魔法科高校の事なかれ主義の規格外(イレギュラー) 作:嫉妬憤怒強欲
さらに精度が上がっているようね栞。やはり私の目に狂いはなかったわ。
三年前、フェンシングに魔法を加えた魔法競技リーブル・エペーの試合で私……一色愛梨は栞と対戦した。
『ねえ、さっきのあなたの剣捌き見事だったわ』
『変なお世辞はやめて。私はあなたから1ポイントも取れなかったんだから』
『私はお世辞なんか言わないわ……』
彼女の切っ先の精緻さに驚いた。
剣のしなりを考慮に入れて二手三手先を読む鋭い感覚、並みの相手ならば彼女の圧勝だったはず。
『あなたはもっと上に行ける才能を持ってる。私と同じ景色を見てみたくない?』
そう言って私は栞を金沢魔法理学研究所へ誘い、栞は持ち前の空間把握能力、演算能力に磨きを掛けた。
その結果、彼女は見たもの全てを数式化して魔法に応用する特別な目を手に入れた。
栞にはすべて予測できている。ランダムな要素に見える粒子の軌跡が。
そう、誰にもまねできない栞だけの魔法……それはスーパーコンピュータをも凌駕する、演算能力を駆使した美しい数式の旋律、【数学的連鎖(アリスマティックチェイン)】
たとえ対戦相手がどれほど魔法力に優れていようと、栞の前では無力も同然よ。
♢♦♢
一高本部に戻った真由美たちの元にも、新人戦スピード・シューティングの結果が届けられた。
「三人共予選突破か……」
「今年の一年女子は特にレベルが高いのか?」
決勝トーナメントに進出するのは、予選二十四名の内八名。その八名の中に、同じ学校からエントリーした三名が共に入ってるというのは、本戦、新人戦を通じて過去にあまり例が無い。だから摩利のつぶやきもある意味ではそう感じられていてもおかしく無い事なのだ。
「摩利、分からないフリは止めたら?」
だが、この天幕に集まっている一高幹部には、スピード・シューティングの結果が良いのは、個人技能だけではない事を分かってる人間が集まっているのだ。
真由美のツッコミに、肩を竦めて降参のポーズを見せた摩利。話を逸らすように別の話題を振った。
「バトル・ボードの方はどうなってる?」
「男子は二レース終了していずれも予選落ち、女子は一レースに出場して予選突破です」
真由美の問いかけに答えたのは同じく天幕内にいた鈴音だった。
「女子の方では最終レースの光井さんが予選突破確実でしょうから、あーちゃんにはもう少し頑張ってもらわないと」
男子が全滅という結果に摩利は顔をしかめ、真由美はあずさの事を憂いていた。
「当校も、もう少し技術者の育成に力を注ぐべきかもしれないな」
一高はエンジニアの数こそ足りているが、それを補助するスタッフが不足している。そのためエンジニアの生徒に負担がかかり、一日に何人もの選手のCADの調整が強いられていた。
摩利と似たように、顔をしかめながら自分の端末を操作していた克人が、苦みを混じった声で応えたのだった。
♢♦♢
『皆様こんにちは! 新人戦一日目、女子スピード・シューティングは早くも準決勝を迎えます。予選では超高校級の魔法に度肝を抜かれ、準々決勝では熱い戦いが繰り広げられました。そしてその戦いもついにベスト四までが決まりました!』
全国に流れている有線放送の映像が会場内のモニターにも映り、アナウンサーの声が会場を轟かせている。
『今年の新人戦女子スピード・シューティングでは一高フィーバーが止まりません! なんと、ベスト四の四選手のうち三名が第一高校の選手。そして第二試合では注目のカードが実現します!』
煽り立てるように、雫と栞が向き合う構図の映像が流れる。
『予選では新魔法【能動空中機雷】で会場を興奮の渦に巻き込んだクールビューティー! 準決勝でも圧倒的魔法力で相手を制圧するのか!? 第一高校北山雫選手!!
対するは今大会全ての演技でパーフェクト。その正確無比な軌道予測に天下無双! 連鎖で奏でる重奏曲【数学的連鎖】は準決勝でも炸裂するのか!? 第三高校十七夜栞選手!!
早くもこの2人が激突します。両選手の活躍をどうぞお楽しみください!』
第三高校の控え室でこの映像を見ていた栞と参謀の吉祥寺真紅郎はほくそ笑む。
「随分注目されているみたいだね」
「吉祥寺君ほどじゃないわ」
「はは、謙遜だね。さて、本題に入ろうか」
真紅郎は、雫が準々決勝で使用した『アクティブ・エアーマイン』が振動魔法と収束魔法の連続発動によるものと分析していた。収束魔法で仮想波動エリア内の自身が破壊するクレーのみを収束し、その反動で対戦相手のクレーを逸らしてしまうという方法。これによって雫の対戦相手の点数が伸びなかったところまで読み切っていた。
「一口に反動と言っても、出力規模の違う起動式を最大9つ使い分けているから準々決勝の相手も点数が伸びなかったんだろう。でも、君ならそのすべてに対応できるだろう?」
「―――当然よ」
真紅郎も栞の能力と『アリスマティック・チェイン』への有効な対策は立てていないだろうと推測していた。準々決勝の魔法をそのまま使ってくると想定しての作戦……だが、それが完全に破綻するとは、この時の真紅郎にも栞にも予想できていなかったのだった。
「いやぁ、ありがとう司波君!何か魔法の腕が急に上がった気がするよ!」
「俺がしたのは、あくまで明智さんの手助けだよ。準決勝に進めたのは、間違いなく明智さんの実力だ」
声も体も弾ませて全身で嬉しさをアピールする1年女子・エイミィこと明智英美と、至って平静のまま、しかし微笑みを携えた達也が、選手控え室である第一高校の天幕の中へと入ってきた。
それを出迎えたのは、浮き足立っているように見えるもう1人の出場選手・滝川和美と、こんな状況でも無表情を貫く雫だ。
「待たせてすまない、雫。すぐさま調整に入ろう」
達也は天幕に着くや否や、すぐさま雫が次の試合で使うCADの調整に入った。準々決勝までは同じ高校の選手が重ならないように時間が調整されるとはいえ、試合数が少ない分だけ予選よりも試合間隔が短くなる。しかも一高は3人共予選を突破しているので、エンジニアである達也の負担はどうしても大きくなってしまう。
「大丈夫、達也さん?」
「心配するな、大丈夫だ」
達也はそれだけ答えると、調整機のモニターを注視する。画面には様々な計測結果が高速でスクロールされており、普通の人間ならばそれを目で追うことすら困難だろう。
やがて達也は小さく頷くと、そのCADを雫に手渡した。
小銃形態のそれは、ストラップが付いている以外は他の選手が使用する物と大差ないように見える。しかし実弾銃の機関部にあたる箇所が、他の選手のものに比べて随分と厚みを帯びていた。
「分かっているとは思うが、予選で使った機種とはまったくの別物だ。時間は無いが、少しでも違和感があったら遠慮無く言ってくれ。可能な限り調整する」
「違和感なんて無いよ。むしろしっくり来すぎて怖いくらい」
CADを構えたりトリガーに指を掛けたり離したりしながらそう答える雫に、達也の表情がほんの微かだが和らいだように見えた。
ふと、雫はCADから視線を外し、横にいるチームメイトへと向ける。
「2人共、勝ったんだよね」
その言葉に、エイミィと滝川の2人がニコリと笑って頷く。
「大丈夫。いつも通りやれば、雫も勝てる」
「もちろん。――優勝するためのお膳立ては、すべて達也さんがしてくれた。後は、優勝するだけだよ」
雫はそう言って、天幕を後にした。達也はそれを、笑顔で見送る。
「……あれ?ひょっとして今のって、私達に対する宣戦布告?」
「いやぁ、本当の敵は一番身近な所にいたんだなぁ」
「そうだな。2人共、準決勝に進んだからといって、油断するんじゃないぞ。ここまで来たからには、優勝を狙っていけ」
「えぇっ!?司波君、目標が厳しすぎるよー」
「そうだそうだー!」
笑みを多分に含んでいるためにまったく説得力の無い2人の抗議を、達也は笑って受け流した。
第一高校の天幕内は、今まさに競技が行われている最中だとは思えないほどに和やかな空気に包まれていた。
♢♦♢
新人戦女子スピード・シューティング準決勝。その第1試合となる第一高校の北山雫と第三高校の十七夜栞の試合が始まった。
スタートランプが点き、その全てが点灯すると、赤と白のクレーが飛び交う。
北山が破壊すべきは赤。
十七夜が破壊すべきは白。
赤のクレーが軌道を曲げ、得点有効エリアの中央に集まって衝突するという収束系魔法を北山は使用している。更に準々決勝の時と同じく射出される白のクレーの軌道を逸らしている。一瞬北山の必勝パターンだと考えるだろう。
だが軌道を逸らされたにも関わらず十七夜による連鎖破壊に狂いは生じず、破壊されたクレーの破片は次に飛んでくる白のクレーに衝突して砕け散っていた。
両者譲らない高度な戦いに会場内の温度がどんどん上がっていく。
(………流石に合わせて来たか。まあ、予想通りだな)
恐らく北山のCADには効果範囲や強度を固定した収束魔法の起動式が何種類も格納されている。そのいずれにも対応できる移動魔法を構築するには人並み外れた空間把握力や事象計算力が必要である。
にも関わらず、十七夜はそれを平然とやってのけてる。彼女の天才的な軌道予測による連鎖破壊『数学的連鎖』は伊達ではないという事か。
「雫、大丈夫かな?」
「厳しいでしょうか」
苦い表情を浮かべて、美月が感想を漏らす。
これまでと違って北山は優位ではなく、わずかな差でリードを許し、点差を詰められずにいた。
予選ではパーフェクト。準々決勝では相手を寄せ付けない圧倒的勝利で勝ち進んできた彼女も、思わぬ強敵とぶつかって苦戦を強いられている。
まだ序盤だが、必勝パターンが崩されているこの状況が続けば、勝利するのは難しいだろうと誰もが思うだろう。
だがあの達也がなんの対策も考えてないはずがない。
♢♦♢
(おかしい…)
栞は自分の身体に違和感を感じていた。
体調は万全に整えている。数学的連鎖は確かに大規模な魔法式で消耗が激しいとは言っても、対戦相手の戦法をシミュレートして完璧な調整を施して臨んでいる。
それなのに、今まで感じた事のない疲労感が身体にのしかかっていた。
予想外の負荷がかかるような原因でもあっただろうか?
(……まさか!)
その原因に思い当たった時、それまで続いていた破壊の連鎖が途切れてしまうが、慌てる事無く再び調整してリズムを取り戻す。
しかし、徐々に栞の計算は狂い始めていた。
「……よし」
予想通りの流れになって来ている事に、達也はわずかに口元を緩めていた。
三高が雫の戦法を研究した上で作戦を練って来るのは当然として、相手は雫が使用しているCADを特化型だと誤解している事も達也の予想していた通り。
それは当然だ。
雫は準々決勝では力を抑えていたのだから。
収束系魔法を多種類格納しているが、雫が準々決勝で使用したのは特化型の限界である九種類にも満たない上に、彼女が使用しているのは照準補助装置を付けた汎用型CAD。
九十九種類も格納出来る汎用型で、特化型に劣らぬ処理速度を実現したあのCADには、効果範囲や強度の異なる収束系魔法が多種類インストールされている。
それらに対処するなど、いくらスーパーコンピュータを凌駕する計算力を持とうが不可能。
「雫の勝ちだな」
♢♦♢
そういうことか。
あれだけの起動式は特化型に収まる数じゃない。
準々決勝で展開された収束魔法の出力規模は限定されていたが……あれはわざとか。
恐らく北山が使ってるのが特化型だと三高に誤認させる作戦だろう。
当然三高は9つの起動式程度なら対応できるようにしか対策を練っていない。
展開される99の起動式に対応するのは完全にオーバーワークだ。
現に……
「ああっ!?」
「十七夜選手が……っ!!」
「ミスしたぞ!!」
さっきから急に十七夜の連鎖が繋がらなくなって点を伸ばせていない。その一方で北山が着々と積んでいる。
十七夜が映っているスクリーンをよく見ると、呼吸が乱れ始めているが一目瞭然だ。
スーパーコンピューターをも凌駕する演算能力を駆使した旋律。
人間がスーパーコンピューターを超える力を出すのに、いったいどれだけの負担が身体にのしかかるかわかるだろうか。
それも、想定していた以上の事象計算が必要となると……。
やがてリードされていた点数は並び。
十七夜がまたもやミスをすると、北山の点数が瞬く間に逆転。
試合終了のブザーが鳴る。
結果は96-92……北山の勝利で試合は終わった。
♢♦♢
その後行なわれたエイミィと滝川の試合はエイミィが勝利して決勝へ駒を進め、滝川は三位決定戦で雫と互角に渡り合った栞とぶつかったが、相手がミスを連発したおかげで勝利を収め、雫とエイミィによる決勝は、最初はエイミィも食いついていたが届かず雫が勝利。
この結果。第一高校はトップ三を独占するという快挙を成し遂げた。
「凄いじゃない! トップ三を独占するなんて!」
喜ぶあまり、真由美は達也の背中をバシバシ叩いた。
「……頑張ったのは俺じゃなくて選手ですよ。褒めるなら選手にしてください。というか会長、痛いです」
「もちろん、北山さんも明智さんも滝川さんも、皆よく頑張ってくれました!」
真由美から満面の笑みで祝福され、三人の少女は照れくさそうに頬を染め、「ありがとうございます」と声をそろえて一礼した。
「だが、間違いなく君の功績でもある。それはここにいる全員が認識しているぞ」
上機嫌な様子で摩利も喜びの輪に加わり、摩利の台詞に雫たちは揃って大きく頷いた。
「自分がここまで来れるとは思っていませんでした」
「ホント司波君には感謝してるよ!」
興奮したように話すのは、それぞれ2位と3位を取ったエイミィと滝川だった。
「みんな、達也さんのおかげで入賞できたと思ってるよ。私だって、達也さんが担当していなかったら優勝できたかどうか分からない」
いつものように淡々と、しかしいつもより饒舌に話すのは、見事優勝に輝いた雫だった。彼女の言葉に他の2人の選手だけでなく、真由美や摩利もうんうんと頷いていた。
反応に困っている様子の達也に、鈴音が「そういえば」と声を掛ける。
「ところで司波くん、北山さんが予選で使用した魔法について、大学の方から『インデックス』に正式採用するかもしれないという打診が来ていますが」
「そうですか。では、開発者を聞かれたら北山さんの名前を答えておいてください」
「――だ、駄目!」
あまりにも自然だったのでそのまま流しかけたが、雫はすんでのところでそれを食い止めた。
鈴音の言った『インデックス』とは『国立魔法大学編纂・魔法大全・固有名称インデックス』の略であり、国立魔法大学が作成する魔法の百科事典に記された魔法の固有名称の一覧表である。ここに採用されるということは、大学が正式に認めた“新種魔法”として独立した見出しがつけられることを意味している。魔法開発に従事する研究者ならば、誰しもが1つの目標として掲げるほどに名誉なことだ。
「これは達也さんのオリジナルなのに!」
「開発者の名前に最初の使用者が登録されるのは、割とよくあることだぞ」
「達也くん、謙遜も過ぎると嫌味だぞ?」
摩利の呆れたような言葉に、達也は首を横に振った。
「謙遜ではありませんよ。自分の名前が登録された魔法を、当の本人が使えないだなんて恥でしかないでしょう?」
確かに新種の魔法の開発者として名前が知られると、実演を求められることが多い。それなのに本人が使えないとなったら、最悪他人の手柄を横取りしたと思われかねないだろう。
「自分が使えない魔法を、どうやって試したんだ?」
「別に発動できないわけではありませんよ。ですが、俺だと時間が掛かり過ぎるんです。実戦レベルで使えなかったら“使える”とは言わないでしょう?」
「まぁまぁ、本人がこう言ってるんだから良いじゃないの! 達也くん、この調子でどんどん頼むわよー!」
満面の笑みと共にそう言った真由美に、達也は軽く頭を下げて応えた。
雫も摩利も納得し難い表情だったが、それ以上何も言わなかった。
時は同じく。
第三高校のミーティングルームは暗い雰囲気に包まれていた。
「ここまでの結果だが、予想以上に一高が得点を伸ばしている」
「本戦女子バトルボードで先輩が優勝したのに、新人戦で足を引っ張ってしまっているな」
摩利のアクシデントにより、本戦女子バトル・ボードで優勝したのは第三高校だった。これにより、一高と三高の総得点差は縮まったのだが、新人戦だけの結果を見れば一高に大きく引き離れてている。
「さすがにスピードシューティング女子の一位から三位独占は予想できなかったな」
「ああ、優勝確実なはずの十七夜が四位で敗退したのはデカかった」
「まさか三位決定戦でも負けるとは……」
一年生たちによる嘆きの声。栞を責めているようにも聞こえるが、彼らに栞を気遣う余裕はなかった。
当の本人は明日も別種目に出場予定の試合があるため、体調を考慮して会議を欠席している。
愛梨は悔し気に空席となっている栞の席に目を落とす。
新人戦女子スピード・シューティングでは、大会が始まる前から栞が優勝候補と言われていた。しかし、準決勝で雫との再試合の連続で溜まった疲労が抜けきれず、緊張の糸が途切れた栞は、続く三位決定戦では信じられないようなミスを連発。
普段の力を出せば負けるはずのない相手だっただけに、三位決定戦での栞の敗北は三高チームの動揺を誘った。
「そこまで実力差があるようには見えなかったのだが……」
ある生徒の発言に、この場に同席していた一条将輝が口を開いた。
「その通りだ」
「将輝?」
「確かに優勝した北山選手って選手の魔法力は卓越していた。だが、二位、三位の選手はそこまで飛びぬけて優れているという印象はなかった。魔法力だけなら表彰台を独占される結果にはならなかったはずだ」
落ち着きながらも淡々と話す将輝。
「それにバトルボードは今のところウチが優位だし、一高一年のレベルが特に高いとも思えないよ」
将輝に続いて吉祥寺真紅郎は発言する。
現在の時点で、三高のバトル・ボードの成績は男子は二名が出場して共に予選突破。女子も二名が出場して一名が予選突破。対して一高は、男子三名が出場して全員が予選敗退。女子は一名が予選突破。この後ほのかのレースが残っているが、スピード・シューティングとは真逆の結果となっている。
「ジョージの言うとおりだ。一高の一年のレベルが高いわけではない。という事はつまり選手のレベル以外の要因がある」
将輝の方へその場にいた全員の視線が集まる。
「その要因はなんだと思ってるんだ?」
「……エンジニア、だと思う」
「エンジニア?」
答えたのは吉祥寺真紅郎だった。
将輝と真紅郎はスピード・シューティングの試合を見て、お互いの意見が一致していることを確認していた。
「僕と将輝はあの試合を見て一つの結論に行きついた」
「ああ。一高の勝利は偶然じゃない。CADの性能を何世代も引き上げる化け物のような技術者がついている」
「一条がそこまで言うのかよ……」
「……いや、アレよりはまだ可愛い方か」
「?どうしたの将輝?」
「あっいや、なんでもないよジョージ。とにかく、奴が担当する種目はこれからも苦戦を強いられるだろう」
「全員のCADを担当できるわけではないけどね」
真紅郎のフォロー虚しく、将輝の言葉は会議室に重苦しい沈黙を招くのだった。
♢♦♢
午前の部の試合が終わり、昼食休憩の時間。
司波兄妹と光井を除いた(バトル・ボードの準備云々で)オレ達は、会場外に点在する屋台にいた。
「いろんなキッチンカーが出てるんだね」
「ケバブにバーガーにクレープ……各国の料理がありますよ」
「ナインティワンアイスにはこの会場限定のフレーバーがあるからおすすめ」
「さすが毎年来てるだけあるね雫!」
「じゃあ今日のお昼はアイスを食べるってことで!」
エリカの提案に、全員似たような気持ちだったのか反対意見はでなかった。
一緒にアイスが売ってある屋台に駆け寄るメンバーたち。
「よし、俺はコイツにするか」
レオが選んだのは通常規格の3倍あるチョコアイス。そのお値段はなんと通常規格と大差ない。幹比古はカキ氷を、エリカや美月、北山、エイミィの女子勢はナインティワンアイスを選ぶ。
こんなところにもそれぞれの個性みたいなのが見え隠れしているから面白い。
さて、俺はどれにしようか。種類が多い分選ぶのに悩んでしまう。
「お~お主もここに来ておったのか」
「ん?」
後ろからかけられた声で振り返ると、四日前の懇親会で話しかけてきた三高の四十九院がいた。
「何しに来た?」
「何しにって…そりゃあアイスを食べに来たに決まっておろう」
「……まあ確かに」
「あ、あの…シンヤさん。そちらの方とはお知り合いですか?」
おそるおそる質問してきた美月。
「いや、懇親会で初めて会った」
「そういえば他の者との自己紹介はしてなかったのう。ワシは三高一年の四十九院沓子じゃ!よろしくの!」
「よ、よろしく…」
九校戦の最中、他校の生徒から気さくに挨拶をされ、エリカたちは戸惑いつつもお互い自己紹介をする。
(あ、あの子は……!)
(ん?どうしたのエイミィ?そんなに驚いて?)
(えっ、いや別に、なんでもないよ)
(なんか怪しいーわね)
(懇親会の時に2人が手を繋いでたのを見てエイミィかなり動揺してたみたい)
(ちょっ、雫!?)
(ほほう?それはそれは)
何やらエリカたちがこそこそと話してるがよく聞こえない。女子の会話に乱入するほどの度胸はないため詮索しないでおこう。
「ところで、おぬしは今どのアイスにするか迷っておるんじゃろ?あんなにメニュー表を見回しておったらわかるわい」
「正直どんな味かわからないからな」
「それならこれをおすすめするぞい」
四十九院が指さしたのはよくあるスタンダードなソフトクリームだ。ミルクをぐるぐると巻いたやつ。悪くないな。
「…そうか。じゃあこれにする」
「それじゃあ儂もこれにするぞい」
ん?
「お前もそれにするのか?」
「?せっかくすすめたのを自分も選ぶのは当然じゃろ?なにか問題か?」
「…いや」
まぁ、いっか。
(あちゃ~その手があったか。ゴメンねエイミィそこまで気が回らなくてー)
(ち、違うよ!私そんなんじゃ)
購入を終えてアイスを受け取ると、全員で集まってコンビニの開いたスペースで食べ始めた。
ソフトクリームを口の中に運ぶととろりと柔らかいミルクが口どけして広がる。
「これは……美味しいな……」
癖になりそうな甘さと冷たさが、体内に染み渡る。正直革命だ。アイスクリームがこんなに美味しいものだったなんて。ただ沢山食べると身体には悪そうだが……。
「美味しそうに食べるのー。まるで初めて食べたようじゃ」
「そりゃ誰だって美味しいと思うさ……ってどうかしたか……? そんな、意外なようなものを見る目でオレを見て……」
四十九院と何気なく話していると、視線が多く集まっているのに遅まきながら気が付いた。
「えっと、その、シンヤくんがそんな顔をするなんて思わなかったから……」
代表してエリカが答える。賛同するレオや美月たち。
さらには幹比古やエイミィまでもがそういった顔で見てくるのだから何が起こっているのかまったく分からない。
堪らずに困惑してしまう。
「そんなにも変な顔をしているのか?」
だったらショックだが……。
オレの雰囲気を敏感に感じ取ってかエイミィが両手をわちゃわちゃと振りながら否定する。
「えっと、シンヤくん……無表情とまではいかないけど、感情の起伏が普段から全然見られないから……。だからその、そんな美味しそうに食べるなんて思わなくて…………」
「確かに普段人形みてぇに表情変えないしな」
「時々苦笑とか困惑とかはあったんだけどね……」
「そんなに顔に出てたか?」
「「「「うん(はい)(おう)」」」」
マジか。
「おお、それじゃあ儂はその意外な瞬間に立ち会えたという事じゃな」
ソフトクリームをペロペロ舐めながら、四十九院がオレを見てくる。
居た堪れない空気を払拭するべく、オレはわざとらしく咳払いをする。
「ところで四十九院は「沓子でいいぞ」……沓子はここに一人で来たみたいだが他の二人はどうしたんだ?」
「愛梨は作戦テントの方にいて、栞の方は自室に塞ぎ込んでおるの」
「塞ぎ込んでる?」
「うむ。午前の試合での敗北が相当応えたようでの。あっ、別に北山に文句を言っておるわけじゃないぞ」
四十九院改め沓子の言葉に、北山は「気にしてない」と短く返す。
「そんな柔な感じには見えなかったがな」
「人は見かけによらないというものじゃ。それにあ奴もいろいろと苦労しておるしの……」
あれだけの実力を持ちながら自信喪失か。
……少し勿体ない気がするな。
「まあ、アイス・ピラーズ・ブレイクの頃には栞も復活するじゃろうて」
「なんでそう思う?」
「勿論儂の勘じゃ」
勘……か。
その後、オレの話題から一高と三高の話題へと変わっていき、しばらく和気あいあいとした時間が続いた。
「……と、そろそろ次の競技の準備をしなきゃいけない時間じゃ」
「バトル・ボードに出るのか?」
「うむ。こう見えて儂、水上では無敵じゃからの。もし時間があったら儂の出番を見に来るとよいぞ」
ふふんと(無い)胸を張る沓子は、最後にコーンを平らげ、「それじゃぁの」と言い残して足早に立ち去るのだった。
魔法科高校の優等生の漫画の続きが電撃大王に載ってたのを知り、とても驚きました。