八幡side
景色を楽しみながら昼食を食べていても、やはり気になってしまう白い猪の存在だ。この猪、分けた弁当を食べ終わったにも関わらず、俺から離れようとはしないのだ。それどころか、その場で横になって俺を待っているかのような仕草を取っている。何故分かるかって?俺から目を離さないからだよ。ジッと見てるんだよ?
流石に俺も食べ切れない弁当の量でもないから、程なくして弁当全てを平らげた。そしてスポドリと一緒に口の中に入れた具材を飲み込んでから………
八幡「ふぅ……ご馳走様でした。やっぱ弁当も美味かったなぁ〜。」
俺が食べ終わるのを察知すると、白い猪は立ち上がってその場から歩き出した。俺について来るようにジャスチャーっぽいのをしてから。まだ何処かに案内する場所があるのか?
八幡「山頂に着いたから後は下山するだけなんだが、他に行く所ってあるのか?」
俺は猪の後をついて行く事にした。行く道を戻って行くだけだったのだが、さっきの大きな樹のある広場に着くと、猪は洞窟の中へと入っていった。その洞窟は俺がさっきお供えした時に入った小さな洞窟では無く、もっと大きな洞窟だった。こんなデカい洞窟見つけられなかった俺も俺だが、この先に何かあるのか?
崖沿いの道を進んで暫くすると、何やら小屋のような場所に辿り着いた。猪は小屋の扉を開けて奥へと進んで行った。中は予想通りの時代を感じる作りだったが、猪は奥の扉もすぐに開けた。すると奥には池が………いや、温泉があった………え、温泉っ!!?
ちゃんと湯気出てる………それに何だかちょっとだけ白っぽい緑色をしているというか、見た事の無いような色だ………え、入るの?
白い猪「………」コクコクッ
………その通りでした。
俺は裸にハンドタオルを持って、その温泉へと出向いた。あっ、荷物はさっきの小屋に置いてきたから大丈夫。けどこの猪、律儀に待ってるんだな………先に入ってるものだとばかり思ってたが、まぁいい。此処までしてくれているんだから、そのご厚意は素直に受け取っておかないとな。
チャプッ
八幡「おっ、俺好みの湯加減だ。あっ、あああぁぁぁぁ〜………良い湯だぁ〜。」
ヤバい、メッチャ気持ち良いぞコレ………何でだ?登山したからじゃないよな?体育で疲れた時とか、色々あり過ぎた時に入る風呂よりも格段に気持ち良いぞ!効能とかあるのか?ヤバい、なんか動きたくないかも………
しかもいつの間にか猪まで入ってるし。
八幡「あぁ〜……なんかありがとうございます、こんな良い温泉まで。初登山がこんな最高なものになるなんて思わなかったですよ。」
白い猪「………」ノソォ∼
完全リラックスモードなのか、猪は顎を岩に乗せたまま目を瞑って動かなくなっている。メッチャ気持ち良さそうじゃん………最初はちょっと怪しい登山になったが、後になるにつれてもっと変になってたなぁ………特に白い猪が現れてからは。
だって誰も思わないし信じないだろ、猪に案内されながら登山するって。コイツ寝惚けてるんじゃないかって言われたり思われたりしておしまいだろ。
八幡「けどこんなに気持ち良いのって続くもんなのか?ずっと良い湯が続くって夢みたいだな………このくらいなら身体傾けても落ちないよな、少しだけ目を瞑るか。」
俺はもっとこの気分を堪能したいからその場で少しだけ楽な体勢を取ってから目を瞑った。
あぁ〜極楽………
『久方ぶりに楽しきほどをふられしぞ、心の清き人ぞ。また会ふべきを楽しみにせり。』
(久しぶりに楽しい時間を過ごせたぞ、心清き人間よ。また会えるのを楽しみにしている。)
八幡「………ん?んんぅ…寝ちまってたのか、え?」
さっきまで俺は温泉で寝ていた筈……なのに俺は社の前に居た。しかも身支度も来た時の格好と同じだ。え、じゃあもしかして今までのって夢か!?
俺はバッグの中身を確認すると、そこには山の中で見つけた瓢箪、ガラス細工、結晶数個があったが、何かの御守りだけが無くなっていた。もしかしてあの御守りって………あの猪の?
八幡「俺は何をして……どうなってんだこりゃ?」
俺は最初に入った洞窟の方へと目をやると、あった筈の洞窟の道が瓦礫で塞がれていた。嘘だろ、俺が通った時はこんなの無かったのに………けど登った時とは違って身体が異常なぐらい軽い。あの温泉に入ったから?だとしてもだ、俺はどうやってこの服を着て此処に?あの猪が?いや、流石に無理だ。あの猪がどれだけ賢くても人間の服を着させられるとは思えない。
八幡「なんかこっちに来てから変な事ばかり起きてるな。しかもそれが悪い事でも良い事でもない、どちらとも言えないような事だ。けど山登りは終わったし、俺も帰るか。携帯携帯………」
おっ、あったあった。さて、これで別荘の電話に連絡すれば良かったんだよな。伊吹山の霊水は持って来れなかったが、それ以上の物をお土産に貰ったし、それで我慢してもらおう。
けど、あの白い猪って本当に何者だったんだ?
『二千年前に会ひし人とは異なるめり、主ならば雹を下す事もあらざらむ。』
(2000年前に会った人間とは違うようだ、主ならば雹を下す事もなかろう。)