魔法科高校の事なかれ主義の規格外(イレギュラー)   作:嫉妬憤怒強欲

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長らくお待たせしました。スランプ気味でしたが夏休みに投稿間に合わないました。


イメージOP『Dance in the time(ようこそ実力至上主義の教育へ2nd season)』


夏休み短編
第二十五話 サマービーチバケーション


 九校戦が終わって約一週間が過ぎ、夏休みも折り返そうとしていた時のこと。いつものように一行メンバーの一人である北山からグループチャットが入った。

 

『ねぇ、海に行かない?』(ノースマウンテン:北山)

『海って、海水浴ってこと?』(エリカ)

『あっ、もしかして?』(ホーリーライト:光井)

『うん』(ノースマウンテン)

『ひょっとしてって?』(スノウウィッチ:司波妹)

『あそっか。ゴメンね皆』(ホーリーライト)

『ウチで保有してる別荘に、皆を招待したいと思ってるんだ』(ノースマウンテン)

『雫の家ってプライベートビーチを持ってるの?』(スノウウィッチ)

『うん。父さんが”お友達をご招待しなさい”って。どうやらみんなに会いたいみたい』(ノースマウンテン)

『ということは、今年は小父様と一緒なんだ』(ホーリーライト)

『大丈夫。仕事が山積みだから、会えるのは最初の数時間くらいだって言ってた』(ノースマウンテン)

『どうしたの、ほのか?もしかして嫌なの?』(スノウウィッチ)

『ううん、そんなこと無いよ! 私にも凄く優しくしてくれるし、とっても良い人だよ。だけどあの人、会う度に結構な額のお小遣いを渡そうとしてくるから、それがちょっと心苦しくて……』(ホーリーライト)

『ああ、そういうことね』(スノウウィッチ)

 

 なんかその時のやり取りが想像できてしまうな。

 

『で、具体的にはいつにするの?』(エリカ)

『決めてない。できるだけみんなの都合に合わせられるようにする』(ノースマウンテン)

『俺は別にいつでも構わねぇぜ?特に何か予定があるってわけじゃねぇしな』(レオ)

『その前に新しい水着買いに行きかないとだね!』(名探偵エイミィ)

 

 レオの返事を皮切りに、エリカ・ミキじゃない幹比古だ・美月・名探偵エイミィも次々と参加を表明したためオレも流れに乗る。エリカや幹比古辺りは家の用事で何かありそうなものだが、わざわざそれを指摘する者は誰もいなかった。

 

『私は、お兄様の都合が良ければ……』(スノウウィッチ)

『俺は…来週の金、土、日は空いてる。それ以降になると少し厳しいけどな』(達也)

『忙しいのか?』(オレ)

『毎年夏休みは野暮用で埋まってるからな』(達也)

 

 いったいどれに関する野暮用なのだろうか気になるが聞かないでおこう。

 

『だったら達也くんの都合もあるし、なるだけ早い方が良いんじゃない?』(エリカ)

『それじゃ、木曜までに準備をして、金、土、日の2泊3日で良いかな?』(ノースマウンテン)

 

 北山の提案に、全員が同時に『いいね』のスタンプを送った。

 

 

 

 そして金曜日。あっという間に約束の日がやってきた。

 今オレたちはコミューターに乗って空港ではなく、葉山のマリーナに向かっている。空路ではなく海路で別荘に向かうからだ。

 葉山のマリーナから別荘がある聟島列島まで約900キロ。北山財閥所有のクルーザーでおよそ6時間の船旅だ。現代では自家用飛行機を使うのが普通なのだが、わざわざ船で行く理由は「これが旅の醍醐味だから」だそうだ。

 

「ふわぁ……」

 

 コミューターが出発してしばらくしてから、エイミィが大きな欠伸をする。

 

「どうしたのエイミィ?欠伸して」

「ひょっとして昨日ちゃんと寝れてないの?」

「うん…今日が楽しみでドキドキしちゃって」

 

 北山と光井からの問いにエイミィは目をこすりながら答える。

 そういえば九校戦の時も緊張でよく眠れなかったって言ってたな。

 

「大丈夫エイミィ?今のうちに仮眠をとったら?」

「うぅ……そうしたいけど眠れるかどうか」

 

 このまま睡眠不足で行っても現地で倒れてしまうなんてこともある。夏休みの旅行がそんな形で終わってしまうのはエイミィも嫌だろう。

 

「うーん……よし!シンヤ君なにか良い考えプリーズ!」

「いや、なにがよしなんだエリカ?」

「いや~シンヤ君は影の参謀様だからなにか知恵を授けてくれると思って~」

「……オレがなんでもかんでも知ってると思ったら大間違いだぞ」

 

 ポケットから端末を取り出し、快眠法を検索する。結構色々な方法が出てきた。エイミィの場合は頭の中の情報で気持ちが落ち着かず、安眠を阻害されているパターンだ。なら頭の中の余計な情報をカットすればいい………あった。

 

「エイミィ、今からオレが口頭で説明するからその通りにやってくれ」

「う、うん。わかった」

 

 まず最初に目を閉じて体全体の力を抜く。

 次にゆっくりと鼻から息を吸いながら頭の中で数字の1を数える。

 ある程度吸ったらゆっくりと吐きながら数字の2を数える。

 またゆっくりと息を吸いながら頭の中で数字の1を数える。

 これの繰り返しだ。

 

 考え事や集中している時、緊張やストレスが続くと人は自然と息が浅くなり回数が増えてしまう。その時は通常の呼吸すら満足にできていない状態、すなわち体に十分な酸素を送れていない状態だ。そうなると、リラックスするための副交感神経が影を潜め、目が冴えてしまう神経が際立ってしまう。

 呼吸カウント法は呼吸に意識をわざと持っていく事で余計な情報を遮断し、気持ちを落ち着かせるためのようだ。

 

 しばらくすると、エイミィから「くか~」と寝息が聞こえてきた。

 

「おお、本当に効いているわね」(小声)

 

 口の端から涎が垂れているが見なかったことにしておこう。

 

 

 

♢♦♢

 

 

 マリーナに到着した後、クルーザーに乗船したオレたちは操舵手であり宿泊先の別荘でも身の回りの世話も請け負う見た目20代半ばほどの黒沢女史の運転の下、目的地へと出航した。

 

 どこまでも続いている常夏の青い海。広がる青空。澄み切った空気。そよぐ潮風は優しく体を包み込み、真夏の猛暑を感じさせない太平洋。

 

「夏だ!海だ!バカンスだー!」

 

 仮眠をとって人一倍元気になったエイミィが広いデッキの上でワーッと盛り上がった。 

 このクルーザーはとても広いだけでなく、スタビライザーと揺動吸収システムのおかげで船酔いの心配が無い。さらには空気抵抗や過剰な光線をカットするために、甲板全体が流線型の透明なドームで覆われているのでかなり快適だ。

 北山の家負担で乗れているが自費となると何十万とかかるだろう。

 

「そういえば、サスペンスドラマだとこういうクルーズ船旅行で乗客が1人ずつ何者かに殺されるんだよね」

「もし殺されるとしたら、最初に殺されるのは間違いなくレオね」

「勝手に殺すな!」

「ちょっ、二人とも不吉なこと言わないでよ!!そんな物騒なこと言わないでよ。実際に起こったらどうするの!」

「ほのか、その発言もなかなか物騒だと思う」

 

 エイミィとエリカたちが船上の密室殺人談義をしたり飲んだりしている傍ら、オレは遥か遠く燦然と輝く、見渡す限りの広大な大海原を眺め続けていた。

 

「海を見るのは初めてか?」

 

 後ろから達也が話しかけてきた。

 

「…ああ、海の映像は見たことあるが、こうして直で見るとすごい絶景だな」

 

 あの白い部屋にいた時、一度だけ外での実地テストで海を見たことがあったが、あの時はバイザー越しだったために資料の映像を見てるだけの様でつまらなかった。

 

「これが夕方になると、陽が沈むときとかはかなり凄いぞ」

「達也は見たことあるのか?」

「何年か前に家族で沖縄に旅行に行ったときにな」

 

 沖縄か。そういえばあそこは三年前に大亜連合軍からの侵攻を受けていたな。

 

 

 時間はあっという間に過ぎ、特に船上でことなく別荘がある媒島に到着した。

 島に付き早速男女の二グループに分かれ、オレたち男子勢は当てがわれた別荘の部屋に荷物を置き、水着に着替えてからビーチに向かった。

 

「スゲーな、これ丸ごと個人もちかよ」

「さすがに島一つは凄いよね」

「ああ」

 

 レオの素直な感想に、幹比古、珍しく達也も同意見だ。

 

 既に浜辺にはパラソルが数本立っており、シート、ビーチチェア、サマーベットがセッティングされていた。黒沢さんが既に用意をしていたのだろう。手際がいい様だ。

 

「おーいお前ら!!泳がねーのか!?」

「後で行くよ」

「先行ってるぞ!!」

 

 着いて早々準備体操を終えたレオが海に入ったのを他所に、パラソルの下でのんびりしていると、女性陣の声が後ろから聞こえてきた。

 

「うわーっ!海きれーい!」

「凄いわねこのビーチ!あたしたちが独り占めね!」

 

 真っ先に目を惹くのは、派手な原色のワンピースタイプを着たエリカだった。そのシンプルなデザインは、彼女のスレンダーなプロポーションをさらに引き立たせている。

 その隣にいる司波妹は、大きな花のデザインがプリントされたワンピースタイプ。女性らしさを増していくプロポーションを派手な絵柄で視覚的にぼかし、生々しさの無い妖精的な魅力を醸し出している。

 エイミィは花柄の模様がプリントされた白のキュロット付きフレアビキニタイプで、彼女の持ち前の明るさを表現している。

 意外なのが美月で、水玉模様のセパレートタイプはビキニほど露出は少ないものの、大胆に胸元がカットされているせいで豊かな胸が強調され、いつもの大人しいイメージからは想像できない艶めかしさがある。

 そして彼女の隣にいる光井は、同じくセパレートタイプながらワンショルダーにパレオでアシンメトリーに決めている。体のメリハリという観点からしたら、彼女が一番に挙げられるかもしれない。

 北山はそれとは対照的に、フリルを多用した少女らしいワンピースタイプだった。しかし表情に乏しい大人びた顔立ちの彼女がそれを着ると、やけに倒錯的な魅力が生まれるのはなぜだろうか。

 

 凝視していたら己との戦いに臨むことになりそうだったので、ひたすらに心を落ち着かせることに専念する。幹比古なんか美月を見てすぐに顔を真っ赤にして海に向かっていた。

 

「あれ?シンヤ君ラッシュガード着てるんだ」

「男のくせにって思うかもしれないが、人前で肌を晒すのは好きじゃないからな」

 

 隣のパラソルを荷物で占領し、ふとこちらに注目したエリカは、人差し指でピンと立ててオレの上着越しに腹をつついてきた。

 

「結構硬いわね。やっぱり本当は何か運動してた?」

「いや、何も」

「それにしては前腕の発達とか、背中の筋肉とか普通じゃないと思うけど。なんかこう無駄に筋肉をつけてない細身の理想的肉質っていうか」

 

 ツンツンツンと遠慮なく触り、二の腕やら肩やらにまでそのアクションが繰り返される。

 

「両親から恵まれた体を貰っただけだ。それ以上でもそれ以下でもない。上着の素材か単純にオレの肉が固いんだろうな。日頃の運動不足のせいで」

「ふーん……まあいいや」

 

 エリカは視線をオレの足元に落としていたが、すぐに質問が止んだ。

 

「え、ええええエリカ何やってるの!?シンヤ君の身体をそんな、ま、まさぐって!?」

「エイミィ…どっちかというとつついたの表現が正しいよ」

「えっ?………あ、アハハごめんごめん!」

 

 顔を真っ赤にして声を上ずらせているエイミィからの指摘にエリカはハッと気づいて、少しバツの悪そうな笑顔を向けている。そんなエリカの様子に司波妹や北山、光井が好奇の目で、美月は顔を真っ赤にして見ていた。

 

「あらあら、エリカったら大胆ね」

「な、なに言ってるのかな深雪は?それより海に入らない?」

「ふふふ…そうね。お兄様も一緒に入りましょ」

「あっ、いや俺は荷物の見張りを」

「私たち以外誰もいませんよ。それにせっかく海に来たのに、海に入らないなんて勿体ないです」

「そうですよ、達也さん。パラソルの下にいるだけなんて!」

 

 自分の妹だけでなく光井の指摘に達也が観念したように「そうだな、泳ぐか」と上着として羽織っていた七分袖のヨットパーカーを脱ぎだす。

 パーカーが砂の上に落ちた瞬間、達也を取り巻く空気が変わった。

 

「達也くん、それって……」

 

 エリカが緊張で微かに震えた声をあげ、美月・光井・北山・エイミィが彼女の言う“それ”に釘付けとなる。

 成人ほどのボリュームは無いが、達也の体は鍛え上げられて引き締まっていた。腹筋も胸筋もみっしりと重く固く、まるでルネサンス彫刻のようにはっきりと筋が刻まれている。

 しかし、刻まれているのは筋だけではなかった。

 彼の体には、幾つもの傷痕が刻まれていた。一番多いのが切り傷、それに匹敵するほどに多いのが刺し傷、そして所々に火傷の痕。骨折の痕は見当たらないが、それにしても尋常でない鍛えられ方をしなければこんな肉体にはならないだろう。それこそ、文字通り“血の滲むような”努力をしなければ。

 

 いや、この傷から察するに“血の滲む”程度では済まないだろう。拷問のような鍛錬を乗り越えなければ、ここまでの体にはなり得ない。それを分かってしまったからこそ、エリカ達は思わず表情を強張らせてしまったのだろう。

 

「達也くん……貴方、一体……」

「すまない、見せられて気持ちの良いものじゃないな」

 

 達也はエリカの質問を遮るように答えて、先程脱ぎ捨てたばかりのパーカーを拾おうと手を伸ばす。

 だが、達也が脱いだパーカーは一足早く妹に拾われており、今は大事そうに胸に抱かれている。

 

「大丈夫ですよお兄様。この傷痕の一つ一つは、お兄様が強くあろうとした証である事を、深雪はちゃんと知っています。たとえ世界中の誰もが、お兄様のお身体を見て気持ち悪がっても、深雪はそんな事思いません。お兄様のお身体は立派であり、また誰にも侮辱される事はないと、胸を張って言えます」

 

 妹の言葉に、達也の表情が微かに緩む。

 その直後、空いている右腕に光井が抱きついた。

 

「おおーほのか大胆」

 

 エイミィは賞賛の言葉を、エリカはヒュウ、と純粋な賞賛の意思を込めた口笛を吹く。

 

「わ、私も気にしません!」

 

 若干辿々しく、そして頬を紅く染めながらであるが、光井が力強く司波妹の言葉に賛同する。

 恋人相手ならともかく、恋人でもない異性に、水着でするには大胆な行動だ。

 

 左に妹、右に異性。

 これはまさに――

 

「これってまるで……恋人と妹の板挟みの図ですね」

「こらっ!しっ!そんなこと言っちゃダメでしょ、美月。せっかく面白くなりそうなんだからさ」

 

 美月のセリフは冷やかしでは無く素直な感想で、オレも達也には申し訳ないが全く同じことを考えていた。

 エリカの発言は若干問題なのだが、さっきとは違っていつも通りの声質になっていた。

 エリカは、少しバツの悪そうな笑顔を向けている。

 

「えーっと、ごめんね、達也くん。変な態度とっちゃってさ」

「いや、気にしてない。エリカも気にしないでくれ」

「気にするなって言われてもねぇ……あっ、そうだ!」

 

 良いこと考えた、と言いたげな表情で、エリカがニコッと笑った。

 

「お詫びに、あたしのも見せてあげるから」

 

 そう言いながら、エリカは右手の親指を水着の肩紐の下に差し入れ、ウインク付きで指一本分ほど持ち上げて見せた。

 

 だが、そこでオレの視界は真っ暗になった。

 どうやら後ろから誰かがオレの視界を手で塞いでいるようだ。

 

「し、シンヤ君は見ちゃダメ!」

 

 声からしてエイミィのようだ。

 

「泳ぐか」

「ちょっと!何かコメントしなさいよぉ!」

 

 達也はそれを見事にスルーして、波打ち際へと向かったようだ。

 すごいな。これが幹比古だったら顔を真っ赤にしてしどろもどろな返答をしただろう。レオだったら本気でエリカの頭を心配しただろう。

 

「もういいか?」

「う、うん。ごめんねいきなりで」

「いや、別に気にしていない」

 

 エイミィにオレの目を塞いでいる手を外してもらい、オレも達也たちと泳ぐべく後をつける。

 

 レオと幹比古はいつの間にか、沖の方へ遠泳を敢行しているようで、最早砂浜からは確認できない。

 ということは達也とオレと女性陣しかいないのか。

 

 

 

ドビューーン!!

 

バシューーーン!!

 

ズバババババーーン!!

 

 

 数分後。オレはドザエモンの様に海に漂っていた。

 砂浜の浅瀬で腰まで海につかり、バシャバシャと水を掛け合ってはしゃいでいたのは最初の内だけだった。次第にエスカレートして魔法を使った水の飛ばし合いになっていた。最終的には女子陣5人VSオレと達也の図になり、一方的に水魔法攻撃をその身に受けたのだ。

 

 なんかオレが想像してたのと少し違う気がする。

 

 横を見ると、達也も近くで海の上で仰向けになって体を任せプカプカと浮かせ漂わせていた。 

 

「……なあ達也。水遊びってこんな危険なものだったのか?」

「安心しろシンヤ。これは例外だ」

 

 それにしてもレオと幹比古は随分と遠くまで泳いでるんだな。

 動きたくてウズウズしていたレオと幹比古は、微かに確認出来る程度の距離まで離れていた。レオの体力についていってるあたり、幹比古も並々ならぬ鍛錬を積んでいるんだろうな。

 

 海に浮かびながらそんな事を考えていると、不意に沖の方から悲鳴が聞こえてきた。美月を除く女子陣は今ボートで遊んでいたはずなのだが、如何やらそのボートがひっくり返ったらしい。

 達也は慌てて水の上を疾走する。まるで忍者のようだがこれも魔法だろう。

 女子陣の傍まで来て、達也は魔法を発動するのをやめ、そのまま溺れている光井の腰に手を回し上に引き上げる。

 

「ちょっと、達也さんまって!お願いですからまってください!」

 

 何か慌てるように光井が懇願してきたが、達也はそのまま彼女をボートの上に持ち上げる。それと同時に達也は重力に従い海の中に沈んでいった。その後に光井の悲鳴が。

 なにがあったんだ?

 

 しばらくしてから達也と女子陣が浜辺に戻ってきた。それからも光井は泣きじゃくっている。

 

「うえっ・・・グスッ・・・」

「あのさ………達也君は助けてくれたんだし………」

「ヒック……だから……待ってって……言ったじゃないですかぁ………えぐっ」

「その……すまなかった」

 

 達也は気まずそうに頭を下げて謝罪している。本当になにがあったんだ。

 泣き止まない光井だったが、北山が彼女の耳元に口を寄せてなにかボソボソ告げると、急に泣き止みだした。

 

「あのっ…達也さん…本当に悪かったって思ってますか?」

「噓偽りなく思っている。本当に悪かった」

「じゃあ…………今日一日私の言うことを聞いてください」

「えっ?」

 

 なんでだよ。もっと別の事を要求してくるのかと思っていたが。

 

「ダメですか?」

「いや、それでいいのなら・・・」

「約束ですよ!」

 

 言う事を聞けという要求に達也が頷くと、光井は満面の笑みでスクッと立って達也の手を握った。

 その時一瞬冷たい空気が流れたが、冷気の発生源を見ると司波妹が「しょうがないですね」と苦笑していた。

 

 

 ハプニングはあったが、一同散々遊び倒した。

 達也は光井が一日独占し、司波妹は部屋に戻って、残ったメンバーで男女混合のビーチバレーを行うことになった。その際、相手コートにいた美月があわあわしながらトスを上げる際、オレ陣地の幹比古が何度も一瞬停止して点を取られる形になった。オレもあの瞬間にぶるんと揺れるあれを見た際、相手コートにいるエイミィから絶対零度の視線を向けられ、南極にいると錯覚してしまった。

 

 

 その日の夕食はバルコニーでバーベキューだった。

 肉には綺麗にサシの入った霜降りだけでなく低温熟成された赤身、野菜も有機栽培で育てられたこだわりの一品、さらには新鮮な海鮮類やパンなどの食材が揃っており、それらを取り揃えた世話役としてお馴染みの黒沢女史が10人分の肉や野菜を手際よく焼き上げていく。

 

「お待たせしました」

「……頂きます」

 

 串焼きを載せた皿を渡してくれた黒沢女史に感謝しながら、串焼きを手にとって齧りつく。

 おぉ……!これは美味い。学食とは一線を駕す味だ。

 

「シンヤ君美味しそうに食べてるね」

 

 黙々と食べているとエイミィから声をかけられる。

 

「そりゃ誰だって美味しいと思うさ……ってまた顔に出てたか?」

「うん」

「ご満足いただけたようでなによりです。おかわりはまだありますよ」

 

 美味しそうに食べるオレを見て、黒沢女史が微笑みながらそう告げて追加の肉を焼き始める。

 

「ミキ、男なら根性見せなさいよね」

「僕の名前は幹比古だ!」

「レオ君、苦しくないの?」

「余裕だぜ。この倍くらいは食えるな」

 

 レオと幹比古はひたすら食べていた。昼の遠泳に続き勝負をするらしいのだが、既に幹比古は苦しそうだった。せめて味わって食べろよ。

 達也の方もオレと同じく自分のペースで食べていた。その隣には妹と光井がピッタリとくっついている。

 エイミィと北山もゆっくり食べながら談笑している。

 

 無論、はっきりとしたグループ分けがされているわけではないがどうも入りづらかったため、オレは水平線の向こうを見ながら黙々と料理を食べていく。

 

 日が沈みだしており青かった空がオレンジ色に輝いていた。

 こんな景色はあそこにずっといれば絶対に見れなかっただろう。

 

 

 

 食後のまったりとした空気の中でオレたちは各々無人島でのバカンスを楽しんでいた。

 達也と幹比古は顔を突き合わせて将棋を指し、レオは「ちょっと散歩してくる」と言い残してフラッといなくなり、そして女性陣6人とオレはカードゲームに興じていた。ちなみに最初にやったダウトだとオレが圧勝だったため、即ババ抜きに変更になった。

 

 その空気が変わったのは、そのカードゲームが美月の敗北で終わったときのこと。

 北山が立ち上がって、司波妹の傍まで歩み寄る。

 

「深雪、少し外に出ない?」

「……良いわよ」

 

 戸惑いを見せたのはほんの一瞬だけで、司波妹はニコリと笑うと椅子から立ち上がった。それを見て美月が「散歩だったら私も――」と言いかけるが、エリカが即座に「美月は罰ゲームがあるから駄目よ」とそれを阻む。

 

 そうして2人がいなくなってから、数分後。

 達也が10手詰めで幹比古を下したのを見計らったかのように、光井が達也の近くまで駆け寄った。

 

「あ、あの!達也さん、一緒にお散歩しませんか?」

「……あぁ、良いよ」

 

 達也は特に困惑を見せず、微笑を浮かべて了承した。そのまま2人が散歩に出掛けたため、黒沢さんを入れて11人いたのが半分にまで減ったことになる。

 

「……むむ、この状況……事件の予感がする!」

「もし殺されるとしたら、被害者は間違いなくレオね。それでこの場にいない4人が容疑者として疑われる、と」

「いやいや、分からないよエリカ。実はここにいる5人もそれぞれ席を立った時間があって、そのタイミングなら西城くんを殺害することが可能だと判明するんだよ」

「いやいやエイミィ、実はアタシ達以外にも島に誰かいるという線も――――」

 

 レオが殺される前提で物騒な話し始めたぞこの2人。船でも似たような話してたな。

 

「それにしても、いくら無人島とはいえこんな夜遅くに散歩は危なくないかな? それにこんな暗いと、せっかくの綺麗な景色が見られないよね?」

「何言ってんの、美月。レオはともかく、他の4人は本当に散歩が目的なわけないでしょ」

「えっ、そうなの?」

「そうよ。大方、ほのかが達也くんに告白したいって雫に相談して、だから雫が深雪をどこかに連れ出して邪魔しないように見張ってるってところね」

 

 したり顔で自身の推理を披露するエリカに、美月は若干頬を紅く染めて感心したように頷き、幹比古はどう反応したものか困ったように視線を逸らした。

 

 

「すごいな。そんなことまでわかるとは」

 

 オレには全然わからなかった。

 

「へっへーん、アタシならこれくらいのことは少し見ればすぐに分かるわよ」

 

 身内が同じ学校の先輩と付き合っている様子を見て学んだのだろうか。 

 

 ガンッ!

 

「……なぜ蹴るんだエリカ」

「いやなんかシンヤ君が失礼なことを考えていると思って」

 

 いつの間に読心術を会得したんだ。

 

「…お前の気のせいだ」

「どうだか…………あっ、ところでシンヤ君はどうなの?」

「どうって……何がだ?」

「またまた、とぼけちゃって~」

 

 このこの~と、エリカがニヤニヤしながらオレの脇腹を肘で突く。

 

「もちろん、九校戦で会った三高のお三方のことよ」

「……お前が望んでいるようなことは何もないぞ」

「またまた~、ご冗談を!ダンスパーティーで一緒に踊ったりしてさ~」

「何でそれを……って、見てたのか」

「一色さんとかは有名人な上に師補十八家の令嬢だからかなり注目されてたわよ。あそこにいた男子の多くがシンヤ君に嫉妬してたし」 

 

 そういえば踊ってるとき、いろんなところから降り注ぐ視線に僅かに身の危険を感じたな。  視線なら七草会長と踊った時もそうだったが、振り回されて疲れてたから気にならなかった。

 

「エイミィなんかそのことをずっと気にしてて、食べようとしていたケーキポロポロこぼしてたんだから」

「わあ!それは言わない約束だったはずだよ、エリカ!」

「そうだっけ」

 

 デジャブを感じる。

 

「この前も言ったが、オレとあいつらはそういう関係じゃないぞ」

「予想通りの返答ね。照れ隠しとかじゃなくて?」

「ああ、どうして沓子がオレに懐いてるのかも皆目見当つかない」

「犬みたいな扱いね」

 

 沓子はオレのなにかに興味深々なだけだろう。他の二人もなんとなく気づいてるようだし。

 

「えっと…………確認だけど、シンヤは誰かと付き合ったこととかあるの?」

 

 幹比古から変な質問された。

 基本的に彼女がいないイコール情けない、が通説の男子としては悲しい限りだ。あまり気持ち良く答えられるわけじゃないが、美月やエイミィ、エリカの視線が熱く注がれる。美月とエイミィはともかくエリカは完全に遊んでいるとしか思えないような態度だ。

 

「逆に問うが幹比古はあるのか?」

「………えっと…………ごめん」

 

 なんかものすごく気まずくなった。

 

「つまりシンヤ君はミキ同様彼女ができたことはないと?」

「………悲しいことにな」

「僕の名前は幹比古だ!」

 

 幹比古のツッコみを「はいはい。知ってるから」とエリカは適当にあしらい、オレに次の質問をしてきた。

 

「それじゃあシンヤ君は誰かと恋人になりたいとかの願望はあるの?」

「なんでその質問は?」

「いやーシンヤ君欲とかなさそうだからなんとなく気になってねぇ?」 

 

 随分と踏み込んだ質問だが、エリカのやつ完全に遊んでるな。正直に答えないと散々弄られそうだ。

 

「……そうだな。多分あると思う。オレが誰かを好きになって、その誰かもオレのことを好きだったら…………可能性は低いが」

 

 好きになってみたい、と思ったことはある。その機会が訪れていないだけだ。

 

――――あるいは。

 

 オレの心には『恋心』なんてものは、最初から存在しないのかも知れないが。

 男だとか女だとか、生物学的な違いは理解していても、その先が真っ暗だ。あの場所において、それが常識だったように。

 結局オレは、あそこを出てもなお、やはりあの中にいるのだろう。

 

「どうしたのシンヤ君?急に黙り込んじゃって…」

「ん?いや、改めて口にすると恥ずかしくなってな」

「せめて恥ずかしがってる素振り見せてよ。弄りがいがない」

「え、エリカちゃん!」

「冗談だって……それにしても、ふーん、そっかそっか」

 

 ニヤニヤとなにか企んでるような笑みを浮かべるエリカ。これ以上ここにいたら弄り倒されそうだ。

 

「眠くなってきたからもう部屋に戻る」

「あっ、うん、おやすみ」

「おやすみなさい」

「また明日ねぇー」

「おやすみ」

 

 その場を離れてオレは寝室へと向かった。

 

 

♢♦♢

 

 次の日、何故か朝から熱い熱い闘いが繰り広げられていた。

 

「お兄様、お背中を。日焼け止めを塗りますので」

「達也さん、ジュース、飲みませんか?」

 

 刺すような日差しが照り返す白い砂浜で、達也の両脇にピッタリと張りつく光井と司波妹がおり、燦々と輝く真夏の太陽にも負けない熱い戦いを繰り広げていた。

 

「雫がジェットスキーを貸してくれるそうです。乗せていただけませんか?」

「少し沖に出るとダイビングスポットがあるそうですよ?」

 

 そんな3人の様子を、他の面々も若干の呆れを含む顔で遠巻きに眺めていた。美少女2人に囲まれる達也の姿に普通ならば嫉妬の1つでも沸き上がりそうなものだが、オレもレオも幹比古もむしろ達也に同情する気持ちの方が強かった。

 

「エリカ、これは告白が成功したってことなのか?」

「ううん。告白自体は駄目だったけど、達也くんが他の誰かを好きになるまでは自分も好きなままでいるんだってさ」

「健気だな」

 

 話の内容からして、まるで達也はどうも誰かを好きになったことがないようだ。

 オレと同じってことなのか?

 

「あ、あの……シンヤ君」

 

 横からエイミィが躊躇いがちに声を掛けてきた。

 

「どうした?」

「え、えっとね…………来週とか、暇?」

「特に予定とかないな」

 

 

 

「だったら…………その、今度どこかに一緒に遊びに行かない?」

 

 





アニメの綾小路激ヤバですね。
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