豊穣の女神が母性を爆発させた話 作:蛙飛び込む沼の中
小説書くのも久々なのでリハビリの番外編になります。
FGOマスター視点で祖母()とのお話です。復帰早々怒られる気がする。
「ばあば、だっこ!」
「……はぁ、仕方ないですね」
気怠げに広げられた腕の中に子羊が勢いよく飛び込んだ。私が堕落させたいのはあなたじゃないんですけどー、なんて言いながらも子羊を抱き上げる手付きが優しくて思わず笑ってしまう。しかしそれを見逃してくれなかった彼女は鋭い目付きで私を睨んできた。
「……その生温い視線はなんですか?」
「孫に甘々なおばあちゃんだなって」
「どこがですか!?」
「むしろどこが違うのってレベル」
抱き着けるようにしゃがんであげたり、甘えてくるのを受け入れたり、落ちないし万一落ちても平気だろうにしっかり抱えてあげたり、膝に乗せて子守唄を歌ってたり。どこからどう見ても可愛がっている。
「ちょっと!? 最後のいつ見たんですか!?」
「最後に見たのは一昨日かな。けど毎日のようにしてるよね?」
「な、なんで知って……いえ、私は愛欲の神。堕落の魔王。そうやって甘やかすのも堕落させるためであって」
「メラムはカーマちゃんのこと好き?」
「ばあば大好き!」
「んん゛ッ…………コホン、つまりこの子はもう私に堕ちているわけです。堕落させることが目的ですが私は慈悲深いので堕落したからといって見捨てることはしませんし何ならもっと甘やかすのも吝かではないというかいえ全然可愛くなんて思ってないですしあの金星駄女神から引き離したいとかも考えてないですけど」
「黒髭並みの早口」
「ばあばどうしたの? 疲れてる? メラム降りる?」
「この魔王が子ども一人持てないとでも? 不敬ですよ。そのままでいなさい」
「あんまり孫甘やかしちゃダメだよおばあちゃん」
「甘やかしてないですー! 堕落させてるんですー!」
ところでお気付きだろうか。甘やかしているという部分は過剰なまでに否定するカーマちゃんだが、おばあちゃんという呼称を否定していないことに。
この呼び方が定着したのはカーマちゃんがカルデアに来てすぐのことだった。
* * * * *
「あ、カーマ」
「あら、マスターさんじゃないですか。……ふぅん、抱えているのが噂の神に
私の腕の中で寝ているメラムを見てカーマが嗤う。友好的ではない視線を向けられたせいか眠っている子羊が少し身じろいだ。
「ま、私には関係のないことですけど。今の私の標的はマスターさんなわけですし?」
愛欲の神でありながら愛を嫌悪するカーマが酷薄な笑みを浮かべて私に視線を向ける。あ、嫌な予感、と反射的に後ずさるのと子羊がパチリと目を覚ましたのは同時だった。
ん~、と唸りながら私の肩に額を擦り付けたあと、寝起きでぼんやりとした赤い瞳がカーマを捉える。女神の愛し子が自分を見てどう反応するかを見たいのか、はたまた自分が
「ばあば!」
「…………………………は?」
宇宙の概念を得ているカーマがスラング的意味合いで宇宙を背負っている姿を見たのはこれが初めてだった。
「カーマはばあばなの?」
「うん!」
「良かったねカーマ。メラムのおばあちゃんは
「でもじいじでもある」
「本来は男神だもんね。でもおじいちゃんは結構いるからおばあちゃんでいいんじゃない?」
「何の話してるんですか貴方たち!?」
理解不能と騒ぐカーマを不思議そうに見つめるメラムの頭を撫でる。おばあちゃん元気だねと言うとメラムはニコニコ笑って頷き、カーマは余計に騒ぎだした。
「インドの神を祖父母と呼ぶとか頭バーサーカーなんじゃないですか、この子!」
「メラムの両親は増えるものだから祖父母も増えるでしょ」
「増えないですよ!? というか両親が増えるってなんです!?」
「ジェネリックママはメソポタミア関係じゃないサーヴァントしかいないし」
「ジェネリックママ……?」
本格的に宇宙を背負い出したカーマを見て、そういえば両親は増えないことが普通だと思い至った。メラムがほいほいママを増やすせいでいつの間にか感覚が麻痺していたらしい。ちなみにジェネリックママとはカルデア内での俗称であってメラム自身はきちんと相手のことをママやお母さまと呼んでいる。イシュタルに近い神性や能力を持つサーヴァントは軒並み認定されていて、一等懐いているのはBBちゃんだ。
「ばあば大丈夫? 具合悪いの?」
「いや祖母扱いしないでくれます? 他の女神はあなたに特別な関心を向けるようですが私にその魅了は効かないようですし。私を苛立たせる子どもなんて簡単に黙らせ――げぇ!?」
「――なんと非道な神なのでしょう。幼子が祖父母を求め慕う気持ちを踏み躙り、あまつさえ暴力で脅すなど。これが愛の神とは……なんともはや……」
「キアラさん?」
「はい。見知った獣の……いえ、お会いしたことのない神の気配が致しまして。不肖殺生院キアラ、後学のためにお会いしに来た次第でございます、が」
言葉を区切り、やれやれと首を振るキアラさんをカーマは苦虫を噛み潰したような顔で睨み付ける。今にも舌打ちが聞こえてきそうだし、雰囲気がより一層ギスギスしだした。
「斯様な幼子に暴言暴力を振るうなど、カルデアでは許されませんよ?」
「貴方が言います、それ? ……あーあ、シラけちゃいました。私はこれで……わっ!?」
この場を去ろうと足を進めたカーマの右肩に私の腕から抜け出したメラムがしがみつく。急に飛び付かれたカーマが少しよろめいて(油断していたとはいえ飛びついただけで女神をよろめかせる子羊のやばさは見ない振りをする)非難染みた視線を原因に向けるが、そのまま言葉が続くことはなかった。
ゔ~、と。顔をしわくちゃにしてキアラさんに対して唸るメラムがそこにいたからだ。
「メラム、どうし――」
「このおばさんきらい!!」
キアラさんは微笑みを浮かべたまま、カーマは呆けた表情のまま場が凍る。聞かなかったことにして逃げ出したい。自分が放つ暴言や失言より子どもがやらかす方がよほど心労が大きいことを痛感した。
それにしても、と現実逃避を兼ねて考える。この表情は前にも見たことがあった。エレシュキガルに対してだ。冥界の女主人にもこんな感じで唸って暴れて大変だった。けれど、エレシュキガルは
「……ふ、ふふっ」
「か、カーマ?」
「いいですね、とても良いです。そうですよねぇ、こんなオバサンは嫌ですよねえ」
「やだ!!」
「ふ……ッ、ええ、それじゃあ“ばあば”と遊びましょうか。今、とっても気分が良いので甘やかしてあげますよ」
「えっ……」
「その幼児性愛者を見る目やめてくれます? 愛の形は様々とはいえ、私という神でも受け入れ難いものはあるんですけど」
マスターとして子羊の安全は守ってみせる。
「うわ……まあたしかにバーサーカーとかになったらやばそうですね。可愛くて食べちゃいたいを物理的にも性的にもやりそうで」
「笑えない冗談はやめて?」
「母親から子への愛って拗らせると最大級に面倒なんですよねー」
「ばあば……?」
「はーい、ばあばですよー。さ、なぜか固まってるオバサンは放ってマスターの部屋にでも行きましょうか。失礼しますね、お・ば・さ・ん❤️」
嘲りをたっぷり含んだ声で、とても楽しそうにカーマは言い放った。
* * * * *
「最初はめちゃくちゃ打算的だったのに今じゃすっかり孫に甘いおばあちゃんになって」
「なってません」
「でもメラムがパールヴァティーを威嚇したときニヤけてたよね?」
「あれは愛されて当然って顔をしているあの女が可愛がってる幼女に威嚇されたことが単にいい気味だったからです」
「ああなったのはカーマちゃんがシヴァに殺されたって知ってからだし、知ってからは他のシヴァ関係者にも威嚇してるけど、その度にニヤけてるよね?」
「しーてーまーせーんー」
そう言いつつもメラムをあやす手付きは明らかに手慣れている。最近は一緒にお風呂も入っているらしい。言うまでもなくママたちとカーマちゃんの仲は最悪です。
「ばあば~」
「はいはい。マスターさんもこれくらい素直に甘えてくれれば可愛げがあるんですけどね」
「可愛いって認めちゃってるよ」
「………………」
すりすりと頬を寄せてくるメラムを受け入れたカーマちゃんが視線を逸らす。その耳は若干赤い。
二人きりだと猫吸いならぬ子羊吸いをしていることもメラムに確認済みだし、もはや堕落しているのはカーマちゃんもではと思うが、賢明な私はこれ以上追究することはやめておいた。
この子羊はグランドクラス資格持ちかビーストになれる/なったことがある存在を祖父母にする悪癖があります。
ビーストⅢ/RはBBちゃんたちに色々してくれやがったのでダメです。