雨降る中で神獣が戯れてみたお話。丁くんの生きていた時代のお話です。
別サイトの作品を推敲した後、投稿。 

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白澤さまはきっと、根からの芸術家。


とある絵画の完成について

 さあぁっと音がして細やかな雨がたっ ぷり降ってきた。温かな雨だった。あたりは雨の匂いが濃く立ち上っていた。

 幼い少年は、空を見上げもせずに、とぼとぼと歩き続ける。手には、 食料だろうか、穀物が入った小さな椀を 持っていた。小さな村の道だから民家も周辺にあるのだが、見向きもしない。宿れる場所があればとうに宿っている。かがちにも似たその目が言っていた。

 その姿を眺める目が9つあった。眼をいくつも持つ不思議な獣。真っ白い柔らかな毛並みは雨の中にもかかわらずふんわりと立つ。まるで絵画のようだと、少年を見つめていた。

 少年はどこへ行くつもりだろうか。この先には民家もなく、あるのは唯、垂れ桜の大木だ。

 

 絵画というには華が無いんだよねぇ

 

 神獣は、ふと、笑う。 

 

「では、ちょっと戯れてみましょうか」

 

 俯く少年の頭上を追い越して、向かうのは件の枝垂れ桜。 降るのは春の雨だけれど、まだまだ桜の頃ではない。木は荒々しい幹を晒している。

 幹の周りをふわりと舞って、枝先の固い蕾に息をかけた。何処か遠くの神様が、土の人形 に命を吹き込んだように、息吹を吐いた。

  途端に一陣の暖かな風。見ると蕾が柔らかに綻んでいる。

 不思議なことに、雨に打たれながら次々と桜の花がさいた。柔らかな花びらは幻想的な色合いを帯び、八重どころではなく十数枚の花びらをつける。

 狂い咲き、その言葉こそ、この花々には相応しい。季節なんて無視して、木が元々持つ生命力の限りに花開かせたのだ。

 もしかしたら、この木はこの春を最後に枯れてしまうかもしれないな。それでもまあ、構わないのだけれど。

 うっとりと景色を見ながら、頭の隅でそう思う。

 

「これで完成。名付けるならば、雨と桜 と少年とって所かな?」

神獣が口を開く。若い男のような声 だった。

 

 すっかり花が開ききったころ、少年が 俯きながらやって来た。彼が目を上げる ことなんて滅多にない。

普段誰かしらと目を合わせてしまえば、何を睨みつけているんだと殴られる。

 しかし、今日ばかりは特別だ。何を思ったのか、顔を上げる。

 途端、視界に飛び込んでくる淡い色彩。

  少年の目は驚きのあまり思い切り見開かれた。薄い唇がぽかんと開き、感嘆の声さえ漏れる。

そのまま、樹の下へ導かれるように入っていった。狂い咲いた花はみっしり と枝々の間を埋めていて、雨も落ちてこ ない。 首を捻りながらも少年はしばらくそこ にいた。 暗い灰色の空の下、灯りが着いたよう な花影と、その下の少年。

 

 満足のいく絵画が完成が出来た。

 

 少年の知らない所で神獣がにやりと笑 う。




 読んでくれてありがとう!
 はじめまして。眩草(くらら)といいます。
 大好きなお話に思いを馳せながら、自由に書いていけたら…と思います。
 丁くんが生きた神代の時代の資料は現在殆ど残っていないといいます。従って、 私が想像した雨情枝垂桜が日本にあったのかはわかりません。しかし、神代は人と神が同じ地上を歩いていたとも言われるのですから、不思議なことも沢山あったでしょう。


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