豊穣の女神が母性を爆発させた話   作:蛙飛び込む沼の中

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更新期間が空いてしまい申し訳ありません。
モチベーションが低下していましたがドゥムジぬいぐるみ発送の連絡が届いてちょっと回復しました。テンション上がりますね。

今回の話は前回の続きではなく単発のものになります。(今後の展開次第では設定に矛盾等が生じる可能性があります)
バビロニア特異点経験前のマスターのいるカルデアに来るとこうなるよ、という話です。いずれ書く予定の本編では7章後に召喚されることを想定しているので別の世界線の話と思ってください。ちなみにこのカルデアのマスターは女性です。


番外編
番外編1


「イシュタルさまとお父さまの気配がしたから来ました。よろしくおねがいします、マスター!」

 

 元気の良い声にそう言われて、私、藤丸立香は面喰らった。今日はなんか行ける気がする! と召喚室に飛び込み熱い思いのままに召喚を行なった結果が目の前にいる少女、もとい幼女。笑顔を浮かべたその顔貌はとても可愛らしく、成長すればとんでもない美人になることだろう。

 

「うん、よろしくね! 私は藤丸立香。隣にいるのがマシュ。えっと、あなたのクラスと真名を教えてもらってもいいかな?」

「……覚えてない? それともまだ知らない? ……えっとね、真名はメラム、クラスはアーチャー。イシュタルさまとお父さまと同じなんだよ!」

 

 名前を尋ねると少しきょとんとしていたが、すぐにまた笑顔を見せて名乗ってくれた幼女にひとまず安堵する。幼い姿で現界していても中身までそうであるとは限らないのが英霊だ。サーヴァントである以上本人に実感があるかは別にしても記憶は晩年のものまで有しているはずで、子供扱いされることに不快感を示すこともある。

 申し訳ないことに神話に詳しくないため名前を聞いてもピンと来ないが、そこは隣にいるマシュがフォローしてくれると信じて幼女が放ったイシュタルとお父さまという言葉を思い出す。先日召喚に応じてくれた古代メソポタミア神話に登場する女神はわかるが、お父さまとは一体誰だろう。

 

「……そういえばギルガメッシュに顔似てるよね?」

「に、似ているのも当然です。メラムさんはギルガメッシュさんの実の娘であり、イシュタルさんに養育された方ですので……」

「王様の娘!? じゃあいつもイシュタルが愛し子って言ってる子ってこと?」

「マスター、早くイシュタルさまとお父さまに会いたいです!」

 

 そう言いながら白色のモコモコ(・・・・・・・)が足下に飛び付いてくる。触れるべき点が多過ぎて今までスルーしていたが、この子はなぜ羊の着ぐるみを纏っているのだろう。頭は髪の毛まで着ぐるみのフードに覆われていて見えているのは顔面のみ。ギルガメッシュそっくりの整った顔立ちに子供特有の無邪気さが併さってとても可愛い。そして抱き付かれたからわかるがこの着ぐるみ、極上の手触りだ。我慢ならずふわふわの子羊を撫で回してしまった。

 

「めちゃくちゃ肌触りがいい……」

「せ、先輩……あっ、申し遅れました、デミサーヴァントのマシュ・キリエライトです」

「……抱っこ!」

「え? えっ?」

 

 するりとマシュの足下へと移動し、小さな両手(蹄まで再現されている)をマシュに向ける子羊。戸惑うマシュに構わずグイグイとアピールする姿も可愛らしい。足下で動くもこもこの魅力には抗えず、マシュはおそるおそる子羊を抱き上げた。

 

「わ……柔らかい……!」

 

 子羊を抱き上げたマシュが瞳を輝かせながら言う。なお子羊はマシュの胸に遠慮なく甘えていた。幼女でなければ大問題だった。

 

 ごろごろと喉を鳴らす子羊を抱えたマシュと連れ立って召喚室を出る。イシュタルとギルガメッシュに早く会いたいというメラムのリクエストに応えるためだ。二人ともどこにいるかなと一瞬考えて、しかしその必要がないことをすぐに悟った。近付いてくる大きな物音と悲鳴。廊下にいる人たちに多大な迷惑を掛けながら、マアンナに乗って全力疾走してきたらしい女神イシュタルが暴風と共にやってきた。

 

「メラム!」

「イシュタルさま――お母さま!」

「ああ、メラム! 本当に貴女なのね。私の愛しい愛しい子……またこうして会えるなんて……」

 

 イシュタルにいち早く気付いたメラムが嬉しそうに腕を伸ばす。イシュタルは瞳を潤ませながらマシュからメラムを受け取り、強く抱き締めた。カルデアにいるイシュタルは聖杯に縁深い人間の中で相性の良い少女を依代に現界しているため生前の姿とは違うだろうに、メラムは一切の迷いも躊躇もなくイシュタルの腕の中で破顔している。

 邪魔するのは悪いだろうとマシュに目配せをして立ち去ろうとすると、他ならぬイシュタルがそれを止める。メラムの額に優しく口付けを落とすと視線を私たちに向けた。

 

「お礼を言うわ、マスター。この子を召喚してくれてありがとう。ほら、メラムも」

「マスター、ありがとう!」

「ううん、こちらこそ召喚に応じてくれてありがとう」

 

 あのイシュタルが素直にお礼を言うなんて、と驚きつつも返事を返す。いつもならこんな態度をしていたら噛み付いてくるイシュタルだが今は目の前の愛娘に夢中のようで何のお咎めもなかった。いつもこの調子ならいいのになぁと思った、その時だった。

 

「可愛いメラム。さあ、私の部屋に行……」

「フハハハハ! メラムよ、父が来てやったぞ! さあ我が腕に飛び込んで来るが良い!」

「パパ!」

「「パパ!?」」

 

 まさかの呼び名にイシュタルと同時に叫ぶ。突然湧いた情報に頭がついていかない。まさかあのギルガメッシュがそんな呼び方をされ、イシュタルの腕の中からその手(蹄)を伸ばすくらい懐かれているなんて。

 一瞬の隙をついてギルガメッシュがイシュタルから娘を奪い取る。イシュタルも大層驚愕していたのだろう。そうでなければ愛娘を抱き締める手が緩むことはなかったはずだ。

 

「パパ、肩車してください!」

「ふ、天に仰ぎ見るべき我を見下ろすことを望むとは。斯様な蛮行を赦すのはお前くらいなものよ」

 

 高笑いしながら娘の要望通りに肩車をする古代メソポタミアの英雄王(半裸ver)。その姿に私とマシュはもちろんイシュタルさえも絶句し惚けていた。そっくりな顔の父娘の笑い声が響く中、とんでもないサーヴァントを召喚したことだけを理解した。

 

「な、なんでギルガメッシュのことをパパって呼んでるの?」

 

 ギルガメッシュの肩に乗せてもらいご機嫌な様子の子羊に尋ねる。イシュタルはどれだけ衝撃を受けたのか立ち上がることができないほど落ち込んでいて、天の女主人に膝をつけさせることのできる幼女に驚愕するほかない。ギルガメッシュは娘を肩車しながらそんなイシュタルを鼻で笑っていた。

 

「? パパはパパだよ?」

「そうだけど、ほら、昔はそういう呼び方しなかったんじゃないかなって……というかさっきはお父さまって呼んでたよね」

「人に説明するときはちゃんとしないとダメってシドゥリが……」

 

 先ほどのは人に説明するときの敬称的な意味のお父さまだったという。カルデアにいるどのサーヴァントよりも幼く見えるがさすがはギルガメッシュの娘ということだろうか。

 しかし、それでも現代で使われるパパ呼びには疑問が残る。私の表情を察したらしい子羊は説明を続けた。

 

「えっとね、ここじゃない聖杯戦争で会った時にパパって呼んでいいって言われたから」

「聖杯戦争!?」

 

 落ち込んでいたはずのイシュタルが悲鳴を上げてギルガメッシュの肩から子羊を奪い去る。速い。ギルガメッシュも反応しきれないほどのスピードとはさすがイシュタルである。超スピードで強奪された子羊もびっくりしたのかきょとんとしている。宇宙猫顔の子羊だ。可愛い。

 

「どうしてそんな危ないところに行ったの! 聖杯戦争なんて危険がいっぱいなのよ!?」

「イシュタルが……まともなことを言って怒ってる……!?」

「先輩!」

 

 マシュに横槍を入れるなと注意されてしまった。ごめん、つい。

 詳しくは覚えていないと首を振る子羊がイシュタルの顔をまじまじと見つめる。やがて花が咲くようにパアッと笑い、頭をイシュタルの首元に擦り付けて甘え出した。

 

「我で運を使い果たしたかと思っていたが我が娘をも召喚するとは。存外やるではないか、雑種」

「お、お褒めに預かり光栄です?」

「あやつには我の宝物庫の使用権限を貸し与えている。そこな駄女神からも財宝や武器を譲り受けているらしいな。駄女神と違い有り余る財を持っており、戦い方も我を真似ているぞ。まったく愛い奴よ」

 

 いつになく機嫌が良く饒舌な王がベラベラ語り出す。娘が来て嬉しいようだ。

 王曰く、王律鍵のスペアを渡しているためよく宝物庫からかっこいい武器を持っていくらしい。誰に影響されたのか射出するのは武器より宝石の方が多いとのこと。あとは宝物庫から出した武器や強力な魔術礼装(今の着ぐるみではないらしい。見たければ再臨させろと言われた)を用いての肉弾戦(体当たり)が好きらしい。見た目とは裏腹にアクティブな子羊である。イシュタルはギルガメッシュの言葉を信じられないと言いたげな表情で聞いていた。

 

「戦いなんてさせられるわけないでしょ!? 何考えてるのよギルガメッシュ!」

 

 イシュタルが言うことも尤もだ。サーヴァントにも向き不向きはあるし、戦闘に対する心持ちも異なる。ありがたいことに多くの英霊が力を貸してくれているので今は全員が全員戦いに出る必要はない。カルデアでできることだってたくさんあるし、幼い子どもを戦闘に加えることに抵抗感もある。だが、そんな私たちの心配をギルガメッシュは鼻で笑って吹き飛ばした。

 

「我の娘の愛らしさは本物だが、貴様らのそれは杞憂だ。己が目でメラムのステータスを確認しておけ。だが雑種、我が娘を戦闘に出す時は我を呼ぶことを忘れるなよ」

 

 そう言ってギルガメッシュは去っていった。色々と混乱しているイシュタルからメラムが離れる様子がないからだろうか。

 

「……マシュ、あとでメラムのことが書いてある分かりやすい本貸して?」

 

 傍若無人を地で行く二人が愛する存在。顔を合わせれば喧嘩をする二人が比較的大人しく会話していたのはこの子の存在があったからに違いない。

 わかりましたと力強い返事をくれた後輩に目配せし、イシュタルのことはメラムに任せてその場を後にした。

 

 

 

 

 ギルガメッシュの言う通り、メラムは高水準のステータスを有していた。本人も戦うことを嫌がる様子はなく周回にもよく付いてきてくれる。イシュタルから借りたというシタとミトゥムを振り回して暴れる姿に、アーチャーの状態ではこの二つの武器を扱えないイシュタルよりも有能なのではとエルキドゥは言っていた。しかしどれだけ強くても心配だと言うイシュタルと一緒に遊びたいらしいギルガメッシュの目を盗んで付いてくるのだけはやめてほしい。私の命が危ない。

 そんなメラムに種火を渡し、素材を揃え、ついに第三再臨を行う日がやってきた。その空気は緊迫している。メラムは楽しそうなのだがイシュタルの雰囲気がやばい。

 

「メラム、準備はいい?」

「はい!」

 

 その理由はひとつ。召喚直後のメラムは羊の着ぐるみを全身に纏っていた。そして次の再臨時はなんとギルガメッシュの鎧を真似た姿を見せてくれた。そう、つまりイシュタルがめちゃくちゃ嫉妬しているのだ。

 

「じゃあ、行くよ」

 

 イシュタルの服装を真似てほしいと思う反面、幼女にあの格好をさせるのはあまりにもよくない。イシュタルが怒らない感じの衣装になってくれと願いながら素材を渡した。

 ――そうして現れたのは。

 

「…………」

「マスター! 見て見て!」

「金色の……羊? あ、これもすごいふわふわしてる……」

 

 足元で嬉しそうにするメラムを撫でる。白い子羊が金色の子羊になっただけのはずだが、イシュタルの目が怖い。キレて大声で叫ばないのはメラムのためなのだろうが完全に怒っている気配が伝わってくる。

 

「……可愛い私のメラム? ちょっと耳を塞いでてくれる?」

「? はい、お母さま」

「で、マスターはメラムを抱えて万一にも耳から手を離さないようにしてなさい」

「ア、ハイ」

 

 女神こわっ。目が笑ってない女神こわっ!

 言われた通りに耳を塞ぐメラムを抱えて、さらにマシュに頼んで念のためメラムの手(やっぱり蹄だった)を抑えてもらう。そんな私たちの姿を確認し、イシュタルは大きく息を吸い込んだ。

 

「私の愛し子に何しやがったのよドゥムジィィイーーーーー!!!!!」

 

 神話上の夫の名を叫びながら怒るイシュタルを宥めるのは、特異点を解決するレベルで大変だったとだけ言っておく。




ドゥムジ「冤罪です(冤罪じゃない)」

再臨すると白羊、金鎧、金羊になるメラムちゃん。

Q.パパの真似しかしてないのはなんで?
A.マザコン拗らせてママの真似をするのは不敬だと思ってるからです。好き過ぎてその領域を汚せないタイプ。世界最古のマザコンって言われてそう。

Q.聖杯戦争って?
A.冬木とか月の裏側とか行ってる世界線もあります。パパ呼びに大喜びして記憶は引き継がれないという座の制限もなんのその。

Q.蹄だと生活しにくくない?
A.両親をはじめとした他人にすべて世話してもらうので何も問題ないです。着脱自体は可能。

Q.お母さま呼び?
A.ネタバレその1。生前贈与がすごかった。

Q.ドゥムジ着ぐるみ?
A.ギルガメッシュが言っていた強力な魔術礼装がこれ。本気になると四足で走るという噂がある。
 絆10にすると回避とかガッツが壊れ性能レベルで付きます。死と再生、復活を司る牧神が全力で加護掛けてるからね、是非もないね。


ネタバレがしれっと入っていたり、冗長になるため説明を省いた部分もあって分かりにくい設定もあったと思いますが、それは今後本編で補完していきたいと思います。
前書きの通り、本来意図していた流れとは違う時空のお話なので、今後話を進めていく上で矛盾が出てきたらスルーしてください。
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