少し熱いソレを恐る恐る摘まみ、口の中に放り込んだポーラは、噛みしめ、そして無言で、半分ほど入っていたグラスのビールを飲み干し、手を拭いた。

 

 そっと、手拭きを置き、こちらに真剣な眼差しを向けたポーラはいきなり立ち上がり、90°に頭と体を下げた。

 

「一生養うので酒飲みを前提に料理を作ってください」

 

「今とほぼ変わらん関係じゃねーか」

 

 笑いながら、茶豆を摘まむ。表面の殻に付いたオイルをしゃぶるように、中の豆を、豆同士の隙間を噛むようにして押し込めば、飛び出たソレを噛む。茶豆の強い旨味と甘み、ニンニクの風味と唐辛子の辛味、その他が一体になって、確かにこれはビールが消えてしまう。

 

「これ、コクは白ワインなのはわかるんですけどぉ、塩気はなんです? 塩だけじゃないですよね? アヒージョみたいなそうじゃないような……」

 

 豆を摘まみながら、瓶をラッパ飲みし始めたポーラに苦笑いを返しつつ、答えを教える事にした。

 

「ポーラなら気付くと思ったんだがな。実はアンチョビのペーストを入れてある。ペペロンチーノの亜種みたいな感じだがな、オイルが絡むから殻だけでも食える」

 

「確かに~。オイルが美味しいです、となると」

 

 ポーラは食堂にある、俺個人的に買ったワインセラーへと勝手知ったると言わんばかりに向かって行った。しゃがみ込んでスカートが捲れあがっているが、もはや劣情すら抱かないのはポーラの魔法か何かだろうか。

 

「やっぱこれですよねぇ」

 

「まぁ、それだろうな」

 

 持ってきたのは白ワイン、イタリアのトレッビアーノ品種から作られるモノ。慣れた手付きでソムリエナイフでキャップシールを切り取ってコルクを外し、持ってきたグラスに注がれたソレの香りを確かめる。

 

 若さを感じる新草の様な青さに混じる柑橘系やリンゴの様なドライ感。味わいもすっきりとして、このオイルの塩気と濃さには十分合う。

 

 こんな、ささやかな日常が、俺のストレス発散の時間なのだ。まぁ、ポーラが脱ぎだして全裸にならなければより平和なのだが、と、脱ぎ始めた彼女を見ながら平然としている辺り、俺も慣れてしまったのだろうか。

 

 

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