八幡side
ふぅ………良い時間を過ごせた。山の中だったら不便な事も多いかと思ってもいたが、そんな事も無かったな。けどこれでこの別荘ともお別れか……なんかあっという間だったな。最初は迷ったが今ではもう慣れてしまった。その理由といってもアレだが、この別荘を散歩代わりに歩き回るくらいには道順やどこに何があるのかも覚えてしまった。
そして今、まさにその散歩中だ。しかし本当に良い空気だ。柊の言ってた空気が美味しいとはこの事だな。千葉とは、というよりも都会とは違うな。
「おや、また会いましたね?」
八幡「ん?あぁどうも、おはようございます。」
「耳にしましたが、今日立つようですね?」
八幡「はい。長い間、お世話になりました。」
「いえいえ、この老いぼれは何もしておりませんので。それで、どうでした?充分に身体を癒やし、休められましたか?」
八幡「はい、おかげさまで。」
「そうですか、それは何よりです。」
そういえばこのお婆さんも居たな……最初の日以来会ってなかったけど。
「……ふふっ。」
八幡「?」
「失礼。やはり貴方は私の父に似ているものでして、何と言いますか、滲み出る優しさというんでしょうね………懐かしく感じます。」
八幡「はぁ……」
「引き止めてしまってすみませんね、では私は「大奥様〜!!こちらに居たんですか!勝手に出歩くのはお身体に障りますよ!?」………見つかってしまいましたか。」
………え、大奥?
八幡「あの、もしかして………」
「……本来は言うつもり等は無かったのですけどね。はぁ………この屋敷では私の行動よりも、貴方のその大声の方が余程目立ちますよ?少しは声量を慎みなさい。」
「え、何で私が怒られているのですか?」
「コホンッ、改めて挨拶を。いつも息子、孫達がお世話になっています。柊さんと涼風さんの祖母であり、御影の母の
………まさかのお婆ちゃん?
縁「遠巻きながら様子を見させて頂いておりましたが、孫達だけでなく、息子とも仲良くしてくれているようで。今後ともよろしくお願いしますね。」
八幡「は、はい……こちらこそ仲良くさせて頂いてます。いつもお世話になりっぱなしですし。」
縁「ふふふっ、謙虚なのですね。」
まさかあの時にあったのが、柊達のお婆ちゃんだったなんて………っていう事はこの別荘ってこのお婆ちゃんの?
八幡「あの、この屋敷ってもしかして………」
縁「いえ、私のではありません。御影が購入したものです。私は貴方達が此処に来ると聞きましたので、その間だけでもお忍びで滞在する事にしたのです。まぁ、声だけは1人前の彼のせいでバレてしまいましたが。」
「うっ、すみません………」
縁「比企谷八幡さん、私がこの別荘に居るという事はどうかご内密にお願いしますね?知られてしまったら御影がうるさいものなので。」
八幡「えっと……過保護、だとか?」
縁「そうですね、似たようなものです。この老体の身体を気にし過ぎるのか、少し1人で歩いただけでもすぐに心配を掛けるのですよ。最初は可愛いとも思っていましたが、構われ過ぎるのも問題ですね。」
それで別居してるって事なのか?なら余計に気になりそうだけどな。
縁「比企谷さん、孫達の事をお願いしますね。息子からも報告は受けています。中学生の頃、イジメに遭っていたのを貴方が救ってくれたと。柊さんも涼風さんも貴方に全幅の信頼を寄せているのは一目瞭然。何よりも、父と同じ雰囲気を持っている貴方なら大丈夫だと。」
八幡「………はい。」
縁「………多くを語らない所もそっくりですね。長い間引き止めて申し訳ありません。貴方にも準備があるでしょうし、私達はこれで失礼致します。行きますよ。」
「はい。では失礼致します。」
御影「いやぁ〜長い間お世話になったね。とても良い時間だったよ。」
「勿体無いお言葉でございます、旦那様。」
御影「いやいや、本当に。妻も娘も八幡君もそう言ってるよ。もしかしたらまた今年の年末も来るかもしれないけど、その時はまたよろしく頼むよ。」
「我々一同、誠心誠意おもてなしさせて頂きます。心よりお待ちしております。」
柊「その時はまた一緒にご飯とか作りましょうね!見てて色々勉強になりましたし、また見てみたいですので!」
紫苑「ふふっ、柊ったら。」
涼風「私もとても良い時間を過ごせました。お次はいつになるか分かりませんが、その時もまたご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。」
「ご迷惑だなんてとんでもありません。我々は旦那様方が来るのをいつでもお待ちしております。」
八幡「今日まで色々、お世話になりました。」
そして俺達は乗ってきた車に乗って、別荘を後にした。お見送りをしてくれた使用人達は見えなくなるまで頭を下げたままだった。
それとは別に、さっきのお婆さんが部屋の窓で優しく微笑んでいるのが見えた。きっと見送りのつもりなのだろう。安心して下さい、ちゃんと約束は守りますから。