魔法科高校の事なかれ主義の規格外(イレギュラー) 作:嫉妬憤怒強欲
ちょっとした騒動の後、真由美と摩利は三高の生徒会長と話をしていた。
カチューシャで止めた前髪が特徴的な第三高校生徒会長、水のエレメンツの末裔・水尾佐保。
水のエレメンツは、水流移動系の魔法を得意とする家系だ。
今回の九校戦もバトル・ボードとミラージ・バットの水場が用意される二種目にエントリーしている。
「いやぁ、うちの一年が申し訳ない」
「気にしないで、水尾さん。毎年多かれ少なかれ起こる事よ。それにうちの一年の方も騒がせちゃったみたいでごめんなさい」
「あはは…いいっていいって。ここはお互い痛み分けってことで手を打ちましょう」
「いや痛み分けって言ってもな…………」
摩利の視線の先、三高一年の集まる一角では…………
「あの執事何者だ!?」
「あの一色とタメで張り合えるなんて………」
「まさか一高にあんな奴がいたとは…」
「俺達は新たな時代の幕開けを目撃したかもしれない」
「……お前ら何言ってんの?」
ザワザワザワザワ……と先程の騒動を話題にしており、その一角から少し離れている一色愛梨は顔を伏せたままプルプルと肩を震わせている状態だった。なお十七夜栞(抑え笑い)は彼女が暴れないよう抑え、四十九院沓子(爆笑)はその横で笑い過ぎて「ひーひー…」と息ができないでいた。
「あれ、今後の競技に支障をきたしたりしないだろうか」
「あはは…ウチの新人にそんな柔なのはいないから大丈夫だって…………多分」
「そ、そこは断言しないと可哀そうよ」
一高の真由美と摩利、三高の水尾は苦笑いするしかなかった。
「そういえばあの執事服の彼、一高の子?」
「ええ、彼はウチの一年生よ」
「実力はそれなりにあるようだが、風紀委員にと何度もスカウトをしてもまったく首を縦に振ってくれないんだ」
「へぇー、渡辺さんがスカウトする程とは恐れ入ったよ――で、彼とは実際どういうご関係で七草さんや?」
「ふぇ?」
ニヤリと笑う水尾に話を振られ、真由美は一瞬間抜けな声が出た。
「水尾さん、なにを言い出すのかしら?私と彼はただの先輩後輩で――――」
「いやぁ、ただの先輩後輩にしては先程は彼と妙に距離が近かったなぁと思いましてですね」
「み、見てたの?」
「チラッと。で、そこんトコロはどうなってるんでしょうか?」
「え、えっと……どうって………その」
(ん?真由美どうしたんだ?)
いつもは猫を被ってるはずの真由美の様子がおかしいことに摩利は疑念を抱く。
そこで会場にアナウンスが入った。
『開催に当たって、九島烈様からご挨拶があります』
「ほ、ほら!老師のお言葉があるからその話はまた今度にしましょ!」
(誤魔化した………)
(誤魔化したな)
九島烈、日本魔法師会の長老的存在であり、魔法師としても世界でも指折りの実力者である。また、「トリック・スター」の異名を持つ十師族九島家の前当主である。今だ強い影響力を誇示している人物だ。
最強の名を保持したまま第一線を退き、以来、ほとんど人前に出てくることのない
この老人は、何故かこの九校戦にだけは毎年顔を出すことで知られている。
直に見たことは無い。映像で知っているだけだ。
歴史上の人物を直接目にするに等しい興奮を、この会場に集まった全ての魔法科高校生は自分の中に見出していた。
固唾を呑んで九島老師の登壇を待つ。
だが、その凍りついた雰囲気は、すぐにどよめきの波に変わった。
「え?」
眩しさを和らげたライトの下に現れたのは、艶やかなベージュのパーティドレスを纏い髪を金色に染めた女性であり、ここにいる多くの者が知っている老人である九島烈とは全くの別人だったのだから。
♢♦♢
「あれ? 女性の人?」
「『老師』は男性って聞いてたけど……」
「九島閣下のご挨拶じゃなかったのか?」
唐突の出来事に対し、ざわめきは会場中に広がった。
だがオレの目には、女性の背後に一人の老人が悠然と立っているのが見える。
ただこの場にいるほとんどの人間が、彼女にばかり目を奪われているせいで気づかないだけだ。
精神干渉魔法か……。
おそらく現在、会場すべてを覆うほどの大規模な魔法が展開されている。
その効果は“目立つものを置いて注意を逸らす”という非常に些細なものだ。事象改変と呼ぶまでもない、状況によっては自然に発生する“現象”に近いものだが、それを会場中の全員に同時に引き起こすその魔法は気づくことが非常に困難なほどに微弱である。
そんな魔法を使うとは…………試してるのか?
オレの視線に気がついたのか。
女性の背後の老人が、ニヤリと笑った。それも悪戯を成功させた少年のような笑顔で。
随分といたずら好きな狸だな。
老人は女性に耳打ちをすると、女性は舞台袖に去っていく。そして、会場が一気に明るくなると、壇上の中央に老人が姿を見せた。
ライトが老人を照らし、大きなどよめきが起こる。
ほとんどの者には、九島老師が突如空中から現れたように見えたことだろう。
『まずは、悪ふざけに付き合わせたことを謝罪する。今のはちょっとした余興だ。魔法というより手品に近いものだがね。奇術師の使うミスディレクションというやつだな。だが、手品のタネに気付いたものは、私の見たところ生徒では五人、給仕に一人だけだった』
バレてたか。
『もし私が君たちの鏖殺を目論むテロリストで来賓に紛れて毒ガスなり爆弾なりを仕掛けたとしてもそれを阻むべく行動を起こすことが出来たのはこの六人だけだ、ということだ』
会場が、今までと別種の静寂に覆われる中、その後も九島老師の言葉は続いた。
『魔法を学ぶ若人諸君。魔法とは手段であって、それ自体が目的ではない。私が用いた魔法は規模こそ大きいものの、強度は極めて低い。だが、君たちの殆どはその弱い魔法に惑わされ、私を認識できなかった。魔法を磨くことは大切だ。無論、魔法力を向上させるための努力も怠ってはならない。しかし、それだけでは不十分だということを肝に銘じてほしい。使い方を誤った大魔法は、使い方を工夫した小魔法に劣るのだ。魔法を学ぶ若人諸君。明後日からの九校戦では、諸君らの工夫を楽しみにしている』
挨拶が終わると、一斉に、とはいかなかったものの、会場中から拍手が巻き起こった。
魔法ランク至上主義である現在の魔法師社会において、その社会の頂点に君臨する人物がそのことに異議を唱える。魔法はあくまで“道具”であると言ってのけ、そして実際に分かりやすく実践してみせた。
この国には面白い魔法師も居るもんだなと思いながら、オレは他の生徒と同じように老師に拍手を送るのだった。
♢♦♢
懇親会が終わり、愛梨、沓子、栞の三人はいち早く会場を後にしていた。
「……まったく、とんだ大恥をかいたわ」
「そういつまでもイライラするでないぞ愛梨。あんなのは時間が経てば笑い話ですむわい」
「さっきまで笑い疲れてた沓子が言うと説得力あるわ」
「そう言う栞も思いっきり笑ってたじゃないの」
愛梨はシンヤに二つ名を間違えられてから、
『”エクレア・アイリ”……ぶふっ!』
『おい馬鹿!本人が聞いてたらどうするんだ!』
と言った感じで、同じ三高の生徒に話題にされたり気を遣われたり横で沓子に大爆笑されたりして、お嬢様タイプの彼女のプライドに傷がついてかなりご機嫌斜めの状態であった。
「そもそも沓子があんな一般人を連れてきたのが発端じゃないの」
愛梨にジロリと睨まれるも、『ワハハ、すまんのう』と当の沓子はいつものようにあっけらかんと返す。
「じゃが面白い男じゃったろ?真顔であんなボケをかましてくるとは…思わず笑ってしまったわい」
「私は全然笑えなかったわよ」
「ワハハ……まあ、あ奴が九校戦に出場しないのはちと残念じゃの」
「…彼、そんなに強いの?」
栞が沓子に問い掛ける。
沓子が男子と話すことはあまりない。初対面なら尚更だ。さらに特殊な”異能”が備わっている彼女がシンヤのことを『面白い者』と言ってのけたため、九島烈の魔法を打ち破った給仕の人間がシンヤの事ではないだろうかという可能性が栞の脳裏に過っていた。
ちなみに愛梨にそのことを話そうとすると『そんなわけないでしょ!』と物凄い剣幕で否定した。
「さぁ?強いかもしれないし、弱いかもしれない…まぁ正直まだわからんわ」
「わからない?」
「沓子にしては珍しい」
沓子は考え込むように顎に手を当て、栞と愛梨に説明する。
「うーむ……ワシの直感でじゃが、あ奴から他とは違う”ナニカ”を感じ取ってのぅ。それがどういった力なのかはっきりとは分からなかったのじゃ」
「ナニカってのは何よ?」
「さぁ?ワシもさっぱり、まさに未知との遭遇じゃ!」
「…沓子、なんだか楽しそうね」
栞の指摘に、沓子はニカッと面白そうに笑って返す。
「そりゃあそうじゃろ?この九校戦で面白そうな者に出会えたんじゃ。そら興味もそそるわい」
沓子の口から出た言葉に、懇親会でシンヤに対して良い印象を抱いてない愛梨は少しイラッとして肩にかけていたカバンを握る力をギュッと少しばかり強めた。
「…興味深々なのは結構だけれど、私達はここに遊びに来たんじゃないのよ」
「わかっておるわい。それはそれ、これはこれじゃ」
「…分かってるのならいいわ。どちらにしろ、お遊び気分で来てる人たちに負けるわけにはいかないわ!!優勝は、我が第三高校が貰います!!」
一色愛梨は沓子と栞に決意を述べる。
彼女の決意に当然のように栞も沓子も頷き、三人は決意を新たに部屋へ戻っていった。
♢♦♢
九校戦本番前日、深雪と雫、そしてほのかは、雫とほのかが宿泊している部屋にいた。深雪の場合は一年C組の滝川和実と同室なのだが、和実が体育会系の先輩のところに遊びに行ってしまうため、一人でいるぐらいならと二人の部屋に遊びに来ていた。
深雪としては達也のところに行きたかったが、技術スタッフの一員としての作業があるということで邪魔をしてはいけないと思い、自ずと二人の部屋に遊びに来ていた。
「いよいよ明日から九校戦かあ……緊張するな」
「ほのか、私たちの出番は4日目以降よ。雫、明日のお勧めは?」
「七草会長のスピード・シューティングは必見。優勝は間違いないだろうけど、高校最後の年に『エルフィン・スナイパー』がどういうプレイを見せるのか楽しみ」
ほのかの言葉に少し笑みを漏らしつつ深雪が雫に尋ねると、端末を持った雫がそう答えた。
三人がしている話題はやはりというか九校戦のことだった。
女の子の話と言えど、話題はオシャレや恋愛話だけではない。
三人が話していると、扉をノックする音が聞こえた。
「あっ、私が出るよ」
ノックの音に反応したほのかは、扉を開ける。
「こんばんは~」
「あれっ、エイミィ。他のみんなもどうしたの?」
開けたドアの先にいたのは、懇親会でずっと放心状態になっていたエイミィだった。そして後ろをよく見ると、四人の同級生がいた。つまり、一高新人戦女子のメンバーがほぼそろっていることになる。
「うん、あのね、温泉に行かない?」
その突拍子もないエイミィのセリフに、三人は顔を見合わせる。
そんな中、雫が代表してエイミィに質問する。
「入れるの?ここ、軍の施設だけど」
「ためしに頼んでみたら、許可くれたよ。十一時までならいいって」
「そうなの?じゃあ、ご一緒させてもらおうかしら。着替えを取ってくるから先に行っておいて」
別に断る理由もないので深雪はそう答える。そんな深雪の答えに、エイミィは嬉しそうに頷いた。
「オーケー、急がなくて大丈夫だからね」
そんなエイミィの言葉に深雪は軽く手を挙げて、チームメイトと別れた。
現在、夜の10時。
ホテル地下にある大浴場は一高一年女子の貸切だった。
ここはホテル(軍の施設)内にある医療目的の療養施設であり、レクリエーション施設として作られた場所ではない。なので大浴場と名前が付いているものの、十人程度しか収容することが出来ず、また入るときは湯着を着用するルールが定められている。
「ハァ~~~極楽極楽……」
「なんだかオヤジ臭いよエイミィ………」
苦笑したほのかの声が聞こえたがエイミィは気にしない。
「にしても、ほのかってほんとうスタイル良いよね~」
エイミィの視線がほのかの方へと釘付けになる。具体的にはほのかが持っているメロン(二玉)にである。
「ねぇほのか」
「なっ、なに!?」
チームメイトから漂ってくる不穏な雰囲気に、ほのかは悲鳴に近い声を上げる。湯着の胸元を引き寄せて、身を守るように後退するが、エイミィの進軍は止まらない。
「剥いていい?」
「いいわけないでしょ!?」
そして漏れた欲望に反射的にほのかが叫ぶ。助けを求めてほのかが浴室を見渡す。チームメイトは全員湯船に使っているか、浴槽の縁に腰を下ろし、足を湯につけている。そして一人を除いて彼女たち全員はエイミィと同じような目で笑っていた。
つまり、救いの手はないということである。
「雫っ、助けてっ!」
「…………エイミィ」
ほのかは唯一の例外だった雫に助けを求める。地獄に落ちる一本の蜘蛛の糸にすがる思いだ。雫はおもむろに立ち上がってエイミィに静止の言葉をかける。
「GO」
「ラジャー!」
「なんでぇっ!?」
そして、そのまま野獣の手綱を手放した。完全におっさん化したエイミィは両手をワキワキさせながらほのかが逃げられないよう立ってにじり寄る。
親友までもが自分を見捨てるとは思って無かったほのかは、野獣の手に掛かる前に雫の方を向いて悲痛な叫びを放つ。
「どうしてなの雫!?どうしてぇ!?」
「……ほのか、胸大きいから」
平原のごとく凹凸のない体を哀しそうな目で見下ろして、雫は個室サウナへ姿を消した。彼女がサウナ室の座席に腰掛けたと同時に、ほのかの悲鳴が浴室に聞こえてきた。
【しばらくお待ちください】ピンポンパンポ~ン♪
「ううう……酷いよぅ……」
「あはは…ごめんごめん」
「………次やったら、本当に怒るからね」
雫にも見捨てられた彼女はかなりショックだったようで、少し涙目だ。
「みんなどうしたの?なんだか騒がしいようだけど」
と、ここでシャワーブースから戻ってきた深雪の声が聞こえてきた。長い髪をアップに纏め、湯着を着直した彼女に視線が集まる。
その完璧な姿に同性であるにも関わらず全員が息を呑んだ。
以前から深雪が度を超えた美少女であることは学年を超えて学校全体の共通認識だった。しかし、裸に最も近い姿で改めて彼女のことを見てみると、その美しさを再認識させられる。
薄地の湯着は、シャワーを浴びた後の肌に残る水気と浴槽から立ち上る湯気で体に張り付き、深雪の女の子らしいラインを、張りのある胸の双丘も含めてくっきりと浮かび上がらせている。
前袷からのぞく、ほんのり上気した桜色の胸元。短い裾からすんなり伸びた、まばゆい程の白さの、非の打ち所のない脚線美。
艶めかしい。
その上露出の少ない湯着姿が、より美貌を際立たせ、同性ですら惹きつけてやまない鮮烈な色香を醸し出していた。
「えっ……と。何かしら?」
思わず足を止めてたずねるも、深雪の問いに答えるものはいない。
注がれる視線の数も減らない。
皆、互いに同性であることを忘れてしまう程に衝撃的な、言うなれば天然の絵画を見たときのようなショックを受けていた。
「……………ハッ。ダ、ダメよみんな!深雪はノーマルなんだからっ」
自然の美がもたらした不自然な沈黙は、ほのかの声で破られる。その声が呼び声となったのか、全員の意識が正常化していく。
「いやー危なかった。思わず見惚れてしまっていたよ」
「深雪の白い肌……。うん。危険だね」
うんうん。と互いに頷き合って「同性でも構わない」と少しでも過ぎった自分を自制する。
「もう!からかうのもいい加減にして」
チームメイトがどういう視線で自分を見ていたのか、それを察した上で深雪は勇敢にも彼女たちと同じ浴槽に足を踏み入れる。淑やかに膝を折って、湯船に身を沈めるだけだというのに、それだけの仕草でまたチームメイトの心を鷲掴みにする。
横入りになって首まで浸かると、襟がお湯の流れに揺れて、刹那、深雪のうなじが大きく露になる。それだけで、誰かがため息をついた。
「はぁー深雪も美人でスタイル良いし。一高は来年競争率高いよ?きっと…」
「それは言い過ぎじゃないかしらエイミィ。私より貴女の方が可愛らしいと思うわよ?」
「はは……謙遜しすぎだよ深雪。ボクは深雪に夢中にならない男はいないと思うよ?」
美少年に間違われそうな容姿に、赤い眼鏡をしている一年D組の里美スバルの言葉に他の女子勢も同感だった。
「あ!そう言えば、三高の一条の御曹子!彼も深雪に熱い視線向けてたよ!」
大体の女子はオシャレや恋愛話といった話題に敏感だ。特にそれが身内であれば、盛り上がり方も尋常ではない。
「一目惚れしたんじゃない?」
「そりゃあ深雪だもの」
「むしろ昔から深雪の事好きだったりして」
スバル達は勝手な妄想をする。深雪は彼女達の妄想に歯止めを掛ける。
「真面目な話、一条君とは一度たりとも会った事は無いわ。会場に来ていたのも気づかなかったし」
冷たいというよりは、さして興味が無いといった感じだ。これは流石に一条に同情を禁じえない。盛り上がっていた彼女達も、冷や水を浴びせられたような反応だ。
「それよりも、私はエイミィと有崎君との関係が気になるのだけれど?」
「………え?」
突然話を振られたことでエイミィは一瞬固まってしまった。
「な、なにを言い出すかな深雪?」
「ひょっとしてさっきの懇親会で給仕をしていた執事服の彼かい?」
「ええ、そうよ。お兄様とクラスメイトの有崎シンヤ君。どうしてわかったのスバル?」
「いやぁ、宿舎についた後にエイミィの様子がおかしくなってね。元凶と思われる携帯端末をチラッと見たら彼の寝顔写真が映ってたよ」
「ちょっスバル!?勝手に見たの!?」
「それに彼が三高の女子に腕を引っ張られてる姿をエイミィは不機嫌そうに見てたよ」
「スバルゥッ!?」
「あっ、そういえば最近のエイミィ、身だしなみとかに滅茶苦茶力入れてたわね」
「ほう、それはそれは………」
「興味深い話ですな」
エイミィと同じB組の女子の言葉に、大浴場にいる女生徒全員の目がキラーンと光り、視線がエイミィに向けられる。
「わ、私………もう上がるね!」
捕食者たちに狙いをつけられたような感覚に身の危険を感じ、エイミィは湯船を出ようとしたところで両腕を掴まれた。
ギギギ、とまるで壊れかけの人形みたいにぎこちない動作で首を動かして後ろを振り返る。
「えっと、放してほしいな~ほのか、スバル?」
腕を掴んでいる2人におそるおそる声をかけたが、返ってきたものは無慈悲な言葉だった。
「いやいや、ここは洗いざらいに話して楽になろうよ。ねぇエイミィ?」
「さっきのことは全部水に流すから、詳しく話してくれないかな?」
【しばらくお待ちください】ピンポンパンポ~ン♪
それから数分後。
エイミィのお話(尋問)が終わり、脱衣場に戻る頃にはエイミィの顔はゆで上がっていた。
「うぅ……」
顔を真っ赤にしたエイミィは、手で顔を覆っている。
「流石にやり過ぎたかな?」
「あ、あはは…ごめんねエイミィ」
スバルとほのかは苦笑してエイミィを見ていた。
エイミィには、かなり恥ずかしいことを根掘り葉掘り聞いていたから、こうなるのも仕方ない。
お風呂場で大きいという理由で胸を揉みしだかれたほのかとしても、これはやり過ぎだったという罪悪感がフツフツと沸いた。
「大丈夫?エイミィ…」
「うぅ……無理……もうシンヤ君と顔合わせられないよぉ…///」
((か、可愛い…))
雫の言葉に恥ずかしそうな声で返したエイミィは、耳元まで顔を赤くし、目元が潤んでしおらしくなったりと。普段は滅多に見せない女の子の顔をしていた。
「ま、まさかあのエイミィがこうも初々しくなるとは………恐ろしいな彼は」
「でもエイミィの想い人大丈夫かな?三高の選手となんか揉めちゃったみたいだけど」
「お、想い人じゃないよ!」とエイミィが否定の言葉を出すが女子たちの耳には届かない。
「三高の選手って一色愛梨さんのこと?」
「そうそう、あの”エクレア・アイリ”…………プッ」
「だ、大丈夫だよ。あんなの深雪にボコボコにされるに決まってるんだから!」
「ほ、ほのか………その言い方だと私が暴力的な女に聞こえるわよ」
ほのかは深雪がバカにされたことが余程頭に来ていたようで、手をブンブンと振ってそう力説した。
「でも、あの人はかなりの実力者だよ」
雫がスクリーン型の端末を見ながらそう言うと、ほのかたちは「嘘でしょ!?」と叫びながら雫に詰め寄る。一同が雫のスクリーン型の端末の画面を覗き込むと、雫はスクリーン型の端末を見ながら説明し始めた。
「一色愛梨、師補十八家『一色』家の令嬢で得意種目はリーブル・エペー、中学時代から数々の大会で優勝をおさめ、その移動魔法を使った剣捌きの鋭さから”エクレール”と称されるようになったみたいだよ。一年生ながら今大会ミラージ・パッドの本戦に出ることで注目を集めてる」
「一年生なのに上級生を押しのけて……!?」
雫が次々と一色愛梨の実力と実績を説明し、さらに残りの二人もかなり実力者だと知ってしまったほのかたちに緊張が走る。
「そんな………そんな人にエイミィの想い人が喧嘩を売ってしまうなんて」
「いやそこじゃないでしょスバル。まあそこもだけど…………私達新人戦でこの三人と対決することになるかもしれないんだよ」
「うっ………そうだった」
「大丈夫かな?」
九校戦に初出場することになった彼女たちに不安が募る中、深雪が真剣な表情で口を開いた。
「私達はこの日まで一生懸命練習したわ。あとはそれぞれが全力を尽くすことだけを考えればいいわ」
「深雪…………」
「それに私達にはお兄様がついてるもの」
「そ、そうだよ!達也さんがいれば勝ったも同然だよ!」
「「「「あ、あはは…」」」」
深雪のブラコンっぷりとほのかののろけっぷりに女子たちは苦笑いである。
「ふ………確かに。あれだけ練習したのにこんなところで挫けていたら先輩たちに立つ瀬が無いな」
「うん!」
「そうだね!」
「ええ」
「皆!相手が名家だろうが有名人だろうが関係ない。今年の新人戦、絶対勝ちに行くぞー!!」
「「「おー!!」」」
そうして彼女たちは自分の握りこぶしを高く掲げた。
「ついでにエイミィと彼がくっつけるようみんなで策を練るぞー!!」
「「「うおおー!!」」」
「えっ、ちょっ、まっ、ええっ…ええええええぇぇぇっ…!?」
後のスバルの言葉に、先程よりも大きな掛け声をあげる女子たち。当のエイミィは反応が遅れ、後から掛け声に負けないほどの絶叫を上げた。
これにほのかと深雪は苦笑い。雫はこんなので本当に大丈夫だろうか?と言おうと思ったが、面白くなりそうなので黙って見守っていた。
後日、エイミィが顔を赤くしてシンヤと話すのを、1年女子達が微笑ましく見ていたのは余談である。
♢♦♢
ここはある場所……
赤と金の色彩豊かな内装がされた部屋の中央には円卓が鎮座しており、そこに十数人の男達が顔を見合わせていた。
「先程、部下から連絡があった」
彼らの内の1人が口にしたのは、英語だった。とはいえ、それはネイティブのものではなく、どことなく東アジア系のイントネーションが混じっている。
「魔法師たちが宿泊しているホテルへと送り込んだ我々の工作員との連絡が取れなくなったようだ」
「なんだと?まさか日本の国防軍に捕縛されたか?」
「わからん。だが連中には今回の指令以上のことはなにも知らせていない。捕縛されたところで我々がこれからやることは誰にも気づかれない」
「そうだな。それでも失敗するようなことがあれば我々全員が粛正対象となる。被る損失によっては、ボスが直々に手を下すこともあり得る」
男の1人が、空中でうねり渦を巻く竜が金糸で刺繍された掛け軸を見上げた。まるで今にも動き出しそうな迫力のそれであるが、その竜は胴体だけで首から先が綺麗に切り取られている。
その竜の姿に自分達の未来を暗示されたようで、彼はブルリと体を震わせた。
「――死ぬだけなら、まだ良いが」
ポツリと呟かれたその声は、震えていた。しばらくの間、彼らのいる部屋を沈黙が包み込む。
やがて彼らの内の1人が、意を決したように口を開いた。
「では我々のために手筈通り――――」
――――この九校戦……………第一高校には負けてもらう
一方のシンヤは…
「ガァー、グオー」
(…眠れない)
同室のレオのいびきで寝れないでいた。