ーーーーーー
八幡達が去った後の教室は静かなものだった。相模が急に柊や涼風の前で八幡をバカにしていた時から雰囲気は最悪だったのだが、今の雰囲気はより悪くなっていた。それに追い討ちをかけたのは八幡の普段出す事のない低い声と殺気だ。それらにクラス内は完全に呑まれてしまっていた。だが恐れを知らないというのは、時として悪い方向へと向かっていってしまうものでもある。
相模「……アイツ何なの?帰るの止めただけで勝手にキレてさ、訳分かんなくない?」
ゆっこ「それね〜ていうか聞いた?アイツ私達の事犬とか言ってた!まじムカつくよね!」
遥「私もそれ本当にウザかった!目がヤバい奴なんかに言われたくないっつーの!」
相模「ホントそれだよね〜!じゃあさ「アンタ等さ〜。」あし……なぁに三浦さん?」
三浦「アンタ等さ、人が居なくなってからじゃないと文句言えないの?超ダッサイんだけど。それって自分達がその人に負けてるって認めてるって事だし。」
遥「ちょっと三浦さ〜ん、いきなり出て来て説教なんてやめてよね。ていうか、三浦さんってあの根暗の味方するの?」
三浦「アンタ達に味方するって考えるよりかは、あーしはヒキオに味方する方を選ぶし。」
ゆっこ「マジィ〜?あんな男に味方するとかマジあり得なくない?」
相模「いいじゃん別に。誰が誰に味方してもさ、ウチ等も帰ろ?」
遥「うん。」
ゆっこ「さんせー。」
そう言って相模達3人組は帰り支度をして帰路についた。喋り方から見ても分かるが、彼女達には明らかな余裕があった。その理由については分からないが、八幡に負けるなんて考えてもいないのだろう。
三浦「………」
葉山「………優美子。」
三浦「………アンタ等はどうするし?あーしには今の、決定的に思えるんだけど?」
三浦は葉山に向かってそう言ってるが、葉山には言っていなかった。その背後に居る葉山グループの3人に言っていた。
戸部「……隼人君、悪りぃけど俺等、このグループ抜けるべ。」
葉山「えっ!?な、何を言うんだ!?」
大岡「相模達が来てから思ってたんだ、すげぇやり辛いって。俺達それで話し合ってたりとかもしてたんだよ。そんで決めたんだ。」
大岡「もうこのグループではやっていけない。俺達と相模さん達とじゃそりが合わなかったんだよ。だから………悪い。」
葉山「ちょっと待ってくれ!急過ぎないか!?相模さん達とも話し合って「隼人君。」決めれば………戸部?」
戸部「もう決めた事なんよ。隼人君の事は好きだけど、今のグループも好きかって言われるとそれは違うべ。俺達はこのグループでやっていける自信ないんだ。だからゴメンっしょ。」
葉山にそう伝えると、戸部達も部活の準備を始めてそそくさと教室から出て行った。周りの生徒もそれに伴って帰り支度を始めて、準備が出来た者から教室を出て行った。そして残ったのは葉山と三浦の2人だけだった。
三浦「隼人、何で戸部達がグループ抜けたか、隼人はちゃんと分かってる?」
葉山「それは……相模さん達が嫌になったから「そうじゃないし。」で……え?」
三浦「それもあるけど、1番じゃないし。じゃあ質問変える。何であーしがグループ抜けたと思う?」
葉山「………修学旅行の告白の事を教えてくれなかったから?」
三浦「確かにそれもあるし。けど違う。」
葉山「ち、違う?」
三浦「隼人、本当に分かんないわけ?」
困惑する葉山の表情を見た三浦はウンザリしたような表情で葉山を見つめる。
三浦「………隼人が言った理由も含まれてる、確かにそれもあるし。けど1番の理由は、隼人のグループでやっていけそうにないって思ってるからだし。あーしは隼人がさっき言った修学旅行の告白で何も教えてくれなかったって理由でもうこのグループとは縁を切るって思った。」
葉山「………」
三浦「戸部達も相模達が来てから居づらそうにしてた。そんで色々と3人で相談して、もう無理ってなったってわけだし。」
葉山「そんな……相談してくれれば「そしたら隼人、絶対にグループに残れって引き止めるって分かってるからしなかったんだと思うし。」ど、どうしてそれが分かるんだ?」
三浦「だってあーしの時がそうだったじゃん。」
葉山ははっとしたような表情をする。今までの自分の取った行動が裏目に出ていたという事を今になって初めて気が付いたのだ。
葉山「じゃあ、俺はどうしたら………」
三浦「あーしには分かんない。ただ1つ言えるのは、隼人は直接ではないにしろ、ヒキオにケンカ売ったって事。相模達を止められなかったから。自覚あるかは知んないけど、隼人は葉山グループって呼ばれてんだかんね?そんでそのメンバーに今は相模達が居る。だから隼人があの3人をどうにかしない限り、これはずっと続くよ。」
葉山「………」
三浦「だからあーしは思う、葉山グループを抜けて正解だって。そうでなきゃあーしがどの立場にいたのかさえも気付けなかったし。調子に乗ってるように見えていたのも気が付かなかった。だから隼人も手遅れになんない内に早くあの3人何とかするか、逃げ道でも作っておいたほーがいいと思う。そんくらいしておかないと、益々自分の首絞めに行くことになるし。」
そして三浦も荷物を持って教室から出た。ただ1人教室に残された葉山は、眉間に皺を寄せながらその場に立ち尽くしていた。