魔法科高校の事なかれ主義の規格外(イレギュラー) 作:嫉妬憤怒強欲
「うぅ、わかってはいたけど、なんて威力なの深雪」
私、アメリア゠英美゠明智゠ゴールディは試合前にプレッシャーを感じていた。
雫は何故か嬉しそうだったけど、私ともし当たったらと思うと胃がいたくなるよ。
でも”タスラム”を使って奇襲をかければ―――って駄目ね。あれはあらかじめ術式を込めておくものだから毎回新たに用意するピラーには使えないわ。
それに私には司波君が考えたあの魔法がある。
私は構造物を移動させる魔法の中でも、大質量の物体を短時間高速移動する通称『砲撃魔法』が得意だ。ピラーのようなかなり大きなものも扱えるし発動速度にも自信ある。
そこで魔法による直線的な事象改変より物理的にぶつけて壊すほうが効率がいいということで、司波君はその方向で起動式を組み立ててくれた。
実際に学校の演習林で実践してみた結果は上々だった。
「ご機嫌だねエイミィ」
右手をピストルの形にしてあの時に感じた爽快感を思い出してると、深雪の試合を観戦していたほのかがやってきた。
「アハハ、恥ずかしいところ見られちゃったわね」
「エイミィはいつも元気だよね。試合前なのに全然プレッシャーとか感じてないみたい」
ほのかにもそんな風に見えるかな。
「そんなことないよ。これでもさっきまでかなりビビっちゃってたんだよ」
「そうだったんだ。たしかにエイミィのブロック決勝は強敵が来そうだもんね」
「へ?」
ほのかは今なんて言ったの?
「ほら、スピード・シューティングにも出てた十七夜選手だよ。午前に試合を見たけど、波状の魔法の合成であっという間に柱を粉砕してたよ。有崎君の推測通りやっぱり計算の速さが半端じゃないみたい。エイミィの魔法とは真逆の考え方だから戦いにくい相手かも……………」
「なん……だと……」
シンヤ君の推測通りだと!やっぱり彼は凄……じゃなくて!
しまったぁぁ!
午前中は試合終わってすぐ寝てたからチェックしてないんだった!
深雪や雫との対戦の心配をしてる場合じゃないわ…!
【その後なんとか二回戦突破となったエイミィであった】
♢♦♢
新人戦二日目も終了し、一高選手、並びに技術スタッフと作戦スタッフが一同に介して食堂で夕食を摂っていた。
九校戦に出場する選手だけでも360名、作戦スタッフや技術スタッフなどを入れると400名を超える。そうなると、食事も結構なものとなるが、毎日パーティーという訳にもいかない。
朝食は早いもの順のバイキング形式、昼食は基本仕出弁当だが、出店などで買って天幕などで食べることも許されている。夕食は3つの食堂を各1時間三交代で利用する。夕食が学校別なのは、翌日の競技の作戦漏洩を防ぐためのものである。
夕食の時間は、自校のメンバーが一堂に会する1日で一度の機会。その日の戦績で喜びや悔しさを分かち合う時間でもあった。
女子クラウド・ボールは準優勝と入賞(六位以上)一人で「まあまあ」の成績だったが、ピラーズ・ブレイクで出場全選手三回戦進出というスピード・シューティングに続いての好成績に女子選手はお祭り気分に浸っていた。一方で男子の成績は思わしくなく、夕食の席では男子と女子で明暗がくっきりと分かれていた。そして女子の面々の中には、男子から追い出される形となった達也の姿もあった。
「深雪、雫、エイミィ予選突破おめでとう~!!」
賑わいを見せる女子の集団の中で、ほのかのご機嫌な声が響く。
「いやぁ司波君の組み立ててくれた魔法がよかったからね。自分でも得意魔法をあんな風に使えるなんて思ってなかったし」
達也を称賛するエイミィの言葉に同調して周りの女子生徒たちも達也を褒めだした。
「わかる、すごいよね彼」
「私もCAD調整してもらったんだー」
「深雪のアレもすごかったわよね」
「『氷炎地獄』って言うんでしょ? 先輩たちビックリしてたよ。A級魔法師でも中々成功しないのにって」
「あれも司波君のおかげなの?」
一年女子はスピード・シューティングで表彰台を独占。クラウド・ボールでは二人が入賞。アイス・ピラーズ・ブレイクでは三人が三回戦突破と快進撃を続けている。
想像以上の好成績に、女子メンバーらはお祭り気分に浸りながら、その立役者を褒め称えていた。
それに気を良くしたのが深雪だ。
「ええ、もちろんお兄様なくしてはできない魔法だったわ」
九校戦が始まる前までであれば、ただのブラコン発言にしか受け取られなかっただろう。しかし、今は深雪の言葉に耳を傾け、うんうんと頷いていた。
「エイミィも結構、決まってたよ」
「乗馬服にガンアクションが格好良かったよね」
「雫もカッコ良かった!振袖、素敵だったし、相手に手も足も出させず追い詰めていく戦い振り。クールだったよ~!」
アイス・ピラーズ・ブレイクに出場している三人は、明日の午前中に行われる各ブロックの決勝戦に勝てば決勝リーグへと駒を進めることができる。
深雪はともかく第三高校の十七夜栞と戦うエイミィや、優勝を狙う雫は煽てられても気を引き締めた表情だ。
「スピード・シューティングに続いてアイス・ピラーズ・ブレイクも表彰台独占なんかしちゃったらすごいことだよ~」
「そういえばスピード・シューティングで雫が使った術式は司波君のオリジナルって聞いたけど本当?」
達也に話しかけてきたのは、達也が担当していない一年生の女子選手。顔と名前は知っていてもそれほど親しい相手では無かった。
「正解」
付き合いがない分怖がらせないようにと考慮したのか、達也の声は普段よりも柔らかかった。だがその気遣いは喧騒を増幅させるだけだった。
「やっぱり司波君が起動式をアレンジしたの?」
「ほのかの奇襲作戦も司波君が考えたって聞いてるよ」
「えへへ実はそうなんだ」
兄が周りから認められていく光景を深雪は夢心地で眺めている。
当の本人は、大会前の腫れ物扱いから、女子の態度が急変したことに戸惑っているようだ。ぎこちない対応で女子たちの質問に答えていく。
「いいなぁー、私も司波君に担当してもらえればもっと上位を狙えたかも」
「おいおい」
そんな中、ある一人の女子生徒が不穏な言葉を発した。周囲の一年女子だけではなく、上級生たちにも聞こえただろう。とても聞き流せる発言ではなかった。
周囲の雰囲気を察した深雪は、角が立たないように柔らかく諭すことに。
「ちょっと菜々美、それは駄目よ」
「へ?……はっ」
担当エンジニアに対する批判ともとれる発言。それに気づいた菜々美はあわあわとたじろいだ。
「あわわわわわ…そういえば担当してくれた先輩にすっごく失礼かも」
慌てて上級生の中に担当エンジニアの姿を探したが、本人が笑いながら手を振ってるのを見つけてホッとした表情を浮かべ、ピョコンと大きく頭を下げた。
「あー焦った」
「なな~自分の未熟をCADのせいにしちゃだめよ?」
「そうだぞ。自分の至らなさを技術のせいにするんじゃない」
「はーい、はんせーい」
頭をポリポリと掻きながら菜々美は照れくさそうな表情を浮かべた。その表情が面白かったのか、女子選手たちは揃って笑い声を上げた。
「何だよ~」
「菜々美の言い分はちょっと行き過ぎかなって思ったけど、でも司波君のおかげで何時も以上の力が出せたのも間違いないし」
スピード・シューティングで三位になった滝川がそう言うと、他の女子が大げさに頷いた。
「最初は男の子の調整なんて……って思ったけど、、今はホント男子には感謝してるよ。司波君を譲ってくれてありがとうございますってね!」
正確には男子が譲ったわけではないのだが、多大な勘違いをした女子に達也は苦笑いを浮かべるしかなかった。だが、苦笑いで済ませることができない者もいた。
「不愉快だ。俺は戻る!」
「おい森崎?」
「どうしたんだ急に」
ガタンッ、と中に入った水を飛び散らかすほど強くグラスをテーブルに置き、早足で食堂の出入口へと向かう森崎の姿が彼らの目に映し出される。
「モノリスコードは絶対勝つぞ」
森崎の後を追う数名の男子生徒。
森崎の表情にはやる気以上に焦りや苛立ちが浮かび上がっていたが、その真意までは誰も気づくことはなかった。
興味がなさそうにポテトをつまみながら一瞥するエイミィとスバル、菜々美。
「何?」
「森崎君が出ていったみたい」
「なんか気に障ったのかねぇ」
「しょうがないよ。彼、ガチガチの一科至上主義だから。男子のテーブルから司波君を追い出してたしねぇ」
「ああ、だからさっきからウェイターさんと話してる……の………か」
「?どうしたのエイミィ?」
突然固まりだしたエイミィの様子を不審がり、スバルと菜々美はエイミィの視線の先を見るとすぐに納得した。
エイミィの視線の先、達也と現在も会話をしているウェイターは、なんと懇親会で執事服を着ていた有崎シンヤであった。
「執事君今日はウェイター服だね」
「流石にずっとあの格好は嫌だったんだろう。それより司波君とずっと何を話してるのか気になるな。そう思わないかエイミィ?」
「べ、別にシンヤ君が誰と話してようと勝手だし…そ、それにあんまり人の会話は盗む聞くのもよくないし…」
エイミィは何でもないと言った風に答えたが、少し頬が赤く染まっている姿は見る人がみれば素直になれない少女のように見えなくもない。どうやら、スバル達もその人だったようでさらに笑みが深まった。
「では盗み聞かなければいいだけの話だな」
「え?」
「それもそうだね」
「えっ?えっ?」
「よし、では作戦開始だ!」
「ラジャー!」
「え?ちょっ、二人共!?なにを」
眼鏡をクイッと上げるスバルと菜々美(菜々美はエア眼鏡)。二人がエイミィを後ろから押しながら達也達の下に向かう。
「おーい司波くーん」
スバルの呼びかけに達也が反応する。
「どうしたんだ里美、春日さんと明智さんも」
「いやー僕はほのかと一緒にミラージ・パッドに出るからね。改めてよろしく頼もうと」
「私は司波君と執事君が何を話しているのか気になって☆」
菜々美の言葉に、『それじゃあオレは行く』と離れようとしていたシンヤの脚が止まる。
「執事君ってオレのことか?」
「そうだよー私は春日菜々美。エイミィから話は色々聞いてるよ」
「そして僕は里美スバルだ」
「よろしくねー☆」
「有崎シンヤだ。よろしく」
二人の自己紹介を聞いて、シンヤはしばらく考え込み、『あぁ』と思い出す。
「…クラウド・ボールに出てた二人か」
「ふっ、流石に僕たちのことは知っていたか」
「一応な(一色と戦って負けた一高選手、というぐらいは)」
シンヤの頭の中では二人はそれぐらいの認識しかなかったことは本人たちの知る由もなかった。
「それで執事君は司波君と何を話してたの?」
「………達也にオレのCADも調整してもらえないかなんとなく聞いてみただけだ」
「あーやっぱり執事君も司波君がすごいってわかるか」
「まあな。で、今は選手たちの方の調整に集中したいからまた今度にしてくれと断られた」
「くっ…司波君!そんなに真面目に取り組んでくれるとは僕たちは感激したぞ!」
シンヤの達也の株を上げる発言で、スバルは芝居かかった仕草をとり、次の行動に移す。
「そうだ司波君、君のその選手たちへの真摯さを他の皆にも伝えてやろう」
「え?あっ、いや……」
「さあ行くぞ!」
「あっそういえば執事君、エイミィが話あるみたいだよー」
「うえ!?いや、ちょっと!?」
スバルと菜々美のナイスコンビネーション(?)でシンヤは達也から引き離され、代わりに先程までカチコチに固まってたエイミィが傍に残ることとなった。
「……」
「……」
(うぅ……気まずい!)
頭の中が真っ白になってるエイミィが元凶の二人にチラリと視線を向けると、二人から清々しいほどのサムズアップが返ってきた。誰かあの二人の親指を折ってくれ!
「それで、話ってなんだ?」
「え、えっと…その……し、シンヤ君バイトの方はどう?」
「そうだな。生まれて初めてのアルバイトだったから最初は戸惑ったがもう慣れた」
「へぇーそうなんだ」
頭をフル回転させて出した質問に、シンヤは無表情に淡々と答える。新人戦初日の昼食時に見せたあの表情が一時の幻だったかのようだ。
(もう一度見てみたいな……じゃなくて!)
「エイミィの方はどうなんだ?」
「ふぇ!?わ、私?」
「明日の三試合、十七夜と対決するんだろ?」
「……うん、何の問題もないって言えば嘘になるかな」
あ、あははと空笑いするエイミィ。実は意外と繊細なタイプであった。
「えっと…シンヤ君は私が十七夜選手に勝てると思う?」
「正直今のままだと難しいな」
「ですよねー」
シンヤからのストレートな物言いでズーンと落ち込む。
「そりゃあスピード・シューティングの時は雫に負けて挫折状態だったからで、復活してる今回はさすがに勝てないよね」
「別にオレはお前が勝てないとは一言も言ってないぞ」
「ふぇ?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまうエイミィ。
「確かに十七夜は計算力の高さを活かした戦法を得意とする戦術家だ。既に向こうもエイミィの戦法を研究してるだろう。だがそんな相手ならスピード・シューティングで北山に負けた?」
「え?そりゃあ司波君がその時だけ雫に汎用型を使わせてたから……」
「正確には北山が使っていたCADを特化型だと想定して戦術を練っていたからだ。つまり十七夜は想定外の事態には弱いことになる」
「あぁ、成程」
シンヤの的を射ている説明に、エイミィは納得の意を示す。
「でもあの十七夜選手の虚をつく戦法なんてそうそうあるものなのかな?スピード・シューティングで雫に負けた後警戒してるだろうし……やっぱりここは司波君に頼んで方がいいのか……な?」
「……エイミィ、確かに達也の策なら勝てるかもしれない。だがそんなことでお前は自分を誇れるのか?何より──お前だけの力でも十七夜に勝てる」
「えっ……? それって……」
戸惑うエイミィに、シンヤはさらに言葉を畳み掛ける。
「もちろん必ず一位になれとは言わないし、上位に入って高得点取れれば負けても誰も文句は言わないから祭り気分で楽しめばいいと思う。けど、相手に”勝ちたい”という気持ちがあればそれを無駄にせず思いきりぶつかってほしい。そうしたら、エイミィは『成長』出来る。そう思う」
「成長……?」
「ああ。考えてみてくれ」
「うん…………」
「じゃあオレは仕事があるから。また明日」
「あっ」
――――また明日
そう小さな声でエイミィは挨拶を返した。
シンヤは振り返ることなく、片手を挙げることで応えたのだった。
食堂の貸し切り時間が終わり、腹を満たした皆は食堂を出た。
すると食堂の外には三高の生徒たちが待機していた。
「三高の?」
どうやら一高の後は三高が夕食の時間のようだ。予備椅子に座りながら『腹減った~』と呟く男子生徒たちが見える。
「あら、一高の皆さんこんにちは。ご夕食でしたか?」
ほのかの声を聞きつけ、三高生徒らの中から愛梨と沓子、栞が深雪たちの前にやってきた。
「ええ、お先にいただきました。皆様はこれから?」
ライバルの登場に戸惑うほのかと雫だったが、深雪だけは平然とした態度で受け答える。
「ええ。そうです。入れ違いで残念でしたわ。でもここでお会いできてよかった。司波深雪さん。あなたにお詫びしたいことがあります。私は以前あなたを侮った発言をしました。しかし、私の認識が間違っていたことをはっきりと悟りました」
明快に話す愛梨。
「あなたは私たちの世代でトップクラスの魔法師。だからこそ私はあなたに勝利するために全力を尽くし、この九校戦を第三高校の優勝で飾ってみせるわ」
懇親会の時に愛梨は深雪に対して侮蔑ともとれる発言をしていた。その時の謝罪と覚悟が伝えられる。この九校戦の中で成長していく若人たち。おそらく、三高の中で一番成長したのは一色愛梨だろう。
食堂の扉の向こう側では真由美と摩利が愉快な笑みを浮かべながら彼女たちの会話に聞き耳を立てていた。
「どうなるんだこれ?」
三高の生徒たちは愛梨の行動に肝を冷やしながら見守っている。誰も愛梨に口出しはできないようだ。数秒が何十分にも感じられるほど緊迫した空気の中、深雪は軽く口角を上げながら愛梨へと手を差し伸べた。
「ええ、そうですね。もちろん私もあなたに負ける気はありませんので、お互い全力を尽くし戦いましょう」
一切の動揺が見られない。逆に愛梨の方が深雪を不気味に感じながら深雪の手を取った。
「いい戦いをしましょう」
「ええ」
一高と三高、優勝を争う高校に属するエース同士の握手は、荘重でありながらも周囲の人間の心を揺さぶる神秘的な雰囲気を漂わせていた。
♢♦♢
九校戦六日目、新人戦三日目。
午前にアイス・ピラーズ・ブレイクの各ブロック決勝。そして午後からは決勝リーグ三試合が行われる。
昨日まで一緒に行動していたエリカたちは今はいない。
同時刻に行われ、光井が出場しているバトル・ボードの予選があるためだ。
ピラーズの試合を生で観られないのを残念がっていたエリカたちはオレだけでもと何故か強引気味に勧められた。まあ、昨日エイミィにあんなこと言っておいて観戦しに来ないというのは流石に失礼だろうということでオレは一人アイス・ピラーズ・ブレイクの会場に向かったのだが、
「やはり年は取りたくないものだな。昔のように体が動かなくなってしまったよ」
「そんなこと仰るならわざわざこのような席で観戦しなくてもよろしいのではないですか?」
「ハハハ、君のその物怖じしない態度嫌いじゃないよ」
「……」
隣に座った老人と成り行き上一緒に観戦することなってしまったが、周りはその老人が誰か気づいていないため、オレも気にせずフィールドの方を見る。
フィールド上では、エイミィは先日に続きトラディショナルな乗馬服の出で立ち。十七夜も昨日同様リーブル・エペーの競技服で向かい合っていた。
開始ブザーの音と共にエイミィがライフル形態のCADを構える。
「先手必勝!」
エイミィが自陣の氷柱を倒して、相手の柱にぶつけようとする。それに対し、十七夜が到達前に合成波で砕こうとするが、柱は砕かれず転がり続ける。
先に『柱を転がす』という事象改変がかかってるから、柱を別の物に変化させる改変は受け付けないってわけか。
「その程度の攻撃は予想済み!このまま一気に頂くよ!」
情報強化がされた柱も横からの運動エネルギーには勝てず、エイミィの柱が十七夜の一本目を倒し、そのまま勢い止まらず後ろの柱にも襲い掛かる。巨大な柱がまるでボーリングのように薙ぎ倒されていき、縦一列三本倒れたところで止まった。
魔法と柱自体の重量を利用した合わせ技でエイミィが二本リードしたことに、観客席から歓声が沸く。
だがそんな中で、十七夜は余裕の笑みを浮かべていた。
「よし!もう一丁!」
エイミィが再び柱を倒し、栞の陣地へ転がし始め、相手の柱にぶつかる。
だが十七夜の柱は壊れず、カーリングのようにステージを滑り縦3本の柱が合体する。その現象にエイミィは戸惑った表情を浮かべた。
考えたな。氷の摩擦係数をゼロにするとは……
まず氷柱が衝突する直前、一、二列目の氷柱の底面の摩擦係数を放出系魔法により極小化。そして滑走する一、二列目の氷柱が三列目に接触した瞬間に三列目の氷柱の摩擦係数を極大化し、続いて一、二列目のも増大させて慣性による移動を停止させた。
そこに遅れてエイミィのが到着したが、三本が一体化して質量が三倍になったことでエイミィの氷柱がぶつかっても倒れず破壊されなかったわけか。よくできてる。
エイミィのようなパワー型ではなく制御型の魔法師ならではの戦術だ。この九校戦に出てる選手の中で、制御力の高さは十七夜がトップクラスか。
十七夜は即座に反撃に転じ、が一気に合成波でエイミィの氷柱を砕き始める。
「だから……えっと……」
エイミィは狼狽え始め、防戦を強いられる。その結果、6本の氷柱が砕ける。
どうするエイミィ。このまま何もできず負けるか。それとも……
♢♦♢
先程の防御は成功。もう明智選手に打つ手はないはず。ここから一気に片付けるわ。
私は一気に合成波で明智選手の氷柱を砕いていく。
『十七夜選手、得意の波の合成で一気に明智選手の陣地内を襲います!』
いける。これで愛梨との誓いを果たせる。
恥ずかしい話、私はずっとかつていた『家』に囚われていた。
家の事なんか忘れたと思っていたのに、『私は両親とは違う』、『あんなダメな人間じゃない』。どこかそれを頑張ってたみたい。
でも、先の試合で敗北を喫したとき、心の底にしまい込んでいた劣等感が抑えられなくなってしまった。
私はやっぱりあの家の人間なんだ……そう痛感させられて一歩も動けなくなったわ。
そんな時、愛梨……あなたが来て教えてくれた。私にはもっと信頼できる大事なものがあるということを。
ようやく気付いたの。だから私はもう後ろは振り向かない。信頼に報いるためにもただ前だけを見据えて力を尽くすつもりよ。
♢♦♢
『序盤は第一高校明智選手がリードしましたが、第三高校十七夜選手怒涛の追い上げ!現在残りは十七夜選手9本、明智選手6本で十七夜選手が3本リード!明智選手挽回なるか!?』
うぅ……対応しようとしても後手後手に回る。
ダメだ…このままじゃ。でも何も思いつかない。
「明智選手にもう打つ手はないはず。このまま一気に片付けるわ」
十七夜選手が追撃するように私陣営の氷柱をさらに2本へし折る。
これで私のは残り4本。十七夜選手は勝利を確信したのか余裕の表情を浮かべてる。
どうしよう。わたし……このまま負けちゃうの?
そんな戸惑う私をもう一人の私が耳元で囁く。
――――大丈夫。シンヤ君も言ってたでしょ。ここまで頑張ったしみんな許してくれるよ。私も疲れちゃった。
もう一人の私が諦めるように促してくる。
――――それにこれ以上勝ったて深雪や雫にはどうせかないっこない。
そうだ。もう頑張る必要なんて……もういいじゃない……でも本当にそれでいいのかな?
――――そんなことでお前は自分を誇れるのか?
その時、突然シンヤ君の昨日の言葉が浮かんだ。
――――何より、お前だけの力でも十七夜に勝てる。
――――相手に”勝ちたい”という気持ちがあればそれを無駄にせず思いきりぶつかってほしい。そうしたら、エイミィは『成長』出来る。そう思う。
そうだよ。まだ短い付き合いだけど、シンヤ君は気休めであんなことは言わない。私ならできると確信して言ってくれたんだ!
だったら今私がすることはなに?ここで諦めることじゃない!
私は今目の前にいる十七夜選手に勝ちたい!この気持ちに嘘偽りはない!
なら――――
「思いっきりぶつかるのみよ!」
その時、私に応えるようにサイオンが活性化し、自陣の氷柱がロケットのように十七夜選手の陣地に突っ込む。さっきとは比べ物にならない速度だったため、氷柱を3本砕けた。
「なっ……」
突然のことに十七夜選手も驚きを隠せていない。
凄い……私にこんな力があったなんて。
そういえば昔イングランドのグランマに言われたことがある。
――――アメリア。私達魔法師は噓を現実にする。だから嘘には慎重にならなければいけない。噓は無意識に現実を上書きして、真実になってしまう。
あの頃の私にはグランマの言ってることが分からなかったけど、今なら思い当たることがある。
従兄弟と遊んでいた時も、スバル達と毎日ホテルでトランプ勝負したときも、気づいたらバランス良く私は負けていた。
いつからか無意識に力を抜いてしまう癖がついていたみたいだ。
だけど!今この時だけでもいい!自分がやれるところまでやりたい!
私はもう一度自陣から氷柱を飛ばす。
「させない!さっきは不意を突かれたけど防御に切り替えれば……っ」
情報強化してもこの威力なら砕ける!
ドゴオオオン!
『あーっと!またしてもまとめて3本破壊!十七夜選手ピンチです!』
「くっ……」
自陣の氷柱が残り3本になってしまったことに十七夜選手が狼狽える。やっぱり、シンヤ君の言う通り十七夜選手は想定外の事態には弱いんだ。
なら、怯んでる隙に……
「このまま一気に……」
♢♦♢
『なんという展開でしょう!絶体絶命かと思われた明智選手、驚きの大技で劣勢を一気に覆しました!!残りは2本対3本、明智選手大逆転目前です!』
(クッ、こんなに押されるなんて。これほどのパワーを秘めていたと気づかなかったのは不覚だったわ。でも私の見立てでは明智選手はもう……)
「このまま一気に……え?」
エイミィの視界がぼやけ、膝をつく。
「やっぱり、スタミナが続くわけがないと思ったわ。もう立っているだけでも精一杯でしょう」
栞が冷静に分析し、左手を差し伸べ
「安心して早く終わらせてあげるわ」
合成波をエイミィの2本の氷柱に浴びせにかかる。
エイミィは柱自体を弾として飛ばす砲撃魔法の使い手。つまり残り2本のうち1本でも破壊されれば反撃手段がなくなり、敗北が決定してしまう。
「う……」
エイミィが力を振り絞り、移動魔法で自陣の氷柱の位置をずらし、合成の焦点を躱す。
(ならば、もう一度座標を変えて放つだけよ)
栞が合成波を浴びせ、エイミィが再びそれを躱す。
(意味のない追いかけっこを最後まで続けるつもり?別に付き合っていいけど……こんな無駄な消耗戦を選ぶ選手だったなんて興ざめね)
魔法の攻撃は避けているものの、エイミィの氷柱は衝撃の余波で徐々に表面が削られていた。このまま削り取られて破壊と判定されてしまうか、タイムアウトまで粘るか……いずれにしても3本残る栞の勝利となってしまう。
このまま決着がついてしまうのではないのかと誰もが思ったその時、エイミィは再び砲撃魔法を発動し、自陣の一本を栞の氷柱へと飛ばした。
「馬鹿な!」
(柱を飛ばす程の力がどこに……!?それに命中してもこちらの柱が破壊できないのは分かってるはず!どうする?この攻撃は無視して残りの1本を破壊して試合を終了させるか……しかし万が一この攻撃でこちらの氷柱が破壊された場合、破壊された氷柱の数によっては最悪敗北もありうる)
栞は自陣の三本を念のために情報強化で強化することを選択する。
「これが……これが最後……いっけえぇぇぇぇっ!!」
(魔法師にとってイメージは現実。そうだねグランマ。相手の氷を破壊するイメージを何度も何度も脳裏に描いて撃った最後の一撃。お願い届いて!!)
(ありえない!)
残ったサイオンを全て注ぎ込まれたエイミィの氷柱が栞の氷柱にぶつかる。氷の表面に全損レベルの圧力を感じ取った栞は、情報強化に全サイオンを送る。
その結果、エイミィの氷柱が砕ける。
「……そんな…届かなったの…」
栞の3本の氷柱も一緒に砕けた。
「……やるわね」
それを見たエイミィが安心した表情でその場に倒れ、栞も疲れ切った表情でその場に倒れた。
♢♦♢
準決勝第三試合はエイミィの勝利で幕を閉じた。
オレはすぐにエリカたちにそのことをメールで知らせると、すぐに返事が返ってくる。
『こっちはほのかが準決勝突破したわよ!』(エリカ)
『なんかフラッシュ対策に選手全員黒メガネをかけてるところを光波振動系で水路に明暗を作って……えっと悪いなんだっけ?』(レオ)
『ただでさえ濃い色のゴーグルで視界が暗くなっているから、明るい面と暗い面の境目で水路が終わってるように錯覚させる事で、相手選手を暗い面に入れないようにする。つまり相手にコースを狭く使わせる作戦なんだよ』(ミキじゃない幹比古だ!)
『おっ、そうだった』(レオ)
『アンタの脳みそじゃ覚えきれないかwww(笑)』(エリカ)
『なんだとこら!』(レオ)
『ふ、二人とも……』(美月)
この2人はメールの中でも口喧嘩してるな。すぐそばにいるなら直接口で言えばいいのに。
「ほう?君にそんな顔ができたとはな……」
横に座っている老人が物珍しそうな表情を浮かべながらオレに話しかけてきた。
「どういう意味でしょうか?」
「自分では気づいていないようだな。明智選手が勝ってから君は嬉しそうに笑っていたよ」
「オレが……嬉しそうに?」
自分の口元に手を当てて確認するがわからない。その動作が面白かったのか老人はクククと笑っていた。
「さて、彼女が勝ったことで君は私の賭けに勝った。というわけで私は君の策に乗ることにするよ」
「……そうですか。タイミングはこちらに任せて貰えますか?」
「ああ、もちろんだとも……では、私はここで失礼するとしよう」
そう言い残して、老人はここから去っていった。
早くても明日、反撃開始だ。
♢♦♢
横浜の中華街。
そこに軒を連ねる店の1つにて、満漢全席、とまではいかないが、高価な食材がふんだんに使われた中華料理がテーブルの上に並べられ、それを陰鬱で苛立たしげな表情をした男たちが囲んでいた。
「新人戦は第三高校が有利ではなかったのか?」
彼らの内の1人が口にしたのは、英語だった。とはいえ、それはネイティブのものではなく、どことなく東アジア系のイントネーションが混じっている。
「女子の“早撃ち”と”氷倒し”では一高の選手が1位から3位までを独占してる」
「せっかく本戦の“波乗り”で一高の選手を棄権に追い込んだというのに、このままでは結局第一高校が優勝してしまうぞ」
「それはまずい。本命が優勝してしまっては、我々胴元の大損だ」
「今回の客は大口ばかりだ、配当額は相当なものになる。間違いなく、今期のビジネスに大きな穴を空けることになる」
「そうなればここにいる全員が責任を取らされるだろう」
「粛清されてしまう……」
重苦しい空気に耐えかねた男がテーブルに肘をつく。
「損失額によってはボスが直々に手を下すこともあり得る」
重い沈黙。
「死ぬだけならまだいいが……」
ポツリと呟かれたその声は恐怖に震えていた。
やがて彼らの内の1人が、意を決したように口を開いた。
「……こうなったら、仕方ない。協力者に繋げろ。明日、もう一度仕掛ける」