魔法科高校の事なかれ主義の規格外(イレギュラー)   作:嫉妬憤怒強欲

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第八話 あっさりと事件解決し……【一部修正】

 夕暮れとなる時間帯……

 数名の一高生達を乗せたオフローダーが山道を駆け抜ける。

 その車内では、普段から覇気のないシンヤは誰にも聞かれないように、こっそりと溜息を吐いた。

 

(なんでこんなことに…………)

 

 

♢♦♢

 

 

 時間は数分前にさかのぼる。

 

 

 

「単刀直入に聞こう。シンヤ──お前襲撃が起こることを知っていたな」

 

 不可視の刃ともいえる達也の鋭い視線は、オレの体に深く刺し込んだ。

 

「何を言っているか分からないな」

「あくまでも白を切るつもりか」

「白を切るもなにも、オレはテロリストの手下が学校に潜んでたなんて今日まで知らなかったんだぞ」

「それが本当なら、何故お前はレオに加勢する振りをして真っ先に司主将のところまで行った?」

 

……なに?

 

「……いったい何の話だ」

「とぼけても無駄だ。実は俺の”眼”は魔法の起動式を読み解く以外に特殊でな、一定距離なら遮蔽物を越えて魔法を使う人間の存在を認識できる。図書館での対処をしてる間もお前の動きはしっかり把握してたぞ」

 

 ハッタリ……ではなさそうだな。まさか光を歪めて姿を見えなくしたくらいの誤魔化す方法はこいつには効かなかったとは……

 

「あのとき送られてきた位置情報を把握していたのは、学校側では風紀委員と生徒会のみだった。なのにお前はリーダーの司主将の下に迷わず向かった。それだけでお前が情報を流した張本人だと考えるのが自然だろう。無論状況証拠だから憶測の域は超えないな。それは認めよう。だが俺は確信している。お前が暗躍したとな。どうだ、違うか?」

「…………」

 

 前々から達也がオレを警戒してるような感じはしていた。今言い逃れしたところでこいつは必ず事実を追求するだろう。

 ならここは正直に話した方がいいと判断し、オレは静かに首を縦に振る。

 

「……やけにあっさりと認めるな」

「言い逃れは時間の無駄だからな」

 

 拍子抜けたように達也が軽く目を見張る。どうやら、オレがこんなにも早く認めるとは想定していなかったようだ。

 

 時間も差し迫ってるため、オレはこの数週間の行動を思い返しながら、達也に説明を開始した。

 

 

 

 

 

 

 オレが本格的に動き出したのは、アイネブリーゼで達也から疑似キャストジャミングのことを聞いた翌日からだ。

 オレは新入部員勧誘週間の一日目に、剣道部主将の司が達也を見たまま不敵な笑みを浮かべていたのがずっと気になっていた。もし司が疑似キャストジャミングの存在に気づいたのなら、あの笑みはなにかよからぬことを考えてるときのものだろう。だが確証がないため、勧誘期間中は奴の周囲を【アキュレイト・スコープ】を使って”観察”することにしていた。

 

 おかげで勧誘期間中にゆっくりとクラブを見回ることはできなかったが、それなりに成果があった。調査の過程で非魔法系のクラブ、主に剣道部の部員が赤白青のリストバンドをつけているのを発見したり、奴が達也を襲ったり、”差別撤廃”のために副主将の壬生を使って達也を自分たち側に引き込もうと計画していることを掴んだ。

 

 あまりのきな臭さを覚えたオレは集めた情報からある程度の仮説を立てた後、その裏付けのために剣道部がデモンストレーションに参加している合間を狙って部室のロッカーに侵入。司の端末と自分の端末をペアリング、遠隔操作してここ数週間の送受信されるメールや着信の内容を確認した。その結果、奴が反魔法団体(自称)の手先だという仮説が実証され、更には研究資料を盗むために学校を襲撃する計画を知ることとなった。

 

 連中の目的がわかったあとは簡単だった。討論会の前日の昼休みに図書館の特別閲覧室に保管された魔法大学の機密文献を別に保管されてた一般大学の文学レポートとすり替えたり、空いた時間に司の端末の名簿に記された襲撃者達全員に司と偽ってウィルスメールを送ったりして討論会当日までに下準備を済ませた。

 

 

 生徒会も風紀委員もオレが送ったメールを頼りにするかどうかは正直五分五分だったが、うまく活用してくれた。もしそうじゃなかったら、最悪あの桐原とかいう男子生徒に壬生の居場所を流したりと別のプランを実行していたがその必要もなくなった。

 

 メールを送る先に教師陣と部活連を選ばなかったのには理由がある。

 部活連の方は十文字会頭以外の戦力や練度を把握できておらず、実戦に対応できるかどうか不安があったため。 

 教師陣の方は部活連と同じだが、1人だけ信用できない人間がいたために即刻除外した。

 

 勿論、生徒会と風紀委員にだけ流して完全に鎮圧できる保障はなかった。

 そのため、偽メール(壬生と義兄に成りすました)で司を校門前で足止めさせて、いざという時の手段のために近くで様子を窺ってた。

 

 もっとも、風紀委員の二人の働きでそんなことをする必要が無くなったが…………

 

 

 

 

 

「――――とまぁこんなところだ。一応義兄の方にもウィルスメールを送ってたから奴の現在地も把握してる。小野先生の情報通り例の廃工場に今もいるよ。正直連中は思ってたよりあまり賢くないな。秘密の回線やセキュリティ対策がザルだ」

 

 最後までオレの言葉を聞き届けた達也は終始無表情だった。

 

「この数週間でそこまで計画していたとは…………お前は俺が予想してたのよりとんでもない奴だったな」

「これで満足出来たか」

「あぁ……と言いたいところだが、まだ一つだけ説明されていないぞ。何故普段から事なかれ主義を主張してるお前が動くことにしたんだ?」

 

 達也はいつもの無機質な表情、そして冷たい瞳でオレを見つめた。

 何故、ね。愚問だな。

 

「そうだな。簡単な話……お前と似たようなもんだ。オレはただ平穏な学校生活を送りたい。それを邪魔しようとするならそいつらには容赦しない。それだけだ」

 

 自分の家にゴキブリなんかの害虫が潜んでいることに気づいたら即刻排除しようとするのと同じ理屈だ。

 

「もしそのそいつらに俺や深雪が含まれていたらどうする?」

 

 こいつらが相手か。以前のオレだったらやっていただろうな。だが…………

 

「……どうだろうな。正直そんなことにならないことを願ってる」

「…………そうか、それは何よりだ。──おっと、話し込んでしまったな。十文字会頭の準備がもう終わってるだろうからすぐに行くぞ」

 

 どうやらひとまずは納得してくれたようだ。

 わざとらしくその言葉を言い、達也は廊下に通じる扉を解錠した。

 

「やっぱりオレも行くことになるのか」

「当然だろ。俺の目の届く範囲にいないとまたなにかしでかしそうだからな」

「しでかすは酷い言い草だな」

「いや違ったな。企むだ」

「もっと悪いだろそれ」

「一応聞くが特別閲覧室にあった本物の文献データはどこにやった?」

「文学系の欄のデータバンクに隠してある」 

「成程。データを隠すならデータの中か」

 

 そんなやり取りを交わしながら扉を開けると、聞き耳を立てようとしていたのかエリカ達が「あっ」と声を上げている。だが残念ながらこのカウンセラー室は守秘義務のために廊下側には声が届かない造りになっていたために今の会話は聞こえていなかったようだ。

 

 

 

 エリカに達也と何を話していたのか質問攻めを受けながらも『一緒に来るよう説得されてた』と適当にごまかし、駐車場へと向かう。

 十文字会頭の用意した大型車の中には、思いがけない人物が待機していた。

 

「よう、司波兄」

「どうも」

「あんまり驚かねぇんだな」

「いえ、十分驚いてますよ」 

 

 主に呼び方にだが、達也はその事は言わなかった。

 

「知ってると思うが二年の桐原だ。訳あって同行する事になった」

「会頭が決めたのでしたら俺からは何も言いません」

 

 達也には十文字会頭が言う『訳』の中身にも大体見当が付いているようで、深くは聞く事はしなかった。オレにはさっぱり分からなかったが…………。

 

 

 

♢♦♢

 

 

 

 そして現在、オフローダーで移動してすぐ、ブランシュがアジトにしている廃工場が見えてきた。

 

「司波、お前が考えた作戦だ、お前が決めろ」

「はい」

 

 達也の風紀委員での実績を認めてか十文字会頭は問題ないと判断したのだろう。言われた通り達也は指示を出す。

 

「俺と深雪は正面からそのまま踏み込みます。会頭と先輩は裏口からお願いします」

「分かった。任せておけ」

「おう」

「レオ、お前は退路の確保。エリカはレオのアシストと、逃げ出そうとする奴の始末」

「捕まえなくていいの?」

「相手はテロリストだ。余計なリスクを負う必要は無い。安全確実に始末しろ」

 

 始末しろ、か。あっさりと言うもんだな。

 

「…それで、オレは何をすればいい?」

「シンヤはエリカ達と残れ。お前の遠隔視のスキルで二人のサポートをしろ」

「オレのはそんな大層なものじゃないけどな。強度も高くないし」

 

 オレが司の観測に使っていた魔法【アキュレイト・スコープ】は光操作による遠隔視により、指定座標の観測地点が発する光を曲げて、術者の視覚に届ける仕掛けだ。対象指定魔法ではなく座標指定魔法のため、一旦観測対象を見失うと再捕捉が非常に困難になる。

 それに観測地点が発する光が、いかなる曲げ方をしても決して届かない状況…例えば真っ暗闇の中や、完全に光を遮断された建物の内側等の遠隔視は不可能だ。おまけにこの魔法を誤魔化す対抗魔法も多い。

 ならば別の手を打つしかない。

 

「そろそろ日も暮れるからあまり期待しないでくれよ」

「わかってる。ダメだったらエリカとレオのアシストに回れ」

 

 それは相手を殺せってことか。

 

「わかった。オレにできるかどうかは分からないがな」

「くれぐれも持ち場を離れるなよ」

「わかってる」

 

 そして、跡地のゲートが見えてきた。ゲートとの相対距離とレオの魔法発動速度を計算に入れた上で達也が言葉を発する。

 

「レオ、今だ!」

「パンツァ―――!!」

 

 達也の合図で硬化魔法を発動する。レオがCADを装着している側からCADの一部として車を認識し、車全体が魔法で強化された。そして、車は易々と鋼鉄製のゲートをぶち破り、車は無傷で敷地内に突入することができたのだった。

 

「車の装甲を硬化したのか」

「その所為でヘロヘロだけどね」

「うるせぇ、平気だっての……」

 

 なお、普段の倍以上の面積をカバーする魔法発動だったために、レオがへばっていたことをエリカが弄っていたのは言うまでもなかった。

 

 車が停車し、達也たちは薄暗い工場の中へ進んでいく。

 

……さて、オレもやることやるか。

 車から降りたオレは、工場の外に剥き出しになってたボックスを開け、中の配電盤にポケットから出した接続ケーブルを繋げて、携帯端末から工場のシステムにアクセスする。

 

「あれ?シンヤ君なにやってるの?」

「ん?あぁ、オレの魔法はこの時間帯だと強度が弱くなるからな。敵が出てくるのが分かるようちょっと工場の監視システムを乗っ取って中の様子を確認する」

「え?お前ハッキングとかできるのかよ」 

「プログラム構造を把握できてればまぁなんとかな」

「あ、あはは……シンヤ君って達也君と同じで敵に回しちゃいけないタイプね」

「まったくだな」

 

 そう言うエリカとレオが若干引き気味であった。解せぬ。

 

「…外に出てこようとする奴がいたら知らせる。それまでゆっくりしていいぞ」

「お、おう」

「じゃあお言葉に甘えるわね」

 

 それから数分の間、オレは端末画面に表示された工場内の監視映像を眺めていた。

 

 裏口側は、十文字会頭の魔法障壁による『防御』と、桐原という男子生徒の俊足と剣術による『攻撃』でマシンガンを使ってるテロリストたちを押していた。

 正面から入っていった達也達の方は、達也が工場内を逃げているブランシュのリーダーを追いかけており、妹の方は冷却魔法でテロリストたちを氷漬けにしていた。

 これならすぐに終わるな。

 そう考えてると、エリカが近づいてくる。

 

「……シンヤ君」

「なんだ」

「シンヤ君は、達也君の言葉をどう思った」

 

 達也の言葉。それはおそらく逃げ出そうとする相手を捕まえるのではなく、始末しろと言ったことだ。

 

「適切な判断だと思ったな。連中はオレたちを容赦なく殺す。必要以上の情けをかける必要ないだろ」

 

 ある程度、予想していた答えだったのだろう。

 エリカの表情に特に変化はない。普段の立ち振る舞いを見ても、エリカはかなりできる人間だ。その彼女であれば相手を捕まえることが、ただ殺すことに比べて圧倒的に難しい事ぐらい理解しているだろう。

 

「勿論分かってるわよ。このご時世、魔法師なんてやってれば一つや二つ、人に言いづらい事があって当然だよ」

 

 エリカの言う通り、どの時代、どの世界でも、特別な力を持つ者は他人から、意思に関係なくその力を利用される。

 オレ自身、あの男にその力を与えられ、都合よく使われてたからな。

 

「ならどうしてそんな浮かない顔をしてる」

「……シンヤ君が即答したから。その時私、シンヤ君も達也君と同じ場所に立ってるんだって感じた」

「……買いかぶりすぎだ」

 

 オレとあいつは違う。おそらく司波達也という人物は人間にとって大事なところが壊れていて、自身のことなどどうでもよい。ただ己の優先すべきこと、それさえ守られるのなら、自らの命すら犠牲にする。

 だがオレにはあいつみたいに守りたいものなんかない。あくまでも自分の平穏を守るために動いてるだけだ。我ながら自分の性に嫌気がさす。

 

「あっ、だからってこれから距離を置こうと思ってるわけじゃないよ。むしろシンヤ君たちといればいろいろと退屈しなさそうだし」

 

 少しシリアスになったかと思えば、いつもの様にどこか鋭さを残した笑顔を見せるエリカ。このさっぱりした部分が実に彼女らしい。

 こういった感性を持ち合わせる友人ができたことは、オレにとっても達也にとっても幸運なことなのかもしれない。

 

「あー……まぁ、その、なんだ。こんなオレと友達になってくれて、ありがとうな」

「ん~~?おやおやぁ?もしかして珍しくシンヤ君照れてるのぉ?」

 

 エリカが物珍しそうな顔をした次の瞬間、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながらオレをいじってくる。やっぱり言うんじゃなかったか。

 

「からかわないでくれ。そういうのはレオに…………ってそういえばレオはどうした?さっきから姿が見えないが」

「ああ、あいつならほら」

 

 車の近くで、気を失ったレオがうつ伏せに倒れていた。

 

「これは?」

「疲れてた様だから休んでもらった」

 

 休んでもらったって、休ませたの間違いだろう。

 真っ先に味方1人ノックダウンさせるってどういうこと?

 

「エリカは少し、レオの扱いが酷すぎないか?」

「そんなことないって。こいつはこれぐらいで丁度いいのよ」

 

 エリカに足蹴にされるレオ。哀れレオ。

 

 

 

 そんなシリアスとはかけ離れた展開の間に、達也達によってあっという間に工場内のブランシュメンバーを殲滅、リーダーで剣道部主将の司甲の義兄、司一の身柄は十文字家が引き受けた。

 

 

 

 

♢♦♢

 

 

 事件は無事収束への方向へと向かった。第一高校の襲撃事件を受けて、横浜に支部を持ち、京都に本部がある日本魔法協会は声明を発表した。

 

 反魔法国際政治団体『ブランシュ』と、その下部組織である『エガリテ』が第一高校の生徒を洗脳して今回の襲撃事件に発展したと説明。その上で彼らのテロ行為に対して“一般市民への被害を最小限に抑えるための治安維持活動”を行ったと声明を発表した。

 

 事件に関わった魔法師の詳細については、一部を除いて『個人情報保護の観点から公表できない』との説明に止められた。

 

 今回の事件処理に関わった七草家と十文字家に対して、生徒に死者を出すことなく迅速に混乱を収拾できたのは生徒会長を務めている七草家令嬢と今回の治安維持活動の陣頭指揮を執った十文字家次期当主の力あってこそ、という形に収まった。

 

 そしてこれに便乗するように、政府側は今まで弱腰な姿勢を取っていたのとは一変。『ブランシュ』を『営利目的で日本の技術を奪う大規模なテロリストグループ』と発表。公安庁と警察組織を動かして日本国内に潜んでいたブランシュの構成員達と彼らに繋がっていた政治家たちを一斉検挙した。

 

 これにより、十師族と日本政府の発言力の均衡を保つこととなった。

 

 

 

 

「……まさかそれもお前の仕業じゃないよな」

 

 通学路でばったり会った達也と妹と一緒に登校している際に、達也からニュースで流れてる政府の動きに対してそんな疑いをかけられた。

 

「何を言い出すかと思えば………」

「だが今まで弱腰だった政府がこうも方針を切り替えるのが早いとなると不自然さを覚えて仕方ない」

「生憎と、オレは政治家とのコネは持ってないぞ」

 

 オレは、である。

 

「どうだか。お前は底が知れないからな」

 

 疑り深いな。オレのことを聞いたのか、妹の方もオレに疑惑の視線を向けてくる。というか会話に参加してこない。

 

「たった一ヶ月未満の付き合いなんだ、むしろ熟知されたら困る。お前もそうだろ?」

「……そうだな。今後も同じクラスで学校生活を共に送ることになるからな」

「来年はどうかわからないがな」

 

 今回の事件で生徒たちがテロに加担したのは学校の杜撰な学科システムがきっかけであったことから、学校側でシステムの見直しを行うことが決まったらしい。第一高校も来年度には新しい一歩を踏み出すことになる。

 

「それに関して言えば、ある意味テロリストたちはいい踏み台になってくれたと考えるべきだろうな」

「お前もの凄く恐ろしいことを平気で言うな…………まぁいい。もし今後ブランシュのような厄介ごとを察知したらすぐに俺と深雪に知らせてくれ」

「あんなのは二度と御免だが…………そういう契約だったからな」

 

 オレがやったハッキング行為は相手がテロリストとはいえ立派な犯罪行為であるため、達也には目をつむってもらう代わりに一種の協力関係を結ぶこととなった。正直そういうのは小野先生あたりに頼んでほしいがツッコまないでおくことにする。

 

 というか友達がするようなやり取りじゃない気がするが…………

 

 

 それからしばらくして学校の校舎が見えだす。

 

「あっ、達也君、シンヤ君、深雪おはよー」

「おっす三人揃って登校なんて珍しいな」

「おはようございます」

 

 校門前でエリカ、レオ、美月がオレたちに気づいて挨拶して来る。

 

 

「シンヤ。正直俺はお前のことを警戒している。だがほのかたちを助けたお前を悪い人間とは思っていない。俺と深雪の平穏を脅かさないのならいつも通り友人として接するつもりだ」

「………安心しろ。オレはお前たちとは友人として接したいと思ってる」

 

 もしこの言葉をあの男が聞いたらどう思うだろうな。

 

 

 

 これからのことはまだよくわからない。

 だがひとまずは今しか経験できないこの日常を楽しむことにしよう。

 

 

 

 

♢♦♢

 

 

 横浜の中華街。

 その一角にある建物の部屋で長髪の男性は誰かと連絡を取っていた。冷静な口調で話す男性に対し、受話器から聞こえる男性の声は少々荒げていた。

 

『―――では、お前は早急に反魔法主義の圧力をかけるべきではないと言いたいのか?』

「然り。ネット上においても、ブランシュが各国で引き起こしているテロ行為が表沙汰になっております。魔法師排除への舵取りは極めて難しいと」

 

 その点においては自分よりも貴方がご理解しているはずだ、とでも言わんばかりの口調を向けていた。この二人に一応の主従関係はある。だが、男性は会話の相手を信用していないし、それは向こうも同様である。あくまでも一つの目的で合致したから手を組む……いわば『ビジネスパートナー』ともいうべき存在ともいえた。

 

 それを理解したのか、相手はフンと鼻息を一つした上で告げる。

 

『まあいい、それはこちらで探りを入れる。お前は引き受けた仕事をこなせ』

「畏まりました。それでは大師ヘイグ。また…………」

 

 長髪の男性は通信を切ってから、「やれやれあのお方には困ったものだ」と独り言ちる。

 

 そうして気分を落ち着かせていると、通信機から着信音が鳴りだす。

 

「はいもしもし――――おや、これはこれは」

 

 受話器を取った男性は、かけてきた相手が誰か確認すると芝居がかかったようなにこやかな笑みを浮かべた。

 

「もうそろそろ連絡がくるとは思ってましたが、まさかこんなにお早いとは」

『それで、奴の方はどうだ?』

「やはり、日本支部を完全に壊滅されてヘイグ氏は相当お冠のご様子です。他の支部を使って報復も考えてるようでしたが、今のところは大っぴらなことはしないよう釘を刺しておきましたよ」

『ふん、予想通りの展開だな』

 

 ヘイグという人物を知っているような口ぶりで、電話の相手は鼻で笑う。

 

「それにしてもあれ程弱腰だった日本政府の体制をああもあっさりと変えるとは…………やはり貴方の手腕は相当なものだ」

『貴様の情報から第一高校が襲撃を受けることは事前に知っていた。政治団体を語る連中が学校に保管されてる機密文献を盗んだという既成事実さえあれば無能な官僚共も方針の変更に反対できまい。もっとも…第一高校の学生連中が日本支部を壊滅させたことはさすがの私も予想できなかったが』

「えぇ、私も驚きましたよ。今まで学校内部にエガリテのメンバーがいることに目を背けていた子供が随分と大胆な手を取るとは………」

 

 電話の相手にとって第一高校がテロリストたちを返り討ちにしようと、あのまま機密文献を奪われて魔法科高校としての立場を失おうとどうでもよかった。だが日本支部襲撃という学生としての立場を超えた行動に疑念を抱いていた。

 

「差し支えなければ私が調べても構いませんが…………」

 

 そう言って男性は机に置いてあったタブレット端末に目を向ける。

 

 その画面にはブランシュ日本支部の襲撃に参加した十文字克人、桐原武明、司波達也、司波深雪、千葉エリカ、有崎シンヤの映像データが表示されていた。

 

『いや、必要ない。貴様はヘイグの動向を逐一私に報告するとともにアレを見つけるよう指示したはずだ』

「そうでしたね。大変失礼しました。ですが残念ながらいまだご子息の所在を見つけることは叶っておりません。もうしばしお待ちを」

『…………ふん、見つけたらすぐに私に報告しろ』

「えぇ、必ず」

 

 それから数分会話は続き、やがて相手が『次のスケジュールがあるから』という理由で会話を切り上げ、電話を切った。

 男性は受話器を置き、机に置いてあったタブレット端末を操作する。

 

 

 

 

「申し訳ありませんが、まだ彼を貴方に渡すわけにはいきませんよ」

 

 そう呟き、男性は選択画面から『データを削除しますか?』を開き、『YES』のボタンを押す。

 

 次の瞬間、有崎シンヤが映っている映像データが削除されていく様子を、男性は1人嗤っていた。

 

 

 

【入学編・これにて閉幕】

 

 




次回から試験勉強を挟んで九校戦編に入ります。
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