コックの戦い   作:外清内ダク

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05-正拳

 

 

 ハッチをこじ開け、エステバリスを宙に舞わせ、目指すは一直線に、戦場。殺し合いの場所。人を殺さなければならない場所……でも、それは勇や比瑪が殺されようとする場所でもあるはずだ。

『アキトぉー!? 大丈夫なの!?』

「分かんないよ、そんなこと!」

 ユリカの声に、アキトは泣き叫ぶように応えた。

「でも、勇に死んで欲しくなかった……分かってくれて嬉しかった。その気持ちの通りに動くことが、俺らしくやるってことなのか?

 ……俺にできること……俺にしかできないこと……本当にあるのか!?」

 覚悟は決まった。

「うわああああああああっ!」

 絶叫しながら、エステバリスは空を駆け抜ける。

 グランチャーの姿がみるみる大きくなっていく。ジョナサンの瞳がエステバリスを睨め付ける。体の震えを押しとどめ、アキトはペダルを蹴りつけた。ディストーションフィールドを纏っての突撃を、ジョナサン・グランチャーは軽々と避け、

『邪魔をするんじゃあない!』

 お返しとばかりに、チャクラ光を放つ。一撃必殺の弾道を、フィールドの力でねじ曲げながら、エステバリスは急速旋回。再びグランチャーを正面に捉え、ラピッドライフルの掃射を叩き込む。

 Dフィールド、チャクラシールドという絶対防御を纏っての撃ち合い。二機は円舞曲を舞うように、空中に美しい弧を描く。全ての銃弾があらぬ方向に逸れ、あるいはチャクラに弾かれ、空しく虚空に溶け消える。

 お互い無意味な攻撃。ジョナサンの性格なら……

『……面白くもない』

 グランチャーの姿が掻き消える。

 来た!

 と思った瞬間、無意識にアキトの体が動いた。拳にディストーションフィールドを纏い、目前の、何もない空へ向かって思いっきり突き出す。次の瞬間、拳の先にジョナサン・グランチャーが出現し、その胸板をエステバリスの正拳突きが捉えた。

『な!』

「当たった!?」

 

 

「くっそ!」

 悪態を吐き、ジョナサンはエステバリスを睨む。衝撃で吹き飛ばされたグランチャーを必死で励まし、バイタル・ジャンプで距離を取らせる。今受けたダメージは、決して軽くはない。恐らくグランチャーは、内臓にあたる部分に衝撃を浴びている。

 だが、それ以上に、手玉に取られたという屈辱感がジョナサンを叩きのめしていた。

 やられたのだ。無意味な撃ち合いにしびれを切らし、バイタル・ジャンプで懐に飛び込むと見越されていた。屈辱感は一気に膨らみ、ジョナサンに猛烈な怒りをもたらす。だがジョナサンは賢い男だった。

 ――怒り狂って勝てる勝負はない。

 冷徹に不利を認識しながら、部隊の様子を確認する。ナデシコを取り囲んだグランチャー部隊は、徐々に優勢をひっくり返され、なかなかナデシコに近づかせて貰えなくなっている。トッドはと言えば……ビルバイン一機に、物の見事に足止めされ、翻弄されるばかり。

「口先だけか、お前は! 撤退するぞ!」

『何言ってる! あと一押しでビルバインにも勝てるんだ!』

「状況を見てみろよっ」

 言いながら、ジョナサンは仲間たちに撤退の合図を送り、自分も身を翻して、一目散に退いた。トッドはまだ未練がましく、ビルバインと対峙していたが、やがて状況を悟ったか、ジョナサンの後を追い始めた。

『ショウ! 次こそは倒す!』

 

 

 退いた……か。

 アキトはホッと溜息を吐きながら、森に向かって降下した。森の木々を薙ぎ倒す、青い巨体が見えてくる。エステバリスよりは二回りほど大きい、ユウブレン。倒れた木の上に、仰向けに寝そべる彼の側へ、アキトはそっと着地した。

「勇!」

 ハッチを開けて顔を出し、アキトは裏返った声で叫んだ。と、ブレンの股のあたりから、ひょっこりと青いフリュイド・スーツが覗く。勇は疲れた顔をして、しかしアキトの方に笑って見せた。

「大丈夫だ……ブレン! お礼を言った方がいいと思う」

 ずー。

 倒れたまま、頭だけこちらに向けて、ユウブレンは低く唸った。なんて言ってるのか、アキトには全然分からない。でも、分かる気もする。勇に言われた通り、お礼を言ってくれてるのかな、と。

 そう感じる。

「お前こそ、大丈夫なのか?」

 勇に問われて、アキトは、はっとする。さっきユリカに聞かれた時は、答えることができなかった。でも、今なら?

「……分からない」

 でも。

「でも……感じることは、あるんだ」

「そうなのか」

「俺、まだ、戦うことが正しいのかどうか、分からないけど……自分が戦いたいのかどうかも、分からないけど……

 みんなが死んでしまうのは嫌だったし、ブレンにお礼を言われたのは嬉しかった。それが、俺にしかできないこと、っていうことなのかな?」

 勇は困り顔で腰に手を当て、

「俺に言われたって、分からないよ」

「そ、そっか……」

 まだ結論は出ていない。

 でも、今感じることの上に立って、一歩前へ進むことは、できるかもしれない。

「おおーい! 勇ー! アキトくーん!」

 アキトは青い空を見上げ、大きく胸に息を吸い込む。爽やかな風。耳に慣れた、不思議なチャクラの音。白いヒメブレンが、ゆっくりとこちらへ降りてくる。その丸っこい姿を見つめ――

 アキトは思いっきり手を振った。

 

 

THE END.

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