豊穣の女神が母性を爆発させた話   作:蛙飛び込む沼の中

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さて、この話からタグのR15とガールズラブが発揮されるかな、と個人的には思っています。(とはいえ恋愛要素はありません。今後そういった要素が増えるかは未定です)
書いている途中でこれはR15なのか? ガールズラブか? ただの母性の発露では? となりましたが、たぶん一番近くに当て嵌まるのがこれらのタグのはずです。
なので、この話以降をお読みいただく際はその点ご了承ください。


第四話

「困ったわ……」

 

 沈んだ声音でイシュタルは呟いた。視線の先には自らの腕に包まれてくうくうと寝息を立てている最愛の娘がいる。紆余曲折あったが無事に父親であるギルガメッシュから取り返す(・・・・)ことができた愛娘だ。体調が落ち着くまでジグラットで静養している間にウルクにあるイシュタルの神殿(エアンナ)の準備を整え、万全の体勢で娘との生活を開始させた。この幸福の前ではギルガメッシュの不敬も笑って流せるというものだ。

 幼い娘のために設えた部屋の中、邪魔者のいない空間で自身の腕の中にある安らかな寝顔にイシュタルは胸をときめかせる。しかしすぐに美しい顔貌を曇らせ深く溜め息を吐いた。

 

「まさかここまで小食だったなんて。このままでは倒れてしまうわ」

 

 シドゥリから報告はされていたものの実際に目にするまでは気にしていなかったこと。何を差し出しても一口二口でやめてしまい、食べるのに飽きて食事が続かない。水分さえあまり摂りたがらない娘の偏食さにイシュタルは頭を悩ませていた。幼児期にこの調子では今後が不安だ。ただでさえ体が強くないのに、とイシュタルは気を揉んでいた。

 巫女たちにも相談し、興味のありそうなものを与えたり量に気をつけながら甘いものを与えたりしても効果はなかった。イシュタルに捧げられる今年一番に甘い果実を分けたときは三口ほど食べたが、それきり口を閉ざしてしまったので胃の許容量が少ないのかもしれない。もしくは今まで食べていなかったから消化管が発達していないのか。いずれにせよ無理に食べさせると逆効果になり得ると言われ、イシュタルはやきもきしながら娘の食育に思考を巡らせていた。

 

「んむ……?」

「まあ。起きたのね、私の可愛い子」

 

 甘い甘い声音でイシュタルが言い、そのままぷっくりとした唇に吸い付いた。頬や額にも唇を落とし自らの頬を擦り寄せる。寝起きの娘は擽ったそうにイシュタルの行動を受け入れていた。

 イシュタルの王女に対する溺愛についてはウルクを越えてメソポタミア全土で知られるところとなっていた。だが、件の王女の姿を見たことのある者はほとんどいない。イシュタルが深く信頼を寄せる数人の巫女を王女の世話係とし、エアンナの外に連れ出すこともしないためだ。イシュタルの独占欲の強さゆえだろうと誰も何も言わず、人見知りな娘のためにイシュタルが配慮していることは誰も気付かなかった。

 

「お腹空いた? 何か食べる?」

「んん……やぁ……」

 

 昼寝から目覚めたばかりの娘に尋ねても嫌々と首を振られてしまう。せめて水だけでも、と杯を口に近付けても逃げるように顔を背けられてしまった。心底困った表情でイシュタルは愛しい娘をあやす。ゆっくり腕を揺らし、背中を一定のリズムで優しく叩くと機嫌が直ったのか愛らしい笑顔をイシュタルへと向けた。

 

「いしゅたるさまぁ」

「なぁに、私の宝物」

 

 きゃっきゃと腕を伸ばしてくる娘の手に人差し指を添える。ふっくらとした小さな手のひらがその指を握り込む力はあまりに儚く、イシュタルの庇護欲と母性を擽るには充分すぎた。愛しさで息が詰まるのはもう何度目だろうか。

 だからこそ健康に育ってほしいと願っている。神の徴を宿してはいるが三分の二は人間であり食事も睡眠も人と同等に必要な娘。怪我も病気も怖い。それらを防ぐためにも必要な栄養は摂らせなければならなかった。

 

「ねえ、私の愛しい子」

「?」

「今まで食べたものの中で一番好きなものを教えてくれる?」

「……」

 

 食事という行為が嫌いなのか、今まで食べてきた食品が気に入らないのかも判然としない状態で焦りすぎは禁物だ。まずは情報を集めようとイシュタルは思った。

 女神の問いに娘は一度口を開いたが、何かを言い淀むとそのまま閉ざしてしまった。イシュタルが先を促しても唸るばかりでどこか申し訳なさそうに首を力なく横に振っている。この行動が何を指すのかイシュタルはよく分かっていた。イシュタルの溺愛や巫女に世話を焼かれることを遠慮した時の顔だ。神殿に来た当初、当然といえば当然だが戸惑いや不安からか王女は周囲に遠慮がちだった。それから二週間ほど経過し、傍から離れることが稀なくらいべったり付き添っているイシュタルには甘えを見せるようにもなってきたが、世話係の巫女に対してはまだまだ距離を取っている。最も懐いているだろうイシュタルにさえ好物を言うことを遠慮してしまっているのかと思い至り、イシュタルは胸を痛めた。

 

「遠慮しないで。何を言っても怒ったりしないから」

「……」

「可愛い娘のことを知りたいだけよ」

「……ぃ」

「え?」

「おっぱい……」

「…………おっぱい」

 

 まだ二歳の幼児がそれを求める事はなんら間違っていないのだろう。そして子を産んだ女性にしか出せないものを求めることに遠慮してしまうのも。ジグラットで出会った日以外、イシュタルは生母の話を一切しない。ギルガメッシュもシドゥリも一通りの事情を聞いてからはその話に触れなくなった。だから生母を想起させるような話はしないほうがいいのだろうと、王女は幼いながらに気を遣っていた。

 疎まれていたことも愛情が向けられていないことも王女は察していた。それでも接する相手が母親しかいない環境で心の支えにできたのは彼女がたまに見せた優しさだけだった。優しく髪を撫でてくれたとき、自分を慈しむように見ていたとき、寝たふりをした自分に謝罪を繰り返していたとき。そのすべてで生母は王女をその胸に掻き抱いていた。そうした理由から王女は柔らかな胸に甘えることが一等好きで、それが食の好みにも多分に影響している。半神たる娘は自我の確立も早く、生母の胸に吸い付いていた時期が最も幸福だったと覚えていることも理由のひとつだ。

 言葉にしてしまったせいで我慢していた恋しさが溢れ出す。今にも泣き出しそうなほどに顔を歪ませながら、けれどイシュタルの手前それを必死に堪えようとする。そのいじらしく健気な姿を目の当たりにしてイシュタルは堪らず娘を自分の胸に抱き寄せた。

 

「好きなだけ甘えていいのよ。……乳は出ないけれど、貴女の慰めになるのなら」

 

 自らの豊満な胸に顔を埋める娘の髪を撫でる。もともと全裸になることも厭わないイシュタルの胸は薄い布一枚のみで覆われている。外に出るなら話は別だが神殿内で娘と触れ合う時間に貴金属を挟むなどあり得ない。おずおずと、けれどしっかりと額をすり寄せてくる様子にイシュタルはほっと息を吐いた。これで幾ばくでも寂しさが紛れるなら喜ばしい。

 やがて柔らかな感触の中で娘が再び微睡み始める。その横顔が今までで一番安らいでいることに気づいてイシュタルも嬉しくなった。

 

「どうしたの? ふふ、くすぐったいわ」

 

 半分夢の中にいるであろう娘がもぞもぞとみじろぐ。落ち着く位置を探しているのだろうと優しい瞳でそれを見遣り、起こさないように優しく背を叩いた。

 

「────」

「おかあさま……」

 

 繰り返しになるが、イシュタルの胸は薄布一枚でしか覆われていない。

 だから、寝惚けた娘が布を押し上げそれに吸い付いてしまうことも容易だった。

 

「…………」

 

 ちゅうちゅうと突起に吸い付く娘をしげしげと見つめる。さすがのイシュタルにとっても事の衝撃が大きく背を叩いていた手は止まっていた。ここまで胸が好きだったとは知らなかったし、生母と重ねられていることには苛立ちのまま荒れてしまいそうなくらい面白くない。

 ──だが、だがである。それはそれとして、この状況はあまりにもイシュタルの母性を刺激した。

 自分の胸を一心に吸って甘えてくる娘をどうして愛しく思わないでいられるだろう。母を求めての行為をこの自分にしているのだと思うと歓喜に打ち震えた。もうどうしようもないほどの愛おしさしかイシュタルの胸には残っていなかった。

 これからはより胸を露出しやすい服を纏おうと心に決め、イシュタルは愛しい娘が完全に寝入るまで胸を吸わせ続けた。




ほのぼのハートフルなお話です(すっとぼけ)
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