魔法科高校の事なかれ主義の規格外(イレギュラー)   作:嫉妬憤怒強欲

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祝『魔法科高校の優等生』アニメ化決定!
本編の劣等生と交互に見たらより面白くなりそうで来年が待ちきれません!


追記

『魔法科高校の優等生』で一色愛梨たちが深雪のところに向かうまでの描写を詳しく追加しました。



第十一話 懇親会とルーキーたち(一部修正)

 夕方、ホテルの最上階の広い宴会場で執り行われた九校戦の懇親会では、300人以上もの出場選手が参加していた。

 東京の第一高校の他に兵庫の第二、石川の第三、静岡の第四、宮城の第五、島根の第六、高知の第七、北海道の第八、熊本の第九といった日本全国にある9つの国立魔法大学付属高校から魔法に関して腕に自信がある生徒たちがスポーツ系魔法競技で競い合うためにここに集っている。

 これから勝敗を競う相手と一同に会する懇親会は、和やかさより緊張感の方が強かった。

 

「すみません。ドリンクのおかわりをお願いします」

「はい。少々お待ち……あっ」

「え?シンヤ君!?」

 

 そんな中で給仕の仕事をしっかりとこなしていたオレは、後ろからドリンクのおかわりを頼まれたため振り返って新しいドリンクを渡そうと声の主の顔を見ると、そこには一高の生徒会長、七草真由美がいた。

 

 会長がいること自体は知っているので、オレは少し固まっただけで済んだが、会長はオレとは違ってかなり驚いていた。

 

「おかわりどうぞ」

「うん、ありがと……じゃなくて!シンヤ君がどうしてここに?」

「会長はエリ……千葉とは会わなかったんですか?」

 

 幹比古はともかく、エリカと会長は顔の面識はある。

 だから、エリカを見かければ少なくともエリカから直接聞いていない限りはオレもエリカたちと同じように参加していると思えるはずだ。

 そして、自分がいたことを知らない時点で、エリカとは会っていないことになるのだが、エリカはかなり広範囲に移動しているため見かけないという可能性は低いはずだ。

 

「ううん、さっきまで摩利やリンちゃん、十文字君、服部君と一緒に他校の生徒会に挨拶していたけど、見かけなかったわよ?」

 

 わざとらしく顎に手をあてて考える仕草をする会長だが、これで納得がいった。

 エリカは、何故か渡辺風紀委員長をあまり好ましく思っていない。

 その彼女と一緒に行動していたなら、確かにエリカは近寄らないはずだ。

 

「千葉さん……なるほど。だからシンヤ君はここにいるのね」

 

 会長は一人で結論に至ったらしく、一人でウンウンと頷いている。

 

「それにしても、シンヤ君が燕尾服ってなんだか新鮮ね」

「そうですか?自分だけこんな格好なので浮いてる気がしますが」

「そんなことないわ。とても似合ってるわよ」

「…………褒め言葉として受け取っておきます。それでは」

 

 これ以上関わればまためんどくさいことになると考え、回れ右して会長から離れようとした。

 

「こーら、どうして逃げるの?」

 

 振り返った瞬間、会長がオレの前に回り込み、立ち塞がった。

 

「……給仕の仕事があるので」

「少しお喋りしても罰は当たらないわよ。シンヤ君に少し大事な話があるの」

 

 突然会長は真剣な顔付きで、そう切り出した。

 オレは戸惑いつつも話を聞く姿勢を取る。

 

「……大事な話ですか?」

「ええ、シンヤ君――――卒業した後ウチで専属執事にならない?」

「…………は?」

 

 何言ってるんだこの人は。

 

「アフタヌーンティの時に”紅茶をもらえるかしら”って私が命令してシンヤ君が執事姿で”かしこまりましたお嬢様”って注いでくれる姿を想像したらおもしろ――――じゃなくてとても絵になると思うわ」

「今おもしろいって言いかけませんでした?」

「うふふ、気のせいよ」

 

 あっ、これ小悪魔モードに入ってる、と気づいた時げんなりする。一度会長にからかわれることになったら逃げだすのが難しくなる。なにか手はないかと考えていると、ちょうど壁のあたりで佇んでいた達也を見つけ、目が合った。すぐにアイコンタクトで救援を求める。だが達也は首を横に振り、ハンドサインで『健闘を祈る』と返してきた。

 

 オレの周りには薄情者が多すぎる。

 

「もう、お姉さんと喋ってるのにどうして目をそらすのかしら?」

 

 一気に詰め寄ってくる会長。しまいには人差し指で「つんつんっ」とオレの頬を突くしまつだ。これで会長の指を咥えてみればこの絡みも終わるだろうが、生徒会会議でオレの名前が挙がり退学処分されてしまう可能性が高いか……。

 

「何やってるんだ、真由美」

「あうっ!」

 

 渡辺風紀委員長が会長の背後に現れ、チョップで会長の頭をしばいた。小気味の良い音が鳴り、ちょっとだけ委員長に感謝する。

 

「いったぁ~もう、何するのよ摩利」

「お前がこんなところで後輩に絡んでいるからだろ。少しは自重しろ。すまない有崎、真由美は出発の時に達也君があまり構ってくれなくて拗ねてるんだ」

「ちょっと摩利、それじゃあ私がかまってちゃんみたいじゃないの」

「実際気に入った相手をオモチャにしてるだろうが」

「失礼ね。私はただスキンシップの一つとしてからかってただけよ」

「なお悪いわ」

 

 そうか。大体予想はしていたが達也も被害者だったか。可哀想に。

 

「ちょっとシンヤ君!?どうして達也君に憐れみの視線向けてるのかしら!?」

「いえ、達也も苦労してるなと」

「それは違うぞ。あの達也君だとまったく相手にしてくれない。むしろ返り討ちになってる」

「摩利!?」

 

 なんだ違うのか。

 

「……それじゃあ自分は仕事があるので失礼します」

「ああ、すまないな「えぇー?もうちょっとお喋りを」真由美は押さえておくから行ってくれ」

「ありがとうございます」

「あぁーん、せめて一緒に記念撮影でもォー!」

 

 会長を押さえてくれている委員長のご厚意に甘えてオレはその場を去った。

 

 

♢♦♢

 

 

「お飲み物は如何ですか?」

「……何をやっているんだ、エリカ?」

「アルバイトよ!」

「関係者ってこういうことだったのね」

「よく潜り込めたな……」

 

 メイド姿で声をかけてきたクラスメイトに、空のグラスを手に壁に背中を預けている達也は苦々しい表情を、深雪はただ純粋に驚きの表情を見せていた。

 

 突然の知り合いの登場に少々面食らったものの、次の瞬間には彼の優秀な頭脳は彼女がここにいる理由を導き出していた。実家のコネを使ってホテルの部屋を確保するのはともかく、懇親会にスタッフとして潜り込むのはコネの使い方としてどうなのだろう、と些かの疑問は残るが。

 

「あっはっはっ、サプライズ成功ってところね。それでどう、達也くん?」

 

 エリカは満足そうに笑いながら、達也の前でクルリと1回転してみせた。フリルで飾られたスカートが、風に乗ってフワリと浮かび上がる。

 服の感想を求めているのか、と達也が口を開きかけるも、深雪が横から口を挟んできた。

 

「お兄様にそんなこと求めても無駄よ。お兄様は表面的なことに囚われたりしないもの」

「そっかー。達也くんはコスプレに興味無いか」

「コスプレ?誰かに言われたの?」

「ミキがね。しっかりお仕置きしてやったけど」

 

 悪い笑みを浮かべているエリカを見て、達也は心の中で幹比古に同情した。

 しかし“ミキ”という単語を初めて聞く深雪は首を傾げ、それに気づいた達也が横から説明する。

 

「俺達と同じクラスの吉田幹比古だ。名前だけは聞き覚えがあるんじゃないか?」

「ああっ、この前のテストで筆記3位だった方ですね」

「そうだ。如何やらエリカの昔なじみだったらしい」

 

 と、そうしている内に、深雪の姿を見つけたらしいほのかと雫が司波兄妹の背後から近づいてきた。

 

「深雪、此処に居たんだ」

「エリカも来てたんだ。でもどうやって?」 

「やっほー二人共、一週間ぶり。そこは親のコネでちょっとね」

「君らは何時も一緒なんだな」

「そうですね」

「友達だし、別行動する理由も無いから」

「そうか」

 

 一週間ぶりに会うエリカとも挨拶を交わす中、達也は別の疑問を口にする。

 

「エリカと幹比古とシンヤがいるってことは、レオと美月もいるのか?」

「うん、そう。アタシとミキとシンヤ君はこっち、2人は裏方でそれぞれ力仕事と皿洗い。あれ?ひょっとして達也君、シンヤ君にはもう会ったの?」

「遠目で見てたくらいだがな」

 

 その際シンヤが真由美に絡まれていて、彼からSOSを求められたが見捨てたことは省略して達也は説明する。

 

「シンヤだけ燕尾服だったのには驚いたな」

「ああ、それ私も驚きました。エイミィなんてびっくりして石みたいに固まってましたよ」

「あら?それじゃあ明智さんは今どこに?」

「あそこ」

 

 雫が指差した事で深雪の視線がそちら側に向く。一高のメンバーがいるその端で、直立不動の状態で顔を真っ赤にして湯気を出しているエイミィの姿があった。彼女の周りでは友人と思しき女子生徒が肩を揺すったり、団扇(うちわ)で仰いだりして慌てている様子に深雪も苦笑いである。

 

「あ、あはは…あれはかなりの重傷ね。会場に入ってからあの調子だったかしら?」

「D組のスバルの話だと例の事故の後、バスの中で端末に彼の寝顔の写真が送られてきたときに一度固まって、しばらくして落ち着いてからまたああなったみたい」

 

 衝突未遂事故(仮)の後にそんなことがあったのかと苦笑いしながら、達也はエイミィに写真を送ったと思しき犯人に視線を向ける。

 

「…エリカ、まさか犯人はお前か」

「あ、アハハ……やだな達也君ったら。犯人だなんて人聞きの悪い…」

「…………エリカ、貴女何やってるの」

 

 呆れた顔をする深雪に、挙動不審なエリカは「うっ」と気まずそうな顔をする。

 

「だ、だってせっかくの寝顔写真をエイミィに見せないのは勿体ないなぁって思って……………まさかあそこまで過剰に反応するとは思わなかったわよ」

「エイミィには刺激が強すぎたかも。新人戦までに回復しきるかわからない」

「あ、あはは…さすがに間に合う…………よね?」

「な、なんかすみませんでした」

 

 雫の指摘にほのかでさえも否定できず、エリカは気まずそうな顔で素直に謝った。

 

「謝る相手は俺達にじゃなく明智さんにだろ…………あと、そろそろ仕事に戻らないといけないんじゃないか?」

「おっとそうだった。それじゃあ皆、パーティーしっかり楽しんでってねぇ」

 

 そう言ってエリカは仕事へと戻っていった。

 

「それじゃあ深雪も皆の所に行っておいで」

「お兄様?」

「後で部屋に来ればいい。俺のルームメイトは機材だからね。ほのかと雫も来て構わないから」

 

 イマイチ納得していなかったが、深雪が達也の言いつけに背くはずも無く大人しくチームメイトの傍に移動した。

 

 

 

 

 

 

 その後真由美に引き連れられて他校の有力選手と会話をしていた深雪の存在はひときわ異彩を放っていた。無論いい意味である。

 深雪に見蕩れる男子生徒は少なくなかった。深雪の傍を男子生徒が通る度に一瞬歩行動作が止まる。果してそれは深雪に見蕩れたのか、それとも真由美に見蕩れたのか……兎に角二人の傍を通った男子生徒で、歩行動作を止めなかったのは既に見慣れている克人くらいだったのだ。

 もちろん傍を通った男子だけでは無く、遠巻きに見ている男子生徒の視線も、深雪か真由美に集中している。

 

「おい見ろよエルフィン・スナイパーの七草真由美だぞ」

「あぁ……妖精姫の名の通り綺麗な人だ」

「おい、七草嬢の隣にいるあの子綺麗だな。どこかの令嬢か?」

「止めとけって、お前じゃ相手にもされないぞ」

「ウルセェ!」

 

 紅蓮色のブレザーに黒のズボン、胸に八芒星のエンブレムが刺繍されている三高一年男子グループもまた、深雪の姿に心奪われていた。

 九校戦では第一高校と優勝を争うほどの実力校であり、今回も優勝候補筆頭の第一高校への対抗馬として期待が寄せられている。

 そんな彼らも、今は見目麗しい彼女をこの目で見られて完全に舞い上がっていた。いくら魔法師としての実力があったとしても、やはり彼らも青春真っ盛りな学生である。

 

「そりゃ俺は無理かもしんないけどさ、一条ならいけるかもしれないぜ? なんせあいつは顔良し腕良し頭良し、そのうえ十師族の跡取りなんておまけ付きなんだからよ」

 

 その生徒はそう言って、ふと深雪から視線を逸らして別の方へと向けた。

 甘いマスクというよりも古風な美男子という形容が当て嵌まるような凛々しい顔つき、広い肩幅に引き締まった体を持つ、いかにも女性が好みそうな外見をした男子生徒がそこにいた。

 そんな男子生徒・一条将輝は、友人達の会話が聞こえる位置にいるにも拘わらず、それに反応することなくボーッと深雪を見つめていた。

 そんな彼に気づいた、モンゴロイドの見た目をした小柄な少年・吉祥寺真紅郎が声を掛ける。

 

「どうしたの、将輝?」

「なぁジョージ、お前あの子の事知ってるか?」

「名前は司波深雪さん。見ての通り一高の生徒で、エントリーしてる競技はアイス・ピラーズ・ブレイクとフェアリー・ダンス。一高一年のエースらしいよ」

「才色兼備ってやつ? 神様ってのは不公平だな」

 

 深雪に見蕩れていた男子も、そこまで行くとそんな感想を漏らした。

 

「司波深雪か……」

「珍しいね。将輝が女の子の事を聞いてくるなんて」

「よせよ。そんなことないさ」

 

 一条将輝と吉祥寺真紅郎との付き合いはかなりなものがあり、その真紅郎の記憶の限りでは将輝が女子に興味を持った事など無いのだ。

 

「コイツの場合は自分から行かなくとも相手が来てくれるもんな」

「贅沢な悩みだよな」

 

 同級生のやっかみも耳に入らないくらい、将輝は深雪のことをただならぬ視線で見つめ続ける。すると、その視界に期せずして燕尾服の給仕が通りすぎる。

 

「あれ?なんであの給仕だけ執事なんだ?」

「さあ?ウェイター服が足りなかったからじゃないか?」

「そういえばあの給仕、七草嬢と仲良さげに話してたぞ」

「なんだと!?うらやましいー!」

 

 大げさに反応する同級生を尻目に、将輝の視線が僅かにその給仕の方に向いた。

 

「どうしたの、将輝?」

「あっ、いや……なんか覚えのある後ろ姿かと思ったが、気のせいか」

 

 その後、将輝は再び視線を深雪に戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃。

 

「あの三高の一色さんですよね。よかったらお話でも――」

「あなた―――十師族?百家?何かの優勝経験は?」

「え?あ、いや、その………」

「誇れるべきものが無い人間と語る舌を私は持たないの。行きましょ沓子、栞―――」

 

 蜂蜜色の豊かな長い金髪にアメジスト色の瞳、周囲の空気を変えてしまうぐらいに整った顔立ちをした美少女に、七高の男子生徒が積極果敢に話しかけるも、彼女の圧に負けあっけなく轟沈。彼女は取り巻きの女子二人と共にその場を離れる。

 

「誰も彼も……。戦いの前だというのにお気楽なものね。懇親会をなにか別のものと勘違いしてるんじゃないかしら?まったく……軽薄で嫌になるわ」

「それだけ気を抜いている者が多いということじゃ」

「沓子はそうやって楽観視するの良くないわ」

 

 鞘当て、という意味で敵の力量を測るブロンドの美少女『一色愛梨』は浮ついた会場の雰囲気に辟易する。ここはこれから約二週間に渡って競い合う敵の姿を確認する場であって、アイドルのライブ会場ではないのだ。これでは選手たちから試合に勝とうとする気概が感じられない。彼らは本当にここへ何をしに来たのか、問い詰めたくなる。

 そんな彼らを見て「楽勝♪」と余裕を見せているのが、三人の中で小柄で顔立ちが幼く、少し古めかしい言葉遣いと腰すらも超える長い髪が印象的な『四十九院沓子』。

 それを諌めているのが、黒のショートヘアで、少し冷めたというかドライな印象を受ける『十七夜栞』。

 いずれも数字付きであり、三高一年女子のエース格である。

 

 彼女たちは「今年こそ三高優勝!」と意気込んでおり、そのための障害となる選手──特に百家に名を連ねる有力選手──を中心に見ていたのである。

 しかし、大半の魔法師が彼女たちの敵ではなく、その上会場全体の雰囲気もなんだか浮ついたものになっており「こんなものなのか」と、意気込んできた割に大したことがないのを実感してがっかりしていた。

 

「さっき話しかけて来た方も、下心丸見えで偵察ですらなかったし、他校にしても勝つ気があるのかしら」

「愛梨はあしらいが厳しいからのぅ。そうやってバッサリ切られるのを聞くとさっきの男たちが可哀想になってくるぞ」

「師補二十八家でも百家でもなく、さらには大した実績もない人と話しても時間の無駄よ」

「やれやれ、一条とはえらい違いじゃ」

「あれ。その一条くんだけど……」

 

 ふと、栞が視線を外して一年男子が密集している方に顔を向けると、三高が誇る最強のエースの一条将輝が誰かに目を奪われているのが見えた。

 しかもその視線、単純に注目しているというよりも並々ならぬ熱が込められているように見える。

 

「一条くんが他校の生徒に夢中になっている……?」

「なんじゃとッ!?親衛隊が荒れるぞっ!」

 

 ただならぬ事が起こったと沓子が声を荒げ、将輝の周囲を見る。

 女性が好みそうな外見をしている彼の周りには、常に彼のファンという名の女子生徒が付いている。周囲からは『親衛隊』と呼ばれる彼女たちは将輝を不埒な女から守る盾であり、将輝に擦り寄ろうとする女を力づくで排除する矛なのである。

 

 三高でそれなりの恐怖を持って伝えられるこの親衛隊が動き出す事になれば、他校であっても難癖付けて(心の)負傷者必至の戦いが起こることは確実。緊迫した雰囲気を感じたいといっても修羅場を見たいわけではない沓子は気が気ではなかった。

 ……だが、蓋を開けてみれば何も起こらない。他校へ殴り込みに行くわけでもなく、親衛隊の面々はその場に立ち竦んで動けないでいた。なにがあったのだろうか。

 

「……?いったいどういうことかしら」

「なんだか、戦う前から負けを認めたみたいな感じだけど……」

「なんか面白そうじゃし、わしらも見に行くか」

 

 あの親衛隊がなにも手出しできないとはどういうことなのか。好奇心に駆られた三人は、熱を帯びる将輝の視線の先を辿る。彼の視線の先にいたのは一高生。今年の九校戦において最も優勝に近い学校であり、三高にとっては最も手強いライバルだ。

 そんなことを思いながら愛梨たちは会場内を少し歩いて将輝の視線の先にあったものを捉える。

 

 彼女たちの目に映ったのは、とてもこの世のものとは思えない、絶世の美少女だった。

 

「おぉ~!これは驚きじゃな。」

「すごい美人…………」

 

 沓子と栞が驚きの声をあげる中で、愛梨もまたその人物に見とれた。

 師補二十八家の一つ『一色』の一人である愛梨は親類縁者含めて男女問わずかなりの美形を目にしてきている。しかし、そんな彼女でも司波深雪の美貌は目にしたことがないものだった。女性の持つ『美しさ』という点では誰にも敵わない、恐らくはテレビに出る女優やモデルでもここまで完成された『美』を持つ人はいないだろう。

 

「あの美貌、凄まじいわね」

「親衛隊が泣いて帰ったのも頷ける」

「う、うむ。三高は血筋からも美形も多いし、目が慣れていると思っておったのじゃったが」

 

 栞たちも自分と同様の感想を抱いたらしい。沓子に至っては恐れ慄いている。ついさっき、その姿を目に収めた時に感じた本能的な恐怖も合わせて「彼女は一体誰なの?」という疑問が湧き上がる。

 もしかして、自分も把握していない『家』の子女なのか。思わぬところで登場したダークホースの出現に愛梨は気を引き締め直す。

 

(これは、声を掛けるべきね)

 

 恐らく手強いライバルになるであろう相手を見据え、愛梨は深雪に声を掛けようと一歩踏み出す。

 

「――ん?」

「どうかした、沓子?」

 

 少女に集中していた沓子が視線を反らしたのを見て、栞がそれを疑問に思い、彼女を見る。すると沓子は、深雪を見たときよりも驚いた表情をしていた。

 

「すまんな。面白い者を見つけたから、ちょっといってくるのじゃ!」

「あっ!沓子!」

 

 そう言って沓子は何処かに駆けていってしまった。

 栞は呆れながら愛梨の方に振り返ると、彼女もまたいつの間にか、深雪へと歩き出していた。

 そんな2人の友人に溜め息を吐きつつ、栞は愛梨の後を追うのだった。

 

 

♢♦♢

 

 

 猫を被った小悪魔からなんとか逃げ切ったオレは、空のグラスを厨房へと運びいれ、新しいドリンクを持ってホール内を歩き回り、給仕の仕事をそつなくこなしていた。時々選手たちの何人かから『なんで執事?』と言った感じで怪訝な視線を向けられたが、声をかけてくる様子もないのでスルーすることにした。

 さすがに給仕の人間に積極的に話しかけてくる奴なんていないだろう。

 

「のう、お主」

「ん?」

 

 一高の近くを歩いていると、後ろから声をかけられる。かけられた声に振り返るとそこには小柄で赤と黒の制服を着た少女が立っていた。

 

 ドリンクが欲しいのかと考え、トレイに乗ったグラスを取ろうとするが…………

 

「あっ、飲み物が今欲しいわけじゃないんじゃ。お主に用があっての」

「オレに?」

「お主かなり変わっておるの。何者じゃ?」

 

 時代劇の様な特徴的な口調でそう言って彼女はオレを興味深げに見てくる。

 

「そういうお前は?」

「おぉ!すまん、自己紹介が遅れたの。ワシは四十九院沓子じゃ!よろしくの!」

「――」

 

 四十九院だと?

 北山が言っていた神道系の古式魔法師の人間か。出くわさないよう三高のところはある程度避けてたのに、よりにもよって向こうから話しかけてくるとは…………

 

「ん?どうしたんじゃ急に黙り込んで」

「あー……そういうことを言われたのは初めてでな。ちなみにオレのどこが変わってるか教えてくれるか?」

 

 ここはある程度適当に話して、『仕事があるから』とか言って逃げるか。

 

「んーそうじゃのぅ。しいて言うならサイオンがまっさらすぎるな」

「…………」

「魔法師は精神に合わせてそれぞれ特有の輝きを持ってるんじゃ。じゃがお主からは輝きがはっきりと感じられない。まるで色がなにも塗られてないキャンバスじゃな」

「そんなに珍しいのか?」

「ああ、赤ん坊ならまだしも十代後半でそれはあり得ない」

 

 中々に踏み込むな。

 

「オレは大きな赤ん坊か」

「ククク、面白い例えじゃな――――改めて聞こう。お主、いったい何者じゃ?」

 

 四十九院の目が細まる。オレを面白がって見る目ではなく、品定めをするような目へと変わった。

 

 ”自分がいったい何者か”か。

 

 今のオレにはうまく答えることのできない質問だな。

 

「あー……悪い。それに関してあまり話せないんだ」

「むっ、そうか。スマンのう、いきなりで」

「別に気にしていない………じゃ、仕事があるので」

 

 そう言ってオレは四十九院に背を向け、振り返らずに一高がいるところへと移動する。

 

「って、なんでついて来る?」

「ん?”たまたま”じゃ。”たまたま”お主が行こうとしているところに、”たまたま”ワシの友人が挨拶に行っておるんでの」

 

 ”たまたま”言うの多いな。だが嘘を言ってるようには見えない。

 一高の辺りを見回すと、四十九院の友人と思しき三高の女子二人が司波妹に話しかけようとしてるのが見えた。

 

「あの二人がそうか?」

「そうじゃよ。せっかくじゃし、ワシと二人の分のドリンクをくれないかの?」

「さっきいらないって言ってなかったか」

「ちょうど喉が渇いたんじゃよ。そろそろあの二人もそうじゃろうし、いいかの?」

 

 計算高いのかマイペースなのかよくわからないな。とはいえ相手の要望は受け答えなければならない。

 

「……ま、それが仕事だからな」

 

 そう答えると、四十九院は先程よりも笑みを深めてオレを見る。

 だがその笑みには品定めの意識はなく、ただの無邪気な子供がするそれだった。

 

「じゃあ、一緒に行くかのー」

「行くのはいいが手を掴む必要あるか?」

「細かいことはいいじゃろー」

 

 四十九院に腕を掴まれ引っ張られていく。

 こいつ、小柄なのに力がすごい。振り払うことができないわけじゃないが、トレイに乗ったグラスを落としてしまうリスクがあるためそれはできない。

 

「おーい、愛梨、栞、戻ったぞー」

「あっ、沓子。いつの間にか消えたと思ったら、いったいどこにいたの」

「いやぁスマンスマン、ちょうど面白い者を見つけてのぅ」

「面白い人ってその人?なんで燕尾服?しかも手を繋いだりして」

「………残りの服がこれしかなかったんで。あと訂正するとこれは繋いでいるんじゃなくて掴まれてるんだ」

「そこは嘘でもラブラブですと言うところじゃろ」

「そんな嘘いう勇気オレにはない」

「冗談が通じんのぉ」

「……はぁ、あとそろそろ手を離してくれ」

「まったく仕方ないのぅ」

「そのやれやれみたいな感じはなんだ」

 

 どうにか手を離してもらい、ため息を吐きつつもオレは四十九院と二人の三高生徒にグラスを渡す。

 

「ふーん……初対面なのにもう打ち解け合ってるのね」

 

 これのどこが?

 クールな印象の短髪の少女とブロンドの少女が、じ~とオレを見る。正直居心地が悪い。

 

「あら有崎君。給仕のお仕事お疲れ様です」

 

 司波妹、労いの言葉はいいから助けてくれ。

 

「おぉ。やはりお主一高の生徒じゃったか」

「やはり?なにかそう思う根拠があったのか?」

「いいや。しいて言うならただの勘じゃ」

「勘……か」

 

 成程。そういう魔法か。

 

「まあそういうことより、そっちの挨拶はもう済んだかの?」

「いいえまだよ――――では改めまして、私は第三高校一年、一色愛梨。そして同じく十七夜栞と四十九院沓子よ」

 

 一色愛梨というブロンドの女子の紹介に二人も司波妹に向けて頭を下げる。

 どうやらこの三人はライバルとなる司波妹に挨拶に来ていたようだ。

 

「第一高校一年、司波深雪です。そしてこちらが同学年の有崎シンヤ君です」

「シバ……?ユウキ……?」

 

 司波妹も礼儀正しく自己紹介(オレの紹介も)する。

 すると、そんな司波妹の挨拶に一色は笑う。

 

「……あらぁ、一般の方でしたか。名のあるお方かと思ってお声掛けしましたの。勘違いでお騒がせしてごめんなさい」

 

 一色の言葉に、近くにいた光井は思わず憤慨しそうになる。

 師補十八家一色家に百家の十七夜家と四十九院家。

 交友関係を見ても、どうやら一色愛梨という女性は名前や地位をひどく気にする、典型的なお嬢様タイプらしい。

 

「余計なことだが、そういう態度はあまりよくないんじゃないか?」

 

 オレの言葉に、三人の意識は司波妹からオレに集中する。

 赤の他人なら無視を決め込むところだが、達也との契約上それは得策ではないと判断した。

 達也は自身よりも妹のことを優先する。妹が侮辱されればあのシスコンが黙ってはいない。

 なので面倒が起こる前に予防的処置をすることにした。

 

「………あら、なにか文句がありまして?」

「文句も何も………彼女はウチの学校の新入生総代を務めてた上に新人戦のエースだ。アンタの言うように司波は名家の出じゃないかもしれないがそれ相応の実力がある。まだなにも始まっていない時点から相手を嘲ってると逆に自分の価値を下げてしまうぞ」

「………っ、一般の方は口の利き方も知りませんのね」

 

 オレの言葉に近くにいた光井が『そうだーそうだー』と言い、司波妹は意外そうな顔で固まり、十七夜は無表情、四十九院はニヤニヤと面白そうに静観したりと反応は三者三様だ。

 

「ま、アンタがそれ相応の実力を既に示してるのならとやかく言わないんだがな」

「あら?一般人の貴方は知りませんの?私は幾つもの大会で優勝をおさめ、二つ名も持ってるんですのよ」

 

 いきなり自慢話か。

 

「ああ、なんか凄い名前だったな」

「フッ、さすがの貴方も知っていましたか」

 

 たまたま北山から聞いた話だけどな。

 

「確か名前は…………」

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

 あれ?なんだっけ?

 

「「え?」」

「まさか……忘れたのですか?」

「あ、いやちょっと待ってくれ。もう少しで出てくるから。確かフランス語だったよな?エク…………エク…………」

「そ、そうですわよ!最初の二文字あってますわ」

「そうか」

 

 あっ、思い出した。

 

「エク………レ………ア。”エクレア・アイリ”だったか?」

 

 

『『『ぶっ!』』』

 

 次の瞬間、笑いを堪えようとしたのが間に合わずに吹き出した音がいくつかした。同時にぴきっ!と空間に亀裂が入ったように感じる。

 あ、あれ?なんか間違えたか?

 

「だ、だっ…………誰がフランスのシュー菓子よ!」

 

 一色は赤い顔で怒りを顕わにし、詰め寄ろうとする。だが四十九院と十七夜がいち早く動き、憤慨する一色を止めにかかる。

 

 プルプルと身体を震わせ口元を押さえながら………

 

「落ち着いて愛梨!彼は何も間違ってない。確かに読みは違うけどフランス語発音だと同じものだから…………ぶっ!」

「そうじゃぞ。むしろ稲妻よりも親しみやすくていいではないか…………ぶふぅ!!ああもうダメじゃ腹が痛い!」

「あなた達も思いっきり笑ってるじゃないのッ!」

 

…失敗した。場を収めるつもりだったが逆に事態を悪化させてしまった。

 

「あなたは!!人をどれだけバカにすれば気が済みますの!?」

「そんなつもりはなかったんだが……なんかスマン」

「~~~~~~ッ!!!」

 

 少しずつ距離が縮まり、一色の手がオレに届きそうなる一歩手前で、後ろから現れた三高の女子生徒に襟首をつかまれ、一色は後ろに引っ張られる。

 

「あ〜、はいはいそこまで」

「み、水尾先輩!」

「まったく、なんか少し騒がしいと思って来てみれば何やってんのアンタは」

「止めないでください先輩!この男を殺せません!」

「こらこら、お嬢様が物騒なこと言うんじゃないの。彼も悪気があったわけじゃなし」

「………お騒がせして本当にすみません」

 

 こうなったのはオレのせいであるため、三高の先輩にも素直に謝罪する。

 

「いいのいいの。もとはと言えばこの子が発端みたいだし御免なさいね。ほら一色、戻るわよ」

 

 その三高の先輩は、オレを親の仇を見るような顔つきで「覚えておきなさいよー!」と叫ぶ一色に有無を聞かず、彼女の襟首をつかんで引っ張っていき、十七夜と四十九院もその後に続いていった。

 

 四人が三高の集まる一角に戻っていったのを確認した後、思わずオレはため息が出てしまう。

 

 司波妹から感謝と謝罪の言葉、光井やエイミィから『スカッとした』と賛辞の言葉を貰ったが、めんどくさい相手を敵に回してしまったことで正直気が気でなかった。

 

 

 

 




優等生でのキャラクター登場。でも懇親会のあれで少しムカついたのでこんな感じになりました。
この後いったいどうなるのやら……
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