魔法科高校の事なかれ主義の規格外(イレギュラー)   作:嫉妬憤怒強欲

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更新遅れてしまい本当に申し訳ありません!
明けましておめでとうございます。今年も本作共々よろしくお願いします。

達也が無頭竜に報復にいくシーンは特に絡みがないためカットしました。


第二十四話 後夜祭

 最終日を待たず総合優勝を決めた一高だったが、祝賀パーティーは明日以降に繰り延べられた。

 明日は九校戦を締め括る『モノリス・コード』の決勝トーナメントが開催される。

 一高チームは順当に予選一位でトーナメント進出を果たしており、選手もスタッフもパーティどころではなかったのだ。

 

 とは言っても、残り一競技であり、半数以上のメンバーが手空きの状態になっているのも事実。

 そこで、『ミラージ・バット』の優勝により一高の総合優勝を決めた形となった深雪を中心に囲んで、プレ祝賀会な意味合いのお茶会がミーティングルームを借りて開催された。

 

 仕切り役は真由美と鈴音。

 参加者は女性選手やスタッフが中心。

 

 もっとも、男子生徒も明日の試合の準備に駆り出されている二、三年以外、つまり、一年生も部屋の隅で居心地悪そうにではあるが、カップを持っている。

 

 この場にシンヤや幹比古だけでなく、レオやエリカ、美月の姿が見られるのは、真由美の、単なるお祝い以上の意図によるものだろう。ちなみにシンヤはあまり乗り気ではなかったが、真由美の『ちなみにこれ生徒会長命令だから』という念押しに屈した。

 

 だが、その場にこの優勝の立役者とも言える達也の姿は無かった。その事に最初に気がついたのはエリカと雫だ。

 

「ねぇ深雪」

「何かしら?」

「あたし達も参加させてもらったのはいいんだけどさ、達也君はどうしたの?」

「お兄様は部屋でお休みになっているわよ」

「達也さん、もう寝てるの?」

「ええ、さすがに疲れたと仰って」

「無理も無いですよね。ずっと大活躍でしたから」

「そっか……達也さんは寝ちゃってるのか」

「ほのか?」

 

 若干寂しそうにしたほのかに、深雪は不思議そうな視線を向けた。もちろん中身には牽制も含まれているのだが、それを全面に出すほど深雪も嫉妬深くは無い。

 エリカ、深雪、雫、ほのかが達也の話をしているのを遠目に、男子E組メンバーも達也の話をしていた。

 

「さすがの達也も参ったようだな」

「それでも、今回の九校戦の立役者は間違いなく達也だよ」

「……そうだな。担当した競技は全て上位独占。その上本人も『モノリス・コード』で一条を倒して優勝だからな」

 

 再び思い出してみれば、とてつもない戦績である。

 黒星を一つもつけず、担当した選手は全員上位へ、自分自身でも新人戦総合優勝の立役者にして、一高総合優勝に貢献しているのだ。

 

「達也くんには、本当に感謝しているわ」

「ええ、今回の九校戦は彼のおかげで勝てたと言っても過言ではありませんから」

 

 そこへ、本日の主催者二人が話の輪に加わった。

 普段からポーカーフェイスのシンヤはともかく、幹比古やレオにはあんまり面識のない二人なため、若干萎縮している。

 

「二人共ごめんなさいね。無理を言って九校戦に選手として参加させてしまって」

「生徒会長が気にするようなことではないと思いますが……」

「これでも生徒会長だし、今回の大会委員の不祥事が明るみになってすぐのことだったから不安で仕方なかったと思うわ。それでも受けてくれて、しかもモノリス・コード優勝を果たしてくれた貴方たちにも本当に感謝しているわ。ありがとう」

 

 真由美が頭を下げたのに、対し、シンヤと幹比古も頭を軽く下げて答える。

 

「今夜は楽しんでいってね」

「では、失礼します」

 

 真由美と鈴音は幹比古とレオが萎縮しているのに気づいたため、最後に社交辞令的な挨拶を入れて離れていった。

 

「おーい、執事君ー」

 

 二人が離れたのを見計らったかのように後ろから声をかけられるシンヤ。振り返るとそこには菜々美とスバル、エイミィがいた。空気を読んでか、レオと幹比古は断りを入れてから離れる。

 

「少し遅いけどモノリス・コード優勝おめでとー」

「出場すると聞いた時はとても驚いたが、まさか優勝するとは恐れ入ったよ」

「……いや、オレは大した活躍してないぞ。準決勝までほとんど守備だったし、結局カーディナルも一条も幹比古と達也が倒したしな」

「いやいやいや、その二人を翻弄してたのは十分凄かったよ」

「ああ、それに一条選手の攻撃を寸でで避けたのは驚いた。エイミィなんか当たってしまったんじゃないかと慌てて身を乗り出してたが」

「ちょっスバル!なんで今それ言っちゃうの!?言わない約束だったよね!」

「そうだっけ?」

「じゃあ今の無しで」

「もう手遅れなんですけど!」

 

 シンヤの前で暴露され、あわあわと慌てだすエイミィ。

 

「まぁ言っちゃったものは仕方ない。執事君、女の子をここまで心配させたんだ。何か言うことぐらいあるだろ?」

「そうだそうだーちゃんと謝れこのスケコマシー」

「お前ら言いたい放題だな……だがまあそうだな。あー、心配かけたみたいだなエイミィ。すまない」

「え!?えっと、う、うん……心配したんだからね…も、勿論友達として!友達としてだから!」

「あ、ああ……(……なんで友達の部分を強調するんだ?)」

 

 

「ふーむ。まだ素直にならないか」

「それじゃあ計画通り明日に…」

「ああ、僕たちでエイミィの背中を押してやろうじゃないか」

「……なぁ、二人共なにヒソヒソしてるんだ?」

「ん?何でもないよ?」

「ねー」

(この2人絶対なにか企んでる!)

 

 何でもないと言わんばかりにニコニコするスバルと菜々美。エイミィには彼女たちの笑みを見ただけで嫌な予感がした。

 

「それはそうと九校戦も明日で終わりかぁ。案外あっという間だったな」

「ほんとだねー試合をやるのも見るのも両方やれて充実してたねー」

「それに他の魔法科高校にあんな強い選手がいたなんて驚いたな」

「それにそれに。エイミィが緊張すると夜更かししてしまうタイプだったのは驚いたよ」

「ちょっナナ!?」

「そうだな。来年もそんな調子じゃ遅くまで大富豪に付き合わされた僕たちもたまったものじゃない。執事君、ここは君がビシッと言ってくれたまえ。あっ、具体的には耳元で『今夜は寝かせないからな』と囁いてやるといい」

「おおー!それなら効果覿面だね!」

「……いや、意味わからん」

「あ、あああ……な、なにをシンヤ君にさせようとしてるのスバル!?その……そういうのってよくないと思う……ほら公序良俗に反するっていうし……だからその……」

 

 狙い通りにわたわたするエイミィを見て、女性陣はにやっと笑う。

 

「「エイミィ、かっわいー」」

 

 ここまで来ると流石にエイミィも自分が引っ掛けられたということを理解し、思わず叫ぶ。

 

「うう……二人のバカぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 一高生たちが祝勝会で盛り上がってるほぼ同じ時間に、ホテルにある高級士官用の客室にて、風間玄信少佐は1人の来客を迎えていた。

 その人物とは、九島烈。まだ“十師族は表立って高位高官にならない”という原則が確立されていなかった頃、国防陸軍で少将の地位まで上り詰めた男であり、つまり風間にとっては退役後だとしても公的な秩序に則って礼儀を見せるべき人物であった。

 

「本日はどのようなご用件でしょうか。藤林でしたら使いに出してこちらにはおりませんが」

「孫に会うのにわざわざ上官を通す必要は感じんな……」 

「ごもっともです」

 

 風間の何処か素っ気ない態度に、九島は軽く苦笑した。

 

「久し振りに顔を合わせたが、十師族嫌いは相変わらずのようだな」

「以前にもそれは誤解だと申し上げましたが」

「誤魔化す必要はないと以前にも言ったはずだが。元々兵器として開発された我々と違って、君たち古式の魔法師は古の知恵を受け継いだだけの人間だ。我々の在り方に嫌悪感を懐くのも無理はない」

 

 人間、という言葉を一音一音区切るようにわざとらしく発音した言い方に、風間は思わず眉をひそめた。

 

「……自らを武器と成す、という考え方は現代も古式も変わりません。私が嫌悪感を抱くとするならば、“自分は人間ではない”という認識を子供や若者に強要するやり口です」

「ふむ、だから“彼”を引き取ったのかね?」

 

 辛辣にも聞こえる風間の言葉に、烈は余裕な態度を崩すことなく切り返す。

 

「……彼、とは?」

「司波達也くんだよ。3年前、君が四葉から引き抜いた深夜の息子だ」

「…………」

 

 風間の沈黙は言葉に詰まったというよりも、“ムッとした”と表現する方が適切だろう。

 

「私が知っていても何の不思議も無かろう? 私は3年前に師族会議議長の席にあり、今なお国防軍魔法顧問の地位にあり、一時期とはいえ四葉深夜と四葉真夜は私の教え子だったのだから」

「…………ならばご存知でしょう。四葉が達也の保有権を放棄していないことを。あいつは今なお四葉のガーディアンであり、ガーディアンとしての務めに支障をきたさない限り司波達也は軍務に服すること。ガーディアンとして以外、四葉は優先権を主張しないこと、以上が我々と四葉との間に交わされた契約です」

「……惜しいとは思わぬか?」

「惜しいとは?」

 

 意味有りげに身を乗り出す老師にすっとぼけた返事を返す風間。しかし老師は気を悪くした様子はなく微かに笑っていた。

 

「彼は一介のボディーガードで終わらせるような魔法師ではない。司波達也君は将来一条将輝と並んでこの国を守れる存在になるだろう」

「閣下は四葉の弱体化を望んでおられるのですか?」

「君だから正直に言うがね」

 

 老師は薄っすらと笑みを浮かべる。

 

「十師族という枠組みには、互いに牽制しあうことで、魔法師の暴走を予防するという意味合いもある。このままでは四葉は強くなりすぎる。十師族の一段上に君臨する存在になってしまうかもしれない」

「戦闘力という面では確かに四葉は十師族のなかでも突出した存在と言えるでしょう」

「それでは困るのだ。四葉は魔法師を、自らを兵器として捉え過ぎている。確かに魔法師は元々兵器として開発された存在だ。しかし、それでは人の世界からはじき出されてしまう」

 

 老師の言葉を聞いて、風間は少し瞼を閉じて、その瞼を開いたのと同時に口を開く。

 

「………閣下。閣下がこちらの事情をご存じであるように、自分も閣下のご事情をある程度存じ上げています。閣下が達也のことを気に掛ける理由についても承知してるつもりです。それから将来では無く、既に達也は我が部隊の貴重な戦力です。こう申しては身内贔屓に聞こえるかもしれませんが、一条将輝は拠点防衛において単体で機甲連隊に匹敵する戦力ならば、達也は単身で戦略誘導ミサイルに匹敵する戦力です。彼の魔法は幾重にもセーフティロックが掛けられていて当然の戦略兵器だ。その管理責任を彼一人に背負わせる方がよほど酷と言うものでしょう」

 

 風間の言葉を面白そうに聞いていた烈だったが、風間が口を閉ざすとその表情は消え去った。

 

「なるほど。彼本来の魔法というのが、どんなものかは知らないが、四葉が所有権を完全に放棄してないとなると面倒だな」

「閣下、自分からもお聞きしたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」

「構わん。言ってみたまえ」

「閣下はモノリス・コードに参加した有崎シンヤという学生と親しくされてるようですね」

「ああ、彼か」

 

 話題がシンヤの事になった途端、九島はつい先程までと打って変わる様に、楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

「もう知ってると思うが彼は今回の不祥事を私に知らせてくれた恩人だ。親しくするのも当然だと思うが」

「その有崎シンヤに、自分は少しばかり不審な点がありまして」

「どう言う事かね?」

 

 風間の発言に九島は訝りながら問う。

 

「閣下は彼のことを以前からご存知だったなのですか?」

「何故そう思う?」

「実はこちらで彼の素性について調べましたが、係累や家族構成、PDに関して第一高校に入学する前の痕跡が見つかりませんでした。そんな素性のわからない人物の言葉を閣下が信じ動いたと聞いて、何故かと疑問を抱いた次第です」

「…君は私と彼が裏で繋がってるのではないかと疑ってるのかね?」

「そこまでは申しませんが、そういう風に捉えてしまうのは至極当然でしょう」

「……成程。確かにな」

 

 風間が推測しても、九島は一切表情を変えずに聞いているだけだ。

 九島烈は様々な経験をしており、こんな事で主導権を握れるなんて風間は微塵も思っていない。そうでなければ既に隠居しており、今も国防軍魔法顧問などの地位に付いていないのだから。

 

「そうだ。私は彼のことを以前から知っていた。彼の父親とはちょっとした知り合いでね、昔一度だけ顔を見かけたことがある。懇親会で顔を見かけたときは本当に驚いたよ」

「一度だけ会った人物の顔を覚えていたのですか?」

「彼は父親の教育もあって他とは違う育ち方をしていたのもあるが、目つきが一番印象的だったからな」

「……他とは違う育ち方?彼とその父親はいったい何者なのですか?」

 

 風間から見たシンヤの印象は地味、影が薄い、人畜無害そう、無気力で特徴のないといった感じだが、その反面頭がキレるのに加え、モノリス・コード決勝戦で一条の魔法を無力化したのを見て彼への警戒レベルが上がっていた。

 

「”ホワイトルーム”という言葉を聞いたことは?」

「白い部屋?なんですか?有崎シンヤとなにか関係が?」

「知らないのならいい。今の言葉は忘れてくれ」

「は?」

「まだ軍に身を置きたければこれ以上余計な詮索はしないことだ。最悪手痛いしっぺ返しを喰らうのは君一人ではすまないかもしれんしな」

 

 烈はそう言って、その場から立ち上がった。それが退室の合図だと即座に悟った風間は、スッと立ち上がって自ら見送るためにドアへと歩いていく。忠僕であることをアピールするためではなく、単純に部下を部屋の外へ下がらせているため他に役目を担う者がいなかったからだ。

 

 と、ふいに烈が歩みを止め、風間へと向き直った。

 

「君達にわざわざ忠告するまでもないだろうが、一応警告しておこう。今の話を他の人間に話すことも彼を無理に軍に引き込むこともしないのを勧めるよ。彼は今の日常を大層気に入っている。もしそれを害するようなことになれば、眠れる獅子を起こすことになるだろうからね」

「………肝に銘じておきます」

「なら結構。失礼するよ」

 

 風間が開けたドアを擦り抜けて、烈はその部屋を後にした。

 

 

♢♦♢

 

 

 九校戦10日目。つまり、最終日。

 この日行われる競技は、モノリス・コード本戦の決勝トーナメントのみ。九校戦でもトップクラスの人気を誇る競技であるだけに、会場は文句なしの満員御礼となっていた。残念ながら会場に入ることができなかった観客も、別の会場でライブ中継という形で試合を楽しめるようになっている。

 

 観戦前、オレは閣下が観戦のためにやってきていた来賓室に来ていた。おそらくここにいたであろう大会委員はいなくなっており、この部屋にはオレと閣下の二人きりとなっていた。

 

「一昨日のモノリス・コードは見事だった」

「ありがとうございます。ヘルメットの件は助かりました」

「ハハハ、君はカメラの前で顔を晒すといろいろまずいからな。どうだったね?一条の倅と闘ってみて」

「直接相手はしてませんが、拠点防衛において単体で機甲連隊に匹敵する戦力を持ってるのは肌で感じましたね。最後のオーバーキルも下手したらこっちは死んでました」

「だが君は見事防いだだろ?」

「いったい何の話でしょうか。オレは防いだのではなく避けたのですが」

「おっと、そうだったな」

 

 閣下は思い出したかのような顔をした。明らかに態と言ったのが見え見えだ。

 どうやら閣下にもオレがやったことが見えていたようだ。87歳の高齢だというのに実力はそれほど衰えていないということか。

 

「ところで、あちらの問題は片付きましたか?」

「ああ、昨日軍から黒幕達を全員捕らえた報告が来た。どうやら彼らは九校戦を“賭け事”に利用していたようだ」

「……そうですか」

「あまり驚かないな」

「驚きよりも呆れの方が大きいですね。その話を聞く限り、大方参加者の殆どが第一高校にベットしてしまったので、連中は損失を防ぐために今回の騒動を引き起こしたんでしょう」

「君の予想通りだよ。九校戦は今まで9回行われていて、第一高校は5回、第二高校は1回、第三高校は2回、第九高校は1回優勝、第一高校が連覇していて今年3連覇が懸かっていた。今回の優勝校を予想するとしても、一番可能性の高いのは第一高校だと誰でも思うだろう。だがこのまま第一高校が優勝すれば、元締めとしては堪ったものではないからな」

 

 例のレース妨害事件は、オレから見てもかなりの手間を掛けて行われたものだ。何度も会場に忍び込んでフィールドに細工を施し、出場する第七高校の選手のCADにも細工を施し、選手の過去の戦歴から当日の試合状況を予想して見事なタイミングであの事故を引き起こした。そこまで入念な下準備をして行われたものなのだから、そこまでするだけの大きな理由があると考えていた。

 しかし蓋を開けてみると、賭け事での損失を防ぐためという、こう言っては何だが随分と“みみっちい”理由だというのがオレの正直な感想だった。

 

 ジェネレーターも寄越してきたとなると余程なりふり構ってられなかったようだ。

 金、あるいは自身の命か………まあオレにはどうでもいいことだが。

 

「………というか、そのことを部外者のオレに話していいのですか?」

「何を言っている。今回不正工作に関わった者たちを突き止めた君を誰も部外者とは呼ぶまい」

 

 公式にはすべて閣下のお手柄となっているがな。

 

「ああ、そうだ。これは君にも関係のある話だが…実は昨日魔法師を中心とした国防軍の特殊部隊――独立魔装大隊とやらが君のことを調べているようだ」

「そうですか」

 

 これまでの試合の観戦の間、オレの周りをウロチョロしてる連中がいた。なにか仕掛けようとするわけでもなくただ監視するだけだったため、こっちから仕掛ける必要はなかった。

 

「その隊長は”彼”と繋がりがなかったのが幸運だった。一応これ以上詮索するなと釘は刺しておいたが、おそらく聞かないだろう。それと噂では独立魔装大隊の中に君の友人に似ている若者もいるそうだ。もし彼がその隊員であれば、君を探るような指令を出すかもしれないな」

 

 口外してはいけない筈の部隊名だけでなく、さり気なく達也の名前も出すとは、随分思い切った事をしたものだ。

 大体の予想はしていたが、まさか軍人だったとは。道理で立ち振る舞いが一般人と全然違う訳だ。

 昨日は部屋で休んでいるという話だったが奴がそこまで疲労していたようには見えなかった。ということは連中の確保に向かったということか。もしオレが何も手を打たず妹に危険が及びそうになった場合、春の一校襲撃の際の行動からして、そいつら全員無事じゃすまなかっただろう。最悪この世から消されていたか。

 

 軍人に凄腕エンジニア、シスコン、忍者、その上十師族の一員という要素が含まれている。

 

 初めて対面した時、閣下はオレに一つ嘘をついた。 

 懇親会で九島閣下が披露したあの魔法は七草会長のマルチスコープのような特殊な目を持ってないと見抜けないものだった。

 閣下は自身のイタズラを見抜いたのは『七草や十文字の子らや一条のせがれ』だと言ったがあの場にいた十師族の人間全員が見抜けるはずがない。実際に十文字会頭と一条と対面した時に確認したが持っていないようだった。

 もし持っていたなら一条はオレの蜃気楼に翻弄されるようなことはなかったはずだ。 

 

 モノリス・コード決勝戦で見せたまるで一条がつぎどこを狙ってくるか見えているような動きから達也が目を持っているとはっきりした。

 

 閣下がどういうつもりで嘘をついたかは知らないが、おかげで色々収穫はあった。

 

「本当に迷惑な話ですね。オレはただ今の日常を守りたいだけだというのに」

 

 高校生を軍人にしているようなところに入っても碌なことならない。 

 それにもし少しでもオレに関する情報があの男の息がかかった部隊に渡れば、あの男はすぐにでもオレの居所を突き止め、あそこに連れ戻そうとするだろう。

 

 

 先に手を打っておくか。

 

「閣下、無礼なことは承知の上で閣下にお願いしたいのですが」

「ん?構わん。言ってみたまえ」

 

 オレはある願いと提案を閣下に伝える。

 オレの言葉に閣下は薄っすらと笑みを浮かべる。

 

「くくく……やれやれ、この私にかなり無茶な要求をしてくるとは。全て君の思惑通りにことが運んだということか」

「断りたければ断っても結構ですが」

「いや、いいだろう。君のことはできる限りの力で守ろう」

「これからよろしくお願いします」

「こちらこそ」

 

 差し出された手を握る。様々な思惑が見え隠れしながらも、オレたちは握手を交わした。

 

 

♢♦♢

 

 

「あっ、シンヤ君こっちこっちー」

 

 老師との秘密の会合が終わり、応援席に着いたシンヤは空いている席が無いかをキョロキョロと辺りを見回していると、最前列の席でエリカが手を振っているのが見えた。

 頷き、シンヤはそこまで向かう。

 

「悪いな遅くなって………なんで沓子たちがいるんだ?」

 

 よく見ると達也一行の他に三高の四十九院沓子がいた。そして彼女の友人である一色愛梨と十七夜栞もいる。

 

「いやあ~九校戦も今日で最後じゃからの。今日こそは皆で観戦しようと思ったんじゃ」

「二人の方はいいのか?」

 

 沓子の隣に座る一色愛梨と十七夜栞に他校生と一緒に観戦するのに抵抗があるのか確認するも、向こうは全く気にしてない様子だ。

 

「互いに競い合った選手同士、こういうのも悪くないと思います」

「ユウキ君、愛梨はこう言ってるけど実は貴方の事が結構気になってる」

「ちょっ栞、誤解を招く言い方はしないで!」

「そう言えば愛梨、さっきまで『ユウキさんは?』ってきょろきょろしておったの」

「沓子まで!」

「ほほう?それは気になるわね」

「違いますから!別にそんなんじゃありませんから!」

「何が違うのかなぁ~?」

「むぅ…」

 

 栞と沓子の台詞に、達也一行でニヤニヤと含んだ笑みと膨れっ面を浮かべる面々に、愛梨は必死に誤解を解こうとする。

 

「ねぇシンヤ君。本当のところ昨日一色さんとなにかあった?」

「………エリカが期待してるようなことはなにもなかったぞ」

「なにもなかったわけじゃないでしょ?」

「そうじゃそうじゃ。愛梨が飛行魔法にするか跳躍魔法にするか迷ってた時自分の武器を捨てるなんて愚策だのボロクソ言っておったではないか」

「えっと…………シンヤさん、女の子にはもう少し優しい言葉をかけないとダメですよ」

「そうね。シンヤ君にはもう少しデリカシーってものを学んでほしいわね~」

「………エリカ、もしかして一昨日のことまだ根に持ってるのか?」

 

 沓子の言葉で話の矛先が一色からシンヤへと変わり、美月とエリカから非難を受けたシンヤは元凶であるロリッ子の方を見やる。

 

「む?どうしたのじゃシンよ?ははん、さてはとうとう儂の魅力にメロメロに―――」

「それは絶対に無い」

 

 シンヤの容赦無いツッコミに沓子が「ごはぁ」と撃沈したところで、試合開始のブザーが鳴った。

 

 

 現在“岩場ステージ”で行われているのは、決勝トーナメントの第1試合。対戦カードは一高対九高であり、奇しくも新人戦と同じ組み合わせとなった。その雪辱を狙っているのか、九高の選手は皆闘志を漲らせて対戦相手を睨みつけている。

 

 そんな彼らに対し、対戦相手である一高のメンバーは、いつも通りだった。

 部活連会頭の十文字克人は悠然と構え、風紀委員の辰巳鋼太郎はどこか惚けた雰囲気を漂わせ、生徒会副会長の服部刑部少丞範蔵は生真面目に九高選手の挑発に鋭い視線で応戦している。

 

「………やはり俺達とは安心感が違うな」

「そんなことはありません! 私はお兄様の勝利に不安を覚えたりなどしませんでした!」

「そ、そうです!達也さんたちも立派でした!」

 

 その言葉には深雪とほのかが猛反発した。勝利に不安を感じることは無かったと堂々と口にする。

 

「でもまぁ、即席メンバーでよく勝てたよなってのが素直な感想だな」

「ふふん、儂はシンならば楽勝じゃと確信しておったぞ!」

「いやいや。オレなんか吉祥寺選手相手に足止めだけで精一杯だった」

「またまた~謙遜を~」

「有崎君、達也さんと同じで謙遜が過ぎる」

 

 そんなシンヤの呟きにエリカや雫が突っ込みをいれるが、シンヤは普段通りなんのことだかサッパリと言った感じでとぼける。

 

「……彼っていつもこんな感じなの?」

「そうねぇ、能ある鷹は爪を隠すってやつ?普段は事なかれ主義を自称してるんだけど………なになに?十七夜さんもシンヤ君のことが気になる?」

「そうね。気になるわ」

「「え!?」」

「ぶほぉっ!?ゲホッ!ゲホッ!」

「ちょっ!?エイミィ大丈夫!?」

 

 からかうつもりでいたエリカの質問に栞は無表情を崩すことなく淡々と肯定した。これに一行は驚く。特にエイミィがジュースを飲んでいる途中で思わずむせてしまうほどに。

 

「隠し事が多そうで、彼は他の人とどこか違うところがあるようだから………なにかおかしい?」

「あー…えっと、うん。そう、知的好奇心の方ね」

「………エリカ、からかう相手はちゃんと選べ。オレみたいなつまらない相手に出会って数日で惚れただなんて普通ありえないだろ?そういうのはもっと考えて言うべきだ」

(((いや、お前は気づけよ)))

 

 シンヤの言葉にこの時一同全員の思いが一致した。

 

 

 

♢♦♢

 

 一高が八高との試合に勝利した後………

 

「十文字くん、いる?」

 

 選手控え室のインターホンを鳴らした真由美がドアに呼び掛けると、少しして上半身がタンクトップ、下半身がプロテクトスーツ姿の克人が姿を現した。

 

「すまないな、こんな格好で」

「気にしないで。別に裸ってわけじゃないんだから」

 

 克人の言葉に、真由美はニッコリと笑ってそう返した。仄かに香る制汗剤特有のアルコールの匂いが、彼への印象を好ましくさせる。

 

「決戦のステージが決まったわ。ちょっと良いかしら」

「ああ」

 

 それを伝えるだけならば、その場で言えば済む話だ。しかし真由美がわざわざ場所を移そうとしているということは、その話題が単なる隠れ蓑であることを意味している。克人はそれを即座に理解し、彼女の背中をついていった。

 

 人気の無い場所まで移動したうえで遮音障壁を作り出した真由美が、ようやく口を開いた。

 

「父から暗号メールが来てたわ。師族会議の通達だって」

「ほう?」

「一昨日、一条君が達也君に倒されたでしょう」

「あの試合は遊びで片付けられるレベルでは無かったがな。一歩間違えれば司波と有崎は死んでいた」

「そうだけど………十師族はこの国の魔法師の頂点に立つ存在。例え高校生のお遊びであっても、十師族の力に疑いを残すような結果を放置しておくことは許されない、だそうよ」

「つまり、十師族の強さを誇示するような試合を求めている、ということだな?」

「ホント、馬鹿馬鹿しいったら……」

「他にはなにか書いてなかったか?」

「え?いいえ、それだけよ」

「そうか………とにかく、通達の方は任せておけ」

 

 そう言い残して、克人はその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 モノリス・コードの決勝は第一高校対第三高校。

 色々な意味で因縁のある、所謂『宿命の対決』というやつだが、試合展開は準決勝よりも一方的なものになった。

 氷の礫を飛ばしたり、崖を砕いた岩を落としたり、沸騰させた水をぶつけたりなど、『渓谷ステージ』の地形を利用した魔法が次々と克人へ向けて繰り出されるが、その全ては克人の展開した障壁によってはね返されていた。

 

 質量体のベクトルを逆転させる。

 電磁波(光を含む)や音波を屈折させる。

 分子の振動数を設定値に合わせる。

 想子の侵入を阻止する。

 あらゆる種類の攻撃が、その為に展開された幾重もの防壁に阻まれる。

 

 この何種類もの防壁を途切れることなく更新し続ける持続力こそが、十文字家の多重防壁魔法『ファランクス』の真価。

 

 左右に狭いフィールドを着実に歩みを進める克人は防壁を維持したまま、一条将輝が八高相手にして見せた、敵陣へ堂々と歩いて渡るスタイルをやり返していた。

 

 三高選手はそれを無視する事も回避する事も出来ず、攻撃を緩めたら即座にやられてしまうのではないかという強迫観念に押し潰されそうになっていた。

 

 両者の間の距離が残り十メートルを切ったところで、克人は歩みを止め、勢いよく地面を蹴って水平に宙を飛んだ。

 対物障壁を張ったまま、自らに加速・移動魔法を掛けて彼らにショルダー・タックルをぶちかました。

 まるでトラックにでも撥ねられたかのような衝撃を受けて、三高選手は次々と吹っ飛ばされ、地面に勢いよく激突して意識を失っていく。

 

 結局克人に1回たりとも有効なダメージが通らないまま、そして克人以外の一高選手を1歩も動かさないまま、一高チームが総合優勝に華を添える完全な勝利を収めた。

 

 観客席からも惜しみない拍手が贈られた。“圧倒的”というよりも“凄まじい”と表現した方が適切な試合を目の当たりにしたせいか、その拍手はどこか夢見心地で曖昧なものだった。

 

「凄い。流石は十文字家の次期当主……」

「『ファランクス』をあそこまで使いこなすのは見事としか言えません」

 

 十七夜や一色は三高の敗北よりも、十文字の実力に舌を巻いていた。

 

「いや、あれは本来の『ファランクス』の使い方では無いように思える」

「そうなのですか?」

「今までに見たことがないから憶測でしかないが、最後の攻撃は『ファランクス』本来の使い方ではないように思える。だとしたら、十文字先輩の力量は相当なものだと言わざるを得ないな」

 

 達也の言葉に深雪が頷く。

 

「でも、辰巳先輩と服部先輩がいたから十文字先輩じゃなくても大丈夫だったんじゃないかな?」

「総合優勝が決まってるとはいえ、やっぱモノリス・コードの優勝もほしいんじゃねぇの?」

「準決勝までは十文字先輩を温存してたからな。決勝くらいは十文字先輩も動きたかったんじゃないのか?それに俺たちと似た戦術で、圧倒的な差を見せ付ける目的もあるのかも知れん」

 

 観客の拍手に右腕を突き上げて応えていた克人がふいにこちらに視線を向けたように見えたので、レオも幹比古も達也の考えに納得した。

 

 その傍らでシンヤの頭の中ではある仮説が浮かんでいた。

 

(……やはり一昨日の新人戦が原因か)

 

 見るものが見れば、この試合は明らかに克人の力を誇示したかのようなものだった。

 戦い方からしても、一条将輝を意識させるものだ。

 

 十師族はこの国の頂点に立つ存在。

 十師族の名を背負う魔法師は、この国の魔法師の中で、最強でなくてはならない。

 だがその十師族の人間である将輝は達也に負けた。

 

 魔法師の頂点に立つ十師族が代理選手、しかも十師族じゃない魔法師に負けたのだ。

 

 大方、たとえ高校生のお遊びであっても、十師族の力に疑いが残るような結果を放置しておけないから、十師族の強さを誇示するような試合を師族会議から要求されたのだろう。

 つまり、この試合は将輝の尻拭いに使われたのだ。

 

(…十師族も大変だな)

「如何したのじゃシン?ずっと黙ったままじゃが」

「いや、プロテクト・スーツを着ているとはいえ直撃喰らったら結構痛そうだなと思ってな」

 

 沓子からの問いに、自分の考えを気付かれないようにシンヤは適当に誤魔化した。

 

 

♢♦♢

 

 八月十二日。

 表彰式と閉会式は午後3時半から行われ、午後5時には終了した。これをもって、競技場での九校戦は幕を下ろした。

 そして午後7時から“後夜祭”とも呼ばれる合同パーティーが懇親会を開いた場所で開かれた。

 当然オレ、レオ、幹比古、エリカ、美月の五人は現在懇親会の時と同様バイトに勤しんでいる。幹比古は今回は厨房へと行っており、オレ、エリカ、美月の三人はホール係担当だ。

 

 ホール中をある程度動き回ったところ、周り懇親会の時の牽制し合うような雰囲気とは違い、ホールには和やかな空気が流れている。

 

 それに加え、10日間に渡る激闘とも言っていい日々から解放された選手達は、その反動からか、他校の生徒と混じって今回の九校戦についてお互いに感想を言ったりと過度にフレンドリーな様子が窺えた。

 会場には高校生だけではなく、大学関係者や魔法協会の関係、大会のスポンサーやはたまたメディアの関係者まで訪れている。単なる取材もいるが、将来有望な若者と面識を持ちたいという思惑を含んだ者もちらほらといる。実際、好成績を叩きだした生徒には声を掛けられている場面が多く見られた。

 圧巻なのは司波妹の所であり、二重、三重と人垣ができている。傍らに市原会計がいて、怜悧な視線で牽制をしつつ、後輩を不躾な者たちからガードしていた。

 

 そしてそんな彼女を壁に寄り掛かって眺めている達也を見つけ、オレは近づいて声を掛ける。

 

「……お前の妹人気者だな」

「お陰様でな。本当はもっとのんびりさせてやりたいところなんだが……」

「あれほどの活躍をしたんだ。それは難しいだろ。そう言うお前には誰か声をかけてきたか?」

「ああ、さっき“ローゼン・マギクラフト”の日本支社社長にな」

「ローゼン?魔法工学業界で世界第2位のドイツの魔法工学機器メーカーのか?」

「意外だな。それは知ってるんだな」

「それはってどういう意味だ」

「いや。お前はいつも俗世間に関してあまり関心がなさそうに感じだったからな」

「……魔法関連のニュースはある程度聞いている」

 

 と言っても興味ないのは殆ど聞き流してるが。

 

「それにしても一年生でそんな大物に声を掛けられるなんて凄いな」

「そういえばその社長がお前について聞いて来たぞ」

「オレに?」

「ああ、なんでも一人だけ顔を隠していたことに興味がわいたと言っていたがどうもキナ臭くてな。適当にごまかしておいた」

「助かる」

 

 ドイツの大手社長がなんでオレのことを詮索するんだ?理由は分からないがこれからはもっと慎重に動いた方がいいな。

 

 周りを見渡すと御偉い方が退出する。それに変わって、楽器を持った正装の大人達が会場の一角に集まり始める。

 管弦の生演奏が流れ始め、交流を深めた男女が真ん中で踊り始めていた。

 

 司波妹の方へ視線を向けると、彼女の周りには先程にも増して大勢の男子生徒の姿があったが、未だ誰1人彼女の手を取れる者はいなかった。

 

「あの様子だと誰もダンスに誘えなさそうだな」

「さっきまで大会主催者とかこの基地の高官に囲まれてたからな。仕方ないと言えば仕方ないさ」

「オレの気のせいか、その中に知っている奴がいるのが見える」

「奇遇だな。俺にも見えた」

 

 達也もよく知るその少年に、達也は人垣へと足を進めた。

 

 

 さて、オレは仕事に戻るか。

 

「おーい、執事君ー」

「シンー」

「ん?」

 

 聞き覚えのある声が左右から聞こえた。

 左を向くと、紙袋を持った春日と里美、あっちへ行ったりこっちへ行ったりを繰り返してかなり挙動不審のエイミィ。

 右を向くと三高の四十九院沓子、一色愛梨、十七夜栞、三高の水尾生徒会長がいた。

 

「か、十七夜選手!?」

「い、一色選手!」

「え、エクレア「は?」じゃ、じゃなかったエクレール・アイリ!」

 

 まさかの面子に、ピラーズで十七夜と闘って勝ったエイミィ、クラウドで一色に負けた里美と春日は揃って驚愕していた。

 その際春日が一色の二つ名を間違えたことで、一瞬で一色は不機嫌になり背後からドス黒いオーラが放たれた気がした。この数日で一気に成長したんじゃないか?

 

「あはは…まあまあ落ち着いて一色」

「……わかっています先輩。失礼しました」

 

 後ろで水尾会長が宥めたおかげで一色から放たれていた圧は霧散し、春日は少々ほっとした様子であった。

 

「春日さん、里美さん。クラウド・ボールの試合以来ですね」

「え?え?」

「ど、どうも……」

 

 顔を合わせた両者が挨拶をする。春日と里美は予想外だったようでたじたじである。

 

「今回は負けたけど、来年は私が勝つわ」

「っ!望むところ。私も負けないよ!」

 

 エイミィと十七夜の方もアイス・ピラーズ・ブレイクでの互いのことを称賛しあっていた。

 ライバル同士のあとわずかの交流を邪魔をしては悪いな。

 オレは静かに去ろうとしたが、

 

「これ、待たんかシン」

「どこに行くの?」

 

 沓子と十七夜に襟をつかまれて止められてしまった。

 

「………何か用か?」

「せっかくじゃからわしと踊ってくれんか?」

「ふええ!?」

 

 沓子からの誘いに反応したのはオレではなくエイミィだった。里美や春日はやっぱりかーというわかりやすい顔をしている。

 

「……普通逆じゃないか?」

「おぬし誰とも踊らんままで終わらせる気じゃったろう」

「ホール係の仕事があるし、そもそもオレと踊りたい相手なんているとは思えないが」

「はぁーやれやれ執事君の目は節穴だねー」

「まったくだな。意外とすぐ近くにいるかも知れないぞ。なーエイミィー?」

「えっ!?え、えっとその…さ、さあ?私にはわからないなーアハハ」

 

 里美の言葉にエイミィの目がさっきよりも激しく泳いでいる。

 

「まあそういうわけじゃ」

「だからどういうわけだ?」

 

 沓子が無邪気な笑顔で見上げて来た。ここまで言ったのだから察しろ。そう訴えているかのようだったがよくわからない。

 

「ユウキ君。沓子が終わったら、私も誘って欲しいわ」

「じゃあその次は私もお願いするよ」

「私もお願いします」

 

 十七夜と三高の会長、一色がそう言いだし…

 

「なら執事君。踊るなら僕とも!」

「なら私も!」

「え、えっと………」

 

 次に里美が真っ先に名乗りを上げ、春日も負けじと立候補する。

 そんな中、ずっと挙動不審だったエイミィが上ずった声を上げる。

 

「…わ、私と踊ってほしいな!」

「「どうぞどうぞ」」

「なんで!?」

 

 まさに掌返しでエイミィにその役目を譲った春日と里美に、エイミィが思わずツッコミを入れた。

 よくわからないコントだったが、最早オレに逃げ道はなかった。

 

「は、謀ったね二人とも~」

「HAHAHAHA!はて、なんのことだか」

「てへぺろ☆」

 

 順番は公平にくじ引きで決め、エイミィ、一色、十七夜、沓子、三高会長、里美、春日の順となった。

 

「あーエイミィ……嫌なら無理しなくていいんだぞ」

 

 オレなんかと踊るのにさすがのエイミィも困ってる。

 

「え!?い、いやべべべ別に嫌なんじゃなくて……その…え、えっと………シンヤ君の方はその、私と踊るの、嫌?」

「………」

 

 不安そうな表情で上目使いでオレを見上げるエイミィ。そうされると嫌だと言える勇気をオレは持っていなかった。

 

「………エイミィ」

「ひゃ、ひゃい!」

「踊らないか?」

 

 作法通りに頭を下げ、手を差し伸べる。

 オレが差し出した手を見て、エイミィは耳元まで顔を真っ赤にしながらしばらく「あー!」とか、「うー!」とか唸ったあと………

 

「……こ、こちらこそよろしくお願いします」

 

 作法通りの一礼を返してエイミィはオレの手を取り、共に中央へと向かう。

 

「ひゃあっ!?」

 

 エイミィの腰に手を回すと素っ頓狂な声があがった。

 

「悪い。やっぱりやめとくか?」

「う、ううん…大丈夫!」

 

 今にも火を吹き出しそうな程に顔を赤くしながらもオレの手を離さない。

 

「…そうか」

 

 伴奏に合わせて演じられる一連の動作のことを指すダンスの様式は極めて多様であるため厳密な定義づけは容易でないが、遊戯的でリズミカルな動きの連続によってコミュニケーションや表現を行う文化をいう。

 流れている演奏は踊りやすいようにゆったりとした曲調がされており、他の生徒たちは音楽に合わせて踊っている。

 その中で一条と司波妹、達也と光井を見かけた。

 

「あ、あのね……シンヤ君」

 

 ダンスが終盤に差し掛かったところでエイミィが口を開く。

 

「どうした?」

「この前はありがとう」

「何の話だ?」

「えっと…その……ピラーズ準決勝の前日の夕食でのこと……十七夜選手に勝てたのはシンヤ君のおかげだよ」

「オレはただ偉そうに説教しただけでなにもしてない。あれは間違いなくエイミィの実力だ」

 

 実際十七夜の緻密な計算力による戦術に、最初は苦戦しながらもエイミィは自身の力で打ち勝った。それが事実だ。

 

「そうだろうけどさ………十七夜選手に追い詰められた時、どうせこれ以上勝ったて深雪や雫にはどうせかないっこないって諦めようとしてたんだ。けどシンヤ君の言葉が自分の中の負けたくないって気持ちを気づかせてくれたんだ。決勝一位にはなれなかったけど、頑張って本当に良かったよ。本当にありがとう」

 

 感謝をされることはしていないがこれ以上否定しても意味がないか。

 

「……気持ちは受け取っておく」

 

 

 

 エイミィとのファーストダンスが終了し、次に一色と踊る。ダンスは慣れたもので蝶のように華やかで優雅なものだ。

 高い魔法力があるだけに比例して容姿も華があり、更に師補十八家という日本の魔法師社会のトップクラスに位置する『一色家』のネームバリューを背負った令嬢は注目の的であるし、狙っている家は多い。そこにぽっと出のオレを一色の令嬢が誘うものだから、野郎の嫉妬の視線が痛い。

 

「踊るの上手いですね」

「ただ周りの動きを真似ているだけだが」

「それにしては動きに全く無駄がありませんよ?」

 

 一色家の令嬢なだけにそこは見抜くか。

 

「ハナシは変わるが昨日のミラージ決勝戦凄かったな。あの短時間であそこまで仕上げるなんて」

「どこかの誰かに自分だけの武器を捨てるなときつく言われたので………今回は完敗でしたが」

 

 そう答えた一色の表情に陰りはなかった。

 

「いいえ、あの時焦っていて肝心なことを忘れていた私が立ち上がるにはユウキさんのあの言葉で十分でした。優勝まではいきませんでしたが、司波さんとの試合でもっともっと限界を越えられることがわかりました。来年は私たち三高が勝ちに行きます」

「……そうか」

 

 一色の瞳からは意志の強さを感じる。

 勝者は大きな自信とプライドを得て「勝ち方」を理解する。対して敗者は「自分に何が足りなかったか」を感得し、具体的な改善点を見出すことが出来る。さらにそこから大きな目標を持って挑戦する気概を得る。

 ミラージでは優勝できなかったが、得るものが多かったようだ。

 

「……”他人より優れていることが高貴なのではない。本当の高貴とは、過去の自分自身より優れていることにある”か」

「なんですか突然?」

「USNAがまだアメリカ合衆国とよばれていた時代の詩人アーネスト・ヘミングウェイの言葉だ。他人と比べて自分は高く貴重だとか、高く価値があるとか思うのではない。過去の自分よりも、高く貴重か、高く価値があるかそれが高貴であるということ。今のお前にぴったりだ。そういう奴は嫌いじゃない」

「……っ!」

 

 途端に一色の顔が真っ赤に染まった。彼女は見せまいと顔を伏せる。

 

「どうした?」

「いえ、なにも……」

 

 オレに褒められて照れたのか、弱々しく言うばかりだった。

 

 

 

 その後十七夜やロリっ子から踊りながら一色に何言ったか根掘り葉掘り聞かれたり、水尾会長から「君なかなかやるね」とよくわからない褒め言葉をもらったり、春日と里美から「やっぱり執事君は女たらしか」と言われる始末。

 

 まあこれでオレの役目も終わって脇に戻ろうとしたとき………

 

「シンヤくん~♪」

 

 楽しそうな声が背後からかかる。

 

「……会長でしたか。どうされました?」

 

 七草会長は普段よりも精彩さが増した顔つきですり寄ってくる。

 

「挨拶回りも終わったからお姉さんの相手をしてくれる人を探してたの」

「そうですか。それでは」

 

 ガシッ

 

 軽く挨拶してその場から離れようとするが、七草会長に腕を掴まれた。

 

「………なんですか会長?」

「相手をしてくれる人を探してたの」

「はぁ……それで?」

「相手をしてくれる人を探してたの」

「いやだから」

「探してたの」

「あの」

「探してたの」

 

 ニッコリと笑みを浮かべながら同じことを繰り返し言うのは流石に怖いな。

 

「………では、一曲お相手していただけますか?」

「もちろんよ!早く踊りましょう!」

 

 ルンルンと軽やかにオレの腕を引っ張って行く七草会長。この後、彼女の独特のダンスに振り回される事を知る由もなかった。

 

 

【数分後】

 

 つ、疲れた…。

 

 曲に対してまったくステップを合わせず、かといって音感が無いわけではない。彼女は“溜め”に対して独特の感性を持っていて、一音一音は微妙に外しながらも全体で見ると実に優雅なダンスだった。

 おかげで互いのリズムと摺り合わせなければならず、ダンスが終わる頃には結構疲れた。

 鼻歌でも口ずさみそうな雰囲気でその場を去っていった七草会長を見たところ、一応彼女を満足させることはできたようだが……結局なにがしたかったんだ?

 

 とにかく一旦休もうと人がいない場所に行くと、グラスを差し出してきた相手が居たのでお礼を言って受け取ろうとして相手を確認したら、かなり意外な人物がそこには居た。

 

「十文字会頭……」 

「疲れてるようだな。試合のようには行かないようだな」

 

 もう片方の手に持っていたノンアルコールビールを一気に飲み干す十文字会頭に合わせて、オレもそれを一気に飲み干す。

 

「こういったのはなにぶん初めてなので。十文字会頭は、まったく苦にしていないようですね」

「まぁ、慣れているからな。――有崎、少し付き合え」

「………わかりました」

 

 拒否権は無いと言わんばかりの真剣な声で言う十文字会頭に従うしかなく、通りかかったウエイトレスに空になったグラスを渡してからホールから出て行く彼の後に続いた。

 

 

 会場から出たオレと会頭は中庭へと場所を移した。

 

「……それで会頭、話とは?」

「有崎、お前は十師族の一員か?」

「なぜその質問を?」

「新人戦のモノリス・コード決勝戦でお前は一条の過剰攻撃を蜃気楼で避けたと言っていたがどうも腑に落ちなくてな」

 

 どうやら会頭はオレがモノリス決勝戦で一条の過剰攻撃を防いだと勘づいたようだ。

 

「いいえ。何を勘違いしてるか知りませんがオレは十師族ではありません」

 

 嘘を吐いていないし、十師族の一員でもない。

 

「そうか」

 

 オレの答えに偽りがあるように思えなかったのか、会頭は納得したように先ほどまでのプレッシャーを消した。

 

「ならば、師族会議において、十文字家代表補佐を務める魔法師として助言する。有崎、お前は十師族になるべきだ。そうだな……七草とかは如何だ?」

「如何だとは、結婚相手にという意味ですか?」

「そうだが?」

「…………」

 

 何言ってるんだこの人は。

 

「……オレは会長や会頭と違い一介の高校生ですので、結婚とかそういうのはまだ」

「そうか………分かった。今回はここまでにしよう」

 

 今回はって次があるのか?

 

「だがな有崎、今回は上手く誤魔化せても余りのんびり構えてはいられないぞ。十師族の次期当主に真正面から勝つというのはお前が考えているよりずっと重い。それを忘れないようにな」

 

 そう言って十文字会頭は去って行った。

 

 

 

 ………はあ、まったく。どうしてこう上手くいかないのだろうか。

 オレはただ自由が欲しいだけなのに。

 

 

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