魔法科高校の事なかれ主義の規格外(イレギュラー)   作:嫉妬憤怒強欲

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第四話 不穏な影

「――以上が、剣道部の新歓演舞中に剣術部が乱入した事件の顛末です」

 

 闘技場での捕り物騒ぎから2時間ほど後。達也の姿は、部活連の本部として使われている広い部屋にあった。数十人は座れるようにテーブルや椅子が用意されているが、達也が立つ部屋の中央は椅子もテーブルも取り払われており、妙にだだっ広く感じるのが正直な印象だった。

 

 そんな達也の報告を聞くのは、3人の生徒。

 

 生徒会長である七草真由美、風紀委員長である渡辺摩利。

 

 そして、全クラブ活動の統括組織、部活連の会頭である十文字克人だった。分厚い胸板に広い肩幅、制服越しでも分かる隆起した筋肉は、肉体だけでなく彼を構成するすべての要素が桁外れに濃い存在感を放つ、まるで巌のような人物である。

 

 生徒自治の象徴である生徒会・風紀委員・部活連の長であるこの3人は、第一高校で最も有名な生徒であると同時に校内随一の実力者ということで、他の生徒達から“三巨頭”と呼ばれている。

 

「仲裁に入らなかったのは、両者が主張している問題の現場を見てなかったからです。それに、怪我程度で済めば自己責任だと判断したからです」

「なるほど……適切な処置だな。それで、十文字。風紀委員としては桐原を追訴するつもりは無いが、お前は如何だ?」

 

 摩利はそう言って、隣にいる克人に話を振った。

 そして克人はゆっくりとした動きで彼女へ顔を向け、口を開いた。

 

「寛大な決定に感謝する。殺傷ランクBの魔法をあんな所で使ったのだ、本来ならば停学処分もやむを得ないところだった。それは本人も分かっているだろう。今回のことを教訓とするよう、よく言い聞かせておく」

「頼んだぞ」

「でも剣道部はそれでいいの?」

「挑発に乗って喧嘩を買った時点で同罪だ。文句をつけられる筋合いじゃない」

 

 真由美の懸念を摩利がバッサリと切り捨てた。

 

「まぁ、誰もこれといったケガはないから、お咎め等は特にない。これからは十分に気をつけてくれ」

「……はい」

 

 そして摩利は最後に質問した。

 

「……最後に一つだけ確認だ。魔法を使用したのは桐原だけか?」

「そうです」

 

 正確には魔法を発動出来たのが桐原のみなのだが、達也は余計な事は口にしなかった。

 

「分かった。ご苦労だったな。もう下がってもいいぞ」

「失礼します」

 

 摩利からの命令に了解の返事をする。そうして達也は部屋を出ていき、残ったのは最上級生3人だけとなった。

 

「今回の件、具体的にはどうするつもりなんだ?」

「部活連会頭として剣術部に“指導”を行い、再発防止策を検討する。しかしそれよりもまずは、桐原本人と剣術部部長、そして剣道部部長と壬生を同席させて謝罪の場を作ることだな」

「大丈夫なのか? 今の剣道部と言えば――」

「今回の件に関しては、全面的にこちら側に非がある。その件とは切り離して考えるべきだ」

「……確かに、その通りだな」

 

 納得したように何度も頷く摩利だが、唐突に「それにしても」と話題を切り替えた。

 

「殺傷ランクBの魔法をいとも簡単にあしらうとはな」

「何か対処法でもあるのかしら?」

「私は知らん……十文字は如何だ?」

「俺も知らんな。現場を見ていた生徒に聞いてみたら如何だ?」

「それが、高周波ブレードの不快な音の後に、それ以上の何かが聞こえてきて気持ち悪くなったとしか……」

「そういえばちょうど同じ時間帯に体育館近くにいた狩猟部の生徒たちが気分を悪くして保健室に運ばれたって報告があったな――――」

 

 

 

 

♢♦♢

 

 

「こんな時間まで待たせて悪かったな。お詫びもかねてここは俺の奢りだ。遠慮なく食べてくれ」

「じゃあ遠慮なく!」

「「いただきます!」」

 

 昇降口の傍で達也の事を待っていたオレたちは、達也と合流後、昨日とは別のカフェで軽い食事をしながら今日起きた出来事についての体験談について話していた。

 

 その中で最も話の関心をひいたのは第二体育館での乱闘騒ぎだった。

 

「そう言えば達也、剣術部の相手は殺傷ランクBの魔法を使ってきたんだろ? 良く無事だったな」

「『高周波ブレード』は有効範囲の狭い魔法だからな。触らなければ如何とでも対処出来るさ。刃に触れられないだけでそれ以外は真剣相手と変わらないからな」

「良く切れる刀と対処は変わらないさ」

「でもそれって、真剣を振り回す人を素手で止めようとするのと同じってことでしょう?危なくなかったんですか?」

 

 レオがお菓子をつまみながら達也に質問する。達也はなんでもないように答えるが、美月はやや心配げな視線を向けていた。

 

 ちなみにレオが言った殺傷性ランクとは、警察省が定めている魔法の危険度分類で、

 

 殺傷性ランクA

 一度に多人数を殺害し得る魔法

 

 殺傷性ランクB

 致死性のある魔法

 

 殺傷性ランクC

 傷害性はあるが致死性は無い、または小さい魔法

 

と、いった感じで別れている。

 

「……達也さんの技量を疑うわけじゃないんだけど、高周波ブレードは単なる刀剣と違って、超音波を放っているんでしょう?」

「そういや、俺も聞いたことがあるな。超音波酔いを防止するために耳栓を使う術者もいるそうじゃねぇか。まっ、そういうのは最初から計算ずくなんだろうけど」

「そうじゃないのよ。お兄様はただ体術が優れているだけじゃないの」

 

 美月とレオの懸念に応える達也の妹の表情は、失笑を堪えているようだった。

 

「魔法式の無効化は、お兄様の十八番なの」 

 

 達也の妹の言葉にエリカがすかさず食いついた。

 

「魔法式の無効化?情報強化でも領域干渉でもなくて?」

「ええ」

 

 得意気に頷く妹と「仕方ないなぁ」という顔で笑っている達也。

 そこで、オレは自分の中で考えうる一つの答えを呟いた。

 

「キャストジャミングか……」

「良くわかったな、シンヤ。その通りだ」

 

 達也が飛び出した後、僅かに乗り物酔いみたいな感覚に襲われた。オレはそこまで酷くなかったが、あの時周りには気持ち悪くて立ってられない生徒も居た。

 

「キャスト・ジャミングってあれでしょ?確か魔法の妨害電波の事よね?」

「電波じゃねぇけどな」

「ものの例えよ! でも確か特殊な石が必要なのよね。えっと……アンティ何とか」

「アンティナイトよ、エリカちゃん」

 

 名前が出てこなくてテキトーに誤魔化したエリカを、美月がフォローした。

 

「そうそれ!アンティナイト」

「達也さん、アンティナイトを持ってるんですか? あれってかなり高価なものだったと思うのですが……」

 

 アンティナイト……四系統八種全ての魔法を妨害することのできる想子ノイズを発生させることができる鉱石。産出量が少ないために宝石よりもかなり高価であり、国家指定の稀少軍事物資として厳重に管理されている代物だ。とても一個人で持てるようなものではない。

 

 キャスト・ジャミングを使うにはアンティナイトが不可欠、この事は常識だと思っていた美月は、達也がアンティナイトを所持してるものだと思いこんでいたが……

 

「いや、持ってないよ。価格以前にあれは軍事物資だからね。一般人が持てるものじゃないさ」

「でも、キャスト・ジャミングを使ったんでしょ?」

 

 今度はエリカの質問に、達也は身を乗り出して答えた。

 

「これはオフレコで頼みたいんだが、俺が使ったのはキャスト・ジャミングの理論を応用した、特定魔法のジャミングなんだ」

 

 達也の発言を聞いて、レオもエリカも、美月でさえも言葉が出ない様子だった。その三人を、妹の方は面白そうに見ているのを見て、達也は思わず苦笑いを浮かべた。

 

「えっと……そんな魔法あったか?」

「無かった……と思いますけど」

「それってつまり、新しい魔法を理論的に編み出したって事じゃない?」

 

 漸く反応を示した三人に、達也は再び苦笑いを浮かべながら否定した。

 

「編み出したと言うよりは、偶然発見したって言った方が確かなんだけどな…………ちなみにだが、シンヤはどうやったのかわかるか?」

「………」

 

 最近達也はオレに話を振ってくる回数が多い。本人はオレが人と話すのが苦手なようだから気遣ってるつもりなのかあるいは…………

 

「さあ、あのとき俺には達也が両腕につけてたCADを同時に使ったようにしか見えなかったが……」

 

 ここは適当に誤魔化すことにする。

 

「そこまで見えてたとはな……二つのCADを同時に使おうとすると、サイオン波が干渉して殆どの場合で魔法が発動しないのは知ってるよな?」

「ああ、知ってるぜ。前に試した事がある」

「うわっ、身の程知らずね」

「なんだと!」

「エリカちゃん、レオ君も今は達也さんの説明の続きを聞きましょ?」

「俺としては此処で終わらせても良いんだが。 それで、このキャスト・ジャミングもどきは、その干渉波を利用して使うんだ。一方のCADで妨害する魔法の起動式を展開し、もう一方のCADでそれとは逆方向の起動式を展開、その二つの起動式を魔法式に変換せず起動式を複写増幅し、そのサイオン信号波を無系統魔法として放つことで、各々のCADで展開した起動式が本来構築すべき二種類の魔法式と同種類の魔法式による魔法発動をある程度妨害出来るんだ」

 

 達也の長々とした説明を、三人はポカンと口を開けながら聞いていた。

 

「おおよその理屈は理解できたぜ。だがよ何でこんなスゲェ事をオフレコにしたがるんだ? 特許を取れば儲かりそうなんだがな」

 

「オフレコの理由は二つ。ひとつはこの技術がまだ未完成だということ。二つ目には、アンティナイトを使わずに魔法を妨害できる仕組みそのものが問題なんだ」

 

 アンティナイト自体古代文明の遺産であり、産出量が極めて少ないことから現実的な脅威になっていない。だが、達也がやった方法が技術化されれば魔法師の社会基盤そのものが揺らぎかねない、と説明した。

 

「そんな事まで考えてるなんて……」

「新しい魔法を生み出したんだぜ? 俺だったら目先の利益に飛びついちまうだろうがな」

「達也さんはしっかりと先を見据えてるんですね」

 

 三人が感想を言った後、今まで黙っていた達也の妹が笑いを堪えているような感じで言う。

 

「お兄様は少し考えすぎです。そもそも、相手が展開中の起動式を読み取るだなんて、誰にでもできることではありませんし。ですが、それでこそお兄様です」

「それは暗に、俺が優柔不断のヘタレだと言ってるのか?」

「お兄様は優柔不断でも、ヘタレでもありません! そんな事を言うなんて、例えお兄様本人でも許しませんよ!」

「冗談に本気で返されるとな。本当にそう思われてるんじゃないかと疑ってしまうぞ?」

「ですから、お兄様はそんなんじゃありません! これは深雪がはっきりと断言してさしあげます!」

 

 また始まったか…………このブラコンシスコン兄妹が作り出す雰囲気は甘すぎて胸焼けおこしやすい。

 即席キャスト・ジャミング説明を聞いたオレは、ブラックのコーヒーを啜りながら今後のことを考えていた。

 

 

♢♦♢

 

 

 新入生勧誘期間、最終日の事だった。

 

 エリカを連れて走った時の姿を見られ、オレは多少陸上部とかから勧誘は受けたが部活も正直したことがないから、勝手も分からないといことで断り、猛ダッシュで逃げた。

 結局あんなものは一過性のもので、いつまでも続くような熱じゃない。陸上部の連中ももうオレのことは話題にもしていないだろう。山岳部に入部したレオやテニス部に入部(幽霊部員として)したエリカからも『勿体ない』と言われたが、足が速くても部活に興味がなければ意味が無いわけだ。

 

 というわけで、どのクラブにも所属せず帰宅部となったオレは、その日特に予定がなかったため、達也と色々と回っていた。

 

「それにしても疲れてる様子だな、達也」

「あぁ、誤爆のふりをした魔法攻撃が何度もあって大変だ」

「人気者は辛いな」

 

 新人勧誘週間も終わりに差し掛かってるにも関わらず、相変わらず達也は風紀委員の仕事で奔走していた。

 

 闘技場での一件により、達也の存在が学校中に知れ渡ることとなった。一科生を10人近く相手にしながら一切怪我を負うことなく無力化したその実力が、公に認められた証拠と言えるだろう。

 だがその所為で一科生から目の敵にされ、度々嫌がらせを受けてるとのことだ。

 二科生相手にムキになってる時点で負けを認めてるって分からないのか?

 ま、明日にはデバイス携帯制限も復活するだろうから学内ではもうそんなこともできなくなるか。

 

「……はい、分かりました、すぐ向かいます。悪い、仕事だ」

「分かった。それじゃあ達也、逝って来い」

「……なんか字が違う気がするんだが」

「気のせいだ」

 

 達也は無線からの知らせに返事をして、その場から移動する。

 オレもやることがあるため、その場をあとにするのだった。

 

 

♢♦♢

 

 

 巡回してる場所の近くで乱闘騒ぎが勃発したと連絡を聞いた達也は、現場まで向かってる途中、木の陰から魔法発動の気配を感じ取った。

 

「(サイオン光、狙いは俺を転ばせる為に地面を陥没か……陰湿さが増してるな)」

 

 嫌がらせも初めの方は直接攻撃だったのに、最近ではこうやって周りのものを使って攻撃してきたりするようになっていた。 

 

「ッ!?」

 

 キャスト・ジャミングもどきで相手の魔法を無効化し、達也は術者の方に向かう。それに気付いたのか、術者が木陰から猛スピードで逃げ出したのだ。 

 

「自己加速術式、この場での追跡は難しいか……」

 

 達也の技術なら追えない事も無いが、敵意剥き出しの観察者の他にも、三人ほど自分の事を見てるのに気付いている達也は、おいそれと自分の力を見せる訳にはいかなかったのだ。

 

「(キャスト・ジャミングもどきは兎も角、本来の魔法を使ったらもどきどころの騒ぎじゃなくなるからな……最悪学校を辞めなければならなくなる)」

 

 達也本人としては、そこまで学校に執着してる訳では無いのだが、深雪が通ってるのに自分が辞めるなんて事になったら暴走するかも知れないのだ。

 

 兄としても妹が暴走する原因をなるべくなら取り除きたいので、達也は今回の追跡を諦めたのだった。 

 

 だが、襲撃者の腕に巻かれていた、赤、青、白で彩られたリストバンドを、達也はしっかりと見ていた。

 

 

 

 

 

「これなら部活が決まってるって分かるだろうしね」

「うん、それに制服だと汚れちゃうし」

「汚れるのは一緒だと思うよ……」

 

 達也が襲われる少し前、屋上から達也を観察している三人の少女が居た。

 

「ターゲットは……おっ、発見!」

「達也さん忙しそうだね」

「うん……」

 

 二人はSSボード・バイアスロン部のユニフォームで、もう一人は乗馬スタイルと言った不思議な格好をしていた。

 

「なんか、私たちお兄さんのストーカーみたいだね」

「す、ストーカー!?」

「違うよエイミィ!? 私たちは達也さんが襲われないか監視してるだけで、決して付き纏ってるとかじゃないからね!?」

「う、うん……分かってるけど、何で二人はそんなに慌ててるの?」

 

 自分で言っておきながら、エイミィと呼ばれた乗馬スタイルの小柄な赤毛の少女はそれほど自分たちがストーカーだとは思っていなかったのだが、バイアスロン部のユニフォームを着たほのかと雫が過剰に反応した為に、「あっ、これストーカーだと思われても仕方ないかな」と思い始めたのだった。

 

 彼女たち三人はこの数日、部活動勧誘に紛れて行われているとある行動について調査していた。すなわち風紀委員、司波達也に対する暴行未遂行為についての証拠集めだ。

 

 部活動勧誘週間が始まって早々、なかなかに強引な勧誘をOGから受けた雫とほのかはSSボード部への入部を決めた。同じく狩猟部へと入部を決めていたB組のエイミィ(アメリア=英美=明智=ゴールディ)とも知り合い、平穏ではないもののそれなりに充実した学校生活をスタートさせていたのだが、少々ならず見過ごせない事態を目撃してしまったのがきっかけ。

 

 ほのかの愛慕する深雪の兄である達也。

 

 二科生でありながら風紀委員となった彼は、活動初日から二年生でもトップクラスの剣術部のエースを倒したり、並み居る一科生たちを圧倒したりと大活躍をみせた。

 

 例年であれば、風紀を取り締まる職務の風紀委員は腕っ節に優れている必要があることから一科生のみが努めていた。つまり一科生が一科生を、もしくは二科生を取り締まる権限を持っていたのに対して、二科生が一科生を取り締まる権限を持っていなかった。勿論必要であれば一科生の風紀委員も一科生を取り締まっていたのだが、変に差別意識を有しているとそれは一方的に二科生が冷遇されているとも、一科生としての特権としても見ることができた。

 

 つまり二科生でありながら風紀委員に任じられ、力でもって一科生を圧倒することのできる達也は変な選民意識の根付いた一科生にとって明確に目障りだったのだ。

 

 結果、達也は職務中に魔法の暴発に見せた意図的な流れ弾を向けられまくった。

 雫やほのかが目撃したのは、そんな“不幸な”流れ弾を達也が事も無げに躱している場面だった。

 すぐに事情を察することができ、回避の様子からも達也がとても強いということはわかったのだが、万一でも達也が傷つくことがあれば深雪が悲しむということで、ほのかが心配し、エイミィが提案する形で始めたのが少女探偵団もどき。

 すなわち達也が意図的に職務を妨害されて魔法攻撃を受けている証拠を確保して生徒会ないし風紀委員会に通報するというものだった。

 

「! サイオン光!」

「場所は……あ、あれ?」

 

 達也の周りにサイオン光が現れたと思った次の瞬間、その光は霧散した。

 

「居た! あそこの木陰!」

「駄目だ、間に合わない……」

「でも、顔はバッチリ見えたよ!」 

 

 襲撃者を捕らえる事は無理だったが、顔を見れたのは大きな収穫だった。

 

「それにしても、さっきのはキャスト・ジャミングだったよね?」

「うん、雫の家で見せてもらったのと同じだった。でも、達也さんがアンティナイトを持ってるようには見えないんだよね……」

 

 先日達也のクラスメイトには説明した技術を、ほのかも雫も知らないのでこの疑問は当然だった。キャスト・ジャミングを使うにはアンティナイトを持ってなければいけないと言うのは常識だからだ。

 

「それにしてもあの襲撃者、何処かで見たような気がするんだよね」

「でも、何処でだっけ……」

「生徒会なら分かるかも」

「思い出した! 剣道部の主将だ!」

「それじゃあ生徒会で確認すればいいんだね」

 

 生徒会室に居る深雪に手伝ってもらえれば、すぐにでも達也を襲った犯人を確定する事が出来る。出来るのだが……

 

「その事を如何やって深雪に伝えればいいの?」

「もし達也さんが襲われたって素直に言ったら、特定した時点でその人の身が危なくなるよね……」

「でも、自業自得だよ?」

「でも、達也さんはそんな事望んでないと思うの!」

「司波さんって、そんなに危険なの?」

「普段はそうでも無いけど、達也さんの悪口とか言われると……まえにそれで教室が氷漬けになったことがあった」

「深雪は感情が制御出来なくなると魔法をCAD無しで発動しちゃうって言ってたね」

「え?」

 

 雫とほのかの雰囲気から、冗談では無く本気で深雪は犯人を氷漬けにしてしまうのだろうと察したエイミィは、他の手段を提案する。

 

「それなら、他の部活動も気になるから、何か資料を見たいって言うのは如何かな?」

「それなら疑われ無さそうだけど……」

「もう私たちはクラブ決めちゃったって深雪に話しちゃったし」

「OGの問題行動に巻き込まれたんでしょ? 現部長が問題無いか気になったとか言えば大丈夫だよ、きっと」

「そんな無責任な……」

「でも、他に方法は無さそう」

 

 エイミィの無責任な発言に呆れ気味のほのかと、意外と乗り気の雫を見て、エイミィは無邪気に言い放つ。

 

「ほのか、女は度胸だよ!」

「分かったよ……」

 

 良く分からない説得に負け、ほのかは生徒会室に行く事を決めたのだった。

 

 

 

♢♦♢

 

 

 

 新入生勧誘期間も終わり、狂乱とも呼べた熱気も収まってようやく普段の日常が戻ってきた。

 

「達也、今日も委員会か?」

「いや、今日は非番だ。新入生の勧誘期間も終わったし、久し振りにゆっくりできそうだよ」

 

 ここ1週間は授業が終わるやすぐさま教室を飛び出していた達也も、今日は授業が終わった後も教室に留まり、落ち着いた動きで帰り支度の準備をしている。

 

「いまや有名だもんな、魔法も使わずに上級生をなぎ倒す謎の一年風紀委員って」

「何だよ、その『謎の』ってのは」

「一説によると、達也くんは魔法否定派に送り込まれた刺客みたいだよ?」

「2人共、他人事だと思って……」

 

 ニヤニヤと面白そうに軽口を叩くエリカとそれに悪ノリするレオに、達也はうんざりしたように溜息をついた。この2人ほんとに息ピッタリだな。

 

「…さてと」

「あれ?達也君何処か行くの?」

「深雪の所だよ、俺は非番でも深雪は生徒会の仕事があるからな」

 

 そういい達也は教室を出ていった。

 

 

 暇を見ていくつものメールを確認した後、オレも帰り支度の準備をする。 

 そしてそのタイミングでメール着信を告げる音が鳴った。 

 

「誰だ?……学園のマーク、教師からか?」

 

 誰が何の用だかは知らないが、学園のマークがある以上無視する訳にはいかない。オレは諦めてメールを開くと、そこには今すぐカウンセラー室に来てほしいと書かれていた。

 

 

 

 

 

「失礼します」

「どうぞ」

 

 保健室の主であるカウンセラーの女性・小野遥はニッコリと柔らかい笑みを浮かべていた。

 現在の彼女の姿はオリエンテーションの時とは違い、スーツのボタンが胸元まで開けられて意外にも豊満な胸の谷間がよく見え、しかもスカートは膝上までのかなり短いものなのでストッキングに覆われたスラリと長い脚が惜しげも無く披露されている。さらに彼女はその長い脚を組み、少し屈めばスカートの中が覗けるのでは、と思わず妄想を掻き立てられる姿勢で椅子に腰掛けている。

 こう言ってはなんだが、思春期の男子を誘惑する保健室の先生を体現しているな……。

 オレはひたすらに心を無にする。嗚呼……世界は今日も平和だ……。

 

「如何かしたの?」

「己との戦いに没頭していました」

「?」

 

 凝視していたらまた、己との戦いに臨むことになりそうだったので、ひたすらに心を落ち着かせることに専念する。

 

「それで、どうしてオレが呼ばれたんですか?」

「有崎君には私たちの業務を手伝ってもらおうと思いまして」

「業務?」

「ええ…カウンセリング部の業務です。生徒のみんなの精神的傾向は、毎年変化しているわ。例えば3年前の佐渡侵攻事件での勝利以降、一人称に“自分”を使う生徒が増えたようにね。そうやって社会情勢の変化が生徒のメンタリティにも影響を及ぼすから、毎年度新入生の生徒の中から1割くらい無作為に選んで、カウンセリングを受けてもらってるの」

 

 つまりオレは、色んな生徒の中の1人として選ばれたわけか。もっともすぎて逆に胡散臭いな。

 

「それで、データを取るためだけにどれくらい聞くんですか?」

「カウンセリングでは他人のプライベートに深く関わることもあるんだけど、勿論答えたくないことには答えなくていいわ。ただもし悩みとかがあるんだったらできるかぎり力になるわよ」

「………はぁ」

 

 今のオレの悩みは今目の前で先生の格好が刺激的すぎて困ってることなんだが……

 

 そんな遣り取りを交わした後、カウンセリングが始まった。当たり障りの無い質問から少し踏み込んだ質問まで、答えようか迷う素振りなどは見せずオレは適当に答えた。

 

「はい、それじゃ質問は以上です。こんな時間まで付き合ってくれて、ありがとうね」

 

 やっと終わったか。正直話してる最中に脚を組み替えたりとかしてくるのは目に毒だった。

 

「そうそう、コレとは別に聞きたい事があるんだけど」

「何です?」

「生徒会長の七草さんと付き合ってるってホント?」

「何処からそんなデマが……」

 

 急に嬉々とし始めた小野先生を見て、オレは盛大にため息を吐いた。いくら教師とは言え女なんだな。

 

「デマなの?けどこの前の朝、二人が腕を組んで登校したって話を聞いたのだけれど」

「あれは会長の悪ふざけですよ。あの人は普段猫かぶって――あいたっ!?」

 

 突然、後頭部に衝撃が走った。何かで後頭部を殴られた感覚だが、そのような物体は一切見られない。

 

「?どうしたの?」

「いえ、なにも」

 

 まさかな……

 

「とにかく彼女はオレが入試試験で意図的に点数を揃えたんじゃないかって疑ってるみたいで」

「その話は職員室でも少し話題になってけど……違うの?」

 

 どうやら目の前のこの女も疑ってるようだな。

 

「偶然ですよ…………それはそうと先生に少し質問してもいいでしょうか?」

「ん?なにかしら?」

 

「実は新入生勧誘週間の間いくつかのクラブを回ってみたのですが、いくつかの非魔法系クラブの部員の多くが腕に変なリストバンドをつけてるのを見かけたんですが、この学校、部活連以外になにかグループがあるのですか?」

 

 何気なく聞いたオレの質問に、小野先生の肩がピクリと跳ねた。

 

「さ、さあ…そう言った話は聞いたことないわね。それに三色のリストバンドをつけてる生徒がいるなんて全然気づかなかったわ」

「…そうですか。それじゃあ失礼します」

「あ、うん…それじゃあお疲れ様」

 

 これ以上有益な情報は聞きだせないだろうと思い、オレは一礼してカウンセラー室を退出した。

 

 

 

 

 

 

 

「まさか”彼ら”の存在に気付くなんて……、これはちょっと注意が必要かしら……」

 

 

 

 




ごめんなさい。ネタバレ防止とはいえ話の流れが雑になってしまいました。
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