コックの戦い   作:外清内ダク

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03-殺し合い

 

 

 一方、森の上を逃げ回る、緑の影があった。トッドのライネックである。

 木々に触れそうなほどの低空を、全速力で飛び抜けていく。時折、思い出したように後ろを振り返り、オーラバルカンを掃射するが、リョーコとイズミのエステバリスには、かすりさえしない。

『ちょこまかと逃げ回りやがって! 待ちゃあがれっ!』

 オーラバルカンの弾道を軽くくぐり抜け、リョーコは一気に加速した。エステバリスから噴射された強烈な重力場が、空間を激しく揺らめかせる。ライネックの背中はみるみる近づき、リョーコ・エステバリスがフィールドランサーを両手に構えた。

『こーんちくしょーっ!』

「当たるかよ!」

 裂帛の気合いと共に繰り出された槍の一撃に、ライネックは素早く身を捻る。

 ……が、回避運動も空しく、フィールドランサーの刃先がライネックのふくらはぎを深々と貫いた。

「くそっ、当たっちまった」

 トッドは悪態を吐きながら、真後ろに向かってオーラバルカンを乱射した。しかし崩れた体勢のまま、狙いもせず放たれた銃弾である。リョーコは慌てることなく急上昇し、難なくそれを回避。次の瞬間、リョーコの後ろから迫っていたイズミが、射線の通るタイミングを見計らい、正確無比な一掃射を叩き込む。

「うおおっ!?」

 リョーコ機の陰に隠れていたイズミ機から、いきなりの掃射である。一瞬トッドは何が起きたのかすら把握できず、まともに銃弾をその身に浴びた。衝撃の中で我に返り、慌ててその場から飛び退く。エステバリス2機が隊列を整えている間に、トッドはなんとか体勢を立て直した。

「この俺が押されているだとっ」

 ライネックの手が、突き刺さったままのフィールドランサーを引き抜き、森の中に投げ捨てる。

 危ないところだった。オーラバリアの守りが無ければ、とうに落とされていた所である。こんな所で死んでなるものか、とトッドは自分に言い聞かせる。何のために、今まで戦ってきたのだ。ショウ・ザマ。奴に勝つまでは、死んでも死にきれるものではない!

 とにかく今は、目の前の2機を何とかしなくては。しかしエステバリス隊の2機は、コンビネーションも絶妙……

 と、再加速をかけたエステバリスたちが、複雑な機動を描きつつ、ライネックの背後に迫る。

『おっしゃあ! トドメ行くぜ、イズミ!』

『了解……』

 互いに重力場の航跡を絡まり合わせ、2機のエステバリスが突撃してくる。ディストーション・フィールドを纏ってのタックル。あんなものを喰らえば、オーラバリア越しとはいえ、どうなるか分かった物ではない。

 が、こちらにも策はある。

 トッドのライネックは、その場に急停止、反転して剣を抜きはなった。2機のエステバリスを真正面から受け止める体勢。リョーコとイズミはすぐさま速度を調整し、必殺のタイミングでタックルを繰り出す。

 しかしその直後。

 ヴヴン!

 羽虫の音。

 リョーコとイズミの目前に、それぞれ2機のグランチャーが出現する。

『うわったぁー!?』

『……っ』

 二人して悲鳴を挙げながら、慌てて急停止する。タックルのタイミングを完全にずらされ、体勢を崩したエステバリスに、グランチャーはすぐさま斬り掛かった。エステバリスたちは空気を蹴りつけるようにして上昇し、危うく難を逃れる。が、グランチャー部隊はバイタル・ジャンプで後を追い、容赦なくチャクラ光を浴びせかける。

『グランチャーだぁー!? てんめー、ずっこいじゃねーかっ!』

「はっははは! 当然の戦術っていうもんだろう!」

 トッドが逃げ回っていたのは、グランチャー部隊が隠れている地点にエステバリスをおびき出すためだったのである。もちろん、半分以上は演技ではなかったが、それはこの際問題ではない。

 トッドはにやりと笑みを浮かべ、グランチャーに追い回されるエステバリス目がけ、自らも上空に飛び上がる。

「さあ、1機ずつ落とさせてもらうぜ!」

 ライネックの緑の外骨格が、ぬらりと輝く。狙いは、リョーコ機。奴はエステバリス隊のリーダーと見た。ならば、頭を叩くに限る。

 グランチャー2機に挟まれて、回避で手一杯のリョーコ機に、トッドは猛然と迫った。が、後一歩というところで、トッドの視界をオレンジの影が塞ぐ。一瞬でトッドは全てを悟り、機体を捻ってその場を飛び退く。

 一瞬遅れて、オーラカノンの砲弾が、ライネックのそばをかすめて過ぎた。

「ショウ・ザマ! ようやくおでましかっ!」

 ライネックの行く手を阻んだオレンジのオーラバトラー……ショウのビルバインである。

『リョーコさん! ここは俺が引き受けた、ナデシコに戻ってくれ! 伏兵のビアレスが現れてる!』

『わかったっ、まかしとけっ!』

 グランチャーに牽制の掃射を浴びせつつ、リョーコとイズミは急速反転、ナデシコへ向けて矢のように飛んでいく。トッドの中で、無念さと躍動感が同時に渦巻いた。エステバリスは落とし損ねた……しかし、今目の前にはビルバインがいる。

「ショウ……今日こそ決着をつけてやるぜ」

『ドレイクの欲望に付き合わされるいわれはない。奴はオルファンまで、結局は掌中に収める算段なんだろう』

「それも、あるかもしれんがね。俺はステイツと組むよう言っただけだ。オルファン州は、たまたまついてきたに過ぎない!」

『オルファン州? 州と言ったのか?』

「言ったがどうした! さあ、ケリをつけるぜ、ショウッ!」

 

 

 右……いや、左!

 オーラバトラー・ビアレスが、素早い切り返しでアキトを翻弄する。青黒い異形のオーラバトラー、ビアレス。ショッキングピンクに彩られたアキトのエステバリスと対峙し、その周辺を機敏に飛び回りながら、確実にアキトの隙を狙ってくる。

 ……来た!

 アキトはIFSスフィアを握りしめ、弾かれたように真上へ上昇した。鋭い踏み込みと共にビアレスが放った刃は、間一髪のところで空を切る。アキトはそのまま重力場を放ち、空中で機体に制動をかけると、再び真下へ向かって急下降した。

「てやぁーっ!」

 エステバリスの手に握られた槍、フィールドランサー。狙うは真下に入り込んできたビアレス。必殺のタイミングで振り下ろされた刃は、

「うっ!?」

 しかし、ビアレスの軽やかな身のこなしに、あっさりとかわされる。

 まずい!

 アキトの顔が青ざめた。フィールドランサーは重い武器だ。振り下ろせば僅かなりとも隙が生まれる。対してビアレスの得物は、軽く切断力に優れたショーテル。間合いを詰められれば避ける術がない。

 案の定ビアレスは、フィールドランサーの柄を蹴りつけながら、エステバリスの懐に飛び込んだ。重い槍に蹴りまで食らい、エステバリスのマニピュレータが僅かに痺れる。その一瞬の停滞を衝き、ビアレスの刃がエステバリスの脇腹を襲った。

 やられる!?

 と思った次の瞬間。

 ヴヴン!

 気味の悪い音を立て、アキトの目の前、ほとんど密着するような位置に、白い機体が出現した。

「ブレンパワード!?」

『ウツミヤヒメブレン! てやぁー!』

 威勢のいい比瑪の声が響き渡り、ヒメブレンが両腕を広げる。ビアレスのショーテルと、エステバリスとの間に無理矢理割り込んだヒメブレンは、その場でチャクラ・シールドを展開したのである。あと僅かでヒメブレンを抉るというところで、ショーテルはチャクラの光に弾かれる。その反動で怯んだ隙に、ヒメブレンが蹴りを叩き込む。

 ビアレスは体勢を崩しながら吹き飛ばされ、制御を取り戻そうと空中でもがく。と、そこを狙ったラピッドライフルの掃射が、ビアレスのボディを横から貫いた。

『くぉーらァテンカワーっ! ブレンには換えパーツってもんがねーんだぞ!』

 いつもの怒鳴り声が、アキトの脳みそを揺らす。重力場の揺らぎを引き連れて、2機のエステバリスが流星のように飛来した。リョーコとイズミ。二人はナデシコのそばに戻るなり、ナデシコの周囲を取り囲むグランチャーとビアレスの部隊に突っ込んでいく。

 ナデシコの周りで、戦闘の花が開いた。戦ってる。俺も行かなきゃ。アキトは足と腕に力を込めた。エステバリスがふらつきながら、ヒメブレンから僅かに離れた。しかし体が動かない。エステバリスが反応しない。

 それもそのはずだった。アキトの視線と意識は、落ちていくビアレスに、釘付けになっていた。

 ラピッドライフルの容赦ない銃弾に、腕をもぎ取られたビアレス。脇腹にまで銃弾は食い込み、外骨格の奥の無惨な傷口をさらけ出す。もはやぴくりとも動かず、重力に任せて落ちることしかできなくなった、青黒い塊。あれが、ついさっきまで、アキトの命を脅かしていた、軽々と宙を舞う、あのオーラバトラーだったというのか?

 生きていたって?

『アキトくん!?』

 ふと気がつけば、アキトのエステバリスは、ヒメブレンの両手にがっしりと捕まれていた。ヒメブレンのハッチが開き、比瑪がオレンジ色の髪を振り乱しながら顔を出す。その心配そうな、しかし剣のように鋭い瞳。アキトは思わず、コックピットハッチの展開をコマンドしてしまった。

 支える物もない空中に、エステバリスとヒメブレンが、アキトと比瑪が向かい合う。

「どうしたのよー! しっかりしないと!」

 アキトは奥歯を噛みしめた。

「しっかりするって……しっかり戦うのか」

「アキトくん?」

 戦場の風に吹き飛ばされそうな、アキトの声。

 

 

『殺し合いなんだよな? どこまでいっても、これって結局殺し合いなんだよな!』

 ナデシコのブリッジに、悲痛な叫びが響き渡る。それがアキトの声であることは、誰の耳にも明らかだった。

 ブリッジ・クルーが騒然となる中、ユリカは艦長と女の狭間を行き来しながら、僅かに上擦った声をルリに向ける。

「ルリちゃんっ! 状況は?」

「けっこーヤバめです。

 勇さんはジョナさんに、ショウさんはトッドさんに苦戦中。ナデシコも……」

 ルリの言葉を、下から突き上げるような振動が掻き消した。ブリッジにどよめきと悲鳴が渦巻く。ユリカはたたらを踏みながら、辛うじて踏みとどまり、一瞬顔を伏した。そして次に顔を上げたとき、彼女の顔は艦長のそれに変わっていた。

『なんでこんなことになっちゃったんだよ! 俺がやりたいことは、もっと……』

「アキトぉーっ!!」

 ユリカが、吠えた。

 衝撃波のように広がる叫び。ブリッジの中がビリビリと震える。

『なっ……なんだよっ!』

「アキトは、いったん艦に戻って!」

『な、何だって!』

「艦長命令ですっ!

 エステバリス隊、陣形を密に! アキトの抜けた穴を埋めてくださいっ! 二機に挟まれたらおしまいですよ!」

『よっしゃあ、まかしとけ!』

『この店のウリは……味かい……? 値段かい……? 了解……? ク、クク……』

『ちょっと待てよユリカ、何言って……』

「それからルリちゃん、カタパルトデッキに……」

「もう繋いでます」

「ありがと! こちら艦長、マーベルさんいますかーっ?」

 

 カタパルトデッキの壁際で、ウリバタケから差し出された受話器を、マーベルは耳に当てた。

「ご命令?」

『はいっ! アキトの代わりにダンバインで出撃、お願いします!』

 一瞬、マーベルは躊躇った。

 ユリカはこの調子である。艦長として優秀だと、話に聞いてはいても、どうしても不安になる。何も状況を把握せず、適当なことを言っているだけではないか、と。

「私のダンバインが修理中だとは、知っていて?」

『はいっ!』

 歯切れ良く、ユリカは返事した。

 ……全て承知の上で、か。

 なら、艦長命令に従わない理由はない。マーベルは迷いを断ち切り、

「了解。すぐに出るわ」

 その言葉を聞くなり、ウリバタケがクルーに怒鳴りつけた。

「ハッチ開けーっ!」

 

 

(つづく)

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