魔法科高校の事なかれ主義の規格外(イレギュラー) 作:嫉妬憤怒強欲
あれだけ慌ただしかった4月が嘘だったかのように、第一高校は実に穏やかな日常を経て、6月末日、部屋で情報収集していた雫の許に電話が掛かってきた。
「ほのかから?もしもしほのか?如何かしたの?」
『ヤッホー雫、試験勉強進んでる?私は全然駄目なんだ~』
「……忘れてた」
ほのかに現実を突きつけられてその場で膝をつく雫、彼女の頭の中は試験では無い事でいっぱいだったのだ。
『もしかして雫、九校戦の事が気になってるの?今年は私たちも参加する側だからね』
「うん、本命はウチと三高だと思ってるんだ」
『そうだね、でもテストもちゃんとやらないとね』
「うん……」
既に一週間を切っている日程を自覚して、雫は心なしかテンションが低い。それをほのかが感じ取ったかは分からないが、雫にとってありがたい提案をしてくれた。
『それじゃあさ、深雪やエイミィを誘って勉強会しようよ』
「それ良いかも……でも二人の予定も聞かないと」
『そうだね。それじゃあ私がエイミィの予定を聞くから、雫は深雪の予定を聞いておいて。後でまた電話するね』
「ん」
親友との電話で思い出したのだが、九校戦の前には学校の試験があるのだ。雫はパッと見では分からないように慌て、通信端末から深雪の番号を呼び出した。
翌朝、司波家の朝は達也の呆れた声が聞こえていた。
「それで昨日はあんなに遅くまで起きていたのか」
「申し訳ありません、つい盛り上がってしまって……」
「別に責めてる訳では無いんだが、あまり夜更かしはしないほうが良いぞ」
雫からの電話を貰った深雪は、二つ返事で勉強会への参加を決めたのだが、その後雫と九校戦の話で盛り上がってしまい、電話が終わったのは深夜十二時を回ってからだったのだ。
「それでお兄様、放課後お兄様も参加していただけないでしょうか?」
「俺も? 二科生である俺に教わるのは如何なんだ?」
「大丈夫です! ほのかも雫もお兄様の事を尊敬してますし、明智さんもそう言った事には拘らない人だそうですから」
「そうか、まぁ委員会も無いし構わないよ。勉強会の事は分かったが、参加者はほのかや雫たちだけかい?」
「エリカや美月、西城君、それと有崎君も誘いたいと言ってましたが……」
「分かった。そっちは後で俺が聞いておく」
「お願いしますね」
その後達也がエリカたちに確認したところ全員OKを貰い、放課後にE組の教室で試験勉強をすることとなった。
のだが…………
「う~…どうしよう。なんか緊張してきちゃった」
「もう。エイミィったら試験勉強をするだけなのに緊張してどうするの」
「そういうほのかも達也さんも参加すること聞いてからずっとソワソワしてた」
「ちょっ、雫!?それこのタイミングで言わないでよ!」
勉強会当日、達也たちがいる一年E組の教室の扉の前でエイミィ、ほのか、雫、深雪の一科生の面々が立ち往生していた。(主にエイミィによって)
「で、でも…三週間以上もお礼を言えずじまいで勉強会に参加して図々しい奴だって思われないかなっ…!?」
数週間前にほのかたちがブランシュの手下に襲われそうになったところをシンヤが助けた後、エイミィはずっと放心状態が続き、自己紹介と礼を述べるチャンスを失った。その後にチャンスを窺おうとしたが、有志同盟の蜂起やらブランシュ襲撃やらのごたごたのせいで逃してしまい、今日まで礼を言えずじまいになっていた。
勉強会に彼が参加すると聞いた時はこれはチャンスではと、身嗜みチェックやら声の発声練習やらをして気合を入れてみたのはいいものの、ネガティブ思考が働いてあと一歩のところで踏み出せないでいるエイミィであった。
「心配いりませんよ。お兄様によると有崎君はそういうことはあまり気にしないタイプだと聞きますし」
「そ、そうだよ。頑張ってエイミィ!女は度胸だよ!」
「ほのか。それなんか使い方間違ってる気がする」
「そ、そうだよね………うん…ここで逃したらもうあとはないよね」
ほのかたちのエール?により、ネガティブ思考から抜け出せたエイミィはピシャッと自らの頬を叩いて気合を入れ、戸に手をかける。
「よし!皆、いくよ!」
「どこに行くんだ?」
「ぎょわあぁぁぁぁぁあぁぁ!!?」
意を決して開けようとした束の間、唐突に後ろかけられた声に驚愕したエイミィは、思わず乙女が出してはいけない奇声を上げてしまった。
「びっくりした。急に大きな声を出してどうしたんだ?」
エイミィはまるで油の差してないブリキのおもちゃのような不自然にゆっくりとした動きで振り返る。そこにいたのは茶髪をセンターで分けた髪型をしていて、顔の整っているが、どこか影が薄い男子生徒――――件の人物、有崎シンヤだった。
「あら有崎君。教室にいなかったのですか」
「ちょっと手洗いに行っててな。それよりお前らさっきから教室前で何やってるんだ?」
「あ、いや、あの、その、えとぉ…!」
「ほらエイミィ落ち着いて」
「深呼吸。深呼吸」
「実は明智さんが有崎君にこの間のお礼を言いたいと仰ってまして」
(深雪、ナイスフォロー!)
シンヤの登場にしどろもどろになっていたエイミィをほのかと雫が落ち着かせてる間、深雪が助け舟を出す。
「お礼?……あぁ、あのときのか。別に気にしなくていいのに」
「いいえ。女性が礼を述べたいとき黙って聞き入れるべきなのですよ」
「そういうものなのか?」
「えぇ、ほら明智さん。まずは自己紹介を」
「え!?ええっと……い、一年B組のアメリア=英美=明智=ゴールディです!エイミィと呼んでくだひゃい!」
(((噛んだ…)))
「う~…」
「あー…一年E組の有崎シンヤだ。有崎でもシンヤでも好きに呼んでくれ」
(((スルーした!)))
「え、えっと…じゃあシンヤ君って呼ぶね。この間危ないところを助けてくれてありがとう。それとお礼言うのが遅くなってごめんなさい」
「さっきも言ったが別に気にしなくていい」
エイミィが最後のところでセリフを噛んだことを華麗にスルーし、普通に自己紹介したシンヤは淡々と告げる。
シンヤはあまり人と会話するのは得意ではないのだろうか。出だしは微妙、言葉のキャッチボールはまずまずである。
普段とは違ってよそよそしい態度を見せるエイミィを温かい目で見守っていたほのか、雫、深雪の評価はそんなところだった。この三人、実はこの状況を楽しんでる。
「えっと、今日はよろしくね」
「あぁ」
♢♦♢
オレに促され、一科生四人は教室の扉を開けて中に入る。
待っていた達也たち二科生は、初対面のエイミィと簡単な挨拶を交わした。
「それじゃあ早速勉強する訳だが、分からない箇所を教えあう形で良いんだな?」
「それが一番だと思います。誰かが教えるのなら授業とさほど変りませんし」
「アタシたちは普段から教えあってるしね~。先生が居ないからそう言った事し放題だし」
「……だからって殆どを人に聞いてくるのはダメだろ。美月が困ってたぞ」
「ふぇ!? べ、別に私は困っては無いですよ! ただちょっとエリカちゃんの成績が心配なだけで……」
「だ、大丈夫よ! 本番には強いから、アタシ」
それ一番駄目な奴だぞエリカ…。
美月のフォローになってないフォローにたじろぐエリカを見て、一科生たちは揃って笑みを浮かべたのだがすぐに表情を改めた。
「それじゃあとりあえず始めようか。分からない箇所は遠慮無く分かりそうな人に聞く事。分からないままにしておくのが一番駄目だからな」
達也の一声で全員が一斉に勉強を始める。皆そこまで成績が悪い訳でも無く、むしろ成績優秀者の方がこの場には多いのだが……
「美月、これって如何やるの~?」
「エリカちゃん、少しは自分で考えようよ」
「達也、此処教えてくれ」
「レオも少しは考えてから聞いたら如何だ?」
二科生でありながらも座学だけなら一科生にも匹敵するであろう達也と美月に、エリカとレオは質問する。そして一科生はと言うと……
「お兄様、此処なのですが……」
「達也さん、スミマセン、私も同じところが分かりません」
「ゴメン達也さん、私も……」
殆どが質問するのは達也だった……噂の範囲内で入試成績が流出したようで、達也が筆記試験ぶっちぎりのトップだった事はこの場に居る全員が知っているのだ。
二科生であるレオやエリカや美月なら兎も角、一科生たちまで達也に質問してくるとは達也自身も思って無かった事だったようだ。
「……と、言う訳だが、今の説明で分からなかった人は居るか?」
一通りの説明を終え、達也が全員を見渡し聞いたが、全員(オレも加わって)が首を左右に振った。つまり全員理解したと言う事だ。
「スゲェな達也、今すぐにでも魔法学の先生になれるんじゃねぇの?」
「そうね。アンタと意見が被るのは気に食わないけど、達也君ならすぐにでも人気教師になれるよ」
「あのな、俺は実技が苦手だから魔法科高校の教師にはなれないぞ」
「ですが!達也さんなら特例でなれそうですよ!」
「うん、ほのかの言う通り達也さんなら実技が苦手だとか関係無く良い先生になれると思う」
「私も、司波君の授業なら理解出来ると思う」
一科生三人にも言われ、達也は少し困ったように頭を掻いた。
「なぁ、達也はいつもどんな勉強しているんだ?」
「どんなって、普通の勉強だが?それこそシンヤたちと同じ授業を受けてるんだから」
「達也君、このまま行けば理論のトップも狙えるんじゃないの?」
エリカは冗談めかしているが、この発言に一科生三人が反応した。
「確かにお兄様ならトップも狙えるでしょうね。むしろトップを取ると思います!」
「達也さんなら学年トップでも誰も驚かないと思います!」
「でも、一科生男子は怒るかもね」
「いい加減達也さんの事を認めればいいのに……誰だっけ?あの森……森山? とか言う男子も達也さんの事を馬鹿にしてるし」
「ほのか、アイツは森崎だ」
モリサキモリサキ…………あぁ、一年A組のアイツか。授業初日の放課後に達也に向けてお前は認めないぞ宣言したあの。確か達也の話だとアイツも風紀委員に入ったとか。
というかクラスメイトであるはずの光井に覚えられてないとはさすがに可哀想だと思えてきた。
「私はクラス違うから良く知らないけど、話聞く限り最低な男だね」
「あっ、森崎って入学したての頃にあたしたちをウィード呼ばわりしたアイツ?」
「ああ、アイツか! すっかり忘れてたぜ」
お前らもか……。
かく言うオレもアイツの顔を輪郭までしかはっきりと覚えていなかったが。
「えっと、森崎君って誰でしたっけ?」
「「「………」」」
…………。
「これが美月よね」
「良い感じに止めだな」
「え? あれ? 私変な事言いました?」
「ううん、美月は変な事言ってないわよ」
校門で口論していた美月にまで完全に忘れられていた。
哀れモリサキ。お前のことは一生忘れない。(その後も覚えていれば)
「………話が大分逸れたが、実技は兎も角理論は一科生と二科生に差は無いんだし、そこまで気にしないんじゃないのか?」
「ですがお兄様、一度自分の方が優れてると勘違いした人間は、それが何であろうと負けたくないと思うものなのですよ」
「そんなもんか?そもそも順位など気にしてないヤツの方が多いんじゃないのか?理論よりも実技優先なんだから」
このとき達也がオレを一瞬チラリと見たが、オレはスルーすることにする。
「さて何時までもしゃべってないで勉強を再開しよう。時間は有限だぞ」
「ちぇー、せっかく息抜き出来てたのに」
「息抜きって、まだ始まって二時間も経ってないだろ」
「お兄様、エリカはお兄様と違って二時間も集中力が持たないんですよ。もちろん私もほのかたちもそうですけどね」
もうそんなに時間が経ったのか。
「仕方ない、お茶でも買ってくる。皆は何が良い?」
達也のおごりと言う事で、エリカとレオは飛びついたが、他の面々は申し訳無さそうに俯いた。
「気にするな、息抜きを邪魔したせめてものお詫びだと思ってくれれば良い」
達也のこの言葉に申し訳無さそうにしていた面々も、自分に言い訳をつけて自分自身を納得させた模様。次々に希望を言っていく。
「それじゃあレオ、シンヤ、悪いが荷物持ちで付き合ってくれ」
「…まぁ女子ばっかの場所に男一人ってのも気まずいしよ」
「確かにな」
「それじゃあシンヤ君、達也君、レオ、よろしくー」
♢♦♢
エリカが三人を送り出す言葉を言い、三人の背中が見えなくなったところで、彼女の視線がエイミィの方に向く。
「ところでエイミィ、シンヤ君とはいったいどういうご関係なのかなぁ~?」
「と、ととととと突然何言いだすかなエリカ!?」
つまりは、女子会でもよく話題に挙がり易い恋バナというものである。
「いや~勉強中にシンヤ君のことチラチラ見てたから気になっちゃって~」
「な、なななな何のこと言ってるか私にはさっぱりでござるよ!?」
「エイミィ、最後変な語尾がついてるよ」
ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべるエリカの言葉に、エイミィは動揺してキャラがブレブレになる。
「な、何もないよ…ッ! 何もないから!」
「なにもないならシンヤ君の前でだけあんなに緊張しないよねぇ~?」
「うぅ~」
こうなれば、誰かにこの状況を打開してもらうしかない。
そうなれば――彼女がエリカのクラスメイトである美月へと視線を向ける。その視線に気づいた美月は笑顔を彼女に向けてくる。
「もうエリカちゃん。エイミィさんが困ってるよ」
「あはは……ゴメンゴメン」
通じた!これは勝てる!確信に満ち溢れた彼女の前で、美月が一瞬救世主に見えた。
のだが………。
「それでエイミィさん。シンヤさんとはどういった経緯で知り合ったんですか?」
「美月!?」
何故だ!?なぜ裏切った、美月!?
「だって、私気になります!」
ミヅキタスお前もか!?
エリカを止めに入った美月が救世主に見えたが一変、実はそう言った方面に興味があった美月はエイミィの味方ではなかった。
「まぁまぁエイミィ、あの時のことを説明をすれば二人も納得するよ」
「うぅ…で、でも…他言無用だって言われてたし」
「それは大丈夫よ。エリカと美月は他人に言いふらさない人間だから。それにきっと有崎君が他言無用と言ったのは学校に潜んでいたテロリストの仲間に気づかれるのを避けるためと思うわ」
「そうそう。テロリストがいなくなった今約束は消えたも同然」
「し、雫たちまで…………」
もはやエイミィに味方はいなかった。
そういう意味での他言無用ではなかったのだが。
その後エイミィは観念して洗いざらい吐いた。
ほのかと雫と共に新入部員勧誘週間で達也を襲った司元主将を尾行していた際、ブランシュの手下に襲われたこと。そして危ないところをシンヤに助けてもらったことを。
「その時にシンヤ君と会ったのは初めてで、2人が思ってるような関係じゃ…」
「成程。窮地のところを救ってもらったときに芽生えるっていうあれね」
「昔の小説とかである展開ですね」
「って、人の話聞いてた!?」
「わかってるわかってるってここだけの話にするから」
「いや全然わかってないよね!?」
別の方面で盛り上がっているエリカと美月に、顔を赤くしたエイミィがツッコむも、見事にエリカのペースに乗せられていた。
「ふふ…もうエリカったら。そのぐらいにしないと明智さんが可哀想よ」
「あはは…ゴメンゴメン。あまりにも反応が面白くてつい」
そこへ深雪の助け舟が入り、エリカのエイミィ弄りが終わる。そして今度はシンヤのことについての話へと移った。
「それにしてもシンヤ君って達也君以上に謎よね。一見人畜無害に見えても荒事に強かったり、学校の差別をなくす方法で会長が発表した生徒会役員一科生限定廃止の他に”実力次第で二科生から一科生に進級できるようにする”とか”魔法師以外に魔法工学技師を育成するクラスをつくる”とか、学校のルールの変更を考えついたりするんだからさ」
「え?有崎君がそんなことを?」
「そ。この学校の意識の壁を壊すには、ルールが皆平等に適応されてるように見せればいいって……実は彼相当な切れ者だったりして?」
このエリカの発言に深雪の肩がピクッと動いたが、誰も気付かなかった。
シンヤはブランシュ事件の際、正確にはエガリテが学校を襲撃する数週間前から彼らの存在に気づき、情報操作で司元主将やその義兄(本人たちは気付かぬまま)を操ってみせたのだ。
達也いわく、もし彼が自分たち兄妹の敵に回った場合どうなるか分からないとのこと。
(お兄様をあそこまで言わせる彼は一体?)
「――――それで深雪はどう思う?」
「…………え?ごめんなさい。聞いてなかったわ」
深雪が思考にふけっているとエリカが話しかけてきた。
「だから、シンヤ君と達也君どっちが強いのかなって」
「そんなの勿論お兄様に決まってるわ」
「うわ即決。まぁ深雪だから当然か」
「エリカ。なにか言いたいことでもあるの?」
「ううん。別になんにも」
笑顔なのにただならぬプレッシャーを放つ深雪に、エリカは戦慄する。千葉の剣士としての勘で、深雪にブラコンを指摘するのは危険だと察し誤魔化すことにした。だがここで深雪が反撃に出る。
「それにしてもエリカは有崎君のことを推してるようだけど明智さんのことをとやかく言えないんじゃなくて?」
「ちょっ、み、深雪、何を言い出すの?」
「そういえばエリカちゃん。よくシンヤさんとお話してるよね」
「美月まで!?」
「美月そこのトコロ詳しく」
「雫まで何言うのよ!」
「わ、私もちょっと興味あるかな」
さっきまでエイミィをからかって遊んでいたエリカが、今度は周りからからかわれている。雫は冗談めかした言い方だったが、美月とエイミィは幾分かマジそうで、エリカは何となく居心地の悪さを感じていた。
エリカをからかって盛り上がってたところに、達也とレオ、シンヤが戻ってくる。
「何だ?随分と盛り上がってるじゃねぇか。いったい何の話だ?」
「えぇ西条君。実はエリカが有崎君のことを――」
「達也君とシンヤ君どっちが強いのか話してたのよ!」
深雪が余計なことを言う前にエリカはそう言って誤魔化しに入る。
「オレと達也どっちが強いのか?なんでそんな話になったんだ?」
「いやぁ、この前の襲撃事件では素手だけでナイフを持った連中を何人も倒したって言うし」
「そうだな。あの手際は見事なものだった」
エリカの言葉に達也も賛同する。
「あんなの動きの先読みと不意打ちでなんとかなったもんだ。それに連中は威勢がよくても動きは全くの素人だったしな」
「またまたご謙遜を~」
女子の面々と達也の視線がシンヤ(とエリカ)に集まるが、シンヤは平然とした表情を一切崩さなかった。
「そうは言ってもオレが達也に勝てる自信はないけどな」
「そうか?お前は底が知れないからはっきりとは断言できないぞ」
「あれ?なんか俺だけハブられてる気がするが」
「……確かにどっちが強いのかって話でなんでレオが入ってないんだ?」
「いやだって頭の方はイノシシ並みだし」
「おいこら本人が目の前にいるんだぞ!」
シンヤの疑問を利用して何時もの流れに持っていくエリカ。レオもすぐにエリカの挑発に乗って揉めだす。二人の喧嘩はいつものことであるため、達也とシンヤは女子勢がリクエストした飲み物をそれぞれに手渡していく。
「達也さん、エリカちゃんとレオ君は止めなくて良いのでしょうか?」
「あの二人はあれが普通なんだから良いんじゃないのか? 深雪たちは如何思う?」
「私も放っておいて良いと思います」
「私もそう思う。あの二人はあれが普通」
「そうですね。達也さんの言うようにあの二人はあれが普通ですよね」
「私は判断しかねるよ。だってそこまで付き合いが無いんだから」
結局達也たちが勉強を再開するまでエリカとレオは揉め続けたのだが、美月だけがオロオロと二人を見つめていたのだった。
♢♦♢
魔法科高校において、学ぶ内容は一般教科に魔法理論、魔法実技と国策の教育機関だけあってかなりハイレベルな内容だ。とはいえ、考査自体は魔法理論の記述式テストと魔法実技の2種類というあたりは魔法科高校らしいだろう。
魔法理論は基本教科である基礎魔法学・魔法工学の2教科、選択科目の魔法幾何学・魔法言語学・魔法薬学・魔法構造学から2教科、魔法史学と魔法系統学から1教科の計5教科の合計得点。
魔法実技は展開速度・魔法式の規模・干渉強度の3種類の評価で行われることとなる。実技に関しては入試と同じなので、どれほど成長したのかを示す目安みたいなものだ。
数日後にそのテストが無事終了し、結果が発表されてすぐ達也が指導室に呼ばれたと聞いて、司波妹を除くオレたち勉強会メンバーは達也を迎えに指導室まで向かった。一科生と二科生が一緒に行動しているのでかなり目立ってるが仕方ない。
「失礼しました」
しばらく待ってると、達也が指導室から出てくる。
「みんな……、どうしたんだ、こんな所に集まって」
「『どうした』はこっちの台詞だぜ、達也。指導室に呼び出されるなんて、いったい何をしでかしたんだ?」
驚きの表情を浮かべた達也の質問にレオが答える(というより問い返す)と、達也は呆れるような苦笑いのような微妙な表情になって、
「期末試験のことで、ちょっと尋問を受けていたんだ」
「尋問? 随分と穏やかじゃないわね」
「それで、如何して達也さんが尋問されなきゃいけなかったんです?」
「簡単に言えば、手を抜いたんじゃないかと疑われた」
「手を抜くって……、そんなことして何の得になるっていうの?」
「でも、先生がそんな気になるのも分かる」
「そうですよ! それだけ達也さんの成績が凄かったってことなんですから!」
美月が拳を握りしめて力説していたが、彼女が興奮するのも無理はなかった。
つい先ほど学内ネットで期末試験結果の順位発表が先程行われた。
公開された順位には、実技や理論の順位もある。
実技順位
一位 司波深雪(1ーA)
二位 光井ほのか(1ーA)
三位 北山雫(1ーA)
と、トップ3は入試と同じ顔触れとなった。ちなみに実技の4位はあの森崎だったが、今は特に取り上げることでもないだろう。とにかく、総合成績も実技単独の成績でも、氏名が公表される上位20人はエイミィを含んだ一科生だった。
しかしこれが、筆記単独になると様子が変わってくる。
理論順位
一位 司波達也(1ーE)
二位 司波深雪(1ーA)
三位 吉田幹比古(1ーE)
と、トップ3に二科生が2人もいるという前代未聞の事態となった。一位はこのメンバーの予想通り達也だったのだが、その点数が驚きだった。全教科満点のぶっちぎりトップ、二位の自分の妹と平均点で10点以上の差をつけての一位だったのだ。
ちなみに他に顔馴染みを挙げると、五位が光井、十位が北山、十四位がオレ、十七位が美月、十八位にエイミィ、二十位にエリカと、トップ20人に広げても二科生がオレたち五人がいるという異常事態だった。ちなみにレオと森崎はランク外なのだが、今は特に取り上げることでもないだろう。
「あらー、レオったらアタシよりも下なのー? おほほほほ」
「だあぁ! わざわざ蒸し返すんじゃねぇよ、エリカ!」
わざとらしく口に手を当てて嘲笑うエリカにレオが怒鳴り声をあげるのは、高校入学後からすっかりお馴染みとなった光景だ。
「それで達也さん、誤解は解けたの?」
北山の問い掛けに達也は先程までの遣り取りを思い出したのか若干疲れた様子で首を縦に振った。
「まぁ、一応な」
「一応?」
「第四高校に転入を勧められたよ。あそこなら魔法工学に力を入れているからってな」
「て、転校ですか!?」
突拍子もない単語に、光井が大声を上げる。他のメンバーは大声を上げるような事こそしなかったが、驚きか呆れ、もしくは怒りの表情を浮かべている。
「断ったよ。善意からの言葉だったのかもしれないが、もしそうだとしても余計なお世話、独善と言うやつだな」
「そもそも前提が間違ってる。四高は確かに技術方面に力を入れているけど、別に実戦魔法を疎かにしてる訳じゃ無い」
「雫さん、良く知ってますね」
「……従兄が通ってるの」
「まぁ、赤点ギリギリとはいえ、何とか合格ラインには届いているんだ。俺が了承しない限り、余所に転校されるということはないだろう」
「まぁ、達也くんみたいなタイプの生徒なんて初めてだろうし、先生も先生で扱いに困ってるのかもねぇ」
エリカが苦笑混じりで口にした考えにはオレも同感だ。特に達也は二科生ということもあり、普段から教師とのコミュニケーションが不足していることも原因の1つだろう。別の学校に籍を移すかどうかは別にしても、確かに学校のカリキュラム自体に何かしらの変化を加えないと対応できないのかもしれない。
………寧ろ指導教員がいないのに、理論の成績上位者で二科生が入ってきたことを評価すべきだ。もし実技しかいい点数を取れてないどっかの命知らず(特に一科生)が『ズルをした』などとケチをつければこの学校は巨大な極寒の冷凍施設になってしまうだろう。
「………シンヤ。またなにか失礼なこと考えてないか」
だから何故達也に毎回オレの考えがわかる。コイツ実はサイキックか(妹に関して限定の)。
「いや。達也が呼び出されたのに妹の姿が見当たらないなと思ってな」
「あっ、確かにお兄様の一大事だってのに、深雪はどこに行ってるのかな?」
オレに便乗するようにエリカがそう言った。言葉上はこの場にいないことを責めるものだったが、ニヤニヤと笑みを浮かべて弾んだような声で言っているため、単なるからかいの域を出ないものだろう。
「深雪は九校戦の準備で大忙しだ」
「「あぁ……」」
達也の言葉に、その場にいた全員が思い出したように頷いた。
全国魔法科高校親善魔法競技大会、通称“九校戦”は、全国に九つある魔法科高校の生徒達がスポーツ系魔法競技で競い合う全国大会である。例年夏休み中に国防軍所有の富士演習場南東エリアで十日間にわたって開催され、観客は十日間で述べ十万人ほど、映像媒体による中継も合わせると百万人は下らない一大イベントとのことだ。
「そういえば、ほのかと雫とエイミィも、九校戦には選手として出場するんだよね?」
エリカの問い掛けに、光井と北山とエイミィが揃って頷いた。九校戦は全学年が参加可能な“本戦”と1年生のみが参加できる“新人戦”の2つに分かれており、一科生の中でも好成績を誇る3人が選手に選ばれるのはむしろ必然であった。
そして当然ながら、紛う事なきトップの成績である司波妹も代表に選ばれている。
「ま!この4人が選手として出るんなら、新人戦は一高の優勝で決まったようなものでしょ!」
エリカの言葉に、北山は真剣な表情で首を横に振った。
「そんなことはない。今年は三高に、一条の御曹司が入ったから」
「一条って、十師族の一条か?そりゃ確かに強敵っぽいな」
「”クリムゾン・プリンス”こと一条将輝以外にもライバル候補はいる。男子枠では”カーディナル・ジョージ”こと吉祥寺真紅郎、女子枠では”エクレール・アイリ”こと一色愛梨、神道系古式魔法を使う四十九院が出るとか」
十師族・師補十八家・百家の揃い踏みか。出場選手たちにとっては頭の痛くなるであろう面子だ。
「随分と詳しいね。ひょっとして、雫って九校戦フリーク?」
「雫は毎年、大会を観に行ってるんだよ。特にモノリス・コードがお気に入りなんだよね」
「今年は観る側じゃなくて競う側ですね」
「うん、頑張る」
北山は無表情ながら拳を握り締めて力強く決意を露わにする。
それにしても神道系の古式魔法師か…………できればあまり関わりたくないな。
次回からの九校戦編は…………
『お主かなり変わっておるの。何者じゃ?』
――――出会ってしまった古式魔法の使い手。
『私のかつての教え子に君と同じ目をした男がいたよ』
――――意味深なことを告げる老人。
『この九校戦……………第一高校には負けてもらう』
――――そして九校戦の裏で暗躍する者たち。
『この世は、勝つことが全てだ』
九校戦編、乞うご期待!