俺、実は彼女がいるんだ………   作:生焼け肉

213 / 300
耀変天目茶碗

 

 

八幡side

 

 

家に帰って数日が経った。帰って来た時には家族に向かって普通の挨拶に加えて新年の挨拶も同時にしたのだが、少しだけこそばゆかった。けどまぁ、こういう挨拶ってのは大事だしな、形式美だとしても。そしてこの数日は柊とは直接会っていない、理由としては冬休みの課題やらがあったからだ。滋賀県に行ってる間は思う存分遊んだからな、だからその分の勉強はしなくてはならない。あまりやりたくはないけど。

 

そして今日は、おじさんと予てから約束していた鑑定をしてもらう日だ。おじさんの知り合いにいい人がいるらしく、その人に見てもらう予定になっている。骨董品鑑定士と宝石鑑定士の専門家の所に行って見てもらうらしいけど、どうなんだろうなコレ?伊吹山の祠に入っていた物とはいえ、本当に価値があるのかどうかも俺には分からん。本物かどうかも分からないし。

 

 

っと、来たな。

 

 

御影「やぁ八幡君、こんにちは。」

 

八幡「こんにちはおじさん、今日はありがとうございます。」

 

御影「ううん、気にしないでよ。僕もそれらの価値がどんなものなのか知りたいしね。」

 

八幡「期待しない方が良いと思いますよ?価値がないって知った時のテンションの落ちようとか半端じゃないと思いますし。」

 

御影「あはは、まぁ見てからのお楽しみだね。」

 

 

ーーー壺墨堂(こぼくどう)ーーー

 

 

御影「まずはお椀を見てもらおうか。綺麗な青色だったしね。」

 

八幡「はい。」

 

 

おじさんはそのままお店の扉を開けて中へと入って行った。奥へ奥へと進むと、そこには1人の男性が居た。歳は………大体おじさんと同じくらい?

 

 

御影「全く、せっかく予約まで入れて時間を作ってもらったのに……ほら墨ちゃん、来たんだから起きてよ!でないと帰るよ?」

 

墨ちゃん「ん?あぁ〜影ちゃん、ゴメンゴメン。いやぁ〜久しぶりに茶器の鑑定なんて話を貰ったからウキウキしててさ〜寝ちゃった、あはは♪」

 

御影「あはは、じゃないよ全く……あぁ八幡君、紹介するね。彼は高城墨吉(たかじょうすみよし)、僕の同級生の1人で骨董品の鑑定士なんだ。昔からそういうのに鋭くてね。それを売りにこの商売をしてるんだ。」

 

高城「よろしく、気軽に墨ちゃんで良いからね。」

 

 

いや、無理です。

 

 

高城「けど影ちゃん、見てもらいたいって言ってたのはこの子が持ってるのなの?」

 

御影「うん。この前、八幡君が1人で滋賀県の伊吹山に登った時に見つけてね。綺麗だったから鑑定してみたらどうかなって話になったんだよ。」

 

高城「綺麗………ふぅん、山にあったのに綺麗ねぇ。それって洗ったりしてない状態でかな?」

 

八幡「あ、はい。そのままの状態で。」

 

高城「………まずはその現物を見せてもらっていいかい?物を見ない限りには鑑定なんて出来ないからね。見せて。」

 

八幡「はい。」

 

 

俺は鞄の中から椀を出した。やっぱ綺麗だよなコレ……青じゃないっていうか………瑠璃色っていうのか?それに斑点みたいな模様がついてるのもなんか味があるよなぁ。

 

 

高城「………」

 

 

高城さんが色々な角度から見つめている。単眼鏡なんかも使ってマジマジと見ていた。

 

 

高城「影ちゃん、八幡君、もっと時間をもらってもいいかい?この茶器、【耀変天目茶碗】っていうんだけど、ただ覗いただけじゃ価値が分からない。今の所僕が見た限りでは、現代で作られた物じゃない。むしろもっと前………そうでもなければ現代ではこういう形はあまり見られないし、滲むような瑠璃色がこんなにも美しい理由はないんだ。もっと見てもいいかな?」

 

八幡「俺はいいですけど………」

 

御影「八幡君もこう言ってるから、好きなだけ見るといいよ。」

 

高城「感謝するよ。それから、店内は好きに見て回っていいよ。興味無いとは思うけど、色んな骨董品があるから。」

 

 

………確かに見る分には飽きる事はなさそうだな、この店内は。日本だけじゃない、色んな国の骨董品がある。

 

 

ーーー30分後ーーー

 

 

高城「影ちゃん、八幡君、査定が終わったよ。」

 

御影「おぉ、漸くかい?」

 

高城「うん、時間をもらっちゃってごめんよ。何せ物が物だったからね。」

 

御影「僕も八幡君も時間に余裕はあるから問題ないよ。それで、結果はどうだったんだい?」

 

高城「うん。この茶器、【耀変天目茶碗】は………紛れもない本物、しかも完全体で見つかったことに加えてこの輝きや艶、状態も加味すると、この茶器の価値は5000万円から1億円の間くらいになるよ。しかもこの茶器は日本国内では4つあると言われているんだけど、今はその内3つしか見つかっていないんだ。まさかこんな形で………」

 

 

………嘘、俺が山の神様から貰ったお椀が5000万から1億の価値?

 

 

御影「墨ちゃん、本当なのかい?」

 

高城「僕が影ちゃん相手に嘘つくと思うかい?僕だって嘘を突きつけられてるような気分さ。まさか4つ目の【耀変天目茶碗】を生で見られたばかりか、その査定を自分がやってしまったとは……恐ろしさが伝わってくるよ。悪いんだけど、コレはウチじゃあ買い取れないよ。物の桁が違い過ぎる上にそんなお金無いしね。美術館か博物館に行けばその価値の恐ろしさがすぐに分かるよ。」

 

 

いや、それよりも5000万から1億する程の茶碗を鞄の中に入れていた自分がよっぽど恐ろしいです。

 

 




耀変天目茶碗…天目茶碗の中では最上級の茶碗。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。