ハッチをこじ開け、エステバリスを宙に舞わせ、目指すは一直線に、戦場。殺し合いの場所。人を殺さなければならない場所……でも、それは勇や比瑪が殺されようとする場所でもあるはずだ。
『アキトぉー!? 大丈夫なの!?』
「分かんないよ、そんなこと!」
ユリカの声に、アキトは泣き叫ぶように応えた。
「でも、勇に死んで欲しくなかった……分かってくれて嬉しかった。その気持ちの通りに動くことが、俺らしくやるってことなのか?
……俺にできること……俺にしかできないこと……本当にあるのか!?」
覚悟は決まった。
「うわああああああああっ!」
絶叫しながら、エステバリスは空を駆け抜ける。
グランチャーの姿がみるみる大きくなっていく。ジョナサンの瞳がエステバリスを睨め付ける。体の震えを押しとどめ、アキトはペダルを蹴りつけた。ディストーションフィールドを纏っての突撃を、ジョナサン・グランチャーは軽々と避け、
『邪魔をするんじゃあない!』
お返しとばかりに、チャクラ光を放つ。一撃必殺の弾道を、フィールドの力でねじ曲げながら、エステバリスは急速旋回。再びグランチャーを正面に捉え、ラピッドライフルの掃射を叩き込む。
Dフィールド、チャクラシールドという絶対防御を纏っての撃ち合い。二機は円舞曲を舞うように、空中に美しい弧を描く。全ての銃弾があらぬ方向に逸れ、あるいはチャクラに弾かれ、空しく虚空に溶け消える。
お互い無意味な攻撃。ジョナサンの性格なら……
『……面白くもない』
グランチャーの姿が掻き消える。
来た!
と思った瞬間、無意識にアキトの体が動いた。拳にディストーションフィールドを纏い、目前の、何もない空へ向かって思いっきり突き出す。次の瞬間、拳の先にジョナサン・グランチャーが出現し、その胸板をエステバリスの正拳突きが捉えた。
『な!』
「当たった!?」
「くっそ!」
悪態を吐き、ジョナサンはエステバリスを睨む。衝撃で吹き飛ばされたグランチャーを必死で励まし、バイタル・ジャンプで距離を取らせる。今受けたダメージは、決して軽くはない。恐らくグランチャーは、内臓にあたる部分に衝撃を浴びている。
だが、それ以上に、手玉に取られたという屈辱感がジョナサンを叩きのめしていた。
やられたのだ。無意味な撃ち合いにしびれを切らし、バイタル・ジャンプで懐に飛び込むと見越されていた。屈辱感は一気に膨らみ、ジョナサンに猛烈な怒りをもたらす。だがジョナサンは賢い男だった。
――怒り狂って勝てる勝負はない。
冷徹に不利を認識しながら、部隊の様子を確認する。ナデシコを取り囲んだグランチャー部隊は、徐々に優勢をひっくり返され、なかなかナデシコに近づかせて貰えなくなっている。トッドはと言えば……ビルバイン一機に、物の見事に足止めされ、翻弄されるばかり。
「口先だけか、お前は! 撤退するぞ!」
『何言ってる! あと一押しでビルバインにも勝てるんだ!』
「状況を見てみろよっ」
言いながら、ジョナサンは仲間たちに撤退の合図を送り、自分も身を翻して、一目散に退いた。トッドはまだ未練がましく、ビルバインと対峙していたが、やがて状況を悟ったか、ジョナサンの後を追い始めた。
『ショウ! 次こそは倒す!』
退いた……か。
アキトはホッと溜息を吐きながら、森に向かって降下した。森の木々を薙ぎ倒す、青い巨体が見えてくる。エステバリスよりは二回りほど大きい、ユウブレン。倒れた木の上に、仰向けに寝そべる彼の側へ、アキトはそっと着地した。
「勇!」
ハッチを開けて顔を出し、アキトは裏返った声で叫んだ。と、ブレンの股のあたりから、ひょっこりと青いフリュイド・スーツが覗く。勇は疲れた顔をして、しかしアキトの方に笑って見せた。
「大丈夫だ……ブレン! お礼を言った方がいいと思う」
ずー。
倒れたまま、頭だけこちらに向けて、ユウブレンは低く唸った。なんて言ってるのか、アキトには全然分からない。でも、分かる気もする。勇に言われた通り、お礼を言ってくれてるのかな、と。
そう感じる。
「お前こそ、大丈夫なのか?」
勇に問われて、アキトは、はっとする。さっきユリカに聞かれた時は、答えることができなかった。でも、今なら?
「……分からない」
でも。
「でも……感じることは、あるんだ」
「そうなのか」
「俺、まだ、戦うことが正しいのかどうか、分からないけど……自分が戦いたいのかどうかも、分からないけど……
みんなが死んでしまうのは嫌だったし、ブレンにお礼を言われたのは嬉しかった。それが、俺にしかできないこと、っていうことなのかな?」
勇は困り顔で腰に手を当て、
「俺に言われたって、分からないよ」
「そ、そっか……」
まだ結論は出ていない。
でも、今感じることの上に立って、一歩前へ進むことは、できるかもしれない。
「おおーい! 勇ー! アキトくーん!」
アキトは青い空を見上げ、大きく胸に息を吸い込む。爽やかな風。耳に慣れた、不思議なチャクラの音。白いヒメブレンが、ゆっくりとこちらへ降りてくる。その丸っこい姿を見つめ――
アキトは思いっきり手を振った。
THE END.