魔法科高校の事なかれ主義の規格外(イレギュラー)   作:嫉妬憤怒強欲

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第二話 一科生とのひと悶着

 入学式を終えた次の日、4月4日の早朝。

 

 男子一人女子三人の連絡先を交換し、美味しいケーキがある店に一緒に食べに行く(司波兄妹の甘々空間により苦いコーヒーをおかわりした)ことができたオレは、1-Eの教室を目指した。

 

 

 一応前日……というか昨夜は脳内で様々な状況をシミュレーションしている。

 

 ──明るく元気に教室に飛び込もうかな? とか。

 

 ──手当り次第に声を掛けてみようかな? とか。

 

 特にオレの場合、今までと大きく環境が違う完全なアウェー状態。

 

 ……いや、ここはあえてプラスに考えよう。

 

 インターネットで調べて知ったのだが、世の中には『イメチェン』と呼ばれる言葉があるらしい。ボッチだった奴がリア充になれる可能性も捨て切れない。この世界は可能性に満ち溢れているのだ。

 つまり結局はオレの努力しだい。

 幸い、昨日知り合った達也や柴田、千葉がいる。孤立無援ではない。

 オレは勝つ! 食うか食われるかの弱肉強食の世界に踏み出し、座席表を確認する。

 割り当てられた座席は窓側の真ん中の一つ後ろ。

 なんてことだ……これでは困る。欲を言うと真ん中あたりが良かったのだが……。

 『有崎(ユウキ)シンヤ』で『ゆ』だから仕方ない。

 いや待て早まるな。

 そういった先入観は捨てた方が賢明かもしれない。そうに決まっている……! 

 嘆息してから教室内をぐるりと見回し、オレは自分のネームプレートが置かれた席へと向かい、端末にIDカードをセットしてインフォメーションのチェックをする。

 登校している生徒は現在半分ちょっとくらいか。大体は席について、一人でボーっとしたりしているが、一部は前からの知り合いなのか、それともすでに仲良くなったのか世間話をしている様子。

 さてどうしたもんか。受講登録をし終え、この空いた時間で行動を起こして、誰かと親しくなってみるか?

 丁度隣の方の、全体的にスラリと細い体をして右目の辺りにほくろがある少年は一人寂しそう(勝手な想像)に机に突っ伏していた。

 誰か僕とお話しして友達になってよ!というオーラを出している(勝手な想像)。

 しかし……いきなり話しかけたら相手も困るだろうしな。

 彼は実は孤高のソロプレイヤーで、俺は独りが好きなんだ! とか言われるかも……。そうなったら泣きそうだ。

 機が熟すのを待つか?いや、気づいた時には敵に囲まれ、孤立させられている可能性は大いにある。やはりここは自分から……。待て待て早まるな。迂闊に見知らぬ生徒の懐に飛び込んだら、返り討ちにあう危険性だってあるじゃないか。

 

 あかん、負のスパイラルや……。

 結局誰にも話しかけられずにいる。

 

 そもそも友達って何なんだっけ?一体どこからが友達なんだ?入学式に自己紹介したら?一緒に飯を食うようになったら? 一緒に遊べば友達なのか? 夕焼けをバックに喧嘩でもしたら友達なのか? 定期テストで一緒に赤点を取れば友達なのか? 

 考えれば考えるほど、友達って何だろう。とか深い?部分を探り出す。

 

 

 そんな深い謎に頭を悩ませてから、オレはとうとうある結論に達した。

 ────友達って作るの面倒臭いな。そもそもの話、狙って作るようなものでもない気がする。昨日の四人の時みたいに、友達って自然な流れで構築されていくんじゃないの? 

 

 モヤモヤしているうちに、教室はどんどん生徒が登校し密集していく。その中に千葉と柴田もいた。

 

「あ、有崎君おはよー」

「おはようございます」

「……おはよう」

 

 二人ともオレに気づいて笑顔で挨拶してきたため、オレも軽く挨拶を返す。

 

「……なぁ千葉に柴田」 

「ん?なに~?」

「なんでしょうか?」

「友達の定義ってなんなんだろうな……」

「「えっ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくして、初対面の生徒に話しかけるのを諦めたオレは話しかけられたら返す受け身モードを選ぶことにする。二つ右隣から再び挨拶が聞こえ、挨拶を返した声の主を見るために振り返ってみると、案の定、達也が登校してきていた。

 

「おはようシンヤ」

「あぁ、おはよう達也」

「……お前とはもう友達だと思ってるよ」

 

 ちょっと待て。開口一番に言ってんだコイツ。

 まさかあの二人、さっきのことを達也に話したのか?

 二人の方に向けると、柴田は苦笑い、千葉は……そっぽ向きながら口笛噴いてる。

 

……はぁ。ま、いっか。

 

 達也に気を遣わせてしまったようで申し訳ない。

 

「別に気にしなくても良い。オレもお前のことを友達だと思ってる」

「わかった。ありがとう」

 

 達也はそう言って自分の席に座り、端末にIDを差し込んだ。

 

「ん?司波君、何してるの?」

「受講登録を済ませておこうと思ってね」

 

 そう言ってもの凄い速さでキーボードオンリーで受講登録をしている達也を、エリカも美月もあんぐりと口を開けて見ていた。

 

「スゲー!」

「ん?」

「あ!」

 

 達也の操作方法に感心してたのは何も二人だけではなかったようだ。

 

「おっとすまねぇな。今時キーボードオンリーなんて珍しいからな……窓際にも一人いたなそういえば」

 

 達也とその男子生徒が会話していると、ふと男子生徒が考え込むしぐさをしてオレの方を一瞥する。

 

「……見てたのか?」

「さっきも言ったように、珍しいからな。おっと、自己紹介がまだだったな。西城レオンハルトだ。親父がハーフ、お袋がクォーターな所為で、外見は純日本風だが名前は洋風、得意な術式は収束系の硬化魔法だ。志望コースは身体を動かす系、警察の機動隊とか山岳警備隊とかだな。レオで良いぜ」

「司波達也だ。俺のことも達也でいい」

「オレは有崎シンヤだ。有崎かシンヤ好きな方で呼んでくれ」

「よろしくな、達也にシンヤ。それで、二人とも得意魔法何よ?」

 

……ここで聞くか。

 

「オレは魔法が苦手だからな……一応どんなのが得意かときかれたら光学系だな」

「なるほどな。達也は?」

「俺も実技は苦手でな。魔工技師を目指してる」

「なーる……頭良さそうだもんな、お前」

「え、なになに?司波くんは魔工師志望なの?」

「達也、コイツ、誰?」

 

 まるでスクープを耳にしたようなハイテンションで首を突っ込んできた千葉を、やや引き気味に指差して尋ねるレオ。

 

「うわ、いきなりコイツ呼ばわり?しかも指差し?失礼なヤツ!モテない男はこれだから」

「な?失礼なのはテメーだろうがよ!少しツラが良いからって調子こいて……」

「ルックスは大事なのよ?アンタみたいなむさ男にはわからないかもしれないけど」

 

 それから行われたレオと千葉の言い合いが始まったが、達也と柴田に諌められて二人は渋々席に着いたのだった。

 

 

 オリエンテーション開始直前、ドアが開き女性が入ってきた。

 彼女は保健室勤務の教師といった具合で、黄色いセーターの上に白衣を身に纏っていた。ただ柴田に負けないぐらいの大きすぎる胸は、思春期男子にとっては毒そのものだった。

 身長は160cmくらい、歳は20代後半に届いているかいないか。茶髪がかった長髪をロングテールにしている。

 誰が見ても、と言うほどではないにしろ、それなりに美人で、そしてそれ以上に愛嬌の感じられる若い女性だ。

 この学校の関係者であることは間違いない。

 ただ、二科生に担任は居ないのに、この女性は何をしにきたのだろうか……そんな疑念を抱いてる中、女性が話し始めた。

 

「皆さん入学おめでとうございます。当校の総合カウンセラーを務めています、小野遥です」

 

 随分と明るい女性だが、何か裏がありそうな雰囲気だ。

 簡単に彼女を信じるのは危険かもしれない。

 

「それでは皆さんの端末にガイダンスを送るので、その後で履修登録をしてください。既に終わっている生徒は退出しても構いませんが、ガイダンス開始後の退出は認められませんので、希望者は今のうちに退出してください」

 

 そう言われて、オレは外にでて一息入れようかとも思ったが、あんまり目立つ事はしたく無いのでその場に止まる事にした。

 すると、同時に隣の席に立ちあがる音が聞こえた。

 

……やっぱり目立つな。

 

 見られてる事を気にもせず出て行った男子生徒を、オレはぼんやりと眺めていた。

 

 そしてそんなオレと達也を、ジッと見ている人間が居るのだった……

 

 見られてる……終わってるのに出て行かないからか?

 

 カウンセラーの小野遥に見られているのに気付いたオレは、彼女の意図を測りかねていた。まさか新入生に色目を使ってる訳では無いだろうし、彼女は何をしたかったのだろうと、オレは終了時間まで考えていたのだった。

 

 

 

 

 

「工房見学、楽しかったですね」

「ああ、実に有意義だった」

「俺にあんな細かい作業ができるかな……?」

「あんたには無理よ、決まってんでしょ」

「何だと、エリカ!」

 

 オリエンテーションのあと工房見学を終えたオレたちは、食堂で昼食を摂っていた。

 国が総力を挙げて育成に力を入れている魔法師の教育機関だからか、第一高校の食堂は他の学校と比べても広い類に入る。しかし新入生が一度は学食のメニューなどを確認しにやって来るためか、この時期の学食はかなり混雑することが多く席が空いていないことも珍しくない。

 しかしオレたちの場合は、二科生ということで基本放置されていることを逆手に取り、授業の見学を早めに切り上げて食堂にやって来たため、簡単に6人掛けのテーブル席を確保することができた。現在はほぼ満席の状態であるため、正しい判断だったといえるだろう。

 

「意外と美味いな、此処の学食」 

「アンタは口に入れば全部同じなんでしょうけどね」

 

 料理の感想を言ったレオに、千葉が憎まれ口を叩く。その結果再び口論になるのだが、最早これがこの2人の当たり前になりつつある。

 

 2人には当たり前になりつつも、柴田には当たり前とは思えないようで……

 

「だから如何して言い争うんですか! エリカちゃんもレオ君も仲良くして下さい!」

 

 このように毎回注意する柴田を、達也は苦笑いを堪えながら見ているのだ。助けようとしない時点で、達也もオレも2人と同類なのかもしれないが。

 

「お兄様!」

 

 達也の背後から、嬉しそうな事が聞こえてきた。

 

「お兄様って誰だ?」

 

 達也はもちろん、千葉も柴田もその声の主が誰だか分かったのだが、レオだけは深雪が声を掛けて来た理由が分からないのも仕方ない。オレはまた千葉と口論になるのも面倒なため、レオに端的に説明する。

 

「達也の妹だ」

「へぇ……達也、妹居たんだな……」

「ハイ深雪、待ってたわよ」

「こんにちは、深雪さん」

 

 気さくに挨拶を交わす千葉と柴田、その2人に達也の妹の後ろから嫉妬の篭った視線を向ける一科生女子が何人か居た。

 というか達也の妹……ハーメルンの笛吹き男みたいに一科生達を引き連れてるな。いや、こいつらが勝手について来てるだけか。

 

 マズいな。このままだと面倒ごとが――

 

「君たち、この席を譲ってくれ。今から、司波さんと僕達がここの席を使うんだ」

 

 

「「「「「はあ?」」」」」

 

………起きちゃったか。

 

 達也の妹の取り巻き(本人非公認)の1人である少年がとんでもないことを俺達に向けて言ってきた。 

 

「あの、森崎さん……。私はこれからお兄様達と一緒に――」

「司波さん、あなたは新入生総代、いわば我々一科生の見本となる存在なんですよ? 見たところ、彼らはただの“二科生”ではないですか? あんな奴らに“一科生”が連んでいるなんて、示しがつかないではありませんか」

「何だと、おい!」

「如何してアンタみたいなヤツの言う事を聞かないといけないのよ!」

「そうですよ! 私たちはまだ使ってるんですよ!」

 

 森崎という名の少年の言い分に、レオは思わず声を荒らげて立ち上がった。あまりにも身勝手な主張には、千葉も柴田も表情を歪ませている。

 

「二科が何を言う。ここは魔法科高校だ。実力が全ての世界で、補欠如きが粋がるな!」

「そうだ! 身の程を弁えろよ、ウィード!」

「俺達の邪魔をするな!」

 

 しかし他の一科生はそれを窘めるどころか、むしろ彼の主張に同調するように口々にそんなことを叫んでいた。

 

……めんどくさいなこいつら。たかだか入試の優劣ごときで人を見下すなんて本当におめでたい連中だ。

 

「良いかい、君達? ウィードは所詮、僕らブルームの“スペア”でしかないんだ。授業でも食堂でも、一科生が使いたいといえば譲るのが常識だろう? 本当ならば実力で黙らせてやっても良いんだが、あいにくCADの使用が禁じられているからな。分かってくれるかい?」

「……森崎さん、あなた――」

 

 とうとう我慢の限界に達した達也の妹が森崎に向き直ろうとしたそのとき、わざと大きな音をたてて達也が席から立ち上がった。その場にいる全員が、彼に注目する。

 

「深雪、俺はもう行くよ」

「え、はい……」

 

 これ以上は騒ぎが大きくなりすぎると判断したのか達也は、食事を途中で切り上げるようだ。

 

「おい達也!」

「感じ悪い! 私ももう行く!」

「エリカちゃん!」

 

 達也に続くように、レオ、エリカ、美月、オレの順に席を立ち食堂から去る。

 

「司波君! 何であっさり席を譲っちゃったのよ!」

「そうだぜ達也! あんなやつらぶっ飛ばせばよかったじゃねぇか!」

「喧嘩は駄目ですよ!」

 

 好戦的な2人を諌めながらも、柴田も達也があっさりと席を譲った事が気に入らないようだった。

 

「あれ以上口論してたら、周りに迷惑だろうからな。それに、あいつらでは深雪の相手は務まらないさ」

 

ん? 

 

「……どういう意味だ?」

「さぁね」

 

 誤魔化すように歩くスピードを上げた達也に、オレたちはついていった。この時の達也のセリフが理解出来たのは、放課後になってからだった。

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減にしてください! 深雪さんはお兄さんと一緒に帰ると言ってるじゃないですか!」

 

 先程から続く口論に業を煮やして啖呵を切ったのは、意外な事にこの中では一番大人しい性格と誰もが思っていた柴田だった。

 

 ここに至るまでの経緯は、実に想像の付きやすい単純なものだ。達也の妹が校門にやって来るのを待っていたオレたち二科生に対し、後ろをゾロゾロとついてきた一科生の面々が難癖をつけてきた、というものだ。ちなみにその一科生の矢面に立っているのは先程も食堂で真っ先に口を出してきた森崎だというのも、これまた想像しやすいことであろう。

 

「大体、貴方たちに深雪さんとお兄さんを引き裂く権利があるんですか!」

「ちょっと美月…そんな、引き裂くだなんて」

「どうした深雪?顔を赤くして」

「いえ!なんでもありません!!美月ったら何を勘違いしているのでしょうね?」

「深雪……なぜお前が焦る?」

「えっ?いえ、焦ってなどおりませんよ?」

「そして何故に疑問系?」

 

……こっちのブラコンシスコン兄妹はそっとしておこう。

 

 

 最初は思わぬ人物からの反撃にたじろぐ森崎だったが、落ち着きを取り戻したのか、あるいはますますヒートアップしたのか、これ見よがしに大きく溜息を吐いてから反論を始めた。

 

「良いかい、君達? ここ第一高校は、完全なる実力主義だ。そして君達二科生は試験によって、僕ら一科生よりも実力が劣ると判断された。それはつまり、君達の存在自体が僕らより劣るということに他ならない。少しは身の程を弁えたらどうだい?」

「俺達は司波さんと、二科生には理解できないレベルの話がしたいんだ!」

「そうよ! 少し時間を貸していただくだけなんだから、二科生は大人しくすっこんでなさい!」

 

 内容の是非はともかくとして、どうやら他の一科生達も森崎の話す内容に異論は無いようだ。自分達の優位性をまったく疑っていないらしく、このままの勢いで押し切ろうという作戦らしい。

 

「ハッ! そういうのは、自治活動中にやれよ! ちゃんと時間取ってあるだろうが!」

「『時間を貸していただく』ですって? そういうのは、あらかじめ本人の同意を得てからやるもんでしょうが! 一科生の皆さんは、一般的な社会のルールも知らないのかしら?」

 

 レオが彼らの主張を威勢良く笑い飛ばし、エリカも皮肉をたっぷり込めた言葉で返した。食堂では言い争いをしていたというのに、こういうときには息がピッタリだ。

 

 しかしそれでも尚、森崎は自分達の非を認めようとはしなかった。

 

「まったく、どうして君達“ウィード”はそう楯突くんだ? 所詮は単なる“スペア”で実力も何もかも劣っているというのに、僕達“ブルーム”に刃向かってどうするんだい?」

 

 そんな森崎の言葉に真っ先にキレたのは、またしても柴田だった。

 

「――何ですか、さっきから“実力”って! 私達は同じ新入生です! 今の時点で、あなた達のどこが優れてるって言うんですか!」

 

 

……今のはマズイな。

 

 売り言葉に買い言葉でとうとう頭に血が上った森崎が動き出した。

 

「そんなに見たいなら見せてやる! 才能の差ってヤツをな!」

 

 森崎がそう叫びながら取り出したのは、術式補助演算機(通称CAD)と呼ばれるもので、魔法師にとって所謂“杖”の役割を果たす機械である。拳銃のような形をしたそれをホルスターから抜く彼の動作は、さながら早撃ち勝負をするガンマンのようだ。

 そして森崎はあっという間に、二科生のグループの1人にその銃口を向けた。

 

 オレだった。

 

「は?マジかよ」

 

 なぜそこでオレを狙う。全然シャレになってない。あれどう見ても攻撃力重視の特化型だ。そんなの怪我だけじゃすまないぞ。

 だがその心配も杞憂に終わる。

 

「この間合いなら私の方が速いのよねぇ?一科生さん?」

「なっ!?」

 

 千葉が既にどこからか取り出した警棒で森崎のCADを弾き飛ばしていた。

 それを見ていた他の一科生達もCADを構えだす。

 

「ブルームがウィードに劣るなどありえるかぁぁぁぁ!!!!」

「なめないで!」

 

 その中で、ヒートアップし過ぎている一科生を止めようと1人の女子が動いたのをオレは気がついたのだが、他のメンバーはまた攻撃魔法を使われると思って慌てだした。

 

 しかし魔法は発動前に霧散した。何者かに起動式を打ち抜かれた為に、魔法を発動出来なかったのだ。

 

「止めなさい! 自衛目的以外での魔法攻撃は、校則違反以前に犯罪ですよ!」

 

 聞き覚えのある声に、声のした方に振り向いた。そこに居たのは生徒会長の七草真由美と、もう1人は見覚えの無い女子生徒が居た。ショートボブの黒髪にスレンダーな体型をした、まさに“男装の麗人”といった表現がよく似合う一科生の女子生徒で、右腕には、太陽の光に照らされた“風紀委員”の腕章が燦然と輝いている。

 

「風紀委員長の渡辺摩利だ。君たちは1-Aと1-Eの生徒だな。事情を聞きますのでついてきなさい」

 

……最悪だな。入学して二日で生徒会長だけじゃなく風紀委員長にまで目を着けられるとは。

 ここで変に口答えすれば、下手をすれば退学になってもおかしくない。

 

 大人しくついていくべきか考えていた矢先、唐突に達也がスッと前に出た。

 

「すみません、悪ふざけが過ぎました」

「悪ふざけ?」

「ええ、森崎一門のクイックドロウは有名ですので、後学の為に見せてもらったのですが、自分が狙われてつい反撃をしてしまったのです」

 

 どうやら達也は一件そのものをなかったことにするつもりのようだ。 

 達也の言い訳に一番驚いたのは森崎本人だった。まさか自分が知られているとは思って無かったのだろう。 

 

「ではあの女子は? 攻撃性の魔法を発動させようとしてたのでは?」

「あれはただの閃光魔法です。威力も抑えてありましたし、失明の危険性もありませんでした。周りを落ち着かせる為に注目を集めようとしたのでしょう」

「ほぅ」

 

 達也の言い分に興味深そうな声を漏らす風紀委員長。

 

「君は、面白い眼をしてるんだな」

「実技は苦手ですが、分析は得意ですので」

 

 どうやらオレはとんでもない奴と友達になったようだ。

 

 魔法師は、魔法式についてはどのような効果を持つのか直感的に理解することができる。

 だが起動式は別である。

 起動式は簡単にいえばデータの塊だ。それを読み取ることができるなど数百万と呼ばれるデータを全部記憶しているようなものだ。

 魔法を使うには起動式が必要である。だが、使う前から読み取るなど、普通の人間には不可能だ。

 

 

「君は誤魔化すのが得意なんだな」

 

 風紀委員長は真っ直ぐに達也を睨み付ける。するとそこに兄を庇うように妹が前に出る。

 

「兄が申した通り、本当に、ちょっとした行き違いだったのです。先輩方のお手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」

 

 そして深々と頭を下げた。まさにその姿は兄妹ではなく、互いを庇い合う夫婦にしか見えない。するとその様子に毒気を抜かれたのか風紀委員長は目を逸らし、生徒会長に視線を向けた。

 

「もういいじゃない、摩利。達也君、ただの見学だったのよね?」

「はい」

 

 そして生徒会長の視線が次にオレへと向かう。

 

「じゃああともう一人だけ最後の確認。シンヤ君……本当にただの見学だったのよね?」

 

 ここでオレは司波兄妹をチラリと見る。二人はなにも言わずこっちをジッと見ていた。続いて友人達に目を向ける。友人達もこっちをジッと見ていた。

 

 ここは空気を読んで話を合わせるとしよう。

 

「はい。まったく無駄な動きがなくてとても勉強になりました」

「……そう」

 

 昨日までは苗字で呼ばれていたような気がしてたのが、いきなり名前呼びに変わってるのは気になるが今はそういう空気ではないため聞かないでおくことにする。

 

「確かに魔法を教え合うこと自体は悪くないですが、魔法の発動には細かな制限があります。それを習うまで魔法の自習活動は控えるといいでしょうね」

「会長がそう言うのなら、この場は不問とします。以後気をつけるように」

 

 風紀委員長も会長の意向を汲んでこの場から去っていく。一科生も二科生も無言でお辞儀をしていたら、ふと風紀委員長が振り返った気配を達也は掴んだ。 

 

「君、名前は?」

「1-E司波達也です」

「覚えておこう」

 

 そして生徒会長が小さく手を振りながら、風紀委員長が少し一瞥しつつこちらを見ながら、校舎へと去っていった。

 

 二人が居なくなった後、森崎は達也に認めない発言をし、他の一科生の面々とその場を去る。

 

 

 入学早々こんな騒動に巻き込まれるなんて、本当にツイてないな。

 

 

 

 

「お兄様、もう帰りませんか?」

「そうだな。シンヤ、レオ、千葉さん、柴田さん、帰ろう」

「うん、そうだね」 

 

 一科生がいなくなったことによりこの場にとどまる必要もなくなったオレ達は、達也の妹の意見に皆頷いて司波兄妹を先頭に帰路についた。

 

 が、その行く手を遮るように達也の妹のクラスメイトの女子生徒が立ち塞がった。

 先ほど閃光魔法を放とうとしていた女子生徒である。そばにはもう一人感情が乏しそうな女子生徒がいる。

 

 しかし、もうこれ以上は関わりたくないのか、達也は妹に目配せをし、そのまま通りすぎようとする。

 その達也の意を汲んで、また明日、と挨拶をしようとした妹だが、それよりも先にその女子生徒が口を開いた。

 

「光井 ほのかです。さっきは失礼なことを言ってすみませんでした。大事にならなかったのは、お兄さんのおかげです」

「……どういたしまして。でも、お兄さんはやめてくれ。これでも同じ一年生だ」 

「分かりました。では、何とお呼びすれば……」

「達也、でいいから」

「……分かりました。それで、その……」

「……なんでしょうか?」

「……駅までご一緒してもいいですか?」

 

 

 

♢♦♢

 

 

 ほのかのこの一言で、大所帯での帰宅になってしまった。

 駅まで向かう途中、メンバーは達也、美月、エリカ、レオ、シンヤのE組五人と、深雪、ほのか、ほのかの友達で同じくA組の北山 雫という名の女子生徒の三人、計八人。 

 

 達也の隣には深雪、そしてその反対側には何故かほのかが陣取っている。

 

「……じゃあ、深雪さんのアシスタンスを調整しているのは達也さんなんですか?」

「ええ。お兄様にお任せするのが、一番安心ですから」 

 

 ほのかの質問に対して、我が事のように得意げに、深雪が答える。

 

「少しアレンジしているだけなんだけどね。深雪は処理能力が高いから、CADのメンテに手が掛からない」

「それだって、デバイスのOSを理解できるだけの知識が無いとできませんよね」

 

 深雪の隣からのぞき込むように顔を出して、美月が会話に参加した。

 

「CADの基礎システムにアクセスできるスキルもないとな。大したもんだ」

「達也くん、あたしのホウキも見てもらえない?」

 

 振り返りながら、レオ、エリカ。

 

 エリカの呼び掛けが『司波くん』から『達也くん』になっているのは、「光井さんに名前で呼ばせてるんだからいいでしょ」というもので、自分のことも名前で呼んで良いという交換条件により成立。

 

 当然、美月も同じ取引を主張し、何故かシンヤも流れでエリカと美月を名前呼びすることになった。

 

「無理。あんな特殊な形状のCADをいじる自信はないよ」

「あはっ、やっぱりすごいね、達也くんは」

「何が?」

「私のこれ、達也くんからは一瞬しか見えてないはずなのにホウキだってわかっちゃうんだもんね」

 

 達也の返事は本気なのか謙遜なのか分かりにくいものだったが、エリカのは素直な賞賛だった。

 エリカが取り出したのは、先程取り出した警棒みたいなものだ。

 

「…………」

 

 シンヤはその警棒の持ち手の下のところに何か刻印のようなものが入ってることに気付く。

 

「それ、刻印型の術式か?」

「おっ、シンヤ君正解。刻印型の術式で強度を上げてるのよ」

「刻印術式っていや、術式を幾何学紋様化してサイオンを注入して発動させるってアレだろ?そもそも刻印型の術式は、燃費が悪くて今じゃあんまり使われていないはずだぜ」

「お、さすが得意分野。でも残念、あと一歩ね。強度が必要なのは、振り出しと打ち込みの瞬間だけ。その刹那にサイオンを流せばそんなに消耗しないわ。兜割りの原理と同じよ。……って皆どうしたの?」

 

 レオの言葉にエリカは普通に返すが、全員エリカに呆れたような感心したような視線を向けていた。

 

「エリカ……兜割りって、それこそ秘伝とか奥義とかに分類される技術だと思うのだけれど。サイオン量が多いよりよっぽどすごいわよ?」

 

 全員を代表して深雪が伝える。エリカは少し焦っているようだった。

 

「達也さんや、深雪さんもすごいけど、エリカちゃんもすごい人だったのね……。もしかしてうちの高校って一般人の方が珍しいのかな?」

 

「魔法科高校に一般人はいないと思う」

 

 美月の天然で素朴な疑問に、雫の的確すぎるツッコミが炸裂し、全員つい納得してしまった。

 

 

 

 

 そんな中、達也の視線は森崎にCADを向けられてもまったく表情を崩さなかったシンヤの方に向いていたのだった。

 

 

 

 





(お、お兄様が有崎くんのを見て深刻そうになっている…!! もしや、そういう―――いいえ、ありえないわ!!! け、けれどそうだとしたら、ああ!! どうしたらば―――)

 帰宅後、達也は深雪に根掘り葉掘り聞かれ、誤解を解くのに時間を弄したとかなんとか。
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