魔法科高校の事なかれ主義の規格外(イレギュラー)   作:嫉妬憤怒強欲

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第六話 蜂起

 ──この世界は、平等ではない。

 

 

 以前、国語辞典で『平等』の意味を調べてみたのだが、そこには『差別や偏りなくみな一様に等しいこと』と書かれていた。

 しかしオレは腑に落ちなかった。次の疑問が湧いたからだ。

 ──そもそもの話、どこでひとは『平等』であると判断するのだろう。

 大学進学したら平等であるのか。

 異性と結婚し、子どもを産み、最期の瞬間は大勢の人たちが見守る中で逝くのが平等であるのか。

 あるいは、この世に生を授かるだけで平等であるのか。

 いや、違うかもしれない。

『平等』なんて言葉がある時点で、ひとは決して『平等』ではないのだ。

 嘗ての偉人は『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず』という立派な言葉を混沌とした世の中に生み出した。けれどなにも、その偉人は皆が平等であると明記したわけではない。

 有名すぎるこの言葉の次にはまだ、まるで自らの論説を裏切るかのようなフレーズが記されているのだから。

 その続きは訳すとこうだ。

 産まれた時は皆平等だけれど、将来、仕事や身分で違いが出てくるのはどうしてかと訴えている。

 さらには、こうも続いている。

 差が生まれるのは学問に励んだのか励まなかったか否か。それで生まれると。

 それが、有名すぎる『学問のすゝめ』の著者、福沢諭吉が語った言葉だ。

 つまり彼は、スタートラインはあくまでも同じであり、様々な可能性をその手で摑めるか否かは自分の手に掛かっており、他人や環境には左右されないと言ったのだ。

 

 その例として学問を述べたにすぎない。

 また彼の他にも、似たような言葉を放っている偉人がいる。

 そのひとはこう言った。

 人間の運命は人間の手中にある、と。フランスの哲学者サルトルは奇しくも福沢諭吉とほぼ同じように考えたのだ。

 兎にも角にも、人間はこの地球上、唯一の意思ある生物だ。

 考えることが出来る人間は必ず気付く。

 

 ──嗚呼、人は決して平等ではない。

 

 だからこそひとはその現実を受け入れるわけにはいかず、様々な問題を自分で生み出していくのだ。

 環境問題しかり、戦争しかり。

 醜い欲望は際限なく湧き、やがてじわじわと世界に浸透していく。けれど不思議なことに、その欲望が同時に世界を前へ前へと進出していくのだから皮肉なものだ。

『平等』ではないからと、人は過ちを繰り返す。 

 

 ただ──『平等』を目指すために。

 

 

 

 

 

♢♦♢

 

 

 

 4月21日。

 

『全校生徒の皆さん!僕達は、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です!』

 

 シンヤが暴漢たちを撃退し、ほのかたちを無事に駅に送って三日が経った。嵐の前の静けさというが、今は嵐が過ぎ去った後だ。今の状況は嵐の後には静けさが訪れる、と表現するのが正しいだろう。

 だが平穏な学校生活は、その日放課後の突然の騒音とともに破られた。

 

『魔法教育は実力主義、それを否定するつもりは僕達にもありません! しかし校内の差別は、魔法実習以外にも及んでいます! 僕達は魔法師を目指して魔法を学ぶ者ですが、それと同時に高校生でもあります! 魔法だけが僕達の全てではありません!僕達は生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します! この要求が受け入れられるまで、僕達は放送室から出るつもりはありません!』

 

 音量調整に失敗して音割れした大音声がスピーカーを通して校舎全体に響き渡ったそんな台詞とともに告げられたのは、有志同盟を名乗る一団による放送室の占拠と学校における差別撤廃を目指すことの宣言であった。

 当然風紀委員と生徒会にとっては彼らが起こした今回の騒ぎを容認することはできない。これを許してしまっては、自分達の主張を通すためにルールを無視した強引な手段を取ることが横行してしまう。よって風紀委員は彼らを取り押さえようとしたのだが、あろう事か生徒会長である真由美がそれを止めてしまったのである。

 彼女は学校側と話し合い、今回の騒動に対する措置を生徒会に委ねることを了承してもらった。結局彼らは見逃され、真由美との交渉に息巻く姿を風紀委員達が見送ることでその場はお開きとなった。

 

 

♢♦♢

 

 

 4月22日。

 

 昼休みになったばかりの図書館は意外な穴場だったりする。館内での食事を禁止されているため、昼食場所としては利用できないからだ。当然利用者は数名しかおらず、用事をスムーズに終えることのできたオレは食堂に続く廊下を歩いていた。

 

 すると前から見知った顔がやってくる。

 

「あ……」

「あら……シンヤ君?」

「……」

 

 オレに気付いた七草生徒会長が笑顔で駆け寄ってくる。

 

「こんにちはシンヤ君。今から昼食なの?」

「どうも。今日は先に図書館に行く用があったので……」

「あら?シンヤ君も図書館を利用するのね」

 

 会長の中でオレのイメージどうなってるんだ?

 

「たまたま調べ物があそこにあったので……それより結局昨日の騒ぎはどうなったんですか?」

「やっぱりシンヤ君も気になるのね……彼らの要求は『一科生と二科生の平等な待遇』。でも何をどうしたいのか具体的なビジョンは全く持ってないみたい。むしろ具体的な案は生徒会で考えろって感じだったわ」

「放送室を不法占拠した割にはいい加減な連中ですね」

「まあね。それで結局、押し問答みたいになってね?明日の放課後、公開討論会をすることになったの」

「公開討論会?」

「体育館で彼らとディベートをするの。生徒会からは私が出るわ」

「随分と急ですね」

 

 だが賢い選択だな。時間がほとんど無い状況で下手に打合せなどすれば、少々の意見の食い違いから揚げ足を取られることになる。

 

「善は急げってね!相手の考えを聞くには良い機会だし、単純な論争なら負けないもんね」

 

 あれ?なんか遊ぶのを心待ちにしているみたいだ。

 

「……会長。もしかして楽しんでませんか?」

「そうね。もしあの子たちが私を言い負かすだけのしっかりとした根拠を持ってるのなら、これからの学校運営に役立てるじゃない?」

「……成程」

 

 まるで言い負かされるのを期待しているような感じだが、それは本気でこの学校をより良くしたいという一心からくるものか。

 

 普段猫を被った小悪魔だが、その本質は他者を想うことができる善人のようだ。……オレとは大違いだな。オレはそんな風に『出来た』人間ではない。

 

 オレはこの時、七草真由美という人間に対して、尊敬の念を覚えた。

 

「……オレは会長がこの学校の生徒会長で本当に良かったと思っています」

「え?」

「明日の討論会頑張って下さい」

「あっ、ちょっと…………」 

 

 オレは会長にそれだけ伝え、食堂の方へと歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今のって…………激励してくれたのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

♢♦♢

 

 

 今日の放課後の廊下はいつもの風景と打って変わって勧誘期間並の喧騒を醸し出していた。

 

「頑張ってるな。有志同盟のやつら」

 

 廊下では明日の討論会前に少しでも仲間を増やそうと有志の生徒たちが、他の二科生を対象にして有志同盟への参加を呼びかけや差別撤廃についての演説を行っていた。

 

「明日までに賛同者を出来るだけ多く確保しようとするのは当然のことだからな」

「達也君と一緒に行動してて正解だったわね」

 

 課題を終わらせて帰路につこうとしたシンヤはそんな面倒な勧誘を避けるため、エリカと共に取り締まる側である達也の傍にいた。既に勧誘期間の間に達也の活躍は学校中に知れ渡ってるため、有志同盟はシンヤとエリカに声をかけづらい状態だ。

 

「それにしてもかなりの人数が同盟に参加しているな」

 

 シンヤがポツリと呟く。

 人数的に裏でかなりの規模まで膨らんでいたようだ。見た顔も何人か有志として呼び掛けをしている。

 どうやら元々その“差別撤廃のための有志同盟”とやらは一高内に水面下でかなりの勢力を伸ばしていたらしい。

 

「差別撤廃ね~、二人は明日の討論会について如何思う?」 

 

 エリカの何気ない質問に、有志の生徒たちには聞こえないように小声でシンヤと達也は答える。

 

「正直な話、やる価値もないな」

「同じく」

「お、即答だね。ちなみにその心は?」

「文句なら生徒会にじゃなく、実力主義を掲げながら評価基準が杜撰すぎるこの学校に言えばいい話だが……そんなに評価されたいのなら実績を示すのが先だ。そうじゃないのなら連中の言う『平等な待遇』はそんな惨めな自分を誤魔化すための単なる逃げだ」

「…確かにな。本当の意味で目指してるのなら、こんな行動はとらないだろ。共感してもらえる理想では無いからこうやって同士を集めてるんだろうな」

「……二人とも相変わらず考え方が大人ね」

「「そうか?」」

「アタシたちから見れば、二人の考え方は大人なのよ。高校生ではそんな考え方は出来ないからね」

 

 聞き方によっては、達也とシンヤが高校生では無いと言ってるように聞こえるのだが、決してエリカにそのような意思は無い。達也とシンヤもその事が分かってるので深くは追求しなかった。

 

「で結局のところ、シンヤ君だったら学校内の差別をなくせると思うの?」

「そうだな。例えば――」

「おい達也!」

 

 エリカの質問にシンヤが応えようとしたところで、レオが声をかけてきて中断される。

 

「レオ、如何かしたのか?」

「いやな、廊下で美月が上級生に話しかけられてるんだが、助けた方が良いのかと思って」

「馬鹿ね、自分で助ければ良いじゃない」

「達也なら風紀委員だからある程度穏便に済ませられるかもしれねぇかと思ったんだよ!」

「……そうね、アンタじゃ短絡思考ですぐ暴力に走りそうだしね」

「ぁんだと!」

「なによ!」

 

 また始まった言い争いにため息を吐いた達也だったが、美月の事が気になったのでこの場は放置を決め込む事にした。

 

 

 

 

 

♢♦♢

 

 

 有志同盟の生徒達は一様に青と赤で縁取られた白いリストバンドをつけており、それは魔法能力による社会差別を根絶することを目的に活動する反魔法国際政治団体――ブランシュの下部組織であるエガリテの証であった。

 

 彼らの多くがその意味を知っていて隠す気がないのか、はたまたそのシンボルの意味を知らずにつけているのかは分からない。 

 

 だが確実に平穏な学校生活は破綻しており、本来それを望んでいた俺は、その日の夕食後、妹の深雪を連れ、自宅から少し離れた所にある鬱蒼と生い茂る森の中、そこに隠れるようにしてひっそりとある寺院を訪れていた

 

「やぁ。こんばんは、達也君。深雪君」

 

 二人を出迎えたのは墨染の衣を着た禿頭の男性。この九重寺の和尚、九重八雲だ。

 

「それで、今日は一体何の用かな?」 

「実は、師匠のお力で調べていただきたいことがありまして…………」

 

 そして俺の師匠――宗教の、ではなく体術の師匠でもある。

 

 忍術使い九重八雲。彼自身に言わせると由緒正しい“忍び”だ。

 

 魔術がフィクションや空想の産物ではなく実在すると確認され、魔法へと下ったのと時を同じくして、単なる体術や諜報技術のプロフェッショナルというだけではなく忍術もまた、魔法の一種であることが明らかになった。

 

 無論、空想上の忍術そのままというわけではないが、九重八雲は古式魔法の一分類とされる忍術を今に受け継ぐ“忍び”ではある。

 

「第一高校三年の司甲という生徒について何か知っていらっしゃいませんか?」

「風間大佐経由で藤林のお嬢さんに頼んだ方が早いんじゃないのかい?」

「叔母がいい顔をしませんので」

「なるほど。君たちも大変だね」

 

 俺は師匠に司甲について説明する。

 新入部員勧誘週間に一度だけ俺を襲撃し、クラスメイトである美月を胡散臭いサークルの仲間に引き込もうとした司甲がエガリテのメンバーであることも気付いており、ブランシュにも繋がっていると睨んでいる俺は、ブランシュがどのようなことを目論んでいるのか知る必要があると考えていた。勿論、師匠より的確に情報を提供している人物に心当たりがあるが、諸事情によってそれを使うことは出来ない。

 

 それを理解した師匠は二人を縁側に座るよう勧め、話を始めた。

 

「司甲。旧姓、鴨野甲。両親、祖父母いずれも魔法的な因子の発言は見られず。いわゆる普通の家庭だけど、実は陰陽道の大家、賀茂氏の傍系に当たる家だ」

「俺が司甲の調査を依頼することが分かっていたんですか?」

 

 調査を依頼する為に来ていたのだが、まさか来てすぐに話をするとは思っていなかったが、俺も深雪も然程驚いてはいない。師匠と付き合っていくならばこの程度でいちいち驚いてはキリがないのである。

 

「いや、君の依頼とは関係なく、彼のことは知っていたよ。僕は坊主だけど、同時に、いや、それ以前に忍びだ。縁が結ばれた場所で問題になりそうな曰くを持つ人物のことは、一通り調べておくことにしている」

「俺達のこともですか?」

 

 俺の質問に師匠は楽しげに笑った。

 

「調べようとしたけどね、その時は分からなかった。君達に関する情報操作は完璧だ。さすが、と言うべきだろうね」

 

 俺が師匠を睨み、俺達二人の間に何やら不穏な空気が流れる。

 それを見ていた深雪が慌てて口を挿んだ。 

 

「それで先生、司先輩とブランシュの関係については?」

 

 深雪の雰囲気に、俺達は同時に頬を緩めた。 

 

「甲君の母親の再婚相手の連れ子、つまり甲君の義理のお兄さんが、ブランシュの日本支部のリーダーを務めている。その司一と言う男は表向きの代表だけじゃなくて非合法活動を始めとする裏の仕事の方も仕切っている本物のリーダーだ。一昨日深雪君のクラスメイトたちを襲った暴漢たちは彼の手下で間違いないよ」

 

 師匠の答えはかなり穏やかなものではなかった。

 

 そうするとエガリテのリーダーは弟の甲だろう。だが司兄弟が何を企んでいるのかまでは、師匠も分かっていないらしい。これ以上司について知ることはできないと判断した俺は別件へと話題を変える。

 

「司とは別口でお聞きしたいことがありまして……」

「有崎シンヤ君の事かい?」

 

 これもまた予想していたのか、俺が全て言い終える前にそう言い当てて見せた。だからだろう。師匠ならあいつについて何か知っているかもしれない。俺と深雪はそう期待したのだ。

 

「残念だが、彼についてはパーソナルデータ以上の事は知らないよ」

 

 しかし八雲の口から出た言葉は二人の期待に反するものだった。

 

「…どういう意味ですか?」

「そのままの意味だよ。彼のPDを調べたんだけどね、彼が存在したであろう痕跡が半月より前に殆ど存在しないんだ。しかも、消された跡もない。唯一残ってるのは小学生ぐらいの時に全国音楽コンクールで優勝したことがあるくらいだ……義務教育を受けてる普通の学生ならもっと残るものだけどね」

「あ、あはは……ほんとにピアノをやっていたんですね」

 

 深雪に話していたことは嘘じゃなかったのか。

 ピアノをやっていたことについて本当だとわかったが、今のシンヤの感じからまったくイメージできないのか深雪は苦笑いを浮かべてる。

 正直俺もイメージできない。

 

「あと親族についても調べようとしたんだけどね………両親はなにかの魔法研究所の研究者まではわかったけどそれ以上のことはなにも掴めなかった。今彼が住んでるアパートも半年前から自分の名義で住んでいて、家賃も毎月欠かさず払ってるよ」

「……」

 

 あの九重八雲が手に入れられない情報。第一級レベルの超高度な、それこそ各国で隠蔽されている戦略魔法師レベルの情報だ。本当は敵国のスパイか、それとも何処かの組織の者か。どちらにしろ現時点では危険な存在。

 

 俺は師匠からもたらされた情報にシンヤと彼の両親が一体何者なのか深い考えに入るが、師匠からのある一言で突如現実に戻される。

 

「まあこれは僕一個人としての意見なんだけどね、彼そんなに悪い人間じゃないと思うよ。深雪君のクラスメイトたちを助けたくらいだし」

「「…………」」

「彼が何者なのか、この僕を以てしても分からない。何しろ情報がないからね。だからあとは君たちの目で彼の人となりを把握しておくことだ」

 

 そして師匠は立ち上がり踵を返す。

 

「とりあえず僕から言えることはここまでだ。今日はもう遅い。二人とも気をつけて帰るんだよ」

「……はい。どうもありがとうございました、師匠」

「……ありがとうございました、先生」

「いいよいいよ」

 

 師匠に辞宜をし、俺達は九重寺を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 そして俺達兄妹は家へと帰る。

 

「お兄様…有崎君は一体……」 

「心配するな深雪。何があってもお前だけは俺が必ず守る」

 

 俺達は不安を払拭するように手を繋いで帰っていった。

 

 

 

 

♢♦♢

 

 

 

 同時刻、とある廃工場ではブランシュ日本支部のリーダーである司一と第一高校で活動している同盟のメンバーが集まっていた。

 

 その中にも当然、壬生もいた。

 

「さて諸君、明日は予定通り作戦を開始する。討論会が行われている間に偽装したトラックに乗せた実行部隊が突入。君達は手筈通りに動いてくればいい」

 

 司一がここにいる全員に明日の作戦について説明していた。

 

「明日に討論会を開くことになったことを知った時、私は君達の勇気に心動かされたよ。君達のように自身の理想のために積極的に動くその意志が、この間違った世の中を変えることになるだろう」 

 

 しかし、彼が話しているのは作戦の表面上でしかない。そのことに気が付いている者はここにはいなかった。所詮、ここにいる者は全員、司一の傀儡でしかないのである。

 

 作戦の核心を知らずとも、ここにいる一部の者は薄々気づいてはいるのだろう。

 自分達は利用されていることを。

 等しく優遇された世界など、完全な平等など不可能であることを。

 だが、彼らはその現実を直視しようとしない。

 魔法師を目指すために努力してきたのに、それが評価されないことに彼らは耐えられなかった。

 それ故に平等と言う耳当たりの良い理想に縋りつこうとする彼らに今更退くことなど出来ないのであった。

 

 

♢♦♢

 

 

「それで、結局昨日は何を言おうとしてたの?」

「……いきなり何の話だ?」

 

 討論会当日、講堂で討論が行われるなか、シンヤとレオ、エリカの三人で実技棟にて練習していたとき、エリカが壁に寄りかかって休憩しているシンヤに話しかけた。

 

「ほら、昨日の放課後にアタシがどうやって学校内の差別をなくせるか聞いたじゃん。まあ、途中でどっかの誰かさんがタイミング悪く話しかけてきたおかげで聞けずじまいだったけど」

「悪かったなオイ」

 

 レオは集中しており、シンヤとエリカの会話に参加することはしなかったが、若干意識はそちらに向けていた。

 

「ああ、あれか……正直オレの話が参考になるかわからないがそんなに聞きたいのか?」

「う~ん。軽いおしゃべり程度かな。このまま実技の練習をするだけじゃ退屈だからさ」

 

 エリカの言葉にシンヤは少し考え込むが、「…まぁ、いいか」という軽い感じで口を開く。

 

「この学校の差別の本質は一科生二科生の区別を差別に置き換える意識そのものだ。ならどうやってその意識をなくすか。簡単な話、この学校のルールが一科生二科生問わず平等に適応されてるように見えるよう変えればいいだけの話だ」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、講堂で討論会が開かれていたのだが、始まって五分と経たずに、いつの間にか真由美の演説会へと変わっていた。

 

 

 これには達也も感心していた。

 今の彼女は蠱惑的な小悪魔スマイルではなく、凛々しい表情と堂々とした態度で熱弁をふるう姿はまさしく全校生徒を束ねる生徒会長に相応しいものだった。

 

 最初は発言をしていた同盟だったが内容が感情論に傾いていたこともあって、そんな真由美に反論することは出来なくなり、討論会は真由美の演説会へと変わり始めた。

 

『生徒の間に、同盟の皆さんが指摘したような差別の意識が存在するのは否定しません。ブルームとウィード、学校も生徒会も風紀委員も禁止している言葉ですが、残念ながら、多くの生徒がこの言葉を使用しています』

 

 真由美の言葉に会場中がざわついた。

 

 生徒会長である真由美が禁止用語を口にしたことに達也は驚きを隠せなかった。深雪や摩利でさえ唖然としている。

 

 しかし、会場中がざわついても真由美は臆することなく話し続けた。

 

『しかし、一科生だけでなく、二科生の間にもウィードと蔑み、あきらめとともに受容する。そんな悲しむべき風潮が確かに存在します』

 

 数名の二科生が野次を飛ばすが、表立った反論は無かった。

 

『この意識の壁こそが問題なのです』

 

 真由美の演説は終わらない。

 一科と二科の区別が全国的な教員不足を反映したものであること。

 半数の生徒に十分な指導を与えることを第一高校では採用していること。

 カリキュラムの内容など、講義や実習に一科と二科に違いはないこと。

 課外活動も可能な限り施設の利用は平等になるように割り振っていること。

 つまり指導教員以外の問題については合理的な根拠に基づくものであることを真由美はここにいるすべての生徒に向けて説明した。

 

『私は当校の生徒会長として、この意識の壁を何とか解消したいと考えてきました。ですがそれは、新たな差別を作り出すことによる解決であってはならないのです。一科生も二科生も、一人一人が当校の生徒であり、当校の生徒である期間はその生徒にとって唯一無二の三年間なのですから』

 

 真由美が言い終わると会場中で拍手が湧いた。満場とは言わずとも、拍手をしている者に一科生と二科生の区別は無かった。

 

『丁度よい機会ですから、皆さんに私の希望を聞いてもらいたいと思います。生徒会には一科生とニ科生を差別する制度が、一つ残っています。現在の制度では、生徒会長以外の役員は一科生生徒から指名しなければなりません。この規則は、生徒会長改選時に開催される生徒総会においてのみ、改定可能です』

 

 そして真由美は一際大きな声で言った。

 

『私はこの規則を退任時の総会で撤廃することを生徒会長としての最後の仕事とするつもりです。人の心を力づくで変えることは出来ないし、してはならない以上、それ以外の事で出来るだけの改善策を取り組んでいくつもりです』

 そう締め括ったあと、会場には満場の拍手が起こった。

 真由美が訴えた差別意識の克服は、一科生だけでなく二科生にも支持していたのは明らかであった。そして、この討論会によって学内差別を無くしていく方向へ足を踏み出す良い切っ掛けとなるのであった。

 これで綺麗に終わると思われた瞬間、突如、第一高校全体を轟音が鳴り響いた。

 

♢♦♢

 

 

ドゴオオオオオオオオオン!

 

「うおっ!?なんだ!?」

「何が起こったの!?」

 

 その瞬間、実技棟が大きな揺れで震えた。突然の爆音と振動にレオとエリカは驚き、窓から外の様子を確認する。

 

「おいおいマジかよ」 

「……これちょっとまずいんじゃないかな」

 

 外では、実技棟近くで火の手が上がっていた。だがそれだけではない。

 爆発に便乗するかのように学校の敷地内に大きなトラックが侵入しており、荷台から拳銃やロケットランチャーなどを武装した男たちが降りてきて、戦闘体制を取っていた。

 

 

♢♦♢

 

 

 

 轟音が鳴り響くのと同時に大きな爆発音と揺れが発生する。

 校舎の窓ガラスは割れ、黒煙が立ちのぼる。

 体育館が生徒達のどよめきに包まれる中、遂にエガリテの構成員と思わしきメンバー達が動き出した。それと同時に講堂の扉が開かれ、ガスマスクを装着しマシンガンを持った男達が突撃してきたのだ。

 

 それに気付いた摩利が通信端末で監視していた者達に命令する。

 

「風紀委員は直ちにマークしていたものを取り押さえろ!」 

 

 部下に指示を出しながら、摩利は進入してきた男共のマスクの中の酸素を奪った。毒ガス対策だったのかは分からないが、マスクの中の空気を奪われた男共はあえ無く酸欠状態に陥り、その場に崩れ落ちた。

 

(MIDフィールド……ガスマスク内の密閉空間を窒素で満たしたのか。汎用性の高い魔法だな)

「これで終わりか?」

「いえ、もう一つ来るようです」 

 

 窓を見ながら達也は淡々と話す。達也が言った通りに体育館の窓が割れ、何かが投げ入れられる。それは地面に転がり白い煙を吹き出し始めた。

 

「ガス弾か!」

 

 誰かがそう叫んだそのとき、最初に動き出したのは生徒会副会長の服部だった。

 

「煙を吸い込まないように!」

 

 彼がガス弾に向けて腕を伸ばすと、撒き散らされていた煙は魔法によってガス弾の周りに集まっていき、やがてガス弾は白い塊のようになった。服部は慎重に操作しながら、それを割れた窓ガラスから放り出した。

 

「よし!」

 

(気体の収束と移動の魔法か。あの一瞬で煙ごとガス弾を隔離するとは。流石だな)

 

 達也は一瞬でそれらを看破し、服部へと視線を向ける。その視線を受けた服部は照れくさいのかそっぽを向いていた。

ちなみにその後ろでは真由美が苦笑いでその様子を見ていたりする。

 

 そのとき摩利に一本の通信が入る。

 

「なに!?そっちにも侵入者だと!?」

 

 他の場所にも大量の侵入者が入り込んでおり、既に教師や生徒達との攻防が始まっていた。

通信先からはロケットランチャーの爆発音も聞こえる。

 

「達也君、実技棟の方で不審者が目撃されている。私はこの場を落ち着かせてから向かうから、君は先に行ってくれ」

「分かりました」

「お兄様、お供します!」

 

 摩利に指示される事も無く、達也は実技棟に向かうつもりだったのだ。だが此処は上司の命令に従う形の方が後々楽になるので、達也は言われた通り実技棟に向かう事にしたのだった。

 

 

 

 

♢♦♢

 

 

 

 

(……始まったか)

 

 エリカやレオが突然のテロリスト襲撃に状況を把握しきれてない中、シンヤは二人の後ろで端末を操作し始める。

 

(悪いがお前たちは仕掛けてきた時点で、もう詰んでるんだよ)

 

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