目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
あれから数十分だろうか?槇寿郎さんにいろいろ言った私は、気まずくなって、煉獄さんとともに過ごしている炎柱邸別邸へと戻ろうとしたのに、煉獄家実家に上がっていた。
理由は簡単。煉獄さんに上がって待っているように言われたのである。
先に帰宅しておくと伝えたんだが、だいぶ暗くなっているから心配だと言って許してくれなかった。
私も鬼殺隊なんだけど、って言ったのに、なんでダメなんだ……。
ああ、煉獄さんだけど、彼は今、千寿郎君と槇寿郎さんの三人で、別室にてお話中だ。
多少なりとも落ち着いている今なら、少しくらいは話を聞いてくれるだろうと、明るい声音で言葉を紡ぎ、数刻前くらいに部屋から去っていった。
どことなく嬉しげな匂いがしたのは、多分気のせいではないだろう。今まで相手にすらしてくれなかった人と、ようやく向き合うための大チャンスがやってきたのだから。
まぁ、だからと言って、絶対に上手くいくとは言い切れないけどな。なんせ人の感情はコロコロ変わる。
今は落ち着いているとしても、少ししたら変化することなんて、当たり前のようにある。
相手の気持ちが変化したら、また、ギスギスした関係に戻ってしまう可能性だって否めない。
まぁ、なんとなく大丈夫そうではあるけどな。言いたいことを伝えた後から、嫌悪とか怒りの匂いがかなり薄まっていたし、煉獄さんが話してくると言ってきた時は、ほとんどないと言っても過言じゃないくらい、こちらに対するマイナスの感情の匂いがなくなっていたから。
「ム!」
「ねえちゃん、だいじょうぶ。れんごくさんなら、きっとおとうさんとうまくいくよ。きっとだいじょうぶ。だから、ふあんそうにしないでいいよ。」
そんなことを考えていると、炭治郎と禰豆子が、私の側に寄ってきて、煉獄さんなら大丈夫だと笑ってきた。
どうやら、少なからず不安にしているのがわかってしまったらしい。まぁ、でも、この二人ならわからない方がおかしいか。
炭治郎は私と同じで鼻が利く。だから、私のわずかな匂いの変化で、すぐにこちらの感情を読み取ってしまう。
対する禰豆子は、私と炭治郎のように鼻が利くわけじゃないけれど、姉妹、および兄妹ゆえか、こちらの感情の変化に敏感だ。だから、少しでも様子が違うと、なんとなくわかるんだろう。
「……そうだな。心配しなくとも、煉獄さんなら上手くやれるよな。」
「うん!」
「ム!」
二人の笑顔により、その不安は一瞬にして取り除かれる。それを示すように笑顔を返せば、二人も花が咲いたように笑った。
可愛らしいなと思いながら、私は、千寿郎君が家族会議に行く前に淹れてくれたお茶を飲む。お茶請けとして煉獄さんが引っ張り出してきた羊羹も口にしてみれば、上品な甘さが口いっぱいに広がった。
うん。どちらもとても美味しい。
どこで買った羊羹なんだろう?もし、自分でも買えるものだったら、いつか炭治郎たちに食べさせてあげたいものだ。
「ムー。」
「ん?」
「ねずこ、ずるいぞ……」
「ム!!」
そう考えていると、急に禰豆子が私の体にひっついてきた。匂いからして、急に甘えたいスイッチが入ったらしい。
まぁ、思い返してみれば、最近の私は炎柱の継子として、煉獄さんに鍛錬をつけてもらうばかりで、この子の相手してあげられなかったもんな……。それなら、甘えたスイッチが入るのも無理はないか?
んで、炭治郎は、禰豆子が先に私に甘え始めたから少しだけ拗ねている。長男だから我慢できる……と言い聞かせているのか、葛藤も感じ取れた。
「ムー。」
「はいはい。」
冷静に分析していれば、急にひっつき虫になった禰豆子がすりすりとすり寄ってくる。苦笑いをしながら頭を撫でてあげれば、ほわほわと柔らかく無邪気な笑顔を見せてきた。
反して炭治郎からは拗ねている匂いが強くなる。それでも我慢しようとしているのもよくわかる。
「……ほら、炭治郎もおいで。」
「え……」
「最近、一緒に遊ぶ時間とか、まったりする時間がなかったからな。まだ、煉獄さんが戻ってくるまで時間もありそうだし、甘えたいならきていいよ。今日は可愛い弟と妹が、姉ちゃんをたっぷり独占できる日ってわけだ。明日になったら、また鬼殺隊として、継子としてやるべきことをたくさんしなくちゃならないし、今のうちに好きなだけ甘えなよ。」
「………うん!」
それなら私は何をすべきか……答えは簡単だ。我慢がちな弟も、甘えたがりの妹も、どちらも甘えさせるのみ。
禰豆子を構い倒している右手の反対である左手を炭治郎に差し出しながら呼べば、彼は笑顔で私に近寄ってきた。
禰豆子がくっついている方とは反対側に、炭治郎が腰を下ろしたのを確認した私は、すぐに彼のことも抱きしめた。
すると、先程までの拗ねた匂いは霧散し、喜びの匂いが鼻腔をくすぐった。
随分と甘えたがっていたようだ……と少しだけ苦笑い。これに気づいてやれないとは、姉として失格だな。
なんとかして挽回しないと。
両手に花ではなく甘えん坊。ぐりぐりと額を押し付ける勢いで撫で撫でを要求してくる二人の小鬼の頭や背中を撫でて、時にはぎゅっと抱きしめて、二人の好きなようにさせておけば、時間は少しずつ過ぎていく。
穏やかな時間が流れる中、すでに暗くなっている外を見つめながら、甘えん坊たちの充電が終わるのを、お茶を飲みながら待つのだった。
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「優緋。待たせてしまってすまなかったな!」
「あ、煉獄さん。おかえりなさい。」
あれからしばらくして、炭治郎と禰豆子がおやすみモードになったため、木箱の中にのそのそと潜り込んでいるのを眺めていると、煉獄さんが部屋に入ってきた。
表情はどことなくスッキリしており、匂いからも、今まで感じていた疑問とか、不安とか、そういったものが消えている。
「どうやら、上手くいったみたいですね。」
「うむ!ようやく父上と腹を割って話すことができた!伝えたかったことも、しっかりと伝えることができた!優緋がいてくれて助かったぞ!」
「お役に立てたようで安心しました。ですが声音は少々抑えてください。炭治郎たちが起きるので。」
「む!?言われてみれば竈門兄妹が見当たらないな!眠ったのか!」
「だから、声を抑えてください。」
ジト目を向けながら、静かにするように告げれば、彼は口を閉じたのち、何度か頷き返してくる。
それならと小さく笑い返した私は、煉獄さんと向き直る。
「ようやく、煉獄さんの悩みが多少なりとも解消できそうで安心しました。しばらくは、いろいろな感情から、気不味いかもしれませんが、きっといい方向に転んでくれるかと。」
「ああ。俺もそう思っている。時間はかかるかもしれないが、きっと、また昔のように戻れると信じてる。」
穏やかな笑みを浮かべながら、きっと前のようになれるだろうと紡ぐ煉獄さんの姿にホッとする。
私の選択は、どうやら間違っていなかったようだ。
「優緋。君には助けてもらってばかりだな。猗窩座との戦いの時も、今回のことも。」
「私自身も、煉獄さんに助けてもらっていることがたくさんありますから、気にしないでください。」
「…………。」
「………煉獄さん?」
声の大きさを抑えながら、煉獄さんと会話をしていると、急に彼は無言になって、私のことを見つめてきた。
どうしたのだろう?と思い首を傾げていると、彼は一瞬目を丸くしたあと、なんでもないと首を振る。
よくわからないけど、まぁ、深く追求する必要性はなさそうだし、ここはとりあえず流しておこう。
「さて、では帰るか!」
「そうですね。せっかく夕餉も作りましたし、温め直してから食べましょう。」
「うむ!じゃあ、千寿郎たちに帰ることを伝えてこなくては!」
「わかりました。では、先に玄関先に向かってますね。」
「ああ。すぐに合流する!」
少しだけ煉獄さんの無言が気にならなくもなかったけど、とりあえずは夕餉を用意していたもう一つの炎柱邸へと帰るため、一言二言交わしたのち、玄関で落ち合うことを決めて、炭治郎たちが眠っている木箱を背負って部屋を出る。
本当は、湯呑みとか片付けて行きたかったんだけど、私は客人だからと言って、千寿郎君と槇寿郎さんに帰宅することを報告しに行ったついでに持って行ってしまったため、玄関に直行するしかなかった。
「待たせた。」
「全然待ってないのですが……まぁいっか……。」
程なくして合流した煉獄さんと一緒に、もう一つの炎柱邸へと向かうための帰路につく。
星が瞬く夜空に見下ろされながら。