ATLUS版マギアレコードRTA 難易度MANIACS ペルソナ使いルート 全コミュMAXチャート 作:めめん
秋華賞で1万円くらいトリガミしたので初投稿です。
Once, I dreamt I was a butterfly.
I forget myself and knew only my happiness as a butterfly.
Soon, I awoke, and I was myself again.
Did I dream that I was a butterfly?
Or do I now dream that I am a man?
Yet there is a distinction between myself and the butterfly.
This is the transformation of the physical.
ある時、私は蝶になった夢を見た。
私は蝶になりきっていたらしく、それが自分の夢だと自覚できなかったが、ふと目が覚めてみれば、まぎれもなく私は私であって蝶ではない。
蝶になった夢を私が見ていたのか。
私になった夢を蝶が見ているのか。
きっと私と蝶との間には区別があっても絶対的な違いと呼べるものではなく、そこに因果の関係は成立しないのだろう。
◆
早くペルソナを覚醒させたいRTA、はーじまーるよー。
前回いきなり占いで最悪の結果を出してしまったところからの再開ですが、あの後は特にやるべきことがなかったので、一度ベッドで寝てコンディションを回復しました。
――で、その結果が冒頭の1シーンです。
先ほどの一文は、ペルソナシリーズ全体の共通テーマでもある古代中国の自由思想家・荘子の有名な漢詩『胡蝶の夢』ですね。
要約すると「今の自分が本当の俺なのかはわからんけど、どんな姿形であっても結局は俺なんだから別に気にすることじゃねーな!」という超ポジティブ思考な詩です。
これが出たということは、予定どおりこのチャレンジはペルソナルートに突入したということになります。
ペルソナルートでは基本的に敵は原作マギレコ同様魔女と使い魔のみとなるので、悪魔召喚師ルートや人修羅ルートなどのように「一歩でも家の外に出たら常に死の危険がつきまとう」なんてことにはなりません。
――というか、魔女や使い魔のみならず悪魔たちがそこら中に溢れかえっている神浜市とか、マギウスの翼が結成されるよりも前に一般人が死に絶えてしまうのでは? ボブは訝しんだ。
まぁ、実際それらのルートに突入しても一般人は普通に生活しているので、そこは唯一神や天使たちといったロウ陣営の方々が色々と裏で手を回しているのでしょう。うん。そういうことにしておこう。
というわけで、プレイ再開じゃあ!
自室を出て1階のリビングに戻ると、早速やちよさんに声をかけられました。
おう、どうしたやっちゃん!?
なに? これから出かけてくるとな? もう夕方だぞ?
……まぁ、走者はわかっていますけどね。
魔女や使い魔を探しに1人パトロールに行くんですよね? それかスーパーの特売でしょ?
乃彩ちゃんはまだなんの能力も持たない無力な一般ピーポーなので、大人しくお留守番してまーす。いってらー。
「それで夕飯なんだけど、切江さんなにか嫌いなものとか――」
「やちよー!」
おっ?
玄関の扉を勢いよくぶち開けて誰か入ってきましたね。
この時期にみかづき荘に来る人といえば、だいたい予想はつきますが――
「――どうやら夕飯の支度はしなくてもよさそうね」
「どうもー。中華飯店“万々歳”で~す♪」
つ~るのちゃぁ~ん!(某ふ~じこちゃ~ん的なニュアンスで)
はい。予想どおり、やって来たのは『最強さん』こと鶴乃ちゃんです。
みかづき荘関係者と敵対しないチャートの場合、基本的にどのルートでもお世話になる子ですね。
先駆者兄貴たちの動画でも散々紹介されていますが、安定した基本能力のみならず固有魔法の『幸運』が非常に強力で重宝します。
ちなみに、『Reincarnation編』では魔法少女の固有魔法は悪魔やペルソナのそれと同様、『特性』としてゲーム中に反映されますので、これからプレイする方は覚えておきましょう。
また、鶴乃ちゃんはペルソナルートにおいては難易度「HARD」以上でもコミュニティの対象になりやすいキャラクターの1人です。
そのため、「HARD」以上でペルソナルートに挑戦する場合は、可能ならば最序盤から積極的に交流することをオヌヌメします。
今回はみかづき荘スタートだったため、向こうからこうして早々に来てくれたのはありがたいですね。(幸先が)いいゾ~コレ。
比較的出会ったり遭遇したりしやすいキャラクターでも意外とエンカウントできないのが難易度「HARD」および「MANIACS」ですから(2敗)。
さて、すでに先駆者兄貴たちの動画でストーリーやキャラクター設定をご存知の方もいると思いますので詳細は省きますが、この鶴乃ちゃんは本家ペルソナシリーズに登場していても違和感なさそうなくらい、表の顔と本心のギャップがある子です。
ゆえに、原作マギレコの登場人物のように意識的にしろ無意識的にしろ鶴乃ちゃんに頼ったり甘えてばかりいると、原作中盤のようにマギウスの翼に洗脳されて敵になりウワサと融合してしまった場合、盛大なしっぺ返しを食らうことになります(1敗)。
ですので、今回のチャレンジでは鶴乃ちゃんとは対等な仲間――こちらだけでなく、逆に鶴乃ちゃんのほうも乃彩ちゃんを頼ったり、乃彩ちゃんに甘えるような関係を序盤から積極的に築き上げようと思います。
こうすると原作よりも鶴乃ちゃんの精神的な負担が軽くなるため、上手くいけば原作のようにマギウスの翼に洗脳されたりすることがなくなり、相当なタイム短縮が狙えますので。
なお、そんな鶴乃ちゃんと良好かつ対等な関係を築くための術ですが――ゲーム中の選択肢や行動で、とにかく鶴乃ちゃんをイジり倒せば問題ありません!
一言「イジる」といっても、『マギア☆レポート』での鶴乃ちゃんのように、彼女の実家が経営している中華料理屋『万々歳』関連のネタを振りまくるのではなく、あくまでもイジる対象は鶴乃ちゃん個人です。
万々歳でイジることもできますが、原作同様実家絡みのネタは自らの精神的負担に内心で変換してしまいますので、可能な限りやらないようにしましょう。
――というわけで、早速選択肢が出ましたので、鶴乃ちゃんとのファーストコンタクトに挑んでみようと思います。
1:……誰?
2:……頼んでない
3:(何も言わず叩き出す)
草ァ!
3番が酷すぎませんかね!?
こういうネタ選択肢が一番最後にあるあたり、実にATLUSゲーらしいですが……
ここは無難に2番を選択して――おおっと! 手が滑って3番を間違って選択してしまったぁ!(ゲス顔)
無言かつ真顔でいきなりやって来た鶴乃ちゃんの腕を掴むと、そのまま玄関まで連行して外へポーイ!
そして即ドアを閉めて施錠する乃彩ちゃん。ヨシ!(現場猫)
「ちょっ!?
ちょ、ちょっとーっ! 問答無用で外に放り出すのは失礼じゃないのーっ!」
鶴乃ちゃん、無理矢理玄関を開けようとしたり、扉を叩きまくってますね。当然ではありますが。
うるせえ! 出前なんて頼んでねえんだよ!
朝●新聞よろしく引っ越し初日から人ンちに押し売りかけてくるとか良い度胸だなテメエ! 警察呼ぶぞ!?
「き、切江さん、今の子は私の知り合いよ!
この家にも前々から頻繁に来ていた子だから押し売りでも怪しい人でもないわ!」
アッハイ(知ってるけど)。
やちよさんにそう言われたので、ドアを開けて改めて鶴乃ちゃんを家の中に入れます。
でも、頼んでもいないのにいきなり出前に来たうえに、チャイムも鳴らさずに人の家に勝手に上り込むコイツが悪いんですよ?(まったく自分の非を認める気がないプレイヤーの屑)
「い、いや、確かにそれはそうだけどさ……」
「――それよりも鶴乃、どうして家に来たの?
先日言ったはずだけど、私もみふゆたちも今は1人にして――」
「どうしてって……そんなの乃彩ちゃんのお引っ越し祝いをしにきたに決まっているじゃない!?」
い゛い゛こ゛だ゛な゛ぁ゛つ゛る゛の゛ち゛ゃ゛ん゛!゛
いやホント、いい子過ぎるでしょ鶴乃ちゃん。
誰だよ、こんな優しい子をいきなり問答無用で外に叩き出した酷い奴は!?(お前だ!)
「切江乃彩ちゃんだよね?
わたしは
オイオイオイオイ。
乃彩ちゃん自己紹介してないのに、自分のこと魔法少女って言っちまっているぞコイツ。
おハーブ生えますわ。
――あ。また選択肢出た。
1:よろしく
2:弟子?
3:魔法少女?
4:……頭大丈夫?
だから最後の選択肢ィ!(爆笑)
ちょっと乃彩ちゃん、いくら選択肢とはいえ初っ端から飛ばし過ぎじゃないですかね!?
もしかして鶴乃とは別のベクトルで人格の表と裏のギャップがとんでもない子なんでしょうか!?
見た感じペルソナシリーズの歴代男主人公のようなクールっぽい雰囲気ですが、実は結構やべーやつなんじゃ……?
後で詳細なステータスを確認しておきましょう(さっきやっておけよ)。
さすがに4番は信頼度上昇に響きそうなので、ここはまた3番を選択します。
すると、やちよさんからさらりと指摘されて乃彩ちゃんが魔法少女ではないことに気づいた鶴乃ちゃんが慌てて訂正します。
乃彩ちゃんはほんのわずか――それこそ雀の涙程度の疑念を抱きますが、やちよさんのフォローもあってなんとかごまかせたみたいですね。
画面が変わり、またリビングに戻りました。
結局、鶴乃ちゃんに押される形でやちよさんも含んだ3人で乃彩ちゃんの引っ越し祝いをすることになったようですね。
しかし、食べ物のボリュームが軒並み半端ないぞ万々歳……
見るからにラーメンもチャーハンもその他諸々も「大盛」ってレベルじゃないんですがクォレハ……
「乃彩ちゃんのお引っ越しのお祝いも兼ねたサービスだよ!」
お、おう……
これは食後は腹が苦しくなってなにもできずに1日が終わりそうですね。
まぁ、占いで『塔』のカードも引いちゃっているし、そうなってくれたほうがありがたいかもしれませんが……
――あ。もしかして『塔』のカードを引いたことによるデバフってそれか?
「――それじゃあ、私は少し出かけてくるから。
鶴乃は切江さんと一緒に留守番お願いね?」
「うん。いってらっしゃい」
――って、やちよさんホント食うの早いな!
ラーメンだけしか食ってないとはいえ、あの量をこの短時間で完食するとか……
さすが隠れ大食いキャラは格が違った。
その後は鶴乃ちゃんと特に他愛もない駄弁りを繰り広げて、特に何事もなく食事シーンは終了。
ちなみに、この会話で乃彩ちゃんは鶴乃ちゃんと同い年で同学年であることがわかりました。現在は高校1年生。原作ストーリー開始時には高校2年生ということですね。
高校生なら私生活の行動でアルバイトなども行えるので、これは行動の幅が広がったことになります。進級したら原付免許を取得するのもありかもしれません。
――で、案の定、乃彩ちゃんは食後に腹が苦しくなってまともに動くこともできず、そのまま1日が終了してしまいました。
ハハッ、ワロス。でも、あれだけの量を完食しただけでもすごいわ。
というわけで、1日目は特になんのイベントもなく終了――ん?
『――“
『目を開けよ。
我が声が届いているのならば――』
おっと。1日目と2日目の間にイベントが発生しました。
クォレハ……ペルソナルートで主人公のペルソナの覚醒が近いと発生する予兆イベントの一種ですね。
乃彩ちゃんが目を開けるとそこは――なんじゃこりゃ? 全面鏡張りみたいな迷宮なんですケド? ミラーズか?
試走やこれまでのプレイではこんなところ来たことなかったぞ?
とりあえず、動かせるようになったので、先に進んでみましょう。
――あ。全面鏡張りといっても、足元は水面になっているようで乃彩ちゃんのスカートの中とか歪んで映らないな。チッ。
「鏡は映し方によって、その面を見ている者の様々な姿を映し出す――
それはさながら人の心のようじゃ。
少し見方を変えるだけで、あたかも違う存在であるかのように映る……」
道中なにも起こらず迷宮の最奥まで進むと、そこには銀髪の和装幼女が待っておりました。こちらには背を向けてですが。
誰だよお前? コッチヲ見ロォ!(SHA並感)
「――そして、お主の中でまさに今、目覚めようとしておる」
「偽りの仮面によって封じられた、お主自身――」
「“ペルソナ”が――」
ようやく振り向いたと思ったら、狐面被っていました。
最後にようやくその仮面を取ったと思ったら、影がかかっていて素顔見えませんでしたし……
ホント誰よ、この銀髪和装幼女? 『真・女神転生if...』のチェフェイの亜種か?
まぁ、ともかく、このイベントが起きたということは乃彩ちゃんがペルソナを覚醒させるのはそう遠い未来ではないでしょう。
たま~に、この予兆イベントがぜんぜん発生せずに日々を過ごすこともある(2敗)ので、1日目の終了の時点で発生してくれたのは幸先は良いほうです。
では、1日の終了と同時に一度セーブして2日目に入りましょう。
本来のRTAならばセーブはタイムロスになるのでやらないほうがいいのですが、これは難易度「MANIACS」。いつ死ぬかもわからないのでセーブはこまめに行います。
そのほうが走者も精神的に余裕も生まれて些細なミスも少なくなり、結果的にタイムの短縮に繋がるなんてことは結構ありますからね。
GC版『バイオハザード』でナイフクリアRTAに挑戦した人とかは、この気持ちわかるんじゃないですか?
おはようございます! さわやかな朝ですね!
というわけで、2日目イクゾー!
乃彩ちゃん、早速今日から転校先の学校に通うようです。
昨日神浜に来たばかりなのにいきなり登校とか、道迷ってもおかしくなさそうなんですけど、それは大丈夫なんですかね?
まぁ、引っ越して2日目に早々学校に通い始めるのは本家ペルソナシリーズではお約束なので、たぶん大丈夫でしょうけど……
さて、昨日の時点では転校先はわかりませんでしたが、はたして乃彩ちゃんどの学校に通うのでしょうか?
みかづき荘スタートなので、一番可能性が高そうなのは当然やちよさんや鶴乃ちゃんと同じ『神浜市立大附属学校』ですが……
――ん?
この紫色の上着とスカートは……
『水名女学園』じゃねえかよ!(CV.鉄華団団長)
こ、これは……別の意味で大丈夫なのか!?
水名だぞ!? 伝統と格式云々とか謳っておきながら在学しているネームドキャラが総じて一癖も二癖もある濃さで「芸人養成所」なんてファンからネタにされているあの水名だぞ!?
そこに乃彩ちゃんという昨日の選択肢でやべーやつ疑惑まで浮上してきた子を投入してもいいのか!? ますますネタ化が加速しない!?
――お、オーケイ。とりあえず落ち着こう。
まさか水名女学園とは思いませんでしたが、考えてみれば同校は高等部にネームドキャラが多いので、何人かコミュニティ対象となる子が見つかるかもしれません。
乃彩ちゃんの年齢的に今後のストーリーにも関わってくる月夜やドア様が同級生ということになるので、可能ならこの2人には今日中に会っておきたいですね。出会いたい!(出会い厨)
やちよさんの前妻もとい親友のみふゆさんも現時点ではまだ在学中ですし、狙えるなら会ってみるのもありでしょうね。
前回説明しましたが、現時点ではみふゆさんは精神面で相当参っている状況なので、あまり積極的に関わるのは危険ですが……
また、みふゆさんの現在の精神状態だけでなく、水名は「走者の天敵」「チャートブレイカー」などの異名でマギレコRTA界隈で恐れられているYKKこと『
下手をしたら転校初日にこいつらと遭遇して最悪目をつけられる可能性があります。そうなった場合はリセットです。
現時点ではゆきかは中等部、帆奈も中等部でなおかつ基本的に不登校なので、中等部の校舎や教室、その近くに行かなければ危険を回避できるのが幸いですが、難易度が難易度なので油断はできません。
校門前でバッタリ遭遇して目が合っちゃうなんてこともあり得るのが難易度「HARD」や「MANIACS」の恐ろしいところです……
ともかく、学校に行かなきゃストーリーが進まないので、早速登校します。
ヘイ、やっちゃん! 乃彩ちゃんは先に行くぜ!
「あ……切江さん。
その……もし水名女学園でみふ――」
おっ? どうしたどうした?
「……ごめんなさい。なんでもないわ」
あっ、そーっすか。
どうやらみふゆさんのことは心配しているみたいですけど、お互い状況や心境がアレなので顔を合わせ辛いようですね。しゃーないっすけど。
それでは、気を取り直して乃彩ちゃんは学校にいってきまーす!
――といったところで、今回はここまでです。
ご視聴ありがとうございました。
◆
メルが死んで早くも数日が経過した。
あの日を境にみかづき荘は――わたしたちの日々は変わってしまったと言っていい。
メルの死の翌日、なにも知らなかったわたしはいつもどおりみかづき荘に赴き、昨日までとは明らかに空気が一変していたことに気がついた。
そして、やちよししょーの口からメルが死んだことを聞かされ、当面の間は1人にしてほしいと言われてその日は家に帰らされた。
突然聞かされた仲間の死。
わたしはわけがわからず、すぐさまみふゆやももこに電話してみたが、みふゆが電話に出ることはなく、ももこのほうは電話にこそ出てくれたが、その声からは明らかに戸惑いが隠しきれておらず、魔女との戦いでなにがあったのかも教えてくれなかった。
――みふゆにはその後何度も連絡を取ろうとしているが、いまだに取れず今日までに至っている。
だけど、わたしにはそれだけでひとつだけわかったことがある。
やちよもみふゆもももこも、各々が「自分のせいでメルが死んだ」と思っている。メルの死にみんなが責任を感じているんだ。
――メルの死に責任を感じているのは、わたしだって同じなのに。
あの日は珍しく万々歳に団体のお客さんの予約が入っていたため、やちよたちから許しを貰ってわたしは魔女退治に参加せず家の手伝いに行った。
その結果がこれだ。
もしわたしが「由比家の娘」ではなく、「魔法少女」としての自分を優先していれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに――
少しだけワガママな子供になっていれば、大切な仲間を失うことはなかったかもしれないのに――
それなのにわたしは、「由比家の娘」であることを選んでしまった。
魔法少女として魔女と戦うことがどれだけ危険で、命がけであることをわかっていながら――
そうだ。
わたしは……無意識に自分の命が脅かされない楽なほうを選択したんだ。
メルややちよたちの命と自分の命を、自分でも知らずうちに天秤にかけていたんだ。
――なにが「最強の魔法少女」だ!
結局は我が身大事で、安全な所から楽をしようとしている最低な奴じゃないか!
そんな奴がやちよの弟子を自称して、みかづき荘の仲間ぶっていたなんて……!
この数日間は、そんな自己嫌悪に苛まれる日々だった。
正直、我ながらよく表向きはこれまでどおりの「由比鶴乃」を保っていられたなと思う。
おそらくだけど、これも彼女の存在があったからかもしれない。
――『切江 乃彩』。
先日知った、みかづき荘の新たな住人になるというわたしと同い年の女の子。
写真に写っていたその姿は、申し訳ないけど「地味」の一言につきた。
わたしやももこたちとは明らかに正反対なイメージを抱かせる――明るくも活発でもなさそうな印象の子だった。
だからだろうか、同じ感想を抱いていたメルが「乃彩さんが引っ越してきた当日に、みかづき荘でお祝いのサプライズパーティーをしましょう」と言い出した時は、我先に賛成した。
みかづき荘に集うメンバーは、住んでいるところも通っている学校も違うけれど「家族」なんだから――そんなことをメルと2人で言っていたことを覚えている。
――今思えば実に白々しい話だ。
わたしはそんな「家族」を見捨てたようなものなのに。
本当によく平気でそんなことが言えたものだ。
――だからだろうか、数日ぶりにみかづき荘を訪れた直後、わたしの腕を掴んで何も言わずにいきなり外に放り出した彼女の行動に、わたしは内心どこか嬉しさを感じていた。
別にそういう性癖に目覚めてしまったわけじゃない――と思う。
ただわたしは――たぶん誰かにわたしという存在を非難してほしかったんだ。
由比鶴乃はみかづき荘のメンバーにふさわしくない――
由比鶴乃が七海やちよの弟子を自称するなどおこがましい――
そう言われたかったのかもしれない。
「き、切江さん、今の子は私の知り合いよ!
この家にも前々から頻繁に来ていた子だから押し売りでも怪しい人でもないわ!」
「……出前、頼んでません。
勝手に他人の家にいきなり上り込んでくるのも……正直怪しすぎます」
扉越しにそんな会話が聞こえながら、閉ざされた玄関のドアが再びゆっくりと開く。
その先にいたのは、数日前に写真に写っていた姿と寸分変わらぬ彼女――乃彩ちゃんだ。
どこか気だるげそうな、それでいて無気力そうで、目に映るものすべてに興味がなさそうな感じの瞳がわたしの姿をとらえている。
――ああ、そうだよ。わたしはこれを求めていたんだ。
その瞳を見た瞬間、わたしの中で“なにか”がふつふつと沸き上がってくるのを感じた。
わたしという存在を「どうでもいい」とも「心底興味ない」とでも言いたそうな目。
「由比鶴乃」という存在が内に秘めた罪を見透かし、責め立て続けているかのようなその瞳。
この子こそ――切江乃彩こそ今の由比鶴乃が必要としていた存在だ、とその時わたしは確信した。
「切江乃彩ちゃんだよね?
わたしは由比鶴乃! やちよししょーの弟子で最強の魔法少女だよ!」
――それがわたしの一方的な自己満足だとしても構わない。
わたしは
「……魔法少女?」
『鶴乃、切江さんの左手をよく見なさい』
「えっ?」
やちよからの念話を受け、わたしは思わず声を漏らしながら乃彩ちゃんの左手に目を向ける。
そこには魔法少女の証であるソウルジェムの待機状態である指輪は存在しなかった。
つまり、乃彩ちゃんはわたしたちとは違い、魔法少女ではないということで――
「……あーっ!
ちょ、ちょっと今のはなし! “最強の魔法少女”っていうのはなし!」
「あ……はい……」
「はぁ……まったく……」
――いきなりポカしちゃった。ちょっと恥ずかしい。
みかづき荘の新しい住人というから、魔法少女だとばかり思ってしまっていた。
「あ、改めて……由比鶴乃だよ!
よろしくね、乃彩ちゃん!」
「よろしく」
乃彩ちゃんはこちらが差し出した手を躊躇う様子もなくすんなりと握り返してくれた。
わたしを見ているその目は、やはりわたしを見ていないように思えた。
――だけど、今のわたしにはそのほうが嬉しいなんて口が裂けても言えないよね?
その後はわたしが半ば強引に押し切った形ではあるけれど、やちよも交えて3人で乃彩ちゃんの引っ越し祝いをすることになった。
テーブルの上に並べられた料理はわたしややちよにはすっかりお馴染みの万々歳の中華という質素なお祝いの席だったけど、その時は少しだけ数日前のみかづき荘の雰囲気に戻ったような気がする。
「……ボリュームすごいですね」
「乃彩ちゃんのお引っ越しのお祝いも兼ねたサービスだよ!
それに、そんな畏まらなくていいよ! わたしと同い年で同学年なんでしょ!?」
「あ、は――うん……」
「中華飯店“万々歳”! 参京区で元気よく営業中! うちの実家がやってて、わたしも結構手伝ってるんだ!」
「そ、そう……」
目の前の料理のボリュームに乃彩ちゃんが少なからず圧倒されているのがわかった。
やがて彼女は箸を手にすると、ゆっくりと自身の前に置かれたラーメンに手を付け始める。
一口麺をすすったりレンゲでスープをちびちびと飲む度に、うんうんと軽く首を上下に動かす乃彩ちゃんの姿が目に映った。
「どうかな、味は?
それ、わたしが作ったやつなんだけど……?」
「…………」
――ピタリと箸とレンゲが止まる。
それと同時に、乃彩ちゃんが明らかに申し訳なさそうな目をこちらに向けてきた。
あっ……これは――
「しょ、正直に言ってくれていいからね!?
マズいならマズいって言ってくれたほうが作っているこっちとしても――!」
「マズくはない。
だけど……その……美味しいかと言われると、首を縦に触れない……」
「だぁーーっ!
やっぱりそうかーーっ!」
やはり今回も100点満点中50点の味だったようだ。
それから10分もしないうちにやちよは自分のラーメンを完食すると席を立った。
『鶴乃、悪いけど留守をお願い』
『パトロール? それならわたしも――』
『切江さんを1人にするわけにはいかないでしょ?』
『だ、だったらわたしが1人で……』
『お願い……今は1人でいたいの……』
『…………』
――念話で軽く言葉を交わしたが、やはりやちよもわたしのように自分が許せないみたいだ。
1人孤独に日々を過ごすことがやちよが自分に科した罰なのかもしれない。
『わかったよ……』
『……ごめんなさい』
「……?」
突然何も言わずに席を立ったやちよに乃彩ちゃんが不思議そうな目を向ける。
やちよもそれに気がついて口を開いた。
「――それじゃあ、私は少し出かけてくるから。
鶴乃は切江さんと一緒に留守番お願いね?」
「うん。いってらっしゃい」
作り笑いを浮かべて、わたしはひらひらと軽く手を振ってやちよを見送った。
やちよに限ってメルの後を追うような真似はしないと思うけど――大丈夫だよね?
乃彩ちゃんもいるんだし……
「……買い物?」
「ああ、違うよ。この時間に外出するのはししょーの日課。
やちよは現役のモデルだから、日々の健康とか、その……体形とか人には言わないけど結構気にしているから……」
「ふぅん……」
わたしの小嘘――ただし、半分くらいは本当だ――に乃彩ちゃんが適当に相槌を打つ。
わたしたちくらいの年頃の女の子だと、やちよがモデルだと言うと少なからず興味を抱くものだけど――乃彩ちゃんは違うのかな?
その後もいくらか言葉を交わしたけれど、やはり乃彩ちゃんはわたしが最初に抱いた印象どおり地味な子だった。
喋り方も淡々としていて、必要最低限の言葉しか発しようとしない。
また、自分からこちらに話しかけてくる様子も見られなかった。
なんというか……どこか機械的で、さながら中身が空洞のマネキンか人形みたいだ。
このままだと空気が重くなりそうだったのでとりあえずテレビをつけたけど、この時間はろくな番組をやっていなかった。
ひととおりチャンネルを変えてみたが、結局地元神浜の情報を配信するニュース番組に落ち着いてしまう。
『北養区にある老舗洋食店“ウォールナッツ”に、この度新しいメニューが――』
『黒須サトル市議会議員が来年行われる市長選に出馬する意向を正式に――』
『リスナーのみんなに神浜の
…………
……
マズい。ネタ振りにできそうな話題がなくなっちゃった……
こんな時にメルやみふゆたちがいてくれたら……
「――なにか悩み事?」
「えっ?」
視線を向けると、そこにはいつの間にかすべての料理を平らげていた乃彩ちゃんが、これまでと同様の瞳をわたしに向けていた。
――その瞳は今ははっきりとわたしの姿を映している。
「なにか思い悩んでいるように見えた」
「ふえっ!? そ、そんなことないよ!?
た、ただちょっと、なにを話そうかなって思っていただけで――」
――なにを話せばいいかわからなかったのは本当のこと。
だけど、思い悩んでいることも間違いじゃない。
顔に出ちゃっていたのかな?
それとも――見透かされちゃった?
……まさかね。
それはそれで構わないけれど……
「そ、そういえば、乃彩ちゃんって転校先の学校はどこなの?
神浜市立大附属? それならわたしややちよとも――」
「水名女学園」
こちらが言い終わる前にさらりと返された。
――あ。
水名ならもしかしたらみふゆと会うことがあるかもしれない。
やっぱりここはみふゆのことを教えたほうがいいのかな?
「――苦しい」
「えっ?」
「お腹……食べ過ぎた……」
「え……ええっ!? だ、大丈夫!?」
みふゆのことを乃彩ちゃんに伝えようと思ったけれど、その前に乃彩ちゃんが食べ過ぎによる腹痛を訴えたので結局言うことができなかった。
――次からうちの料理を持ってくる時は量は普通にしよう。
◆
――まだ少しお腹が苦しい。
由比さんから振る舞われた中華は、見た目も実際の量も相当なボリュームだった。
自分のために出されたものだし、食べ物を粗末にするのはよくないので完食したのはいいが、さすがにもう少し時間をかけて食べるべきだったかもしれない。
しかし、腹部にこうして窮屈さこそ感じてはいるが、「お腹が膨れると眠くなる」などと言われているとおり、こうして自室のベッドで横になっていると、自然と意識がまどろみの中に少しずつ沈んでいくのがわかる。
明日から早速水名女学園に通学することになるが、はたして今度の学校ではどうなるだろうか?
前の学校では――少なくとも酷い学生生活ではなかったと思う。逆に良くもなかったが。
ただ1日1日を特に意義も感じず無駄に過ごしていくだけの日々――
自分が生きているのか、はたまた死んでいるのかも実感がない人生――
おそらくこれからもそうなっていくだろう。
私の中には「これでいいのか」と疑問に思う自分も確かにいるが、同時に「このままでいい」という自分や「どうでもいい」という自分なども存在するのがわかる。
だからどうすればいいのかわからず、結局今のまま――「現状維持」という形で自己完結してしまい時間だけが流れていく。
きっと私という存在はそういうものなのだ。
「切江乃彩」という存在は――
『――“
――!?
『目を開けよ。
我が声が届いているのならば――』
――突然聞こえた言葉に従い目を開く。
気がつけば私は――見知らぬ場所に立っていた。
上も下も、左も右も、一面が鏡張りの奇妙な空間――遊園地のミラーハウスのような場所。
そのちょうど真ん中あたりに私はいた。
――よく見ると、下は表面に十数ミリほど水が張っている。
――これは夢?
昼間に電車の中で見た夢といい、今日はおかしな夢ばかり見る。
『こっちだ。
我がもとまで来るといい……』
再び聞こえた声。
その声がしたと思わしき方向へ目を向けると、いつの間にか道のようなものができていた。
この空間同様、その道も全面が鏡張りのようであった。
…………
……
このままここにいても仕方がない。
それに、これはおそらく夢だ。
私は声に従うように、その道に向かって歩き始めた。
――なにもない、ただ真っ直ぐな一本道を延々と進んでいく。
その間、私の耳には足下に張られている水が足を動かす度に跳ねるピチャピチャという音だけが響き渡った。
やがて――どれくらいの時間歩いたのかもわからなくなった頃に、一本道が終わって新たな空間に出た。
――そこはさながら宇宙だった。
足下以外の前後左右一面に――気がつけば先ほど歩いてきた道は消えていた――果てしない漆黒の空が浮かび、その中を無数の光が輝き、瞬き、動き、時には消えていく――
そんな神秘的な場所だった。
――気がつくと、私の周囲にいくつもの鏡が浮かんでいた。
その面をのぞいてみると、当然のごとく私の姿がそこに映っている。
さらによく見ると、先ほどからあたり一面に見える星かと思えた光の正体は全て鏡だった。
ここは宇宙ではなく、無数の鏡が飾られた空間だったのだ。
「――来たか。“
――!
目の前から声がしたので、鏡からそちらに目を移す。
そこには、見知らぬ少女が1人、私に背を向けて立っていた。
一見白髪にも見える銀色の髪を腰のあたりまで伸ばし、浴衣のような服を着ている。
おそらく、この少女が先ほどから聞こえている声の主に違いない。
「鏡は映し方によって、その面を見ている者の様々な姿を映し出す――
それはさながら人の心のようじゃ。
少し見方を変えるだけで、あたかも違う存在であるかのように映る……」
そのような言葉を述べる少女の手元に、また1枚新たな鏡が現れる。
それとほぼ同時に、彼女は私のほうへと振り向いた。
――その顔は狐の面で隠されており、素顔は拝めなかった。
「言い方を変えれば、それは“可能性”――
人の心には宇宙のごとき無限の可能性が秘められ、そして目覚める時を常に待ち続けておる」
……言っていることの意味がわからない。
「これは人の心――
そして、これが失われるということは、人の心の中に秘められた可能性が失われているということじゃ」
――少女の手元に浮かんでいた鏡が一瞬で音もなく粉々に砕け、やがて消えた。
「可能性が失われ続けると、人はやがて己に“偽りの仮面”をまとわせ、心に光を灯すのを止めてしまう。
そして仮面の内側から影を生じさせ、その影はいずれ世界すらも呑み込む闇を生み出すことになる――」
しかし、とつぶやいて少女は話を続ける。
「己がまとっている偽りの仮面の存在を自覚し、それを打ち破ることができれば、再び心に光を灯すことができる。
それを人は“希望”と呼んだりする――
そしてそれこそ世界を呑み込まんとする闇に抗うことができる唯一の手段じゃ」
少女の足が一歩一歩前に進み、私のほうへと向かってくる。
「今、お主がいる地では幾万もの人々から内なる可能性が失われ、
偽りの仮面を打ち破り、己が内なる可能性を目覚めさせる者が現れぬ限り――」
少女の足が止まり、狐面をまとったその顔が私のすぐそばまできた。
「――そして、お主の中でまさに今、目覚めようとしておる」
そう言いながら少女がその顔にまとった狐面を取る。
――しかし、その顔はなぜか黒い影とも靄ともとれる“なにか”に覆われており、素顔や表情はわからなかった。
「偽りの仮面によって封じられた、お主自身――」
「“ペルソナ”が――」
最後に少女が口にした言葉はなぜか聞き取ることができなかった。
――だが、私はその言葉を口にした時の少女の顔が、穏やかな笑みを浮かべているように見えた。
――目を開ける。
そこは先ほどまでいた神秘的とも奇妙ともとれる空間とは違い、みかづき荘の自室だった。
窓から見える景色はすっかり暗くなり、街灯だけが辺りをうっすらと照らしている。
時計を見ると、真夜中でこそないがすでに時刻は外の景色同様夜を示していた。
どうやら結構な時間眠ってしまっていたらしい。
それにしても昼間といい今といい、本当におかしな夢だった。
――ふと、ここでまだお風呂にも入っておらず、
いけない。明日から学校だというのに、前日にお風呂に入っていないというのはマズすぎる。
私はベッドの近くに放置していたボストンバッグから寝間着と変えの下着、そして使い慣れた洗剤一式を取り出すと、それを持って部屋を出た。
――そういえば、七海さんからお風呂場の使い方を聞くのを忘れていた。
………
……
まあいいか。
アズレンのミニイベントをまだクリアしていないので失踪します。
■TIPS
●
主人公。
難易度が難易度ゆえにRTAのプレイヤーキャラでありながら行動は比較的慎重派。
しかし、当然のごとく珍行動や奇行に走る時があるのはお約束。
おまけにATLUSゲーの主人公キャラの宿命か、選択肢のせいでさらりととんでもない爆弾発言やネタ発言をすることもしばしば。
イメージとしては初期キタローとクーほむを足して50点引いたような奴。つまりまな板。水名女学園なのに……
●
ご存知、自分のことを異能生存体だと思い込んでいる魔法少女。
現時点ではまだ高校生なので「少女」と称してもぜんぜん問題ない。
メルの魔女化があったばかりなので精神的にかなり参っちゃってる。でも食べる時は食べる。
食事は大事。古事記にもそう書いてある。
●
最強さん。素の能力もさることながら、固有魔法の『幸運』がすっげえ強力。
しかし本人の人生は決して幸運ではない。魔境神浜における親に恵まれなかった子供その1。
乃彩ちゃんの存在で、原作より若干精神面に変化あり。もちろんアカン意味で。
たぶん今の精神状態のままウワサと融合したら隷属願望持ちのドMになる。それはそれで見てみたい。
●謎の幼女
乃彩ちゃんの夢の中に現れた銀髪和装のじゃロリ狐面娘。
なんとなくぶん殴りたくなる人は、おそらく『ペルソナ2罪』プレイヤー。
先に言っておくとフィレモンでもババアでもない。