八幡side
御影「いやぁ〜北海道旅行以来だけど、こうしてまた八幡君と一緒の風呂に入れる事を嬉しく思うよ。義息子と入れるのは、父親の夢でもあったからね〜。はははっ!」
八幡「そ、そうっすか……」
御影「柊が迷惑を掛けていないか心配していたけど、これだけ長い間付き合えているし、何よりも柊の心の支えになってくれた八幡君なら問題はないって信じてるしね。」
八幡「ありがとうございます。」
食事を終えて寛いでいた俺は、風呂が沸いたと宮間さんから言われて入っているわけだ。当然ながら風呂もかなりの大きさである。
御影「それにしても、八幡君は本当に欲が無いんだね?さっきも言ったと思うけど、君は僕達の家族も同然だから欲しい物があるのなら、言ってくれても構わないのだよ?お金は幾らあっても困る物ではないが、置いておくだけというわけにもいかないからね。」
八幡「急には思いつきませんよ。それに秘密なんでしょ、この家が超がつく程の大金持ちって事は。きっと俺の妹がそれを知ったら、それを狙って色んなのを強請るかもしれませんし。」
御影「君は自分の妹を一体なんだと思ってるんだい………」
いや、親父に甘やかされてる小町の事だ。この家が超金持ちだって知ったら………うん、メチャクチャな買い物とかしそう。
御影「まぁ確かにね。八幡君にはどうしてこの家がお金持ちなのを隠しているか、話した事があったかな?」
八幡「柊から少し。一般人としての教養や金銭感覚、常識を身に付けておく為っていうのは聞いてます。他にあるんですか?」
御影「まぁね。といっても今八幡君が言った事が全てなんだけど、最大の理由はお金の亡者にならない為、だからだね。」
金の亡者にならない為?
御影「一応、この夜十神家は明治時代からの名家で爵位持ちの家だったんだよ。伯家……まぁ、伯爵と言った方が分かりやすいかな、爵位の中では3番目に位置する位を持っていたんだよ。まぁそれも1947年に全て廃止になったから今は関係ないけど。けど財産は残ってたから、僕の先祖達はそれを使って商いに手をつけたんだ。夜十神家は元々、商業を専門としていたから金銭勘定は得意でね。1番に立て直したと言っても過言ではない。けど、そのせいで周りから言われる事も多くてね。」
八幡「金持ちなのを妬まれるようになった、ってわけですか?」
御影「うん。当時の当主達はかなり悩まされていたみたいでね。僕も文献でしか見た事はないんだけど、それこそ盗みが入ったり、夜襲とかもあったみたいなんだ。」
うわ怖っ!!そんな物騒だったのかよ……いや、1947年って昭和だよな?その頃ってそんなに物騒だっのか?
御影「そんな出来事が続いて数年が経った頃、僕が最も尊敬出来る夜十神家の当主様がこの時期の当主になったんだ。その当主様はこれまで親族のみにしか使わなかった家の資金を地域一帯の復興に当てたんだよ!それだけじゃない、他にも海外から取り寄せた物品での商業もこの代から始まって、服や装飾品、骨董品や食べ物、家具なんかも格安で売って来たんだよ。だからこの千葉は一時期『日本ではない日本』とまで言われる程、皆の生活は豊かになったんだよ!その人物が僕の祖父にあたる人物でね、生前は本当に良くしてもらっていたんだよ。あの人は本当に凄い人だった……皆からも『あの人はとんでもない人だ!』とか『偉大なお方だ!』って言われていたんだよ。あんなにも人の幸せを願った人はそうそういないと思っているんだ。」
八幡「………凄い人なんですね。」
御影「うん、本当に。人助けをしたご先祖様なんて、祖父くらいだからね。僕もあの人のような男になれたらって頑張ってはいるんだけど、中々上手く行かなくてね………お金しか生み出せなくなっている。どうしたものかな、あはは……」
八幡「けど、時代の流れもありますから。その時は生活が豊かじゃなかったから成功していたのであって、今は家を持っているのが当たり前な世の中になってますから。」
御影「そうだね。でも、もし僕があの頃に生まれていたとしても、祖父のように振る舞えていたかって言われると、きっとしていないと思うんだ。何せ祖父は子供の頃から『夜十神家の異端児』って言われていたみたいだから。分家からは少し嫌われていたみたいだから。」
多分、子供の頃から感性がその頃の子供とはかなり違っていたんだろうな。当たり前が当たり前じゃない、常識が非常識っていう風に、何処か他の人とは違う天性の才能を持っていたんだろう。
御影「僕は祖父から『お前は将来化けるぞ!きっちり勉強しておくんだぞ!』って言われたから一生懸命勉強した結果、今みたいなお金持ちになれた。僕の持ってる会社が海外進出したのは僕の代からなんだよ。違う事がしたいって思ったから。少しだけ!祖父の考えに染まってしまったっていうのもあるかもね。」
八幡「……いや、すげぇ事だと思います。」
御影「はは、ありがとう。何だか話し過ぎちゃったみたいでゴメンね、先祖様のお話に付き合わせてしまって。話の本筋が逸れちゃったけど、お金の亡者にならない為っていう理由は分かってくれたと思う。自分や自分の家の為だけに使うお金っていうのは、あまりにも窮屈で狭過ぎる。なら人々の幸せの為に自分の家族だけでなく人々に、家だけでなく世界の為に、てね。まぁ、まだまだだけどね。」
八幡「いえ、聞けてよかったです。」
御影「そう言ってもらえると嬉しいよ。じゃ、身体でも洗おうかな。」
八幡「背中流します。」
御影「あはは……ありがとうね、八幡君。」
○○○○○は金持ち隠しでした!