招住羅(しょうとら)・・・・”十二夜叉大将”の一人。
ライドウが17代目を襲名する前に幾度か仮番の契約を交わしていた。
正体は、英霊の一柱・雷電爲右エ門(らいでんためぇもん)。
ムスビ・・・・・”十二夜叉大将”の統括を任されている天津神の一柱。
造化三神の一人であり、正式な名前は高御產巣日神(たかひむすびのかみ)。
旧東京、永田町・帝国議事堂地下、数千メートルに存在する人工都市『神在月(かみありづき)』
その一区画に四神が一柱、玄武の屋敷がある。
「壁内調査に出られない? 一体どういう事だ?」
二十畳程の広さがある客間に葛葉四家当主が一人、17代目・葛葉ライドウが秀麗な眉根を怒りで歪め、真向かいに胡坐をかいて座る屋敷の主を睨み付けた。
「せやから出られへん、大将直々に別の任務を任せられとんねん。」
脇息(きょうそく)に右肘を掛け、だらしなく座った玄武が、如何にも面倒臭そうに大あくびをかました。
ライドウが、遥か北の台地『フォルトゥナ公国』から戻って一月(ひとつき)。
未だ、完全に体調が戻った訳では無いが、何時までも『壁内調査』を21代目当主、葛葉ゲイリンに任せる訳にもいかない。
ゲイリンには、葛葉一族の『葛城の森』を守護する大事な役目がある。
日本に戻って間もないが一秒でも早く、『壁内調査』の任に就きたいが、肝心の本番である玄武が『別件で出られない』とほざいた。
「新しく契約した餓鬼がおるんやろ? せやったらソイツと一緒に行けばええやん。」
「アラストルは治療中で、”シュバルツバース”には連れていけない。」
「もう一人いるやろ?確か・・・ダンテって名前のガキンチョが。」
「アイツには、佐助の補佐について貰う。」
つまるところ、ライドウが安心して背中を預けられるパートナーが一人もいない。
おまけに『魔力の大喰らい』という厄介な体質故、必ず魔力の貯蔵庫である番を連れて行く必要があった。
「なら、暫く壬生家当主に頼むしかあらへんな。」
「21代目には、大事な守り人という役目がある。 何時までも”葛城の森”を不在にしておく訳にはいかない。」
猊琳には、聖地を護るという大事な役目がある。
壬生家お目付け役である綾女からも、早く猊琳を返せと要求されていた。
「四神で誰か一柱借りれないか? 」
「アホか、四神は大将の”持ち物”や、ワイ一人の一存で貸し借り出来る訳がないやろ。」
心底呆れた様子で、玄武が溜息を吐き出す。
玄武の言う通り、四神は骸が所有する私設部隊だ。
いくら葛葉四家当主だとしても、持ち主である骸自身の許可がなければ、私用で動かす事は出来ない。
そんな玄武の態度に業を煮やしたのか、ライドウは立ち上がると、客間から出て行こうとする。
「何処に行くんや?」
「ムスビの処に行く、”十二夜叉大将”の誰か一柱の力を借りるつもりだ。」
ムスビとは、”八咫烏”の選抜部隊”十二夜叉大将”を統括している人物だ。
”十二夜叉大将”の長である骸と同等の権限を持ち、天津神最高神『造化の三神』の一柱であった。
「・・・・お前、正気で言っとるんか?」
「ああ、他に頼れる奴がいないからな。」
”十二夜叉大将”の連中とライドウの関係は、最悪極まりない。
理由は、今から四年前に遡るが、神代である我が子を強奪し、足柄にいるヴァン神族の庇護下を受けようとした悪魔使いを妨害したのが彼等だった。
「ムスビはお前がお気に入りやから、頼めば喜んで貸してくれると思うが・・・・ホンマ、プライドが無いんやな?お前。」
「・・・・・。」
玄武が呆れるのも最もで、ライドウは十二夜叉大将の連中から陰惨な制裁を受けている。
愛する娘を奪われ、自分を凌辱した連中に頭を下げるなど、正気の沙汰とは到底思えない。
「俺達には時間が無い。何時までも”デルファイナス”で足止めを喰らっている訳にはいかないんだ。」
それだけを吐き捨て、悪魔使いは客間を後にする。
豪奢な調度品が飾られる客間に一人、残される玄武。
番が消えた襖を眺め、もう一度、大きな溜息を吐き出した。
数日後、”シュバルツバース”、セクター・デルファイナス。
超大型次世代揚陸艦『レッドスプライト号』降車デッキ内。
国連軍の選抜部隊に混じり、葛葉四家当主の一人、17代目・葛葉ライドウの姿があった。
真紅の呪術帯で、右眼以外の全てを覆い、革の胸当てと鋼の手甲と具足を装着している。
その背後では、優に2メートルを軽く超えた体躯を持つ大男が立っていた。
十二夜叉大将の一柱、招住羅(しょうとら)大将だった。
強固な鎧を纏い、背には身の丈程もある斧を担いでいる。
別件で動けぬ玄武の代わりに、ライドウの仮番として”シュバルツバース”調査隊に参加したのだ。
武装した機動班の中でも、招住羅は一際目立つ。
「まさか俺をご指名するとは思わなかったぞ? 17代目殿。」
「好きでお前を選んだんじゃない。」
雄々しい二本角が生えた面を被る大男は、傍らに立つ悪魔使いを見下ろす。
ライドウの言う通り、同行者として招住羅を選んだのは、十二夜叉大将を統括しているムスビだ。
技量、力量共に17代目の仮番として遜色ないと判断され、選ばれたのだが、まさか自分を強姦した相手を寄越して来るとは正直、予想外だ。
ライドウと十二夜叉大将との確執を知りつつも、実用性を考えての結果だったのだろうが、もう少し配慮して欲しかった。
「はぁ、噂に聞いちゃいたが、酷い処だな。」
廃棄物が山と積まれ、生臭い臭いと刺激臭を放つデルファイナスの様相に、さしもの招住羅も辟易した様子であった。
「セクターデルファイナス・・・別名を”腐り爛(ただ)れた国”、各セクターは人間が犯した罪を体現した世界で成り立っている。」
「ふん、頭の悪い魔族の分際で生意気な。」
ライドウの説明に、招住羅は忌々しそうに吐き捨てる。
彼等、十二夜叉大将にとって魔族は、害虫と同じだ。
”シュバルツバース”の各セクターを支配する魔王達も、彼等にとっては駆除すべき蟲にしか見えないのだろう。
「アスラ王は、精神攻撃を得意としている、お前なら大丈夫だとは思うが、あまり油断するんじゃないぞ。」
デルファイナス到着直後、周囲を探索していた機動班の一団が突然、殺し合いを始めた。
極限状態による一種の集団ヒステリーだと思われたが、アーサーやアーヴィン博士が詳しく解析したところ、脳に寄生虫がいた事が判明した。
視認不可能な寄生虫は、空気に乗ってスーツの浄化システムを無効にし、隊員の脳に寄生する。
脳に寄生された隊員は、前頭葉を刺激され、怒りと恐怖の感情に支配されてしまう。
その結果、隊員同士の殺し合いにまで発展したのだ。
幸い、この寄生虫は、瘴気に耐性がある者には憑りつく事が出来ない。
ライドウの様に、上級悪魔と自然融合していたり、両親何方かが魔族ならば、寄生虫に脳を支配される事が無いのだ。
「分かったよ・・・それより、まさかコイツ等も一緒に来るつもりなのか?」
招住羅が、機動班の面々を面白くも無さそうに眺める。
「彼等は、各国から選ばれた先鋭部隊だ。何も問題はない。」
招住羅にとって、機動班の隊員達は、お荷物にしか映らない。
エリア調査は、自分と悪魔使いの二人がいれば、十分だろうと考えているのだろう。
「”デルファイナス”調査は何度も行っているし、寄生虫に対する対処も心得ている。」
「ハッ、非力な人間と違いは無いだろ?」
例え、どんなに戦闘訓練を積み、寄生虫に対する耐性が強かろうとも、招住羅にとって魔族と人族はそれ程変わりはない。
要は、使えるか使えないかの違いだ。
自分の脚を引っ張る無能なら、即座に切り捨てる。
そんな無情とも取れる招住羅の言葉に、当然、周囲にいる隊員達も良い感情はしていなかった。
「彼等を見くびるな、皆、命を懸けてこの”壁内調査”に取り組んでいるんだぞ?」
信頼出来る仲間を侮辱され、悪魔使いの表情が険しくなる。
長い調査期間を経て、隊員達との間に強い結束力が生まれている。
いくら、かつて背中を預けた仲間とはいえ、あからさまな侮蔑の言葉に、怒りを覚えるのは当然だった。
「やっぱり変わったな?お前、本当にあの”ナナシ”なのか?」
そんなライドウの態度に、大男は訝し気な表情で見下ろす。
この小さな悪魔召喚術師(デビルサマナー)とは、30年近い付き合いがある。
初めて出会ったのは、ライドウが18の頃。
”クズノハ”目付け役であるマダム・銀子から紹介された当時は、本当にこんな非力な餓鬼が暗部である『八咫烏』に入って生き残れるか疑問だった。
組織の”暗部”である以上、その任務も苛烈を極める。
死亡率も高く、それなりの実力者でも状況や判断ミスで簡単に命を落とす世界だ。
だが、周囲の予想に反してライドウは生き残った。
魔法力を中心に、体術を極め、幾度も修羅場を潜り抜けた。
情け容赦なく、どんな卑劣な手段を弄し様とも目的達成を最優先した。
利用出来るモノは何でも利用した。
しかし、ナナシは変わってしまった。
北の台地『フォルトゥナ公国』第三皇子が、招住羅のナナシを人間に戻してしまった。
「フォルトゥナの皇子様がお前を変えたのか?」
「・・・・・。」
「また、だんまりか? お前は臍が曲がるとすぐ黙る。」
真紅の呪術帯で右眼以外を全て覆っている為、今、ライドウがどんな表情をしているのか伺う事が出来ない。
しかし、身体から漂う雰囲気から、かなり怒っている事だけは理解出来た。
セクター・デルファイナスを探索開始から数分後、ライドウ達機動班は、邪神バフォメット率いる幽鬼・ヘルカイナの集団に襲われた。
機動班のメンバーは、各国の悪魔討伐部隊から編成されている。
流石に悪魔の扱いには慣れたもので、的確にその数を減らしていった。
「ちっ、雑魚共ばかりで欠伸が出るぜ。」
邪神・バフォメットが放つ氷結中位魔法『マハ・ブフーラ』を右腕の一つ薙ぎで振り払い、グローブの様な手で悪魔の頭部を鷲掴みにしてしまう。
バフォメットは、必死に招住羅の腕から逃れようと藻掻くが、所詮、無駄な足掻きでしかなかった。
熟れたトマトの如く、凄まじい握力で頭を握り潰されてしまう。
一方のライドウは、そんな仮番の嘆きなど完全に無視し、舞う様な華麗な体術で、ヘルカイナの集団を蹴散らしている。
時間にして数分間程度だったろうか、周囲には機動班を襲撃した悪魔達の骸が周囲に横たわっていた。
「流石、”クズノハ”の先鋭部隊だな・・・あっと言う間に片付けちまった。」
機動班の一人であるアンソニーが、無意識に口笛を吹く。
ライドウの本番である玄武が、今回の調査任務に参加出来ないと知らされた時は思わず不安に駆られたが、どうやらその感情は杞憂(きゆう)に終わりそうだった。
十二夜叉大将の一柱、招住羅大将も想像を絶する程、強い。
自分達、一般隊員と比べ、雲泥の差があり過ぎる。
「ふん、化け物共が。」
頻(しき)りに感心するアンソニーと違い、同じ仲間であるブレアは忌々し気に吐き捨てる。
彼等にとって、各国の秘密結社(イルミナティ)から派遣された構成員は、皆、このセクターを徘徊する悪魔達と同じ異形の怪物だ。
否、人間の言葉を吐き出す分、其方の方がより質が悪いと言える。
「止せ、聞こえるぞ?」
アサルトライフルを両手に持つタイラーが、仲間を窘める。
彼等、機動班は対悪魔に関し、それなりの経験と知識を持っていた。
だが、ライドウ達、超国家機関『クズノハ』から見ると、彼等、機動班の面々は地面を這い回る蟻と全く同じだ。
ライドウとその番、二人だけで十分事足りてしまう。
ブレアが悪態を吐くのもやむ負えないと言えた。
調査任務は、何の弊害も無く順調に行われた。
しかし、セクターを支配するアスラ王の手掛かりは、依然として掴めない。
希少なフォルマを幾つか回収しただけに、留まっている。
「ち、悪趣味な石像だぜ。」
憤懣やるかたない、といった様子で、招住羅が巨大な石像を見上げる。
アスラ王の姿形を象(かたど)った石像は、無言の威圧感で機動班を見下ろしていた。
「これは、只の石像じゃない・・・アスラ王の肉体そのものだ。」
「はぁ? そんじゃ、コイツを破壊すればミッション終了じゃねぇか。」
「壊しても無駄だ・・・コレはあくまで入れ物、本体が戻らない限り破壊してもすぐ元に戻ってしまう。」
ライドウの解説によると、アスラ王は肉体と精神体を分離して行動しているとの事であった。
一度、試しに石化したアスラ王を攻撃してみたが、瞬く間に修復されてしまったのだという。
「ちっ、面倒臭ぇ。」
アスラ王を倒し、奴が持っているロゼッタを手に入れるには、セクターの何処かに隠れている精神体を探し出す必要がある。
招住羅は、忌々し気に舌打ちすると、巨大な石像が安置されているエリアから出て行ってしまう。
後に残されるライドウ。
天を貫く程巨大な石像を一瞥すると、すぐに仮番の後を追い掛けた。
結局、アスラ王の精神体を見つけ出す事は叶わなかった。
希少なレア・フォルマを幾つか回収出来、喜ぶ技術班と違い、ライドウ達機動班の表情は何処までも暗い。
「やれやれ、お気楽な奴等だぜ。」
機動班の一人、デントがセクター・デルファイナスで手に入れたフォルマを見て喜ぶ技術班の面々を眺め、溜息を吐き出した。
”シュバルツバース”調査が開始されて、もう十数年の月日が経過する。
これはあくまで”外”での日数であり、穴の中では、三年も経ってはいない。
だから、壁内調査を終えて、やっとの思いで外に出ると、”シュバルツバース”の規模が更に大きくなっている事に絶望を覚えるのだ。
「宝探し感覚で調査でもしないとやっていられないんだろ? まともな神経の奴だと一日すらもたないからな。」
呆れる部下を機動班隊長であるブレアが、やんわりと宥めてやる。
此処は、地獄の様な世界ではあるが、物欲がある連中にとっては楽園だ。
希少フォルマを外に持ち帰れば、巨万の富を獲得出来る。
企業から派遣された技術者なら、”シュバルツバース”で功績を上げれば、社内で昇格出来る。
故に、『壁内調査』を希望する輩が絶えない。
「何処に行くんだ? 」
招住羅が、自分に背を向ける悪魔使いに声を掛けた。
「医務室だ。」
「医務室? 何の為に? 」
先程の調査で、悪魔使いが怪我をしていない事は知っている。
セクターに出現するエネミーは、自分から見ても雑魚ばかりで、処理するのにそれ程苦労はしなかった。
「医療班に頼んだ依頼が何処まで進んでいるか見る為だよ。」
ライドウ曰く、医療班の責任者である医師に、『デルファイナスの奇病』を調べて貰っている。
医療班責任者であるゾイは、奇病に感染した患者の脳に、正体不明の寄生生物を発見したとの事であった。
艦内にある医務室に入ると、長い黒髪を後ろで束ねたアジア系の女性が出迎えてくれた。
医療班の責任者、ゾイだ。
処置室には、資材班の責任者であるアーヴィン博士もいた。
「おおっ、丁度よか・・・・・。」
ライドウの姿を見つけたアーヴィン博士が、『良かった。』と言い掛けて、思わず言葉を止めた。
悪魔使いの背後に、身の丈2メートルを優に超える大男を見たからだ。
丑を象った仮面を被る大男に見下ろされ、物理学博士は、顔面を蒼白にさせた。
「しょ、紹介が遅れたな・・・コイツの名前は招住羅大将だ。」
「・・・・・。」
アーヴィン博士とゾイは、丸太程も太い両腕を持つ巨漢の男にすっかり圧倒されていた。
ぎこちない仮番の紹介が終了し、一同は早速本題に入る。
ライドウの推測通り、”デルファイナス奇病”の原因である、寄生生物は悪魔の精神体であった。
集団ヒステリーを鎮圧させる為に開発された器具、MK型治療器により採取された微生物を調べたところ、悪魔が持つエネルギー波と酷似している事が判明した。
しかし、分かったのはそれだけ。
更に詳しく調べようとしたところ、その微生物は姿形も無く消え失せてしまったらしい。
「御免なさい、慎重に対処するべきだったわ。」
生物である以上、ソレに何らかの意思が宿っている事は明白だ。
「否、それだけ分かれば十分だ。」
頻りに恐縮するゾイと違い、依頼したライドウ自身は大分満足していた。
あの寄生生物は、アスラ王の精神体である事は間違いない。
一目散に逃げた処を見ると、ライドウ達が奇病の正体に気付いた事を知っている。
先程の調査で、機動班の隊員が奇病に感染しなかったのが良い証拠だ。
「どうする? 奴さん、ビビッて逃げ回っているぞ?」
一通りの調査結果を聞いたライドウ達は、ひとまず自室へと還る事にした。
長い通路内、招住羅が参った様子で頭を掻く。
アスラ王を倒し、ロゼッタ多様体を手に入れるには、精神体が本体に戻った所を叩くしかない。
しかし、肝心の精神体はエリア内に隠れてしまい、姿を全く現さないでいた。
「それなら問題ない、奴が隠れても見つけ出す方法はある。」
自室内へと入った悪魔使いが、防具を外しながら、説明を続ける。
幾ら精神体で活動出来るとはいえ、肉体から離れて動く事は出来ない。
必ず行動制限区域は決まっており、違うセクターに逃げる事は叶わないのだ。
そこで、オートマッピング機能の出番となる。
「微弱だが、アスラ王の精神体にはある特定の電気信号が発せられている、デモニカスーツに内蔵されているオートマッピング機能なら、その信号を追える筈だ。」
「成程な。」
何時もながらに、この悪魔使いは頭の回転が速い。
機動班と共に行動している理由を知り、招住羅は一人納得する。
胸当てや手甲を外し、軽装になったライドウは調査で疲れた体を癒す為に、浴室へと向かう。
その華奢な細い腕を、招住羅が有無を言わせず掴んだ。
「いきなりなに・・・・っ!」
強い力で抱き寄せられ、顎を掴まれ、上を向かされる。
面を外した招住羅が、ライドウに無理矢理キスをした。
口内に舌を滑り込ませ、逃げ惑う相手の舌を絡め捕り、思う存分吸う。
信濃の国でその名を轟かせた元力士だけあり、その力は想像を遥かに超えて強く、悪魔使いの力では到底振り払う事は不可能だった。
酸欠で頭の芯が朦朧とする。
気が付くと軽々と肩に担ぎ上げられ、ベッドまで運ばれていた。
「招住羅! 」
「対価を払えよ? ナナシ。」
乱暴にベッドに投げ出された悪魔使いは、身の丈2メートルを軽く超える大男に組み伏せられ、アンダーシャツとズボンを脱がされる。
傷だらけの身体に舌を這わされ、羞恥心に頬が微かに赤くなった。
「わ、分かった・・・口でするから離してくれ。」
これ以上の抵抗は無駄だった。
下手に抵抗して、明日の調査任務に支障を出す訳にはいかない。
ライドウは、諦めた様に起き上がると、膝立ちになっている大男のベルトに手を掛けた。
思えば、招住羅(この男)程、欲望に忠実な奴はいない。
常人よりも遥かに優れた肉体を持ち、生前は相撲史上最強無比な力士として謳われた。
その能力(ちから)を造化の三神に買われ、カミムスビの力で現世に転生。
英雄神の一柱として、”八咫烏”で傍若無人の限りを尽くしている。
悪魔使いが”八咫烏”に入った当初から目を付けられ、『魔力供給』を名目に無理矢理犯された。
以来、暗部時代はこの男と幾度か褥を共にしている。
広いベッドの上、シックスナインの形で互いの性器をしゃぶり合う。
一見、乱暴に見えてその実、かなり繊細な愛撫をこの男は施してくれる。
太い指で、すっかり立ち上がったライドウの性器を愛撫しつつ、大きな舌で硬く閉ざしている肉壺をほぐす。
弱い箇所ばかりを責められ、招住羅の肉槍から幾度も口を外しそうになった。
「相変わらず下手糞だな? 新右衛門殿の努力がまるで実ってない。」
「煩い!死ね!」
あまりな招住羅の言葉に、ライドウの蟀谷から青筋が浮かんだ。
好きで同性に抱かれている訳ではない。
仮番の契約をすれば、魔力のパスが繋がって、一々性行為をする必要が無い。
しかし、どうした訳か、今迄、契約して来た男達は、自分と寝る行為を望んだ。
こんな傷だらけの・・・しかも片腕と片目の欠損した身体の何処に魅力を感じるんだ?
何度達したか分からない。
気が付くと、胡坐をかいた大男の膝の上に乗せられていた。
「また、新しい玩具を拾って来たみたいだな?」
後ろから、吸っていた唇を離し、ぐったりとしている悪魔使いの身体を弄ぶ。
招住羅の剛直は、根元まで肉壺に入り、切なく締め付けられていた。
「魔界で拾って来た亜人の餓鬼と言い、フォルトゥナの第三皇子と言い、お前は面白い連中を良く見つけてくるもんだ。」
「・・・・。」
恐らく、クー・フーリンとヨハンの事を言っているのだろう。
長い時間、無尽蔵な男の性欲に付き合わされ、指を動かすのすら億劫だ。
言葉での嬲りに反応しない悪魔使いに、招住羅は舌打ちすると、後背位へと体勢を変えた。
尻を高く突き上げ、四つん這いという屈辱的体位に、ライドウの整った容姿が屈辱で歪む。
「一体、何時までもつんだろうな? 一番長持ちしたのは三太の奴か?」
強姦魔の口から、親友の名前が出て、ライドウの身体が強張(こわば)る。
そんな悪魔使いの姿に気を良くしたのか、招住羅は常になく饒舌であった。
「お前等、兄弟みたいに仲良しだったもんな? まぁ、最後は月子が原因で殺し合う羽目になったんだが。」
「・・・・っ。」
脳裏に、血溜まりの中で息絶える三太夫(さたゆう)と、その傍らで茫然と立ち尽くす月子の姿が過った。
刹那、それまで大人しく蹂躙されていたライドウの肘が、背後の男の蟀谷に刺さった。
堪らず、招住羅が悪魔使いの身体から離れる。
その胸板に唸りを上げて蹴りが跳ぶ。
招住羅の巨体が、ベッドから叩き落とされる。
口から漏れる情けない苦鳴。
ライドウもベッドから全裸のまま飛び降り、男の胸板へと乗る。
右腕に魔力を込めると、蒼い雷を纏った凶悪極まりない爪が生成された。
「良いのか? 俺を殺したらアスラ王討伐が出来なくなるぞ?」
侮蔑を多分に含んだ招住羅の言葉に、振り下ろそうとした蒼電の爪が相手の鼻先でぴたりと止まる。
それまで燃え上がっていた左眼から噴き出す蒼い炎が、みるみる消失していった。
「ぐわっ! 」
攻撃への躊躇いが、一瞬の隙を生んだ。
組み敷かれていた大男が、容赦なく悪魔使いの顔面を殴り付けたのだ。
吹き飛ばされる華奢な肢体。
容赦なくとはいえ、最低限の手加減ぐらいはしてある。
本気で大男が殴れば、悪魔使いの脆弱な肉体など、細切れの肉片へと爆散していただろう。
大男の身体から引き剥がされ、悪魔使いの身体が床を転がる。
その腹へと突き刺さる招住羅のつま先。
ベキベキとあばら骨が折れる音と共に、ライドウの身体が室内の壁に叩き付けられた。
「全く・・・何処まで腑抜けにされちまったんだか。」
ズルズルと落ちる細い身体。
その首を鷲掴みにし、招住羅が壁に押し付ける形で、自分の目線の高さまで引き上げる。
「あんな程度の脅しに簡単に引き下がるとはな? 昔のお前じゃ考えられないぜ。」
招住羅が知っている”ナナシ”は、下らない脅しなど決して受け入れず、命乞いする標的を無慈悲に殺害する暗殺者だった。
屈辱よりも死を選ぶ、刹那的な戦闘を好み、人形の如き無感動で悪魔や人間を殲滅する。
「ムスビ様も嘆いていたぜ? ”アレは僕が好きだったナナシじゃない”てさ・・・俺も同感だ。 たった一人の人間に此処まで見事に堕とされるとは・・・・。」
握りしめている首に力が篭(こも)る。
腹腔から燃え上がる怒りを抑え込むのに必死だ。
「ぶっちゃけるとな、俺はお前を”戻す”為にこの下らない任務を引き受けたんだ。」
ライドウという銘を捨てさせ、古巣である”八咫烏”に還す。
昔のナナシに戻せば、敬愛するカミムスビも喜ぶだろうと考えての行動だった。
しかし、フォルトゥナの第三皇子の毒は、自分達が予想していたよりもかなり深刻だ。
完全な別人。
今、目の前にいるコイツを元に戻すのは、不可能と考えていいだろう。
招住羅は、忌々し気に舌打ちすると、至極あっさりとライドウを解放する。
床に頽れ、激しく咳き込む悪魔使いの姿を見下ろし、あれ程猛り狂った欲望の火が跡形もなく霧散するのを感じた。
「ちっ、萎えちまったぜ。」
招住羅の言う通り、自慢の剛直はすっかり萎れている。
顔を伏せ、血の混じった咳をするライドウから背を向けると、ソファに散乱している自分の衣服を身に着け始めた。
あの様子では、これ以上の『壁内調査』は不可能だ。
蹴り飛ばした感触から、肋骨が二・三本簡単にへし折れているだろ。
もしかしたら、殴った拍子で頬骨も罅(ひび)が入っているかもしれない。
『神在月(かみあつき)』に還ったら、総大将である骸から何らかの処罰が下されるだろう。
数か月後、成城の葛葉邸。
広大な敷地面積を誇る邸宅の庭に、一つの影が降り立つ。
屋敷の主、17代目・葛葉ライドウだ。
重力をまるで感じさせない身軽さで、樹々を足場に自室の窓まで飛ぶ様に移動する。
音もなくバルコニーに着地すると、脇腹に鈍痛が走った。
招住羅に負わされた傷が、未だに癒えない。
あの後、招住羅の暴行で気を失ったライドウは、当然の如く医務室送りとなった。
治療を受けている最中、クルーの面々は二人の間に何が起こったのか問いただす真似はしなかった。
下手に関わって、報復を受ける事を恐れた為である。
しかし、レッドスプライト号艦長であるゴア・アトキンス大佐は、トラブルを引き起こした招住羅を危険分子と判断し、任務から強制退去させた。
当然、仮番を失ったライドウも同じで、艦を降りざる負えなくなった。
「糞・・・・。」
身体中に走る痛みに舌打ちしつつ、窓をそっと開ける。
医務室で治療を受けたとはいえ、折れた骨をギプスで補強し、殴られた箇所は腫れ上がっている。
オマケに発熱しているのか、倦怠感で今にも倒れてしまいそうだった。
室内へと滑り込むと、唐突に視界が明るくなった。
出入り口に立つ何者かが、部屋の照明を点けたのだ。
「一体、何処のコソ泥かと思っちまったぜ。」
シャツとスラックスというラフな格好をしたダンテは、壁に背を預けて此方を睨みつけている。
見事な銀の髪に、2メートル近い高身長に鍛え上げられた肢体。
モデル並みに整った容姿は、不愉快そのものと言った体で、歪められている。
「随分とお早いお帰りだな? マスター。」
「・・・・・。」
男の機嫌が最高に悪いのは、その声色と態度で良く分かる。
しかし、怪我を負っている今のライドウは、とてもまともに相手をする気力が無かった。
激痛と発熱で、立っているのすらも辛い。
口の中も深く切れており、血の味が充満して吐きそうだった。
「悪いが仕事で疲れているんだ・・・文句なら明日幾らでも聞いてやる。」
兎に角、今は一人になりたい。
任務で予想外の失態を犯し、ゴア艦長の信頼を失ってしまった。
肉体面だけではなく、精神面でもかなり酷い状態だった。
一方、そんなライドウに反し、仮番のダンテは至って冷静だった。
何時までも心を開かぬ主に苛立ちが募り、今日も深夜帯までやけ酒を煽っていた。
気晴らしに繁華街に繰り出して鬱憤を発散しようとしたが、屋敷に近づく主の気配を感じた。
「お、おい! 」
自分の傍らまで近づき、無言で肩に抱き上げられる。
あまりの出来事に、男の背を叩こうと手を振り上げるが、脇腹から走る激痛に悲鳴を上げた。
「怪我してんだろ? 隠しても分かる。」
華奢な肢体をベッドへと降ろし、顔を覆っている深紅の呪術帯を剥がす。
案の定、頬を青紫に腫れ上がり、唇の端は切れて血を滲ませていた。
「悪魔の仕業じゃねぇな? 誰にやられた?」
「・・・・。」
「ち、まただんまりかよ。」
主をベッドに座らせ、私室にある応急セットを取りに行く。
ステンレス製の収納棚の上に、何時でも使える様に救急キットが置かれていた。
中には、滅菌ガーゼと伸縮包帯、消毒液と痛み止めの抗生物質が入っている。
それを持って主の傍らへと戻ると、ガーゼに消毒液を沁み込ませ、切れて血を流す唇を優しく拭ってやった。
「良い、自分で・・・・。」
「じっとしてろ、今の俺は機嫌が悪い。」
抵抗しようとする主を、有無を言わせぬ一言で黙らせる。
革の胸当てと鉄の手甲を外すと、身体に包帯が巻かれ、ギプスで固定されているのが分かった。
何処かで、一通りの治療を受けて来たらしい。
熱で頭が朦朧としているのか、ライドウは此方が驚く程、従順だった。
青黒く腫れ上がった頬に、大きな掌を翳(かざ)す。
そこから送り込まれる魔力の波動が心地良いのか、ライドウは右の隻眼を閉じた。
「何があったか何て野暮な事は、もう聞かねぇがな。」
「・・・・・。」
「その背負っている荷物を少しだけ下ろしたらどうだ?」
「・・・・・っ!」
驚いて閉じていた隻眼を開くと、真剣な蒼い双眸とぶつかる。
この男は、本能的に分かっている。
ライドウが抱え込んでいる『責任』という重みを。
「損な役割をしょい込む難儀な性格は嫌って程知っているんだ・・・大方、その怪我もソレが原因なんだろ? 」
「・・・・・。」
「でも、アンタは決して弱音を吐かない。 助けて欲しいのに助けを求めない。」
「・・・・・。」
「全部抱え込んで、たった一人で解決しようとしている・・・相棒の俺が此処にいるにも拘わらず。」
『相棒』という言葉に、ライドウは思わず言葉を詰まらせる。
脳裏に、人懐っこい笑顔を浮かべる旧友の姿が過った。
”八咫烏”に入った当初、ライドウは孤独だった。
少女の様な華奢な肢体に、中性的な美貌。
身体能力は人間並みで、何の取り柄も無かった。
膨大な量の魔力を誇るが、肝心の魔法に対する知識が乏しく、使いこなす事が出来ないお荷物。
周囲の奴等は「非力」「無能」と罵り、性欲処理の相手をする以外、何の役にも立たないと罵られた。
しかし、そんな非道な輩の中で唯一、自分に寄り添ってくれる者達がいた。
それが、百地・三太夫と先代の愛娘、月子だった。
知らず、右の眼から涙の粒が零れ落ちる。
頬を濡らす涙の感触に、そこで初めて自分が泣いている事を知った。
「ライドウ? 」
慌てて自分から顔を背ける主に戸惑う。
思った事をつい言葉に出してしまったのだが、どうやらソレが主の心に刺さったらしい。
初めて見せる主の弱い姿。
どんな状況下に置かれても、この悪魔使いは決して弱っている姿を見せない。
此方が心配になってしまう程、気丈な姿を見せ、倒れるまで走り続ける。
堪らず、銀髪の魔狩人は、顔を背けるライドウの形の良い顎を取り、此方へと向かせた。
今更ながらに美しいと思う。
新雪の如き白い肌と薄い唇。
まるで人形の如く整った中性的な美貌は、男女を引き寄せる魔性の美がある。
ダンテは、触れるだけの優しいキスをした。
何度か繰り返し、伺う様に相手の顔を見る。
相手が特に嫌がる素振りを見せない事に気を良くすると、今度は情熱的な口づけをした。
歯列を割って舌を相手の口内に滑り込ませると、おずおずと応えてくれる。
怪我によって発熱しているのか、悪魔使いの体温は異様に高かった。
代々木区、初台にあるとある廃ビル。
未だ震災の爪が深く残っているその場所に、10代半ばと思われるフード付きパーカーを着た少女が、屋上の手摺に腰掛け、眼下に広がる夜景を眺めていた。
「ほーんとムカついちゃうよねぇ、下等な人間の分際で僕達の大切な土地を好き勝手にしちゃうんだから。」
目深に被ったフードの下は、真っ白い包帯で覆われていた。
唯一覗く、暗く淀んだ双眸が、新宿区の方向へと向けられている。
「プチって潰しちゃいたいよねぇ。」
まるで虫でも潰す様に、親指と人差し指を合わせる。
少女- タカミムスビの背後には、二メートルを優に超える程の大男が控えていた。
手摺に腰掛け、ぶらぶらと子供の様に足を揺らす主人を、無言で眺めている。
「でも、月読尊君が駄目だって言うんだ・・・・あの土地は訶梨帝母(かりていも)が居座っているから手を出すな・・・だってさ。」
「八部連合阿修羅会の事ですか。」
それまで無言で主の背中を眺めていた男ー 招住羅が口を開いた。
常に被っている牡牛を象った面とボア付きのジャケットと皮のズボンと鉄の具足を履いている。
仮面の下から覗く双眸は、何処までも暗く、まるで底が見えない奈落の穴を思わせた。
「うん、”新宿区”を独立国家にするとかほざいている馬鹿な連中。」
眺めている事に飽きたのか、ムスビは背筋を伸ばすと、座っていた手摺から腰を下ろす。
背後を振り返ると、大分、機嫌を損ねた従者がいた。
「ナナシの件は御免ね。 嫌な気分にさせちゃったろ?」
「否・・・・久しぶりに上等な肉が喰えて満足ですよ。」
”シュバルツバース”探索の一件を気にしているのだろう。
しかし、結果は最悪で終わったが、招住羅自身、特段気に病んではいなかった。
下らない調査任務だと思っていたし、この世界がどうなろうと知った事じゃない。
上手い肉が喰えて、悪魔という害虫を叩き潰す。
只、それだけだ。
「ナナシは元気にしてた?」
「ああ・・・相変わらず辛気臭い面をしていましたけどね。」
脳裏に、数年振りに再会した悪魔使いの姿が過る。
暗部時代のライドウを知っている分、そのあまりの変わり様に少々驚かされた。
当時は、終始暗く淀んだ空気を孕み、目的達成の為ならば、いかな手段であろうと眉根一つ動かす事無くやってのけた。
刹那的な生き方に、招住羅はある種の魅力を感じていたが、たった一人の男が悪魔使いを変えてしまった。
「また新しい番を見つけて来たらしいね・・・・名前は・・・何だっけ?」
「ダンテです。」
「ああ、そうそう・・・・悪魔と人間の間で生まれた雑種だよねぇ。」
特に、それ程気にする様な輩だとは思っていない。
また気色が違ったペットを拾って来た程度の感想しか無かった。
「どうされますか? 邪魔なら排除しますが?」
ダンテという若造は、ライドウを変えるきっかけを造ったあの男と良く似ている。
典型的な快楽主義者で惰性的な性格をしているが、何故か人を惹き付ける魅力を持つ。
恐らく、ライドウはダンテにヨハンの面影を感じているのだろうが、此方に戻って来て欲しい主には、邪魔なだけの存在でしか無い。
「うーん、少しだけ様子を見ておこう・・・楽しみは最後までとっておかないと詰らないだろ?」
柵から降りたムスビは、背後に立つ従者へと向き直る。
「それと各地の神族共が、不穏な動きを見せている・・・・兵を集めたり、自分の器に相応しい人間を誘拐したり・・・・。」
「人間? まさか、”ナホビノ”ですか?」
「多分ね・・・・”受胎”を引き起こすには”奪われた肉の器”が必要だから。」
包帯で覆われた口元が、歪に歪む。
恐らく笑っているのだろう。
第三者から見たら、不気味この上ないのだが。
「既に諦めたとばかり思ってはいたが・・・・やはり、皆、創世の座が欲しいらしい。」
呆れた様子で、ムスビが肩を竦める。
創造主によって、肉の器を剥ぎ取られ、力を奪われ悪魔として貶められた。
しかし、”神”が去った今、彼等は忘れていた筈の野心を取り戻したのである。
再び、肉の器を手中に納め、創世の座に座る事を。
「自分色に変えられるからねぇ・・・・まぁ、僕達天津神には関係ない話なんだけど。」
「創世の座を他の神に譲るのですか。」
「そうなっちゃうよねぇ・・・・僕的には腹が立つんだけど。」
天津神の最高神二柱が、全く介入する気が無い以上、此方としても動く事が出来ない。
だからといって、ムスビ自身、只、座して死を待つ訳ではない。
二神が動かないなら、此方で動く様に嗾(けしか)ければ良いのだ。
「アマラ深界でも何やら不穏な動きがあるみたいだし・・・・もし、”彼”が現世に復活する様な事があったら、流石の月読尊君も黙っていないでしょ。」
「最終戦争・・・ですかぁ? 今の世界、結構気に入っているんですけどねぇ。」
この世界とは別の幽界(かくりょ)の世界。
そこに封印されている”混沌の王”が、現世へと這い出る為、色々画策しているらしい。
もし、ヤツが現世に出現する様な真似が起きたら、創世の座を巡る神族共の争い毎では済まなくなる。
「起こさせる訳ないでしょ? まぁ、このままでも最終戦争不可避なのは確実だけど。」
そんな従者を放置して、ムスビは屋上の出入り口へと向かう。
もう既に夏の気候とはいえ、夜間になると流石に寒い。
夜の散歩は此処までにして、早く塒(ねぐら)に戻りたかった。
「残念だけど、ナナシ君の件は新右衛門君に任せよう。 あの子の性格なら、何時か僕達の処に帰って来てくれるよ。」
そこまで伝えると、ムスビは出入り口のドアを開けて中に入ってしまう。
そんな主に、招住羅は一つ溜息を零すと、その後を追い掛けた。
やる気出なくて本編投稿遅めです。